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横浜地方裁判所 昭和54年(ワ)2174号 判決 1980年11月13日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告庄本幸雄に対し金一一五六万〇四五三円、原告庄本ムツに対し金一一四一万〇四五三円及び右各金員に対する昭和五四年一月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五四年一月三日午後三時三五分頃

(二) 場所 横浜市鶴見区東寺尾中台一番五〇号先国道一号線路上

(三) 被告車 普通乗用車(横浜は一五八一号)

運転者 被告

(四) 被害車 単車(品川区え一四二五号)

運転者 庄本輝幸

(五) 事故状況 庄本輝幸(以下輝幸という)が被害車で走行中、被告車が被害車に接触し、被害車を転倒させ、輝幸は脳挫傷兼頭蓋内出血により同日死亡した。

2  帰責事由

被告は被告車を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により損害を賠償する責任がある。

3  損害

(一) 治療関係費 金一一三万六〇九〇円

(1) 死亡に至るまでの治療費

済生会神奈川病院 金一一三万五〇九〇円

(2) 文書料 金一〇〇〇円

右金員は原告庄本幸雄が支払つた。

(二) 葬儀費用 金五〇万円

右は原告庄本幸雄が支払つた。

(三) 逸失利益 金二四七五万八七二八円

輝幸は本件事故当時一六歳で、一八歳から六七歳まで労働可能であつたから、昭和五三年度男子労働者の全年齢平均給与額金三〇〇万四七〇〇円より生活費を五割控除し、就労可能年数に対応するライプニツツ係数一六・四八を乗じた金二四七五万八七二八円

(四) 慰謝料 金一〇〇〇万円

但し、原告ら各金五〇〇万円宛

(五) 弁護士費用 金二〇〇万円

原告らは、弁護士費用としてそれぞれ金一〇〇万円宛支払う旨約した。

4  相続

原告らは亡輝幸の両親であり、同人の相続人として、前損害金のうち逸失利益に対する賠償請求権を各二分の一宛相続した。

5  填補 金一五四二万三九一二円

原告らは、左のとおり自賠責保険より右金員を受領した。

(1) 原告庄本幸雄 金八四五万五〇〇一円

(ア) 治療関係費 金一一三万六〇九〇円

(イ) 葬儀費用 金三五万円

(ウ) 慰謝料、逸失利益合計 金六九六万八九一一円

(2) 原告庄本ムツ 金六九六万八九一一円

慰謝料、逸失利益合計額

6  よつて、原告らは、それぞれ相続した逸失利益に対する損害賠償請求権の残額、各自の慰謝料請求権の残額及び弁護士費用の支払いを求めるため、被告らに対し、請求の趣旨記載の各金員及びこれらに対する不法行為の日より支払ずみに至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認める。

(二)  同(五)の事実のうち、被告車が被害車に接触して転倒させたとの点は否認し、輝幸の死亡原因は不知、その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち、(一)の事実は認め、(二)ないし(五)の事実は争う。その余は不知。

4  同4のうち原告らが輝幸の相続人であるとの事実は不知、その余は争う。

5  同5の事実は認める。

6  同6の主張は争う。

三  被告の抗弁

本件道路は片側三車線の国道であり、川崎方面から横浜方面に向け、亡輝幸は左側の外側車線を、被告車は中央車線を進行していたものであるが、亡輝幸は外側車線前方の二田反バス停に停車していた市営バスに気付かなかつたか、あるいは直前になるまで気付かなかつたため、バスの右後部に追突し、このため亡輝幸は中央車線に転倒してきた。亡輝幸の約一〇メートル後方を進行していた被告としては、右追突事故が咄嗟かつ瞬時のもので、急きよハンドルを右に転把したが間に合わず、中央車線に転倒してきた亡輝幸に接触したものである。

よつて、被告に過失なく、本件事故は亡輝幸の一方的な過失によつて発生したものであり、被告車に構造上の欠陥や機能に障害がなかつたから、自賠法三条但書により被告に責任はない。

四  抗弁に対する原告らの認否

亡輝幸がバスに衝突したことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1の事実のうち、(五)を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

そこでまず、本件事故の状況について判断する。

原本の存在と成立について争いのない甲第二号証、成立に争いのない乙第一ないし第三号証、証人三浦洋、同藤本一夫の各証言及び被告本人尋問の結果を総合すると以下の事実を認めることができ、他にこの認定を妨げる証拠はない。

