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横浜地方裁判所 昭和59年(ワ)1590号 判決 1988年3月30日

原告

平佳也

原告兼原告平佳也法定代理人親権者父

平幸夫

原告兼同法定代理人親権者母

平豊子

右原告ら三名訴訟代理人弁護士

遠矢登

被告

北田昭和

右訴訟代理人弁護士

平沼高明

関沢潤

堀井敬一

野邊寛太郎

右平沼高明訴訟復代理人弁護士

西内岳

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告平佳也に対し、金六九一一万八九三六円及び内金六二八三万五三九七円に対する昭和四六年四月一八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告平幸夫、同平豊子に対し、各金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する昭和四六年四月一八日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 被告は、肩書地において北田クリニック(本件当時の名称は北田産婦人科、以下「被告医院」という。)を開業している産婦人科医師である。

(二) 原告平佳也(以下「原告佳也」という。)は、昭和四六年四月一八日原告平幸夫(以下「原告幸夫」という。)と原告平豊子(以下「原告豊子」という。)との間の長男(第二子)として出生した。

2  原告佳也の出産の経過と障害の発生

(一) 原告豊子は、第二子を懐胎したため、昭和四五年九月一一日被告の診察を受けたところ被告は、出産予定日を昭和四六年四月二三日と診断した。原告豊子は、その後、通常の経過観察を受け、母胎とも正常な状態で臨月を迎えた。

(二) ところが、出産予定日のほぼ一週間前である昭和四六年四月一五日朝原告豊子は自宅で破水を起こしたので、原告幸夫とともに被告医院に急行し、被告に対し、多量の破水が起こって羊水が間断なく流出している旨を訴えた。

(三) これに対し、被告は、何の処置もしないまま原告豊子を一晩分娩室に泊め、翌一六日朝「子供が下がると羊水流出は自然に止まる、自然分娩が一番いいから、陣痛が来たらまたいらっしゃい」と指示説明して、間断なく羊水流出の続いている原告豊子を自宅に帰らせてしまった。

(四) 原告豊子は、指示どおり帰宅して安静を保ったが、多量の羊水流出は変わることなく続き、局部の脱脂綿をひんぱんに取り換えなければならない状態であった。しかし、陣痛はなかなか起こらなかった。

(五) 翌一七日の夕刻になって、ようやく陣痛が起きたので、原告豊子は、原告幸夫らとともに被告医院に行き、そのまま入院した。その際、被告は、原告豊子を簡単に診察しただけで何の処置をすることもなく、被告医院の助産婦訴外佐藤こう(以下「佐藤」という。)が、時折寝ている原告豊子を見回りにきた程度であった。

(六) 翌一八日午前六時三五分、原告豊子は、被告の立ち会いのないまま原告佳也を出産したが、同原告は仮死状態で生まれ、助産婦佐藤が同原告の身体をたたくなどして蘇生を試みたが、うまくいかなかった。そこで、右佐藤が急いで就寝中の被告を起こしに行き、事情を知った被告が医院内の物置のような場所から蘇生器を持ち出し、佐藤とともに蘇生を試みて、その結果、ようやく原告佳也がか細い産声をあげた。

(七) その後原告佳也は保育器に入れられ、同年四月二五日、原告豊子とともに被告医院を退院した。

(八) ところが、原告佳也は、成長するにつれ、精神能力及び運動能力の発達の遅れが次第に目立つようになり、一三歳現在でも話せるのは「アーアー、ウーウー」といった赤ちゃん言葉のみであり、運動能力も極めて劣悪で、常時介護を要する最重度の精神薄弱(障害の程度A1)とてんかん症状を有する状態にある。

3  被告の過失

(一) 前期破水の後速やかに分娩させる処置をとらなかった過失

妊婦に前期破水が生じ、破水後二四時間以内に分娩しなかった場合(遷延破水)、羊水漏出に伴う胎盤付着面の縮小による胎盤血行障害や臍帯の圧迫による胎児血行障害のため、胎児仮死ないし新生児仮死の発生する危険が大きく、その結果として新生児の死亡や脳障害などの重大な事態を招くおそれがある。遷延破水となった場合、殊に羊水漏出が継続していて陣痛ないし分娩が開始しない場合には、医師には、直ちに漏出防止及び陣痛促進を兼ねてメトロイリーゼ(子宮頸管拡張)を実施し、あるいはオキシトシン、プロスタグランディンにより陣痛促進をし、必要な場合は帝王切開手術を施行するなど、可及的速やかな出産の処置をとる義務がある。

しかるに、被告は、原告豊子が前記四月一五日朝破水を訴えて来院してから同月一八日午前六時三五分に原告佳也を分娩するまでの約七二時間もの間を無為に徒過させ、原告豊子に対し何ら有効な処置をとらなかった。

