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横浜地方裁判所 昭和56年(ワ)1214号 判決 1983年6月24日

原告

甲山一郎

原告

甲山ハナエ

右両名訴訟代理人

三野研太郎

飯田伸一

被告

医療法人博仁会

右代表者理事

浜野三郎

被告

増岡太郎

右両名訴訟代理人

藤井進

水沼宏

主文

一  被告医療法人博仁会には、原告甲山一郎に対し、金七〇万円及びこれに対する昭和五六年六月一二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告甲山一郎の被告医療法人博仁会に対するその余の請求及び原告らの被告増岡太郎に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告甲山一郎に生じた費用の四分の三及び被告医療法人博仁会、同増岡太郎に生じた費用の各二分の一は同原告の負担とし、原告甲山ハナエに生じた費用の全部及び被告増岡太郎に生じた費用の二分の一は同原告の負担とし、その余は被告医療法人博仁会の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告甲山一郎に対し金一二〇万二五〇〇円、被告増岡太郎は原告甲山ハナエに対し金二三〇万七五〇〇円及びそれぞれに対する昭和五六年六月一二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告甲山一郎(以下「原告一郎」という。)は、本訴が提起された昭和五六年六月現在三三才の会社員であり、原告甲山ハナエ(以下「原告ハナエ」という。)は右同月現在三一才の主婦である。

原告らは昭和五〇年一〇月七日婚姻し、両者の間には長男一男(右同月現在五才)、長女さち子(同二才)の二人の子供がいる。

(二) 被告医療法人博仁会(以下「被告博仁会」という。)は、病院を経営し、科学的かつ適正な医療を行うことを目的として設立され、現在横浜市西区戸部本町二四一番一号に浜野産婦人科病院(以下浜野病院」という。)を設置経営している。

被告増岡太郎(以下「被告増岡」という。)は浜野病院に勤務している医師である。

2  本件手術及び原告ハナエ妊娠の経緯

(一) 原告一郎は、前出のとおり既に一男一女を得ていたので以後妻である原告ハナエを妊娠させないために不妊手術を受けることとし、昭和五五年七月二八日、浜野病院を訪れ、被告博仁会との間で、原告一郎が精管切断術を受けることを内容とする医療契約を締結し、同日、同病院において被告増岡により右手術を受けた。

その後同年八月一日抜糸、九月一三日には精子の漏出の有無の検査を受けて漏出していないとの診断を受けた。

(二) しかるに、原告ハナエは同年一〇月中ころから身体に異常をきたし、ガンではないかと不安な日々を送つていたが、病状が悪阻に似てきたことから妊娠を疑い、同年一〇月三一日、横浜市保土ケ谷区和田町所在磯産婦人科で診察を受けたところ、妊娠三か月の初期であることが判明した。

(三) そこで、翌一一月一日、原告一郎が浜野病院に赴き、精子漏出の有無について検査を受けたところ、精子は漏出していることが判明し、同月一一日、原告一郎は再度精管切断術を、原告ハナエは妊娠中絶手術を受けた。

3  被告増岡の過失

原告一郎の被告らに対する依頼は、永久に不妊とすることであり、被告増岡もこれを承知して本件手術を施行したのである。

そして不妊の目的を達するには精のう等に残留する精子の消失の確認と精管のゆ着もしくは再吻合、再開通の防止が必要となる。精管の再開通ということは精管の切断部の創が新鮮さを失わないとき、再生能力があるため見られる現象である。従つて切断部に充分なる手当が加えられれば切断部は容易に瘢痕化して再生能力を失い、再開通ということはありえない。このため通常は切断部付近を折り畳んで二重結紮するとか電気的に焼くなどの処理をする。これらの点について不完全であると精管の再開通ということになる。

被告増岡は、精管のゆ着の現象を軽視し、本件手術において精管の一部を一二ないし一三ミリメートル程度切除し、結紮したにとどまり、断端を折り返して二重結紮する方法をとらず、もつて断端が再生し、ゆ着するにまかせたものである。

4  原告らの蒙つた損害

(一) 原告一郎について

(イ) 他病院における精液検査料 金二五〇〇円

(ロ) 慰謝料 金一〇〇万円

原告一郎は、原告ハナエの妊娠を全く予期していなかつたので、原告ハナエの健康状態悪化により、同女の代りに幼児達の面倒をみなければならなくなつたり、同女が妊娠したと知つたときは、一時同女の不貞を疑い、夫婦関係が極めて悪化した。

また、断種手術までして原告ハナエが妊娠することを防止しようとしたが、その目的を達せず、自己の子供を殺すに等しいとあれだけ嫌悪していた妊娠中絶手術を原告ハナエに受けさせねばならなかつたこと、及び二度も精管切断術を受けねばならなかつたことの精神的衝撃は極めて大きい。これらの苦痛をいやすには金一〇〇万円の慰謝料が相当である。

