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横浜地方裁判所 昭和59年(ワ)1107号 判決 1988年5月26日

原告

植月昭彦

被告

橘川修

主文

被告は、原告に対し、二四九万五八五五円及びこれに対する昭和五八年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その三を原告、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

被告は、原告対し、一〇八〇万一五八七円及びこれに対する昭和五八年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言の申立

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年六月一九日午後二時四〇分頃

(二) 場所 神奈川県大和市上草柳五三三番地付近国道二四六号線上

(三) 加害車両 普通乗用自動車(相模五七ヤ九三七八)

右運転者 被告

(四) 被害車両 普通乗用自動車(横浜五七そ六五六三)

右運転者 原告

(五) 事故の態様 被害車両が国道二四六号線T字路に差しかかり、厚木方面に左折のため赤信号に従つて一時停止していたところ、加害車両が被害車両の後部に衝突し、被害車両はその前に停止していた訴外山口洋運転の普通乗用自動車の後部に、同車両はその前に停止していた訴外楠山克己運転の普通乗用自動車の後部に衝突した。

2  責任原因

被告は、前方を注視し、適格なハンドル操作等により自車の進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つて加害車両を運行した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条により原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷内容、治療経過及び後遺症

原告は、本件事故により口唇切創、下腿打撲、頸部捻挫、右膝関節血腫の傷害を受けて通院治療を受け、昭和六〇年一〇月二四日症状が固定したが、奥歯二本が欠損し、右膝関節に頑固な神経症状が残つた。以上の後遺症は自賠責後遺障害別等級表一二級の後遺障害に該当する。

4  損害

(一) 看護料 七万二九〇〇円

原告は、本件事故により、事故後二七日間歩行することができなかつた。このため昼間は第三者が、夜間は原告の妻が付添つた。原告の妻が付添つた費用としては一日当り二七〇〇円、合計七万二九〇〇円が相当である。

(二) 通院交通費 八七九〇円

原告は、通院のためタクシーを利用し、その費用として合計八七九〇円を支出した。

(三) 逸失利益 五八九万九九九二円

原告は、前記の後遺症により一四パーセントの労働力を喪失した。

しかるところ、原告の事故時の年齢は満五二歳で、就労可能年数は一五年であり、年収は四〇〇万円であつたから、ライプニツツ方式により中間利息を控除すると、その現価は次のとおり五八九万九九九二円になる。

406万円×0.14×10,380=589万9992円

(四) 慰藉料 三〇〇万円

原告の通院期間、後遺症の程度を考慮すると、原告が本件事故により受けた精神的苦痛を慰藉するには三〇〇万円をもつてするのが相当である。

(五) 車両損害 四〇万円

本件事故により被害車両は大破し、使用不能になつた。被害車両は原告が七八万五七五〇円で購入したもので、事故時の価格は少なくとも四〇万円である。

(六) 釣り竿等の損害 一七万九九〇五円

本件事故により、被害車両のトランク内にあつた鮎竿カーボングラス等が破損し、使用不能になつた。右鮎竿カーボングラス等の価格は一七万六〇〇〇円を下らない。また、本件事故により入漁券が使用できなくなつたものであるところ、原告は、右入漁券の残存価値は三九〇五円で、原告は右相当額の損害を受けた。

(七) 自動車賃借料 一二万円

原告は、本件事故により被害車両を使用できなくなつたため、代車を一日三〇〇〇円の賃料で四〇日間借受けた。

(八) 弁護士費用 一一二万円

原告は、本訴の提起と追行を原告訴訟代理人に委任し、手数料五六万円、成功報酬五六万円の支払を約した。

5  結論

よつて、原告は、被告に対し、一〇八〇万一五八七円及びこれに対する事故発生の日の翌日から支払済みまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1項の事実は認める。

2  2項の事実は認める。

3  3項の事実中、原告の受傷内容、治療経過は知らない。後遺症については争う。

4(一)  4項(一)は争う。

(二)  同(二)は争う。

(三)  同(三)は争う。原告には後遺症はない。

原告には、右膝関節について疼痛の主訴はあるものの、他覚的検査では腫脹や圧痛もなく、レントゲン検査でも著変はない。歯牙損傷についても、事故直後の診断が口唇切創であること、本件事故からアマルガム充填の治療を受けていたこと、その後の治療も慢性化腫性根尖歯囲組織炎であつたことからすると、本件事故との因果関係は考えられない。

(四)  同(四)は争う。

(五)  同(五)は争う。

被害車両は昭和五一年二月六日に登録された車両で、事故時までに七年間使用し、残存価値は購入時の価格の一割である。

(六)  同(六)は知らない。

(七)  同(七)は争う。

自動車買替えに要する相当期間とすべきである。

(八)  同(八)は知らない。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1項、2項の各事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の受傷内容、治療経過、後遺症につき検討する。

