横浜地方裁判所 昭和60年(わ)2365号 判決
本籍及び住居
神奈川県藤沢市湘南台六丁目二八番地の一
農業
塚越治義
昭和三年二月一九日生
本籍及び住居
神奈川県藤沢市湘南台六丁目二八番地の一〇
農業
矢部一夫
昭和一一年三月二九日生
右両名に対する相続税法違反、所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官寺西賢二出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。
主文
一 被告人塚越治義を懲役一年二月及び罰金二七〇〇万円に処する。
被告人塚越治義に対し、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人塚越治義を労役場に留置する。
訴訟費用中、証人磯崎一良、同遠藤守に支給した分はその各二分の一、証人小林彰に支給した分はその全部と被告人塚越治義の負担とする。
二 被告人矢部一夫を懲役八月及び罰金二五〇〇万円に処する。
被告人矢部一夫に対し、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人矢部一夫を労役場に留置する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人塚越治義は、小島葵、庄司孝英、俵利美、新開一史と共謀のうえ、被告人塚越治義の実父塚越正治の死亡により同人の財産を相続した被告人塚越治義の相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により、また、被告人塚越治義が昭和五八年中に所有地を売却したことによる被告人塚越治義の同年分の長期譲渡所得税について、架空保証債務を計上する方法により、それぞれ右相続税及び所得税を免れようと企て、
一 昭和五八年五月二〇日、神奈川県藤沢市朝日町一番地の一一所在の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被相続人塚越正治の死亡により同人の財産を相続した被告人塚越治義の正規の相続税課税価格は四億一九二〇万九〇〇〇円であったのにかかわらず、被相続人塚越正治には、右庄司孝英に対する四億円の保証債務があり、これを被告人塚越治義において負担することが確定したので、取得財産の価額からこれを控除すると被告人塚越治義の相続税課税価格は四二三九万八〇〇〇円で、遺産にかかる基礎控除額を控除すると納付すべき相続税はない旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人塚越治義の正規の相続税額一億七二二万二九〇〇円の全額を免れ、
二 被告人塚越治義に架空の手形保証債務を計上するとともに、被告人塚越治義において、昭和五八年中に右債務を履行するため被告人塚越治義所有の土地を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部を行使することができなくなったかのように仮装するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和五八年分の被告人塚越治義の実際総所得金額が四七四万七〇六七円、分離課税による長期譲渡所得金額が八三八六万一三三五円であったのにかかわらず、昭和五九年三月一三日、前記の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被告人塚越治義の総所得金額が四七四万七〇六七円で、これに対する所得税額は所得控除をして算出すると三九万五四〇〇円であり、分離課税による長期譲渡所得金額は、所得税法六四条二項の規定によって零となり、これに対する所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人塚越治義の昭和五八年分の正規の所得税額二一五万二一〇〇円と右申告税額との差額二一一四万六七〇〇円を免れ、
第二 被告人両名は、小島葵、庄司孝英、俵利美、新開一史と共謀のうえ、被告人矢部一夫の実父矢部勝由の死亡によりの同人の財産を相続した被告人矢部一夫の相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により、また、被告人矢部一夫が昭和五八年中に所有地を売却したことによる被告人矢部一夫の同年分の長期譲渡所得税について、架空保証債務を計上する方法により、それぞれ右相続税及び所得税を免れようと企て、
一 昭和五八年九月二二日、同市朝日町一番地の一一所在の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被相続人矢部勝由の死亡により同人の財産を相続した被告人全員分の正規の相続税課税価格は三億二五四五万五〇〇〇円で、このうち被告人矢部一夫の正規の課税価格は二億三七五七万四〇〇〇であったのにかかわらず、被相続人矢部勝由には、右庄司孝英に対する二億九八〇〇万円の保証債務があり、そのうち二億八八〇二万九一五一円を被告人矢部一夫において負担することが確定したので、取得財産の価額からこれを控除すると被告人矢部一夫の相続税課税価格は零で、納付すべき相続税はない旨の虚偽の相続税申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人矢部一夫の正規の相続税額六五七七万六三〇〇円の全額を免れ、