(二) 新生児仮死に対する迅速かつ適切な事前、事後の処置を怠った過失

前期破水が生じ、約七二時間も経過した後に分娩する場合には、新生児仮死、子宮内感染等の障害の生ずるおそれが多分にあるから、医師としては、これを予見し、自ら分娩に立ち会うとともに、緊急事態に備えて蘇生器等の準備を万全にする職務上の注意義務があるのに、被告は、これを怠り、原告佳也の分娩時には、助産婦佐藤のみを立ち会わせて自己は寝室で就寝していたのであり、右佐藤から急を告げられるやようやく起床して、それから物置に蘇生器を取りに行くという不手際を演じ、その結果、蘇生術の実施が著しく遅延して、原告佳也は徒らに長時間酸素欠乏の状態にさらされた。

(三) 以上の被告の二重の過失により、分娩前の胎盤血行障害又は臍帯圧迫による酸素欠乏状態で、原告佳也に胎児仮死ないし新生児仮死を招来し、また、蘇生の遷延による長時間の酸素欠乏状態が加わって、原告佳也に脳障害を招来し、精神薄弱を後遺させたものである。

4  被告の責任

(一) 以上のとおり、原告佳也の前記障害は、被告がその過失により発生させたものであるから、被告は、不法行為者として、原告らがこれにより被った損害を賠償する義務がある。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、原告豊子は、前述のとおり昭和四五年九月一一日被告の診察を受けた際、被告との間で、被告から適切かつ完全な診療を受けることを内容とする診療契約を締結した。

しかるに、被告は、右の義務に違背して、原告豊子に対し、前述のとおり不完全な診療行為をしたため、原告佳也に前記障害を発生させた。したがって、被告は、債務不履行により、原告豊子及び同原告に対する右診療契約の履行について特別の関係を有する原告佳也、同幸夫がこれにより被った損害を賠償する義務がある。

5  損害

(一) 原告佳也の損害

(1) 慰謝料 金二〇〇〇万円

原告佳也は、最重度の精神薄弱者として健康な人間が享受できるはずの喜びや悲しみを一生味わうことができず、甚大な精神的苦痛を被ったが、右精神的苦痛に対する慰謝料は金二〇〇〇万円が相当である。

(2) 逸失利益 金二八六四万九九六四円

原告佳也は、労働能力を一〇〇パーセント喪失し、終生回復は不能である。そこで、昭和五七年度賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、年齢計の男子労働者の年間平均給与額を基準として、ライプニッツ式計算(係数7.549)により、原告佳也の得べかりし利益の現価を計算すると、次のとおりとなる。

3,795,200円×7.549=28,649,964円

(3) 生涯の介護料

金一四一八万五四三三円

原告佳也は、生涯にわたり第三者の介護を必要とするので、その介護料を一日二〇〇〇円とし、生存可能年数を七三歳までとして、ライプニッツ式計算(係数19.4321)により、その現価を計算すると、次のとおりとなる。

2,000円×365日×19.4321=14,185,433円

(4) 弁護士費用

金六二八万三五三九円

原告佳也は、その訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任し、弁護士費用として金六二八万三五三九円を要する。

(二) 原告幸夫及び同豊子の損害

(1) 慰謝料 各金五〇〇万円

原告幸夫及び同豊子は、精神薄弱という悲劇的な原告佳也をもち、その父母として、甚大な精神的苦痛を被ったが、右精神的苦痛に対する慰謝料は各金五〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用 各金五〇万円

原告幸夫及び同豊子は、その訴訟代理人に本訴の提起及び追行を委任し、弁護士費用として各金五〇万円を要する。

6  よって、主位的に不法行為、予備的に債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告に対し、原告佳也は右損害金合計金六九一一万八九三六円及び右5(一)(1)ないし(3)の損害金合計金六二八三万五三九七円に対する本件事故発生の日である昭和四六年四月一八日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、原告幸夫及び同豊子は、右各損害金合計金五五〇万円及び右5(二)(1)の各損害金五〇万円に対する右昭和四六年四月一八日から支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

<以下、省略>

理由

一請求原因1(一)の事実は、当事者間に争いがない。

二成立に争いのない甲第一号証、原告豊子本人尋問の結果を総合すれば、請求原因1(二)の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三原告佳也の出産の経過等について検討する。

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められる。

1  原告豊子は、昭和一二年一〇月一七日出生し、同三二年九月六日原告幸夫と婚姻の届出をし、同三五年三月六日長女直美を出産し、第二子を懐胎したため、昭和四五年九月一一日被告医院を訪れ、診察を受けたところ、被告から出産予定日を昭和四六年四月二三日と診断され、その後は特段の異常もなく臨月を迎えた。