成立に争いのない甲第四号証の一ないし三、第五、第七、第六二、第六四、第六五、第八〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第六一号証によると、原告は、昭和五八年六月一九日、大和市立病院で診察を受け、その後同年九月一六日まで同病院に通院し(実日数一五日)、治療を受けたが、大和市立病院での診断は口唇切創、下腿打撲、右膝関節血腫、頸部捻挫で、六月二四日から七月一五日まで右膝をギブスで固定されたこと、昭和五八年九月一〇日から昭和五九年八月三〇日まで須藤接骨院に通院し(実日数一七〇日)、右膝関節を中心として低周波温罨法、空気圧を利用したマツサージ、徒手矯正運動の治療を受けたこと、昭和五九年八月二八日から同年九月二八日まで葉梨整形外科に通院し(実日数三日)、右膝関節炎の診断で治療を受けたこと、昭和六〇年二月五日から同年七月一二日まで須藤接骨院に通院し(実日数二六日)、前回と同様の治療を受けたこと、昭和六〇年九月二八日から同年一〇月二四日まで今井整形外科に通院し、治療を受けたが、同病院は、昭和六〇年一〇月二四日、原告の症状が固定したとして治療を打ち切つたこと、原告には、自覚症状として雨天の日や階段の昇降時に右膝関節痛が出現すること、正座が十分できないこと等があるが、他覚症状としては右膝関節に腫脹、圧痛はなく、レントゲン線検査でも著変はなかつたこと、一方原告は、本件事故で上顎の第二、第三大臼歯の歯冠を破折し、昭和五九年一月ころからおおば歯科医院に通院して治療を受けたが、慢性化膿性根尖歯周組織炎に罹患し、昭和五九年五月二九日から昭和六〇年一月二六日まで神奈川歯大病院に通院して治療を受け、鋳造冠処置により治療を終えたこと、以上の事実が認められる。

しかるところ、以上に認定の事実にもとづき原告が本件事故により受けた後遺症の程度を検討すると、原告は右膝関節部に若干の神経症状を残すが、右症状は継続的なものではなく、原告の症状は労働能力の喪失を伴う自賠責後遺障害別等級表一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)にはもとより、一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)にも該当しないものと判断される。

三  よつて、原告の受けた損害について検討する。

1  看護料

原告は、原告がギブスを装着していた間原告の妻が原告に付き添つたとして、その看護料を請求し、前示のとおり、原告は昭和五八年六月二四日から同年七月一五日まで右膝関節部をギブスで固定していたことが認められる。しかし、証人植月京子の証言によると、原告は右期間訴外藤本に日中の付き添いを頼み、一日六四〇〇円の割合の金員を支払い、右費用は既に被告の保険から支出されていることが認められるのであつて、他面、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告は右期間中も病院に通院し、事情聴取を受けるため警察署に出頭していたことが認められ、ギブスをしていても全く動けなかつた訳でもなかつたのであるから、看護費としては前記支出済みの看護費をもつて相当額と認められ、右以外の看護費は本件事故と相当因果関係にない損害と判断される。

2  交通費

原告は、タクシー代として八七九〇円を支出した旨主張し、右金員を本件事故と因果関係のある損害として請求するのであるが、右事実を認めるに足る証拠はない。

3  逸失利益

原告は、本件事故により逸失利益が生じた旨主張する。

しかし、前示のとおり、原告は本件事故により自賠責後遺障害別等級表に該当する後遺症はないので、原告の主張は認められない。

4  慰藉料

原告は本件事故により前示のとおりの傷害を受け、通院をしたものであり、さらに自賠責後遺障害別等級表に該当する後遺症はなかつたが、なお右膝に障害が残つたもので、右事実に本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、原告の精神的苦痛を慰藉するには二〇〇万円をもつてするのが相当である。

5  車両損害

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一六、第一七号証、同尋問結果によると、原告は、被害車両を昭和五一年二月六日新車で七八万五七五〇円で購入したこと、本件事故まで妻の通学や日曜日の畑作業に使用していたが、なお相当期間使用可能であつたことが認められる。

ところで、被害車両は自家用車であつて〔原価償却資産の耐用年数に関する法律(昭和四〇年三月三一日大蔵省令一五号)〕によると耐用年数六年、償却率年〇・三一九と定められているので、定率法によると被害車両の評価額は五万三三七〇円と算定されるのであるが、その使用状況から見て少なくともなお一五パーセント一一万七八六二円の価値を有していたものと判断され、原告は本件事故により右金額の車両損害を受けたものと判断される。

6  釣り竿等の損害

原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一九号証の一、二、第二〇号証の一ないし一二、第七四号証、同尋問結果によると、本件事故により被害車両のトランク内にあつた釣り竿等が破損したこと、右釣り竿等は事故前一年内に購入したもので、その定価は約一七万六〇〇〇円であり、原告は定価の約八〇パーセントで購入したこと、原告は、相模川漁業協同組合連合会発行の昭和五八年四月一日から昭和五九年三月三一日までの漁業承認証を所持していたが、右取得に四五〇〇円を要したこと、本件事故による受傷により釣りに行けなくなり右承認証が無駄になつたことが認められる。

右事実によると、釣り竿等はその使用期間から見て購入価格の六〇パーセント八万四四八〇円の価値を有していたもの、漁業承認証は事故日までの使用日数分を日割りで控除すると三五一三円の価値を有していたものと判断され、原告は本件事故により右金額の損害を受けたものと判断される。

7  自動車賃借料

証人植月京子の証言によると、本件事故により被害車両が使用できなくなり訴外井上恒介から乗用車を一日あたり三〇〇〇円で延べ四〇日間借りたことが認められるが、右賃借料は自動車を買い替えるために要する相当期間である二〇日分六万円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

8  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告が本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用を負担したことが認められるが、本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、右弁護士費用は二三万円をもつて相当と認める。

四  以上によると、本件事故により原告の受けた損害は二四九万五八五五円と認められるから、原告の本訴請求は右金員及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五八年六月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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