二 被告人矢部一夫に架空の連帯保証債務を計上するとともに、被告人矢部一夫において、昭和五八年中に右債務を履行するため被告人矢部一夫所有の土地を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部を行使することができなくなったかのように仮装するなどの不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和五八年分の被告人矢部一夫の実際総所得金額が四八二万四二五九円、分離課税による長期譲渡所得金額が二億一六四五万一八〇〇円であったのにかかわらず、昭和五九年三月一三日、前記の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被告人矢部一夫の総所得金額が六八二万五四八四円で、これに対する所得税額は所得控除をして算出すると八九万六四〇〇円であり、分離課税による長期譲渡所得金額は、所得税法六四条二項の規定によって零となり、これに対する所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人矢部一夫の昭和五八年分の正規の所得税額六八六〇万二八〇〇円と右申告税額との差額六七七〇万六四〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 公判調書(第一回、第二八回、第三〇回)中の被告人塚越治義の供述部分
一 公判調書(第一回)中の分離前の共同被告人小島葵、庄司孝英、俵利美、新開一史の各供述部分
一 公判調書中の分離前の共同被告人小島葵(第二四回)、庄司孝英(第二二回、第二四回)、俵利美(第二四回)の各供述部分
一 公判調査中の証人新開一史の供述部分
一 小島葵(昭和六〇年八月一五日付八枚綴りのもの、同月一九日付)、庄司孝英(同年八月一九日付)、俵利美(同年八月一八日付((被告人塚越治義の不同意部分を除く。)))、新開一史(同年八月九日付((被告人両名の不同意部分を除く。)))の検察官に対する各供述調書
一 加藤孝の検察官に対する供述調書
判示第一の一、二の各事実について
一 被告人塚越治義(同年八月八日付、同月九日付、同月一五日付二通)の検察官に対する各供述調書
一俵利美(同年八月一一日付二七枚綴りのもの)の検察官に対する供述調書
一 公判調書中の証人遠藤守の供述部分
一 遠藤守の検察官に対する供述調書(不同意部分を除く。)
一 大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者塚越治義のもの)
判示第一の一の事実について
一 被告人塚越治義(同年八月一〇日付)の検察官に対する供述調書
一 小島葵(同年八月九日付((不同意部分を除く。))、同月一三日付六枚綴りのもの)、庄司孝英(同年八月九日付((不同意部分を除く。))、同月一〇日付((不同意部分を除く。)))、俵利美(同年八月九日付((不同意部分を除く。))、同月一〇日付、同月一一日付二〇枚綴りのもの((不同意部分を除く。)))、新開一史(同年八月一〇日付((不同意部分を除く。))、同月一一日付一七枚綴りのもの((不同意部分を除く。))、同月一一日付四一枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 公判調査中証人磯崎一良の供述部分
一 塚越正義、中西光枝、塚越幸平、浅場町子、高橋百合子、塚越通、宮崎礼子、矢部マツ子(同年八月一四日付)、塚越ミエ子(不同意部分を除く。)、塚越伸子、磯崎一良(不同意部分を除く。)、松原義貫、矢部一夫(同年八月一三日付一四枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成(塚越治義の相続税に関するもの)の保証債務調査書(不同意部分を除く。)、土地家屋調査書、代償分割調査書、借入金調査書、預貯金調査書、出資金調査書、公租公課調査書
一 押収してある相続税の申告書一袋(昭和六〇年押第七二六号の二)
判示第一の二の事実について
一 被告人塚越治義(同年八月一三日付、同月一七日付四枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 小島葵(同年八月一三日付一九枚綴りのもの((不同意部分を除く。)))、庄司孝英(同年八月一二日付((不同意部分を除く。))、同月一七日付((不同意部分を除く。)))、俵利美(同年八月一三日付)、新開一史(同年八月一二日付二五枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成(塚越治義の所得税に関するもの)の求償権の行使不能額調査書(不同意部分を除く。)、特別控除額調査書、不動産収入調査書、租税公課調査書、減価償却費調査書、申告経費調査書(不同意部分を除く。)
一 押収してある五八年分の所得税の確定申告書一袋(同号の一)
判示第二の一、二の各事実について
一 公判調書(第一回、第二七回、第二八回)中の被告人矢部一夫の供述部分
一 被告人矢部一夫の当公判廷における供述(第三七回、第四六回)
一 被告人塚越治義(同年八月一七日付五枚綴りのもの)、被告人矢部一夫(同年八月一〇日付、同月一五日付二通、同月一九日付二通)の検察官に対する各供述調書
一 矢部マツ子(同年八月一七日付)の検察官に対する供述調書
一大蔵事務官作成の領置てん末書(犯則嫌疑者矢部一夫のもの)
判示第二の一の事実について
一 被告人塚越治義(同年八月一二日付((被告人矢部一夫の不同意部分を除く。)))、被告人矢部一夫(同年八月一二日付)の検察官に対する各供述調書
一 小島葵(同年八月一一日付((被告人塚越治義の不同意部分を除く。))、同月一三日付六枚綴りのもの)、庄司孝英(同年八月一一日付((被告人塚越治義の不同意部分を除く。)))、俵利美(同年八月一二日付((被告人塚越治義の不同意部分を除く。)))、新開一史(同年八月一二日付五九枚綴りのもの((被告人両名の不同意部分を除く。)))の検察官に対する各供述調書
一 松原義貫、矢部慶三(二通)、矢地トキ子、西山セツ子、矢部光男、矢部勤、矢部恒夫の検察官に対する各供述調査
一 大蔵事務官作成(矢部一夫の相続税に関するもの)の保証債務調査書(被告人矢部一夫の不同意部分を除く。)、土地家屋調査書、公租公課調査書、貸家預り金調査書、現金調査書、預貯金調査書、長期前払保険料調査書
一 押収してある相続税の申告書一袋(同号の四)
判示第二の二の事実について