2  原告豊子は、昭和四六年四月一五日午前六時ごろ、少量の破水をしていることに気付き、被告医院に急行した。

3  被告は、同日被告医院(その当時の規模は、医師一人(被告)、助産婦二人、看護婦三人、入院室七室であった。)において、原告豊子を診察し、前期破水があると間もなく陣痛が始まることが多いので、同原告を一晩入院させて経過をみた。被告は、翌一六日朝、原告豊子に対し、「子供が下がると羊水流出は自然に止まる。自然分娩が一番いいから、陣痛が来たら、また来院しなさい。」旨の指示説明をして同原告を帰宅させた。被告は、原告豊子が入院していた間、同原告に対し、陣痛促進の処置はとらなかった。

4  原告豊子は、帰宅して安静を保っていたが、局部にあてた脱脂綿(縦一五センチメートル、横二〇センチメートル、厚さ二センチメートル)を一日に七、八回取り替えなければならない程度に羊水の流出が続いていた。原告豊子は、翌一七日夕方、陣痛が始まったので、再び被告医院に入院した。なお、陣痛が始まるまでには羊水の流出は止まっていた。

5  被告は、原告豊子の入院後、同原告を分娩室に寝かせ、特段の処置をとることなく、当直の助産婦佐藤に引き継いで、自らは異常事態が生じた場合に直ちに立ち会えるように被告医院二階の階段脇にある寝室で就寝した。深夜、佐藤は、時折見回って原告豊子の経過を観察していた。

6  原告豊子は、翌一八日午前六時三五分、佐藤の分娩介助のもと、原告佳也を出産した。被告は、その際、立ち会わなかった。

原告佳也は、仮死状態で出生したので、佐藤が吸引カテーテルを使用して喉や鼻に詰まった物を除去したり、同原告の身体をたたいたりしたが、同原告は産声をあげなかった。被告は、佐藤から知らせを受けて、直ちに一階当直室内の保育器のそばに備え付けてあった蘇生器を持ちだし、処置室の暖かい場所で原告佳也に対し、右蘇生器をもって吸引ないし人工呼吸を行ったところ、やがて同原告は産声をあげた。

ところで、新生児仮死は、出生時における新生児の呼吸の不全を主徴とする症候群をいうところ、仮死の程度を表現するものとして、アプガー・スコアがあり、スコアは一〇点法により、四点から一点が重症仮死、七点から五点が軽症仮死、一〇点から八点が正常とされている。そして、原告佳也は、右のとおり出産後間もなくして産声をあげ、呼吸が正常に行われたことを表し、そのアプガー・スコアが七点から五点の軽症仮死であった。すなわち、被告医院においては、新生児が仮死状態で生まれた場合はまず保温を行い、その後の蘇生術としては、前期アプガー・スコア七点から五点の軽症仮死の場合は、(1)児の背中や足の裏をたたくこと、(2)蘇生器をもちいての吸引、(3)人工呼吸(蘇生器の酸素マスクで急激に肺に酸素を送り込むこと)、(4)右人工呼吸でも児の状態が芳しくない場合には酸素吸入(保育器に児を入れて、蘇生器のボンベから酸素を流し込むこと)等を行い、アプガー・スコア四点以下の重症仮死の場合には、近所に住む訴外前田幸三医師(小児科、産婦人科医師)の応援を受けて一緒に蘇生の処置を試みるか、他の大きな病院に転送するなどしていた。しかるに、本件においては、原告佳也は、酸素吸入に至らない蘇生術をもって蘇生しており、また、被告は、本件分娩に際し、右前田医師等の応援を求めたことがなく、原告佳也を他の病院に転送したこともなかった。なお、本件においては、被告が作成した診療録、分娩控等はすでに存在しないが、原告豊子の母子健康手帳(前掲甲第二号証)には、原告佳也が仮死産であって蘇生術を施されたと記載されているが、酸素吸入を受けた旨の記載はない。

また、原告佳也については、胎児仮死の臨床症状とされている児心音の低下、羊水混濁等は認められなかった。

7  出生後、原告佳也は、保育器に入れられたが、母子ともに異常がなかったので、通常どおり出産後一週間経過した同年四月二五日、原告豊子とともに退院した。

8  その後、原告佳也は、生後二、三ヶ月あたりから、てんかんの症状がでるようになり、精神及び運動能力に後れが現れるようになった。昭和六一年一月二九日現在において同原告は、数語の赤ちゃん言葉を話す能力しかない最重度の精神薄弱児であり、また、てんかんの症状は止まってはいるものの、なお国立療養所静岡東病院(てんかんセンター)に通院している。

