横浜地方裁判所 昭和54年(ワ)2242号 判決 1981年1月26日
原告
吉野千代子
被告
櫻田勝四郎
ほか二名
主文
一 被告らは連帯して原告に対し、金二四三万二二二二円およびこれに対する昭和五二年五月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を被告らの負担とし、その一を原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは連帯して原告に対し、金六四三万〇八二八円およびこれに対する昭和五二年五月一三日より支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の出張
一 請求原因
1 交通事故の発生
(一) 日時 昭和五二年五月一二日午後五時三〇分頃
(二) 場所 青森市古川一丁目二一番一一号先国道上
(三) 加害車両 自動二輪車(多摩ま二二九一、以下本件二輪車という。)
(四) 被害者 原告
(五) 態様 原告が前記国道上の交差点において横断歩道上を横断歩行中、その左方から進行してきた被告櫻田勝四郎運転の本件二輪車に衝突され(以下本件事故という)負傷した。
2 責任原因
(一) 被告勝四郎は、本件二輪車を運転して前記場所を通行するにあたり、信号にしたがつて交差点を進行する注意義務があるのにこれを怠り、未だ自己の進行方向の信号が赤のままで青に変わつていないにも拘らず、青に変わるのを待ちきれず発車し、かつ、直交する横断歩道を横断歩行中の原告の直前を通り抜けられると軽信し、漫然進行した過失により、原告に後記損害を与えたものであるから民法七〇九条により、損害を賠償する責任がある。
(二) 被告櫻田秀四郎および同櫻田タヨは、被告勝四郎の両親としてその監護に当る親権者であるが、本件事故当時被告勝四郎は一八歳になつたばかりで、肉体的にも精神的にも未熟であつて、同人が運転すれば事故を起こす可能性があることは、被告勝四郎が、本件事故までの一年半の間に、人身事故一回、道交法違反五回(スピード違反一回、一時不停止二回、無免許運転一回等)も犯し、親権者とともに青森地方裁判所と青森家庭裁判所に呼び出されて注意を受けていたものであることからみて、十分予見しえたし、また、予見すべきであるにも拘らず、被告勝四郎と同居していたのであるから、同人が他人の自動車ないしオートバイを運転しないよう監督注意する義務があるにも拘らずこれを怠り、一応の注意をするに止まつて、被告勝四郎が訴外奈良高美所有の本件二輪車を本件事故まで七ケ月余も預かりながら、その管理を被告勝四郎にまかせ、これを運転するのを容認していた過失により、被告勝四郎が原告に後記損害を与えたものであるから民法七〇九条の責任がある。
3 損害
(一) 原告の受傷
(1) 傷病名 頭部および両肩・両腕・両下腿打撲傷、頭頂骨骨折、脳内出血、食思不振、脱水症
(2) 治療状況
(ア) 中村胃腸科外科医院に昭和五二年五月一二日より同年六月二五日まで四五日間入院し、同月二六日より同年八月三一日まで六七日間通院(内実治療日数九日)
(イ) 青森県立中央病院に昭和五二年八月八日より同五三年一月一七日まで一六三日間通院(内実治療日数六日)
(ウ) 新宿病院に昭和五二年一〇月二四日より同五三年一月一二日まで八一日間通院(内実治療日数四六日)
(エ) 東京慈恵会医科大学附属病院に昭和五二年一〇月六日より同五三年一月一二日まで九九日間通院(内実治療日数七日)
右四病院の入通院につき期間の重複を差し引いて合計すると、入院治療四五日、通院治療二〇一日間(内実治療日数六六日)である。
(3) 後遺症 外傷性嗅神経障害、嗅覚脱失症の後遺障害を残して、昭和五三年一月一二日症状が固定した。右後遺障害は自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)施行令別表第一二級第一二号に該当(準用)する。
(二) 損害額 合計金九〇〇万〇八二八円
(1) 治療費 計金一八万〇一八五円
(ア) 中村胃腸科外科医院 金一三万三四四一円
(イ) 青森県立中央病院 金一万六六六五円
(ウ) 新宿病院 金一万四〇六〇円
(エ) 東京慈恵会医科大学附属病院 金一万六〇一九円
(2) 入院雑費 金二万七〇〇〇円
一日六〇〇円の割合による入院日数四五日分
(3) 入院付添費 金六万三〇〇〇円
一日三〇〇〇円の割合による二一日分
(4) 通院交通費 金五万二一〇〇円
(5) 休業損害 金一一二万五三三二円