一 被告人塚越治義(同年八月一三日付、同月一七日付四枚綴りのもの)、被告人矢部一夫(同年八月一三日付七八枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 小島葵(同年八月一三日付一九枚綴りのもの((被告人塚越治義の不同意部分を除く。)))、庄司孝英(同年八月一二日付、同月一七日付((いずれも被告人塚越治義の不同意部分を除く。)))、俵利美(同年八月一三日付)、新開一史(同年八月一二日付二五枚綴りのもの)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成(矢部一夫の所得税に関するもの)の譲渡費用調査書、求償権の行使不能額調査書、特別控除額調査書、不動産収入調査書、固定資産税調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、減価償却費調査書、雑費調査書、申告経費調査書、給付補填備金調査書
一 押収してある五八年分の所得税の確定申告書一袋(同号の三)
(法令の適用)
一 被告人塚越治義について
被告人塚越治義の判示第一の一の所為は刑法六〇条、相続税法六八条一項に、判示第一の二の所為は刑法六〇条、所得税法二三八条一項に、判示第二の一の所為は刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項に、判示第二の二の所為は刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項に該当するところ、各所定刑中、判示第一の一、二の各罪について、いずれも懲役刑及び罰金刑を併科することとし(罰金刑について、判示第一の一の罪につき相続税法六八条二項、判示第一の二の罪につき所得税法二三八条二項をそれぞれ適用)、判示第二の一、二の各罪について、いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一の一、二の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人塚越治義を懲役一年二月及び罰金二七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人塚越治義を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用のうち証人磯崎一良、同遠藤守に支給した分の各二分の一、証人小林彰に支給した分の全部について、刑事訴訟法一八一条一項本文により、これを被告人塚越治義に負担させることとする。
一 被告人矢部一夫について
被告人矢部一夫の判示第二の一の所為は刑法六〇条、相続税法六八条一項に、判示第二の二の所為は刑法六〇条、所得税法二三八条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科することとし(罰金刑について、判示第二の一の罪につき相続税法六八条二項、判示第二の二の罪につき所得税法二三八条二項をそれぞれ適用)、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第二の一、二の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人矢部一夫を懲役八月及び罰金二五〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人矢部一夫を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告人両名が、それぞれ、分離前の共同被告人小島葵、同庄司孝英らのいわゆる脱税請負グループに依頼して、不正の行為により自己の相続税、所得税を免れたものであって、被告人塚越については、相続税の逋脱額一億七二二万円余(逋脱率一〇〇パーセント)、所得税の逋脱額二一一四万円余(逋脱率九八パーセント)、被告人矢部については、相続税の逋脱額六五七七万円余(逋脱率一〇〇パーセント)、所得税の逋脱額六七七〇万円余(逋脱率九八パーセント)であり、いずれも非常に規模の大きい脱税事犯であって、被告人両名の刑事責任は重大であるといわなければならない。また、被告人塚越は、自己の相続税の脱税が小島らによって首尾よく運ぶや、被告人矢部に誘いかけて本件に巻き込み、自らは小島らとの連絡にあたるなど積極的に小島らの脱税工作に加担したものであり、この点でも被告人塚越は非難を受けなければならない。
しかし、被告人塚越について、当初は正規に納税しようと考えたものであるが、いわゆる脱税請負を職業的に行っている小島らのグループに接触し、庄司らの巧みな言葉に乗せられて脱税工作を依頼することになったものであり、被告人塚越は自ら脱税を発案したものではない。被告人塚越は共謀成立後は必要な書類を送るなどはしているものの、俵らの各虚偽申告書作成についてはいずれも直接には関与しておらず、相続税の申告当日になってその脱税額を知らされたものである。被告人矢部についても、正規の納税をしようとしていたところ、信頼をおいていた被告人塚越から勧められるまま小島らに脱税工作を依頼することになったものであって、いずれも具体的な脱税工作についてはほとんど関与しなかったものである。したがって、本件は、被告人両名が各税額の軽減を図ったばかりに、正規の各納税額の半額という高額の報酬を得ることを目的とした小島、庄司らのいわゆる脱税請負人に付け込まれたという面も存することも指摘しなければならない。また、本件犯行発覚後、被告人塚越は重加算税、延滞税も含めて相続税に関し一億六七一〇万円余、所得税に関し二九七七万余を納付し、被告人矢部も重加算税、延滞税を含めて相続税に関し九六一六万余、所得税に関し九七〇二万余を納付している。これらの諸事情を総合考慮のうえ、被告人両名を、それぞれ、主文の刑に処し、懲役刑については、その執行を猶予するのが相当であると思料した次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田耕生 裁判官 秋山敬 裁判官 坂本宗一)