(ハ) 弁護士費用

原告一郎は、本件着手金として、金一〇万円を支払い、勝訴して得たる利益の一割を原告代理人に支払う約束であるから、金二〇万円が相当である。

(二) 原告ハナエについて

(イ) 他病院における妊娠の有無についての検査料及び中絶後の経過診察料 計金七五〇〇円

(ロ) 慰謝料 金二〇〇万円

原告ハナエは、当初妊娠を全く知らず、悪阻を他の病気であると考え、当初は胃痛を疑い、続いて近親者に癌で死亡した者がいるので、若年性の子宮癌ではないかと思い悩んだ。そして、もしやと思つて前記磯産婦人科に受診したところ、妊娠であることが判明した。この間における原告ハナエの不安と憔悴はいうまでもない。

そして、原告一郎と共に子供を殺すに等しいとあれだけ避けていた妊娠中絶手術を受けざるを得なかつた精神的、肉体的苦痛は極めて大きく、これらを慰謝するには金二〇〇万円の慰謝料が相当である。

(ハ) 弁護士費用

原告ハナエは、本件の着手金として金一〇万円を支払い、勝訴して得たる利益の一割を原告代理人に支払約束であるから、金三〇万円が相当である。

よつて、原告一郎は、被告博仁会に対しては債務不履行または民法七一五条に基づき、被告増岡に対しては民法七〇九条に基づき、連帯して前記損害金一二〇万二五〇〇円、原告ハナエは、被告増岡に対して民法七〇九条に基づき前記損害金二三〇万七五〇〇円及び各々に対する本訴状送達の日の翌日(または不法行為の日の後)である昭和五六年六月一二日以降民法所定年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実のうち、前段は認め、後段のうち、原告らが婚姻したこと、両者間に一男一女の二人の子供がいる事実は認め、その余の点は不知、同1(二)の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認め、同2(二)の事実のうち、昭和五五年一〇月三一日、原告ハナエが横浜市保土ヶ谷区和田町所在磯産婦人科で診察を受けたところ、妊娠三か月の初期であることが判明したことは認め、その余の点は不知、同2(三)の事実は認める。

3  同3の主張は争う。

4  同4の各事実は不知。

三  被告の主張

1  原告一郎の依頼の趣旨が具体的にどのようなものであつたかどうかは別として、男性不妊手術が永久避妊と呼ばれていることからも明らかなとおり、被告増岡としても、永久避妊の意図のもとに本件手術を施行したことは事実である。しかし、永久避妊とはいつても、将来の事情変更により再開通の手術を希望する患者があるため、これが可能な程度に精管を一二ないし一三ミリメートルを切除したものである。

原告らは、被告増岡が精管の断端を折り返し二重結紮をしなかつたと非難するが、そもそも結紮すればそれより先の部分は間もなく壊死し、脱落してしまうのだから、それだけ精管を長く切除したのと同じことになり、現在では折り返して結紮する方法をとる医師は殆んどいないのが実情である。

2  断端を折り返したり、焼しやくするのは精管を切断しただけの場合のことであり、精管の一部を切除した場合に折り返して結紮すれば、それだけ精管を長く切除したのと同じことになり、また、焼しやくは、かつては行われていたが、パイプカット後もホルモンの分泌等生体に不可欠の働きをする生殖器官がすぐそばにあるところから、これに悪影響を与えないため、現在では殆んど行われていない。

なお、原告らは、切断部を折り返して結紮しておけば、精管が伸びれば伸びるだけその断端は反対方向に離れると主張するが、右のようになるのは糸を最もゆるく結んだような場合のことであり、きちんと結紮すればそれより先の部分は、前記のとおり壊死してしまうのであるから、右のようなことは起りえないのである。

第三  証拠<省略>

理由

一以下の事実は当事者間に争いがない。

1  原告一郎は、本訴提起のあつた昭和五六年六月現在三三才の会社員であり、原告ハナエは右同月現在三一才の主婦であり、両者は夫婦であつて両者間に一男一女の子供が存する事実。