原告は、本件事故当時健康な二八歳の家事に専念する主婦であるところ、家事労働に専念する主婦は平均的労働不能年齢に達するまで女子雇用労働者の平均的賃金に相当する財産上の利益を挙げるものと推定するのが相当である。
昭和五二年五月一二日より後遺障害の固定した同五三年一月一二日までの二四六日間の損害を同五二年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計で計算すると二八歳の女子労働者平均賃金は金一六六万九七〇〇円であるから金一一二万五三三二円となる。
1,669,700×246/365=1,125,332(円)
(6) 逸失利益 金五三五万三二一一円
前記後遺障害は、自賠法施行令別表第一二級にあたり、労働能力は一四パーセント減少したと推定される。主婦として六七歳まで労働が可能であるとすると、症状固定後なお三九年間は労働可能であるから、この間の逸失利益を新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益を計算し、昭和五三年前記賃金センサスによると二八歳の女子労働者の平均賃金は金一七九万四四〇〇円であるから金五三五万三二一一円となる。
1,794,400×14/100×21.3092=5,353,211(円)
(7) 慰藉料 金二二〇万円
本件交通事故により原告が蒙つた精神的損害に対する慰藉料としては金二二〇万円が相当である。
4 損害の填補 金二五七万円
原告は自賠責保険より、傷害分につき金一〇〇万円、後遺症補償分につき金一五七万円の支払を受けた。
5 結論
よつて、原告は被告らに対し不法行為による損害賠償として金六四三万〇八二八円およびこれに対する不法行為の日の翌日である昭和五二年五月一三日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2の事実中、(一)の事実は否認し(二)のうち被告秀四郎および同タヨが被告勝四郎の父および母であること、本件事故当時被告勝四郎が一八歳であつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
3 請求原因3の事実中
(一)の(1)の事実は不知、(一)の(2)のうち(ア)の中村胃腸科外科医院に入院したことは認め、その余の事実は不知。(一)の(3)の事実は否認する。
(二)の事実のうち、原告主張の入通院の事実は不知、その余の事実は否認する。
4 請求原因4の事実は認める。
三 被告らの抗弁
原告は交差点にさしかかつた際、歩行者用の信号が赤色であつたのに横断を開始し、横断中においても左右の安全を確認することをしないで漫然と横断したものであり、本件事故発生について仮りに被告勝四郎に過失があるとしても、原告にも過失があるから、損害賠償額の算定に当たつてはこれを斟酌すべきである。
四 抗弁に対する認否
否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 責任原因
1 被告勝四郎の責任原因
(一) 成立に争のない甲第二ないし第五号証、乙第五、第六号証、本件事故現場の写真であることについて当事者間に争いのない乙第二号証の一ないし一四ならびに原告および被告勝四郎の各本人尋問の結果の一部を総合すると、次の事実が認められる。
(1) 本件事故現場は、東西に走る国道七号線(車道幅員約二四メートル、その両側に歩道あり。)と南北に走る道路(車道幅員一七メートルその両側に歩道あり。)の交差する信号機による交通整理の行なわれている交差点の北側横断歩道上であり、事故地点は原告の横断開始地点(東側)から西に約一六メートルのところであること、本件交差点の信号のサイクルは南北道路の車両に対するE信号機は青三一秒、黄四秒、赤一一五秒、東西道路の車両に対するA信号機は、青一〇七秒、黄四秒、赤三九秒で全赤の時間がそれぞれ二秒あり、別紙見取図のA信号が赤に変わつてからE信号が青になるまでの時間は二秒であること、A信号の約五〇メートル東の位置に、A信号による信号待ちで消防署前に車が滞留するのを防ぐため、B信号が設けられ、そのサイクルはA信号より青信号が一二秒短く、赤信号が一二秒長くなつて、その間黄信号が四秒であること、原告の横断した横断歩道の歩行者用のF信号のサイクルは青九〇秒、点滅信号四秒、赤五六秒であること、従つて、F信号が赤に変わつてからA信号が赤になるまでの時間は一七秒((107+4)-(90+4)=17)であり、F信号が赤になつてからE信号が青になるまでの時間は一九秒であること、事故当時国道七号線は夕方のラツシユ時のため相当混雑していたこと。
