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横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)1619号 判決 1983年6月30日

原告

横山仁

ほか二名

被告

株式会社明電舎

ほか一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告らは連帯して、原告横山節子に対し金五〇〇万円、同横山仁及び同横山昇に対し各金二五〇万円を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告横山仁及び同横山昇は亡横山嗣雄の子であり、原告横山節子は亡横山嗣雄の妻であり、原告三名が亡嗣雄の相続人である。

2  亡横山嗣雄(以下亡嗣雄という。)は、昭和五六年七月三一日午後一〇時一九分ころ、横浜市港北区新吉田町六〇六〇番地先県道一三〇号線(自動車専用道)上において歩行中、被告株式会社明電舎が所有し、被告福田栄太郎(以下被告福田という。)が運転する普通乗用車(品川五七む一七一)に衝突され、頭蓋底前頭蓋窩粉砕骨折、大脳左半球前頭葉挫滅、硬膜くも膜下出血、胸大動脈断裂、左胸腔内出血等の傷害を負わされ、よつて死亡した。

3  本件事故が発生した道路は、自動車専用道路ではあるが、このような道路上にあつても、走行自動車が故障し人が下車して一時的に歩行したり、積荷の荷崩れを直すため下車して歩行するようなことはあり得ることなので、運転者は常に前方を注視し、不測の事態にも対応できるよう配慮して運転する義務があるが、被告福田は右の義務を怠つた。被告株式会社明電舎は前項記載の普通乗用車の保有者である、よつて被告福田は民法第七〇九条により、被告株式会社明電舎は自動車損害賠償補償法は第三条により亡嗣雄及び原告らが前項記載の交通事故により蒙つた損害を賠償する責任がある。

4  亡嗣雄は生前造園業を営んでおり、昭和五六年一月から事故のあつた同年七月までに四七九万四三三七円の収入を挙げていた。これを年収に計算し直すと八二一万八八六三円となる。亡嗣雄は昭和一一年三月二四日生れで、事故当時四五歳であつたから、若し事故に遭わなければ更に二二年間毎年右の額の収入を得たものである。亡嗣雄には自動車専用道路を歩いた過失があり、過失相殺もやむを得ないが、その減額をを受くべき割合は五割を越えないとすべきである。原告横山仁、同横山昇は各四分の一の、原告横山節子は二分の一の各割合によつて亡嗣雄の得べかりし利益を相続した。そこで、中間利息の控除につきライプニツツ係数を用いると、原告横山仁、同横山昇についてはその相続分は各自につき少なくとも一三五二万三一一一円となり、原告横山節子については少なくとも二七〇四万六二二二円となる。

原告らは、父の又は夫の死亡により著しい精神的苦痛を味わつたが、これを慰藉するには、原告横山仁、同横山昇については各二〇〇万円を、原告横山節子については三〇〇万円を要するところ、先のとおり亡嗣雄の過失による相殺をしても各その半額を請求しうる。

原告横山節子は亡嗣雄の妻として葬儀を執り行い、これに五〇万円を要した。過失相殺をやむを得ないものとしても半額である二五万円を請求しうる。

以上によれば、原告横山仁、同横山昇に対し被告らが賠償すべき金額は各金一四五二万三一一一円で原告横山節子に対し被告らが賠償すべき金額は金二八七九万六二二二円である。

5  そこで原告横山仁、同横山昇は請求しうべき金額のうち各金二五〇万円の、原告横山節子はうち金五〇〇万円の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は知らない。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実は、本件事故が発生した道路が自動車専用道路であるとする点を除き争う。

4  請求原因4の事実は知らない。

三  抗弁

1  事故が発生した場所は自動車専用道路であるのに、亡嗣雄は午後一〇時一九分ころ、酒に酔つて道路の中央分離帯となつている植込みの陰から突然被告福田運転の普通乗用車の進路前方に飛び出した。被告福田は右転把と同時に急制動もしたが衝突を避けられなかつた。被告福田には亡嗣雄の飛び出しを予測することはできなかつた。

亡嗣雄には自動車専用道路を歩行した過失がある。

被告福田の運転した普通乗用車には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

2  原告らは既に本件事故の損害金として、自動車損害賠償責任保険金一四〇〇万二四〇〇円の支払いを得た。

3  仮に被告らに何らかの責任があるとしても、亡嗣雄の過失は大きいから、九割以上の相殺がなされるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張は争う。

2  抗弁2の事実は認める。

3  抗弁3の主張は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  成立に争いがない甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば請求原因1の事実が認められ、同2の事実は当事者間に争いがない。

二  いずれも成立に争いがない乙第一号証の二ないし五及び被告福田本人尋問の結果によれば次の各事実を認めることができる。

事故の起きた場所は通称第三京浜という自動車専用道路上であり、右道路は片側三車線を有し、高さ二五センチメートル、幅二・五メートルの中央分離帯により上下線が分かたれている。分離帯上には遮光のため、高さ二七センチメートル、幅一・九メートルの植込みが四メートル間隔で設けられている。道路は神奈川県公安委員会により昼夜間最高時速八〇キロメートルの制限が付されている。

被告福田は、時速八〇キロメートル位で東京方面に向け第三走行帯を走行中、前方二三メートルくらいの所を、分離帯植込みの陰から亡嗣雄が走り出たのを発見し、急制動し、次いで右転把したが自車左前部が同人に衝突した。被告福田は左側の車線も見たが走行車両があり左転把できる状態ではなかつた。

右の事実によると亡嗣雄の過失が大きく、賠償額を決めるに当り大幅な減額は免れない。

三  原告らは損害額を定める前提として、昭和五六年度申告所得額が四七九万四三三七円であつた点をとりあげるが採り得ない。

いずれも官公署作成部分の成立につき争いがなく、その余の部分の成立を原告横山節子本人尋問の結果により認める甲第一ないし第三号証によれば、亡嗣雄は昭和五四年度所得を四二六万六九六五円と、昭和五五年度所得を四一四万四四三六円と各申告し、原告横山節子は同人の相続人として、昭和五六年一月から七月までの同人の所得を四七九万四三三七円と各申告したことが認められるが、右各書証によると、昭和五四年度、昭和五五年度につき専従者控除が一三五万円であつたものが、昭和五六年のものについては七〇万円に止まつているなどの点が申告所得の差異を生んでいると認められ、亡嗣雄の得べかりし利益を確定する基礎に用いるのは相当でない。

他に資料もないから、右のうち少なくとも昭和五五年度申告所得額である四一四万四四三六円程度を稼働可能期間中毎年得たはずであるとするのが相当である。そして甲第四号証によれば亡嗣雄は昭和一一年三月二四日生れであると認められるから、事故後更に二二年は稼働し得たと認むべきであり、中間利息の控除に関するライプニツツ法による二二年に対応する係数は一三・一六三〇である。又亡嗣雄の年齢等を考慮し、得べかりし利益に応じ、その三割の生活費を要するものと認めるのが相当である。

四  原告らが自動車損害賠償保障法による保険金一四〇〇万二四〇〇円の支払いを得たことは当事者間に争いがない。

前項により得られた亡嗣雄の得べかりし利益の数額は三八一八万七二四七円となり、これを原告らが各相続分割合により相続し、慰藉料、葬儀費用に関する原告らの主張を暫く採るとしても、前記の事情により少なくとも過失相殺として八割の減額を免れないと認むべきであるから、右減額後の数額から、先の一四〇〇万二四〇〇円を各原告につき相続分に応じて分けた金額を除くと残余がないことは明らかである。

そうすると原告らの請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 曽我大三郎)

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