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横浜地方裁判所 昭和55年(ワ)1718号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

本件保険契約解除の抗弁について検討する。

1 本件保険料債務が持参債務であるか取立債務であるかの点はしばらく措き、抗弁1(二)の事実<編注・保険料の請求と不払>につき判断する。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ<る。>

(一) 原告は、自己の経営する四方山店の什器・備品、店舗造作につき被告の月掛店舗総合保険に加入しており、被告神奈川支社の赤曽部がその担当者であつたが、同人は昭和五三年一一月心筋梗塞で倒れ療養中であつたため、同人に代つて古島が原告を含む得意先の集金に携わることとなつた。

そして、古島は、原告の右保険料を徴収するため四方山店に赴いたところ、原告から同年一二月新開店のドレミ店についても同様に被告の月掛店舗総合保険に加入したい旨の申出を受けた。

そこで、原告と古島との間で契約内容等につき交渉した結果、昭和五四年一月二九日、原告と被告との間でドレミ店の什器・備品、店舗造作につき本件月掛店舗総合保険契約が締結され、原告は右契約時点で昭和五四年一月分の月掛保険料を払込んだ。

(二) 右保険契約締結に際し、保険契約申込書(乙第一号証)及び保険契約証(甲第一号証、これは前記乙第一号証と複写式になつているものである。)の契約者の住所氏名等を含む所要事項は、すべて古島が記入したが、このうち契約者の住所は原告の指示に従つて古島が記入したものであつた。

また、保険料集金の場所についても、原告の意向に従つて原告の住所地である四方山店と定めたため、乙第一号証の集金場所欄に何らの記載がなされなかつた。

(三)(1) 本件保険契約の担当者として保険料の集金にも携わつていた古島は、同年二月分月掛保険金徴収のため同月二五日保険契約証記載の原告の住所地である四方山店を訪れたところ、原告は不在で使用人の同店マスターから「原告は最近ドレミ店に居ることの方が多いからドレミ店へ集金に行つた方がよかろう。」と告げられ、その足で同店へ回つたが、やはり原告は不在であつたところから、やむなく原告の使用人の同店マネジャーに保険料を集金に来た旨原告へ伝えるよう依頼して辞去した。

(2) 古島は、更に同年三月二日、五日、二〇日及び二八日にも右保険料徴収のためドレミ店を訪れたが、いずれの時も原告が不在であつたため、同店のマネジャー、レジ係等に保険料を入金するよう原告への伝言を依頼して辞去した。

(3) 古島は、同年四月三日、六度、右保険料徴収のため同店を訪れたが、原告がまたも不在であつたため、同店マネジャーに対し「四月五日までに入金がないと契約が失効になる。五日朝立寄るので入金して欲しい。」旨原告へ伝えるよう依頼して辞去した。

(4) その結果、原告は、ようやく古島の手許からの集金票引揚期限の同月五日、実に支払期限から一か月以上遅れて小切手で同年二月分の月掛保険料を古島を介して被告に支払つた。

(四)(1) 古島は、同年四月二七日及び五月二日の両日、三月分の月掛保険料徴収のためドレミ店を訪れたが、いずれの時も原告が不在であつたため、五月二日に訪れた際に同店マネジャーに対し「五月七日までに入金がないと契約が失効になるから必ず入金して欲しい。」旨原告へ伝えるよう依頼して辞去した。

(2) 古島は、更に同月七日、三度保険料徴収のため同店を訪れたが、やはり原告は不在であつた。

そこで、同人は、同店マネジャーに対し「今日中に入金がないと契約が失効になるが、(あなたが)責任をもつて原告が帰り次第入金させることを確約するなら上司の承認を得て入金票引揚げを待つてもらうことができる。」旨告げたところ、右マネジャーは「必ず入金するから待つて欲しい。」旨答えたため、帰社してその旨の措置をとつた。