(2) 原告は産後一九日を経過したばかりであり、とくに走ることもなく通常の歩行速度で横断歩道を進行したこと、女性の通常の歩行速度を毎時四キロメートル(秒速一、一一一メートル)とすると、原告は横断を開始後事故地点まで約一四・四秒を要したことになること、また、原告は事故地点まで本件二輪車に全く気づかず、横断歩道上には原告の他に少なくとも一名がおり、原告の前方約二・五メートルを原告と同一方向に歩いていたこと。
(3) 被告勝四郎は、交差点手前の別紙見取図の<1>地点に赤色信号に従つて停止線の直前に停車し、その後北進を開始したこと、そのとき丁度東西道路から北に右折しようとする車両が二、三台交差点中央付近で停車していたこと、被告勝四郎は、右停車車両のために原告が歩行していた横断歩道上の見通しが悪く、見取図<2>地点まで歩行者の存在に気づかず、同地点で同図<ア>地点上にきた原告とその前方の歩行者一名を発見したが、原告とその前方の歩行者の約二・五メートルの間を通過しようとして、スピードを落とすことなく同図<3>地点まで進行したとき危険を感じて急ブレーキをかけたが約三メートルスリツプし、同図<4>の地点で転倒して滑走し、同図X地点で原告に衝突したこと、見取図<1>の地点からX地点までの距離は約三五・九メートルを下らないこと、見取図<1>地点から同図<2>地点まで約二〇・五メートル、同図<2>地点から同図<3>地点まで約七メートル、同図<3>地点から同図<4>地点まで約五・七メートル、同図<4>地点から衝突したX地点まで約一・七メートルであること、本件二輪車のスピードは、見取図<3>地点で約三五キロメートルないし約四〇キロメートルであり、変速機はサードにしてあつて、ブレーキをかけたことによる多少の減速及び初速を考慮に入れても平均時速約三〇キロメートルで走行していたこと、従つて、被告勝四郎は事故地点まで約四・三秒で到達したものと推認されること、
以上の事実が認められる。
(二) ところで、原告、被告勝四郎ともに互に相手方が赤信号を無視したものであると主張し、甲第四、第五号証、原告、被告勝四郎各本人尋問においても、それぞれ右主張にそう供述をしているが、いずれが真実であるかを認めるに足りる直接証拠はない。
しかし前記認定事実によると、本件二輪車の発進時E信号が青であつたと仮定すると、F信号が赤になつてからE信号が青になるまでの時間が一九秒であるから原告はF信号が赤になつてから八・九秒((1.9+4.3)-14.4=8.9)後に横断を開始したことになり、原告が中央分離帯を過ぎる頃には既にA信号も赤になつていたことになる。しかし、このことは、原告が本件二輪車に衝突するまでの通常の歩行速度で進行していたこと、本件二輪車の発進時、右折車(西から北)が交差点中央付近に停車していたこと、原告の他歩行者がその近くに少なくとも一名存在していたこと等を総合するとにわかに採用し難い。また、原告の横断開始時にF信号が青であつたという供述についても、もしF信号が青であつたと仮定すると、原告の横断開始直後にF信号が点滅(四秒)し始めたとしても、見取図X地点までは赤に変わつてから一〇・四秒(点滅四秒を含むと一四・四秒)を要することになる。そして本件二輪車の発進は、見取図X地点までの所要時間が四・三秒であることから、F信号が赤に変わつてから六・一秒後であつたことになる。そして、この時点(本件二輪車の発進時)ではAおよびC信号ともに青であり、B信号は赤になつて僅か一・一秒後(黄信号を含めても五・一秒)となるところ、B信号の位置から交差点をすぎるまで約五〇メートルであつたから、時速約三〇キロメートル(秒速八・三三メートル)で進行したとすると、交差点上の東西方向の車両の流れが交差点をすぎるのに約六秒を要し、夕方のラツシユ時を考慮に入れると、国道七号線は未だ相当の車両の往来があつたものと思料され、この事情のもとに本件二輪車が発進し、前認定の速度で交差点を進行し得たものとは認め難い。
以上のことを総合すると、原告の横断開始時、および本件二輪車の発進時の信号は、原告(F信号)については点滅中か又はこれに近い赤であり、被告勝四郎(E信号)については赤であつたものと推認するのが相当であり、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