2  請求原因1(二)の事実。

3  同2(一)の事実。

4  昭和五五年一〇月三一日、原告ハナエが横浜市保土ヶ谷区和田町所在磯産婦人科で診察を受けたところ妊娠三か月の初期であることが判明した事実。

5  請求原因2(三)の事実。

二本件手術及び原告ハナエ妊娠の経緯

<証拠>及び前出争いのない事実を総合すれば以下の事実が認められる。

原告一郎と原告ハナエとは昭和五〇年一〇月七日婚姻した夫婦であるが、昭和五二年四月四日に長男一男、昭和五四年一〇月八日に長女さち子の一男一女を得たので以後の生活設計を考えてこれ以上は子供をもうけないこととし、原告ハナエが右長女を浜野病院で出産した際同病院で精管切断ないし切除手術(以下単に「精管切断手術」という。)に関する資料をもらい、右手術の概略及び同病院で右手術を実施していることを知つたことから、そのころから原告ら夫婦で避妊の方法について書物を読むなどして種々検討した結果、昭和五五年六月ころ、完全な避妊方法として原告一郎が精管切断手術を受けることに決めた。そして同年七月二五日すぎころ、原告一郎は、浜野病院に電話して精管切断手術を受けたい旨述べ、そこで同月二八日に同病院医師被告増岡の手によつて右手術が実施されることとなつた。右二八日、原告一郎は、被告増岡に対し、右手術は完全な避妊方法であるものとして依頼し、同被告も、右手術によつて再び子供をもうけることはできなくなるがその点についての覚悟は充分であるかと念を押した。被告増岡は右手術を実施しても、稀には精管がその自然の再生力によつて再開通することがありうることを知つていたが、その点について原告一郎に説明しなかつた。

そして被告増岡によつて右手術が実施されたが、その経過は、まず陰のうの中にある精索を指でたぐり寄せて確保固定し、陰のうの皮ふを何センチメートルか切開してそこから精管を陰のうの外へ引き出す。次に引き出した精管をU字形に曲げて1.5センチメートル位隔てて二か所を糸で結紮し、その間1.5センチメートル程度の部分をはさみで切り取り、後は精管を元の陰のうに戻して縫合したもので、これを左右の精管に実施して手術を終わつた。

その後同年八月一日に抜糸、九月一三日に精子の漏出の有無の検査を実施したところ、漏出していないとの結果が出た。

しかし、同年一〇月半ばころから原告ハナエの体の変調が目立つようになり、種々の病気を疑つたが判然とせず、同月三一日に磯産婦人科で診察を受けたところ妊娠三か月の初期と診断されたので、翌一一月一日、原告一郎が浜野病院で精子漏出の有無について検査を受けたところ、精子は漏出していたので、前記手術にもかかわらず、原告一郎の精管は再開通していたことが判明した。

三被告増岡の手術方法自体の過失の有無について

被告増岡が原告一郎に対して実施した方法は右認定のとおりであるが、これに対し、原告らは、精管を切断ないし切除した上、精管の両断端をそれぞれ折り曲げて結紮する方法をとるべきであり、被告増岡の実施した方法は不完全であつた旨主張する。

確かに<証拠>によれば、原告らの主張する如き手術方法が、精管の再開通を防止するためのより有効な手術方法として医学上存在するが、しかし、<証拠>によれば、被告増岡の実施したように精管の二か所を結紮してその間を切除するという方法も医学上是認されているものと認められるから、原告ら主張の方法をとらなかつたからといつて、手術方法としてそれ自体で当然に過失があつたとすることはできない。

更に、<証拠>によれば、同被告は、より確実に避妊し、精管の再開通を防止するためには、精管をより長く切除すればその目的を達するけれども、手術依頼者が将来事情が変つたり、気が変つたりして再び精管の再開通を望む場合に再開通手術を実施しやすいように精管切除の長さを1.5センチメートル程度に押えたものと認められる。しかしながら、<証拠>によれば、再開通手術にそなえて切除の長さをある程度押えるというのも、手術方法それ自体としては医学上一個の是認されうる方法であつて右のような方法をとつたことそれ自体において当然に過失が存したと言うことはできない。

四被告博仁会の契約責任の有無について

次に、被告博仁会の契約責任の有無については、本件の精管切断手術の委託契約の趣旨をも検討してみる必要がある。

前記認定のとおり、原告一郎は、精管切断手術を「完全避妊」と理解してその趣旨で依頼し、被告博仁会の履行補助者としての被告増岡は、同原告に対しもう二度と子供をもうけることはできないからと念を押している。右事実及び原告一郎、同ハナエ各本人尋問の結果によれば、医学上の専門的知識を有しない素人たる原告一郎は、精管切断手術を完全で失敗のない避妊方法と理解し、かつ子供はこれ以上もうける意思はないし、また万が一避妊に失敗して妻が妊娠した場合に中絶することは夫婦ともに極度に嫌忌していたので、確実な避妊方法を望み、そのためにあえて他の簡便な避妊方法に比べて費用もかかり、かつ手術の苦痛を伴う精管切断手術を被告博仁会に依頼したものと認められ、被告博仁会としても、前記の原告一郎と被告増岡との会話及び本件各証拠によつて明らかな精管切断手術の一般的趣旨からして、原告一郎が前記のような趣旨で本件の精管切断手術を委託していることは理解していたものと推認することができる。