(3) 原告は、古島の手許からの集金票引揚期限の五月一〇日ころ実に支払期限から四〇日以上遅れて、ようやく三月分の月掛保険料を古島を介して小切手で被告に支払つた。

(五) 心臓病が軽快して同年五月から被告神奈川支社の職場に復帰して古島から原告の本件保険契約に関する業務を引継いだ赤曽部は、四月分の月掛保険料徴収のため五月二〇日、二七日の両日、保険契約証記載の原告の住所地である四方山店を訪れたが、いずれの時も原告が不在であつたため、同店のマスターに保険料の集金に来た旨を原告に伝えるよう依頼して辞去した。

(六)(1) 赤曽部は、同年六月一日夕方右保険料徴収のため三度四方山店を訪れた際ようやく原告と直接面会することができ、四月分の月掛保険料が未払となつていること、六月四日までに支払がないと保険契約が失効になるから必ず入金して欲しいことを話した。

(2) 原告は、これに対し、小切手を切つて四方山店もしくはドレミ店のレジ係に預けておいて後日赤曽部に取りに来てもらう等の段取りをつけることなく、かえつて「現在持合せがない。毎日夜一二時以降は必ずドレミ店に居るから来て欲しい。」旨病み上がりの赤曽部に申し向けてその場を糊塗し、その後赤曽部ら被告横浜支社の担当者に何らの連絡もすることなく同年九月二五日の本件火災発生まで三か月以上放置していた(従来どおりメモでも置いておいてもらえばいつでも小切手を切つておきますよと答えた。」旨の原告本人の供述部分は、前記甲第八号証における赤曽部の「原告から保険料立替依頼の一言があれば立替えておいたであろう。」云々の供述記載その他赤曽部が自ら出捐してまで保険契約維持に腐心していたことを示す関係各証拠に照らして到底措信しがたい。)。

(3) 赤曽部は、その後六月八日もしくは一一日に前記保険料徴収のため四方山店を訪れたが、原告に会えず、同店マスターの許に原告から小切手も託されておらず、また前記六月一日にも同店マスターから「原告は仕入れ代金にも困つているらしいからこれ以上集金に行つても無駄であろう。」と告げられていたことから本件保険契約の維持を断念するに至つた。

(七) 原告は、ドレミ店開店後同店へ経営の主力を移したため、同店に居る時間の方が四方山店に居る時間より多くなつたが、それでも同年八月末日四方山店を経営不振のため閉店するまでは、毎日か少くとも二、三日に一度は原告が四方山店を訪れるか四方山店のマスターで板前の中野某がドレミ店を訪れるかして営業上の打合せ、郵便物の受渡し、金銭の受渡し等をしていた。

また、原告の住民票上の住所は同年九月二三日転出届出まで四方山店として届出られでいたし、原告から被告に対して住所変更の通知がなされたこともなかつた。

(八) 原告は、本件火災直後の同年九月二五日午前九時ころ被告神奈川支社の赤曽部に電話をかけ、「未払月掛保険料を火災前の九月二二日に小切手で支払つた形式をとつて何とか契約がつながつていることにして欲しい。武士の情けで何とかお願いできないか。」などと懇願したが、赤曽部は、「既に保険契約解除通知がなされ契約が失効しているのでいかんともなしがたい。」旨述べて右申出を拒絶した。

(九) 原告はなおもあきらめ切れず、同年一〇月一二日弁護士である原告代理人小林貞五とともに東京都大田区蒲田の京浜急行雑色駅前の寿司屋へ赤曽部を呼び出し、保険料支払の催告状況や本件保険契約解除の経緯につき質問したうえ、「武士の情けとして何とかして頂きたい。裁判で決着をつけるのではなく、和解する方法はないか。」などと述べ、暗に保険料不払による契約解除を承認して、保険金が支払われるよう協力して貰いたい旨懇願した。

右認定の事実によれば抗弁1(二)の事実は優にこれを認めることができる。

2 抗弁1(一)の事実のうち本件保険料債務が取立債務であるか持参債務であるか以外の事実<編注・保険約款の契約解除条項>は、<証拠>によりこれを認めることができる。

3 抗弁2の事実<編注・解除通知>は、<証拠>によりこれを認めることができる。

4 よつて、被告主張の原告の保険料不払による本件保険契約解除の抗弁は理由がある。

(浅香恒久 佐藤嘉彦 太田剛彦)

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