(三) 以上の認定事実によると、本件事故発生については原告に信号無視と横断中左右の安全を確認することなく漫然進行した過失が認められるが、被告勝四郎にも信号無視と、停車車両のため前方横断歩道が見えないにもかかわらず時速三五キロメートルのままで進行し、しかも横断中の原告を発見したにもかかわらず徐行することもなく、かえつて原告の直前を通過できると軽信して、漫然進行した過失があり、これが本件事故の主因と認められる。
従つて、被告勝四郎は民法七〇九条に基づき本件事故によつて原告が受けた後記損害を賠償する責任がある。
1 被告秀四郎、同タヨの責任原因
(一) 被告勝四郎本人尋問の結果によると、本件事故当時被告勝四郎は一八歳で、飲食店にバーテンとして勤務していた事実が認められるので、同人は本件事故当時責任能力を有していたものと認められる。
ところで、責任能力がある未成年者が惹起した交通事故につき、監督義務者である親権者の義務懈怠と事故との間に相当因果関係が認められるときは、親権者は民法七〇九条による不法行為として賠償の責任を負うものと解するのを相当とする。
(二) 成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第六号証、被告勝四郎本人尋問の結果ならびに被告秀四郎、同タヨ各本人尋問の結果の一部によると、次の事実が認められる。
(1) 被告勝四郎は、本件事故当時一八歳四ケ月で、昭和五〇年三月中学校卒業後横浜市内の自動車修理工場に勤務し、昭和五〇年一〇月八日自動二輪車の運転免許を取得し、自動二輪車(五五CC)を購入したが、その後一年半位で父の許(現住所)に帰り、その後バーテンとして働いていたこと、被告勝四郎の勤務は夕方からで、帰りが遅くなつてバスがなくなるため右自動二輪車を通勤に使用していたこと、ところがその二輪車がパンクしたため、本件二輪車に乗つて出勤の途中本件事故を起したこと、被告勝四郎は、普段通勤に使用していた自動二輪車の購入費、油代、修理代等の費用を負担し、被告秀四郎、同タヨがこれを負担したことはないこと、
(2) 被告勝四郎は、本件事故までに、自動二輪車を運転中転倒して同乗者に傷害を負わせた人身事故一回(このため少年鑑別所に収容された。)、無免許(四輪車)一回、スピード違反、一時停止違反等合せて五回位の交通違反を犯していたこと、被告秀四郎、同タヨは、被告勝四郎の右交通違反の都度家庭裁判所に呼出を受けていたのに、被告勝四郎に対し、車の運転をするときは他人を乗せたりスピードを出さないようにという一般的な注意をするに止まつていたこと、本件二輪車は被告秀四郎が娘の夫から頼まれて数ケ月前から保管していたものであるが、被告勝四郎の所有する自動二輪車が五五CCであるのに対し、本件二輪車は七五〇CC(いわゆる七半)であつて、両者の運転特性が異ることは普通の知識があれば理解し得た筈であり、しかも被告勝四郎は前記のとおり交通違反を繰り返し、転倒による傷害事故を起していたから、本件二輪車を被告勝四郎が運転するときは、交通事故を惹起するかも知れないと予測し得たものと推認し得ること、しかるに被告秀四郎、同タヨは、被告勝四郎と同居していてその監督が容易であつたのにこれを尽さず、本件二輪車を運転できるのは被告勝四郎だけであつたから、同人が本件二輪車を持出すことのないよう配慮すべきところ、そのキイーの保管については勿論、本件二輪車の保管についてもその配慮が欠けていたこと、
右認定に反する被告秀四郎、同タヨ本人尋問の結果は、にわかに採用できず、他に右認定を覆す証拠はない。
(三) 右(二)の(2)の認定事実によると、被告秀四郎、同タヨが被告勝四郎の監督を怠つたために本件事故が生じたものと認めるのが相当であり、前記(二)の(1)の事実があつたからといつて、右認定を妨げるに足りない。
そうすると、被告秀四郎、同タヨも又民法七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。
三 損害
1 成立に争いのない甲第七号証の一ないし六、第八号証の一、二、第九号証の一ないし三、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一三号証、乙第三号証、第四号証および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故により頭部および両肩、両腕、両下腿打撲傷、頭頂骨骨折、脳内出血、食思不振、脱水症の傷害を受け、昭和五二年五月一二日より同年六月二五日まで四五日間中村胃腸科外科医院に入院し、同年六月二六日より同年八月三一日までの間に同病院に九回通院し、同年八月八日より昭和五三年一月一七日までの間に青森県立中央病院に六回通院し、同五二年一〇月二四日より同五三年一月一二日までの間に新宿病院に四六回通院し、同五二年一〇月六日より同五三年一月一二日までの間に東京慈恵会医科大学附属病院に七回通院して治療を受けたこと、右入院の当初二一日間は絶対安静を要するため付添看護が必要であつたこと、および右加療によるもなお外傷性嗅神経障害、嗅覚脱失症が残り、右症状は昭和五三年一月一二日に固定状態にあつて、自賠法施行令別表記載後遺障害等級第一二級一二号に該当することが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
