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横浜地方裁判所 昭和58年(ワ)1735号 判決 1983年11月14日

厚木市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

石戸谷豊

大阪市<以下省略>

被告

株式会社日本貴金属

右代表者代表取締役

東京都中央区<以下省略>

被告

ニットー貿易株式会社

右代表者代表取締役

主文

一  被告らは原告に対し、各自金二二〇万円及び内金二〇〇万円に対する昭和五八年五月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

原告は、主文一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。

(一)  当事者

被告株式会社日本貴金属(以下被告日本貴金属という)は、昭和五四年二月一日に設立され、「香港純金塊取引」と称する金地金取引の受託を業務とする会社であり、被告ニットー貿易株式会社(以下被告ニットー貿易という)は、同五八年四月一九日に設立され、前記同様の業務をなしている会社である。

(二)  被害の発生

(1)  被告らの行っている「香港純金塊取引」とは、被告らにおいて顧客を勧誘し、その受託を受けると、香港金銀貿易場会員である宝発金号に発注し、宝発金号が香港金銀業貿易場において金の取引をなすというものである。取引単位は一ユニット(一〇〇テール。三・七四三キログラム)、価格は香港ドルル建てであり、いわゆる商品先物取引と言える取引である。

(2)  被告日本貴金属は、その詐欺的取引により全国的に多大な被害を発生させている悪徳業者として、本年一月一五日から施行された「海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律」に基づき、同年三月二三日には通産省により立入検査を受け、同年四月八日同省より業務停止三ケ月の処分を受けたものである。

(3)  被告日本貴金属は、その従業員に無差別の電話勧誘をさせているものであるが、本年三月二九日頃原告にも電話勧誘をなし、翌三〇日営業員を原告宅へ訪問させ、「金の価格が下がっているから今買えば必ず儲かります。」「郵便局に預けているよりずっと得だし安心です。」等と虚偽の説明をなし、その結果金等の先物取引に関する知識も経験もない原告をして、金地金購入の取引と誤信させ、従ってこの取引が投機取引でいわゆる先物取引にあたり、場合により多大な損失を被ることがあることを全く理解させず、よって翌三一日同横浜支店へ原告を誘い出して同人に二〇〇万円を支払わせ、「香港純金塊取引顧客承諾書」等の書類に署名押印させた。

(4)  右被告は、その営業員をしてさらにその後「取引」を多くするよう原告にしつこく勧誘させたため、原告は不安になり知人に相談をもちかけたところ、それが偶々本年四月九日で、新聞で右被告の営業停止処分の記事が報道されていたため、右知人からその事実を知らされ、原告は驚いて同日右被告横浜支店へ電話し「取引」は一切止めてほしい旨申し入れをなしたが拒絶された。そこで原告は、さらに同被告大阪本社などにも強く申し入れをなした結果、同月一一日ようやく右申し入れは同社横浜支店より受け入れられるところとなった。

(5)  その後同社より取引精算書が原告に送付されてきたが、それによると前記「取引」の結果二五三、八八四円の利益が生じているということであった。

しかし、同社は原告の支払要求を拒否した。営業停止中で支払う力がないというのがその理由であった。

(三)  責任原因(被告日本貴金属)

(1)  右被告の「取引」の違法性は、通産省の公表資料により明らかである。すなわち、同省は前記立入検査の結果、同被告の前記法律第四条・第五条二項・第六条・第七条・第八条第一項本文・第一〇条第一号、第二号、第五号の各違反行為が明らかであり、かつそれを引き続きなすおそれがあるとして、同第一一条第一項に基づき三ケ月間の業務停止処分としたのである。

また、同被告の右「取引」については、大阪地方裁判所昭和五八年三月一八日判決(昭和五七年(ワ)第四九八三号損害賠償請求事件)によっても違法性が認められているところである。

(2)  本件においても、原告に対し、あたかも金の現物取引であるかのごとく説明し、かつ利益を生ずることが確実であるとの勧誘をなし(前記法律第一〇条一号違反)、利益を保証し(同条二号違反)、クーリングオフ規定の脱法のため、原告を車で同社横浜支店へ誘い出し(同八条第一項違反)、決済申し入れをしてもこれに応ぜず、かつ返還すべき金員を返還しない(同一〇条五号違反)等の違反がある。このような「取引」が違法であり不法行為を構成することは明白である。

また、本件においては、業務停止が命ぜられた直後であったため、問題となるのを避けるべく、同被告も原告の取引清算の申し入れに応ぜざるを得ず、偶々原告に前記の「利益」が出ており、右被告としても原告に対し金二〇〇万円の返還義務のあることは認めるところである。

(3)  以上のとおりであるから、原告の右被告に対する金二〇〇万円の損害賠償請求権があることは民法七〇九条に照らし明白である。また、前記のとおり本件においては、予備的に、前記取引に基づく精算金請求権のうち、実際に原告が支払った右二〇〇万円の範囲の請求権が存することも明らかである。

(四)  責任原因(被告ニットー貿易)

(1)  被告日本貴金属は、前記のとおり本年四月八日業務停止処分を受けたが、同月一一日には全支店を廃止し(同月一五日付で登記手続をなし)、同月一三日にはセントラル交易株式会社及びケイオー貿易株式会社が、同月一九日には被告ニットー貿易が、それぞれ設立された。

しかし、右新会社三社は、いずれも従前被告日本貴金属の支店であったものを、前記業務停止処分を潜脱し、営業を継続するため形式的に別法人としたものに外ならない。

(2)  これを被告ニットー貿易について具体的に検討すると、同社は被告日本貴金属銀座支店に本店を置き、それまでの被告日本貴金属札幌支店、仙台支店、宇都宮支店、大宮支店、千葉支店、横浜支店をそれぞれの支店とし(但、支店登記はなされていない)、従前と全く同一の場所で同一の業務を行っているのである。

また、被告ニットー貿易の代表取締役であるBは、同年四月一一日付で辞任(登記は同年四月二一日付)するまで被告日本貴金属の取締役であった。これは被告ニットー貿易の取締役となっなCの場合も全く同様である。

この様に、被告日本貴金属横浜支店は、形式的には被告ニットー貿易横浜支店とされたものの、営業の場所・業務の内容・社員はもちろん電話番号も全く同じで、さらには看板なども従来通り被告日本貴金属の名称でそのまま使用し、社員も被告日本貴金属の社名を印刷したものをそのまま使用しているという有様である。

(3)  以上のとおりであるから、被告ニットー貿易は被告日本貴金属の営業停止処分を潜脱すべく設立された会社であることは明らかであって、法人格の濫用の形態としての法人格否認の法理が適用されるべき典型的なものに該当する。

従って、濫用法人たる被告ニットー貿易は背後の実体法人たる被告日本貴金属と連帯して責任を負うべきである。

(五)  まとめ

(1)  右のとおり、原告は前記損害の賠償を求めて原告代理人に訴訟手続を委任したが、その際その費用として少くとも右損害賠償請求権の一割相当額である二〇万円を支払う旨約した。

(2)  以上のとおりであるから、原告は被告らに対し、損害賠償として金二二〇万円及び弁護士費用を除いた金二〇〇万円に対する不法行為後であることが明らかな(予備的請求原因については履行期後であることが明らかな)昭和五八年五月一日から支払済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二 被告日本貴金属は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因事実を自白したものとみなす。

三 被告ニットー貿易は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因事実は否認すると述べた。

四 証拠は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

五 原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第一ないし二五号証及び同尋問の結果によれば、請求原因事実を認めることができる。

六 右事実によれば、原告の本訴請求は理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山口和男)

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