しかるに、既に認定したとおり、被告博仁会の履行補助者としての被告増岡は、原告一郎が右のような趣旨で依頼していることを理解し、かつ精管切断手術を実施しても稀には精管が自然に再開通することもありうることを認識しながら、その点について原告一郎に対して何らの説明もせずに、種々の手術方法のうちで、再開通の完全なる防止、すなわち完全なる避妊を優先する方法ではなく、むしろ再開通手術の可能性を考慮に入れて切除部分の長さを1.5センチメートルに押えるという方法をとつたものであつて、右は前記契約における原告一郎の依頼の趣旨に照すと、医療の専門家と素人との契約当事者間に要請される信義則にもとる点があると言わざるをえないところである。

右の点について敷衍すると、一般に病院ないし医師と依頼者との医療に関する契約において、病院側が依頼者に医療行為の内容をどの程度説明する義務があるかは、当該医療行為の種別や状況によつて異なるものである。例えば、患者に重篤な臓器疾患があつてそのまま放置すれば生命に危険があつて臓器摘出手術の適応が問題となるような事例においても病院側の説明義務が問題となることはあるが、しかし、右のような場合には、医学的知識を有しない患者としては、生命の危機の回避を望む以上、手術を実施するか否か及びどのような方法で手術するかについて実際上医師の判断に委ねざるをえないし、また医師が医学上相当な方法で手術を実施した以上仮に結果が良くなくても医師に過失があつたとは言えないのが通常である。

しかしながら、本件のような精管切断手術のような場合は、右に挙げた臓器摘出手術のような場合と大いに異なり、依頼者としては元来精管切断手術を実施しなくても生命に危険がないことはもちろん、生活上も大きな支障がある訳ではないが、依頼者自身の生活設計の上で避妊という目的を達成するために、他の避妊手段と比較し、それらの利害得失を検討して一つの生活上の選択として精管切断手術という方法を選ぶ訳である。従つて、専門家たる病院側としては依頼者が種々の避妊方法の利害得失を充分比較検討して自由な意思に基づいて右手術を実施するか否かを決定するのに必要な内容を依頼者に説明する信義則上の義務が存すると解するのが相当であつて、逆に精管切断手術を実施しても稀には再開通することがあることを病院側で説明せずに、あくまで完全避妊であることを前提とし、かつ一方で再開通手術を考慮して切除部分を1.5センチメートル程度にとどめて二重結紮等の方法もとらない方式で実施するというのであれば、結果として自然再開通が起つた場合には信義則上その責任を負うべきであるとも言いうるのである。

以上検討したところによれば、被告博仁会は原告一郎に対して契約当事者間の信義則に違反したことによる契約上の責任を負うべきであるのに対し、被告増岡個人に一般不法行為上の義務違反が存したと認めるに足りる証拠は存しない。(従つて契約当事者に非ざる原告ハナエの請求は理由がない。)

五原告一郎の損害

1  請求原因4(一)(イ)の事実を認めるに足りる証拠は存しない。

2  慰謝料

原告一郎、同ハナエ各本人尋問の結果によれば、原告一郎は、本件の精管切断手術を受けた後に、その精管が自然再開通したために、その妻を妊娠させるに至り、かつ右手術を受けたのであるから妻が妊娠するはずがないと考えていたのに妻が体の変調を来たし、妊娠の症状を呈したため不安に陥り、そして原告一郎は、結局自分自身再手術を余儀なくされるとともに、妻である原告ハナエが懐胎した原告らの胎児については、原告ハナエが当時妊娠を予想せずに頭痛薬等の薬物を服用していたため、中絶の途を選ばざるをえず、原告一郎としては極度に嫌忌していた中絶をその妻に受けさせることを余儀なくされて多大の精神的苦痛を被つたものと認められ、右は被告博仁会の前記契約上の信義則違反によつて生じた精神的苦痛と言うことができ、それを慰謝すべき慰謝料は、前記被告博仁会の義務違反の内容、程度も考慮して金七〇万円とするのが相当である。

3  弁護士費用

一般に債務不履行による損害賠償を請求する場合には、その債務不履行が不法行為に比肩する等特段の事情のない限り、その請求をするに要した弁護士費用は、その債務不履行と相当因果関係のある債権者の損害には該当しないものと解するところ、本件における前示債務不履行の態様は右特段の事情に該るものとは認め難いから、原告一郎の弁護士費用の請求は理由がない。

六結論

以上によれば、原告らの本訴請求のうち、原告一郎が被告博仁会に対して債務不履行による損害金七〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五六年六月一二日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、原告一郎の被告博仁会に対するその余の請求及び原告らの被告増岡に対する請求はいずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(高橋久雄 山下和明 池田直樹)

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