2 そこで、以上の事実を前提に以下損害の数額について判断する。
(一) 治療費 金一八万〇一八五円
前掲甲第七号証の四ないし六、第八号証の二ないし六、第九号証の二、三、第一〇号証の二によると原告は前記入通院による医療費として計金一八万〇一八五円の損害を受けたことが認められる。
(二) 入院雑費 金二万七〇〇〇円
原告の入院中(四五日)の雑費としては、一日金六〇〇円の割合による計金二万七〇〇〇円の損害を受けたものと認めるのが相当である。
(三) 入院付添費 金六万三〇〇〇円
原告本人尋問の結果によると、入院付添を要した二一日間は原告の母が付添つたことが認められ、その費用としては一日金三〇〇〇円の割合による計金六万三〇〇〇円の損害を受けたものと認めるのが相当である。
(四) 通院交通費 金六万八〇七〇円
原告本人尋問の結果によつて成立を認める甲第一二号証の二、三によれば、原告の入院期間中における付添人の交通費は一日金五〇〇円程度が相当でありその二一日分金一万五〇〇〇円、成立に争のない甲第一二号証の一により認められる原告の交通費(慈恵会医科大学附属病院分)金四万五九五〇円のうち、航空運賃と汽車賃との差額金四四〇〇円を控除した金四万一五五〇円、原告本人尋問の結果と前掲甲第一二号証の二、三によると、通院中(慈恵会医科大学附属病院分を除く。)の原告及びその付添人の通院交通費は計金一万一五二〇円と認められる。
(五) 休業損害
前認定の原告の受傷内容および治療経過および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は本件事故当時二八歳の主婦として家事に従事していたが、退院後とくに家事に従事できなかつたというわけではなく、休業期間としては、入・通院の日数に一〇日を加算した一二一日が相当であり、昭和五二年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計の二八歳の女子労働者の平均賃金は金一六六万九七〇〇円であるから、その休業損害は金五五万三五一六円となる。
1,669,700×121/365=553,516(円)
(六) 逸失利益
前記認定によれば、原告の後遺障害による労働能力喪失の割合は一四パーセントである。主婦として嗅覚の喪失は、ガスの管理、料理などに影響を及ぼすものであり、右状態は労働不能年齢まで継続するものと認められる。前認定の収入を基礎にライプニツツ計算法により年五分の割合による中間利息を控除して右逸失利益の現価を計算すると金三九七万七八五九円となる。
1,669,700×14/100×17.017=3,977,859(円)
(七) 慰藉料
前認定の原告の受傷内容、治療経過、後遺症の内容および程度、その他本件に顕われた諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が受けた精神的苦痛は金一八〇万円をもつて慰藉するのが相当である。
四 過失相殺および填補
本件事故発生については、前認定のとおり原告にも過失があるがその主因は被告勝四郎の過失によるものであり、その過失割合は原告二・五、被告勝四郎七・五と認めるのを相当とするから、前項の損害額合計金六六六万九六三〇円から二割五分を減じた金五〇〇万二二二二円をもつて被告らに賠償を求め得べき額とするのが相当であるところ、原告は自賠責保険から金二五七万円の弁済を受けた旨自認しているので、これを控除すると残額は金二四三万二二二二円となる。
五 結論
以上の次第により、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し金二四三万二二二二円およびこれに対する不法行為後の昭和五二年五月一三日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 菅原敏彦)
別紙見取図
<省略>