本件事故が生じた道路は、片側三車線の国道(幅員九・三メートル)で、被告車は中央車線(幅員三・五メートル)を制限速度時速五〇キロメートルに近い速度で、被害車は外側車線(幅員二・六メートル)を被告車より遅い速度で、被告車の前方を横浜方面に向つて走行していたものであるが、前方交差点手前で外側車線に市営バスが乗降客のために停車し、外側車線を完全に塞いで中央車線に少しはみ出す状態であつた。被告は、被告車と市営バスとの距離が約五〇メートルのとき右バスを発見したが、そのとき被害車との距離は被告車の前方約一五ないし二〇メートルであつた。被告車がバスの後方約一五メートルの地点に進行したとき、被告車の前方を進行していた被害車が、ハンドルを切るとか、速度を落とすこともなく、そのまま進行して停車中の市営バスの右後方に追突し(被害車がバスに追突したことは当事者間に争いがない。)、被告車の進路前方の中央車線に投げ出されるように転倒してきたので、被告はハンドルを右に転把してこれを避けようとしたが間にあわず、被告車の左前部を輝幸に接触させ、よつて輝幸は脳挫傷兼頭蓋内出血により同日死亡した。

当時、中央車線の右側車線(道路の中央線寄りの車線)を藤本一夫が普通乗用自動車を運転して被告車を追い抜こうとして併進の状況にあつたため、右にハンドルを切つた被告車に衝突された。被告車がハンドルを右に切らずに進行したとすれば、被告車の左側と市営バスの右側の間隔は約一メートル程度であつた。

二  責任原因

被告が被告車を自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

三  免責の抗弁

前認定の事実より判断するに、外側車線を走行していた被害車が、その進路の車線を完全に塞ぐ形で市営バスが停車していたのであるから、バスを追い抜くため右側の中央車線に出るか、停止するかのいずれかの方法しかなかつたものであり、その方法によつては危険が生ずることは十分に予見し得たはずである。従つて被告は被害車の動静に注意し、速度を落とす等危険の発生を未然に防止すべき義務があつたにもかかわらず漫然注意を怠り、被害車が速度を落とす気配が見られなかつたのに、そのままの速度で進行したため、バスに追突して投げ出された輝幸を避けることが出来なかつたものである。

以上のとおり、本件事故の主因は輝幸の過失にあるが、被告にも過失があつたものであるから、被告の無過失を前提とする被告の免責の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。従つて被告は自賠法三条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する責任がある。

四  損害

1  治療関係費金一一三万六〇九〇円を要したことについては当事者間に争いがない。

2  葬儀費用金五〇万円については、弁論の全趣旨により本件事故と相当因果関係のある損害として相当と認めることが出来る。

3  逸失利益については、成立に争いのない甲第三号証によると、亡輝幸は本件事故当事一六歳の男子であつたことが認められるので、本件事故により死亡することがなければ一八歳より六七歳までの四九年間にわたつて昭和五三年度賃金センサス、男子労働者の全年齢平均年収金三〇〇万四七〇〇円の収入を得ることが出来たと認めることが出来る。同人の生活費は、原告らの主張どおり五割と認められるので、これを差引いた残額を純益とみて、ライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除して不法行為時の現価に引直すと、金二四七五万八七二八円になる。

前掲甲第三号証によれば、原告らは亡輝幸の両親であり、同人の相続人として同人の右逸失利益の賠償請求権を各自二分の一である金一、二三七万九三六四円をそれぞれ相続したものと認められる。

4  慰謝料については、本件事故の態様、原告らと亡輝幸との身分関係等諸般の事情を考慮すると、亡輝幸の死亡による慰謝料は、原告らの主張のとおりそれぞれ金五〇〇万円をもつて相当とする。

5  以上原告庄本幸雄の損害額は、弁論の全趣旨より同人が支払つたと認められる治療関係費、葬儀費、亡輝幸から相続した逸失利益の賠償請求権及び慰謝料の計金一九〇一万五四五四円、原告庄本ムツの損害額は、亡輝幸から相続した逸失利益の賠償請求権及び慰謝料の計金一七三七万九三六四円となる。

五  過失相殺

前記認定の事実によると、本件事故発生については、亡輝幸の側にも重大な過失が認められる。

即ち、輝幸は、仮りに市営バスを右側から追い抜くとしても中央車線を走行中の被告車が約一五~二〇メートルの距離に迫つており、しかも被告車と市営バスとの間には約一メートルの間隔しかないのであるから、一旦停止して被告車の通過を待つのが当然であるのに、前方不注視のためそのまま進行して市営バスに追突し、被告車の進路前方直前に転倒したのであるから、輝幸の過失は被告の過失に比してはるかに大きく、輝幸の過失割合は七割と認める。

亡輝幸の過失は、原告らの損害額を算定するにつき斟酌するのが相当であるから、右過失割合に従つて過失相殺すると、原告庄本幸雄の損害額は、金五七〇万四六三六円、原告庄本ムツの損害額は金五二一万三八〇九円となる。

六  填補

原告庄本幸雄が金八四五万五〇〇一円、原告庄本ムツが金六九六万八九一一円を自賠責保険から支払を受けたことは当事者間に争いはない。

そうすると、原告らの各損害はいずれも自賠責保険金により全額填補済みであるから、原告らの本訴請求はいずれも理由がない。

七  結論

以上のとおり、原告らの本訴請求は理由がないので失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原敏彦)

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