以上の事実が認められ、証人栗谷ナルの証言、原告豊子本人尋問の結果中右認定に反する部分は、前掲各証拠に対比して、にわかに信用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、原告佳也には胎児仮死は発生せず、新生児仮死は発生したが、その仮死の程度は、軽症仮死であったと認定するのが相当である。

もっとも、前掲甲第一〇号証によれば、原告佳也は、出生の日である昭和四六年四月一八日から退院の日である同年四月二五日までの間、保育器に入っていたこがあることが認められるが、他方、被告本人尋問の結果によれば、被告医院においては、寒い季節には、特段異常のない新生児をも保育器に入れることがあったことが認められ、また、証人栗谷ナルの証言によれば、原告佳也は、出生の日の翌日である同年四月一九日原告豊子のそばに寝かされていたことが認められるから、原告佳也が右のように保育器に入っていたからといって、同原告が重症仮死であったと認めることはできず、前段認定を左右するに足りない。

四被告の過失の有無について判断する。

1  原告らは、被告において原告豊子が前期破水をした後に速やかに分娩させる処置をとらなかったために、胎盤血行障害または臍帯圧迫による酸素欠乏状態が生じて原告佳也の胎児仮死ないし新生児仮死を招来し、また、破水後長時間経過したために、新生児仮死や子宮内感染等の危険性が多分に存在していたから、緊急事態に備えて自ら分娩に立ち会い、蘇生器等の準備をあらかじめ整えておくべきであったのに、これを怠り、そのために蘇生術の実施が著しく遅れて、同原告が長時間酸素欠乏の状態にさらされ、被告の右のような二重の過失を原因として、原告佳也が精神薄弱となった旨主張するので、検討する。

2  <証拠>によれば、次の事実が認められる。

前期破水とは、分娩開始の以前に破水を起こすものをいい、卵膜の脆弱や腹圧の上昇、外圧などが原因となる。羊水が持続的に漏出し、妊娠末期に前期破水が起こると、多くは六時間ないし一二時間以内に陣痛が開始するが、まれには数日を経過することもある。羊水の漏出が起こると、細菌の上昇感染の危険が増し、臍帯脱出等も起こりやすい。前期破水後二四時間を経過しても分娩が開始しない状態を遷延破水といい、羊水感染、臍帯圧迫等による胎児障害の可能性が高い。前期破水により臍帯又は四肢が脱出しやすく、羊水漏出により子宮は縮小して子宮壁が児体に密接するため、臍帯又は胎盤を圧迫して胎盤血行、胎児血行を障害して胎児血中の酸素不足(これを「低酸素血症」という。)を来たし、胎児が仮死に陥りやすい。また、右のような臍帯脱出や低酸素血症(以下「低酸素血症等」という。)によって仮死に陥った胎児は、呼吸中枢が麻痺しているので新生児仮死の状態で娩出され、娩出直後に死亡するか幸い助かっても将来脳の発育障害などを起こす例が多い。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3 前記三に認定した事実によれば、原告豊子は、昭和四六年四月一四日午前六時ごろ破水に気付き、その後羊水の流出が続き、同月一七日夕方陣痛が開始して分娩が開始したから、結局、破水後約六〇時間を経て分娩が開始したものであり、このため、原告佳也が低酸素血症等によって何らの影響を受けたものと考えられる余地がないではない。

しかし、右認定事実によれば、原告佳也には胎児仮死は発生しなかったから、前期破水により胎児仮死に陥って脳障害を残したものとは認めることができない。

また、成立に争いのない甲第八号証によれば、新生児仮死のうち、重症仮死で、かつ、蘇生した新生児の二ないし三パーセントに相当する児のみがその後に脳障害を残していることが認められるところ、前記三に認定した事実によれば、原告佳也には新生児仮死が発生したが、その仮死の程度は軽症仮死であり、また、同原告が蘇生の遷延により長時間の酸素欠乏状態にあったとはいえないから、原告佳也は、右仮死に陥ったために、直ちに脳障害を残したものとは認めることができない。

他に、原告らの前記主張事実を認めるに足りる証拠はない。

4  以上の次第で、原告佳也は、その仮死により精神薄弱となったとはいえないというべきであるから、原告らの前記主張は採用することができない。

五結論

以上の次第であるから、被告には原告佳也の出産について原告ら主張のような過失があったとはいえないから、被告は原告らに対し、不法行為又は債務不履行の責任を負うべきいわれはないものというべきである。

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は、いずれも失当として棄却すべきであるから、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤榮一 裁判官田中優 裁判官遠藤真澄)

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