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横浜地方裁判所 昭和55年(ワ)940号 判決 1983年3月03日

原告

湘南ゼラチン株式会社

右代表者

浅田力造

右訴訟代理人

山下光

瀬古宜春

被告

児玉宗治

主文

一  被告は、原告に対し、金一五五〇万二〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年五月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

原告代理人は主文第一、第二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求原因として次のとおり述べた。

1  不法行為責任

(一)  原告は訴外有限会社旭食品(以下旭食品という)から、昭和五四年一二月七日から同五五年二月二一日までの間、食料用として牛肉合計17.86トンをキロ当り金九〇〇円で買い受け、右代金合計金一六〇七万四〇〇〇円を支払つた。

ところが、右牛肉は訴外有限会社極東飼料が解体のうえ出荷した病死又はへい死にかかる飼料用牛肉であつて、食品衛生法により食用として販売することが禁止されたものであり、旭食品の代表取締役である被告は右事実を知りながら、これを食用牛肉と偽り原告に売り渡したものである。<以下、省略>

理由

一<証拠>によれば請求原因事実1(一)のうち、売買代金額及び原告の旭食品に対する支払額を除く(この点は後に認定する)その余の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二損害について

1  売買代金

<証拠>を総合すると、第一項で認定した売買における売買代金はキロ当り八二〇円で、原告が旭食品に支払つた代金合計は一四六四万五二〇〇円(820×17,860=14,645,200)である事実が認められ<る。>

2  逸失利益

<証拠>によれば、原告は本件牛肉をキロ当り金一〇〇〇円で転売する予定であり、また本件牛肉が契約どおり食料用であればキロ当り一〇〇〇円で十分転売しうるものであつた事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

従つて、原告が本件牛肉をキロ当り金一〇〇〇円で転売して得るはずだつた転売利益は金三二一万四八〇〇円となる。{(1,000−820)×17,860=3,214,800}。

3  慰藉料

<証拠>を総合すれば、被告の本件行為は新聞紙上で「食肉に化けた病死牛」等大々的に報道され、牛肉の流通過程に関与していた原告も「横須賀市内のゼラチン会社」「横須賀S社」等食肉業者はもとより、一般人にもそれが原告と判るように報道されたこと、そのため、原告も被告と同様飼料用牛肉を食用牛肉として販売していた闇ルートグループではないかとの誤解を受けたり、飼料用牛肉を食用牛肉として販売していた業者という不名誉な評価を受けるに至り、その社会的信用、名誉を害され、多大の無形の損害をこうむつたものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。右損害を本件に顕れた諸般の事情を考慮して金銭に評価すると二〇〇万円を下らないものと認められる。

4  損害の填補

原告が、右合計損害の填補として、被告から金三五五万円の支払を受けたことは原告の自認するところである。

右事実によれば、旭食品は原告に対し、右填補後の損害賠償として少くとも一六三一万円を支払う義務がある。

三そこで、被告の責任について検討する。

先ず、<証拠>によれば、被告が原告に対し昭和五五年五月七日旭食品の財産的損害に関する賠償債務が一七八六万円であることを認め右旭食品の債務について連帯保証をした事実が認められる。

さらに、<証拠>を総合すれば、被告は旭食品の代表取締役として原告と旭食品との間の本件売買契約に全面的に関与していたものであること、旭食品は電話番の従業員が一人いるだけであること、旭食品は自前の食肉処理施設はなく、電話一本で商売をしていたこと、原告も旭食品が被告個人の営業であると考えて本件売買をしていたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、旭食品は実質的には被告の個人企業であつて、法人格は全くの形骸にすぎず、事実上は旭食品即被告であると認めるのが相当である。

従つて、原告は、被告個人に対して、旭食品の原告に対する前記不法行為責任を追求することができると解すべきである。

四本訴状が昭和五五年五月一一日に被告に送達されたものであることは記録上明らかである。

五よつて、被告に対し、連帯保証及び旭食品の法人格否認を前提として、旭食品の不法行為に基づく損害の賠償を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(小田原満知子)

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