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横浜地方裁判所 昭和60年(わ)2365号 判決 1986年10月31日

本籍並びに住居

香川県高松市高松町一九五〇番地二

会社員(元税理士事務所事務員)

新開一史

昭和三三年一二月一六日生

右の者に対する相続税法違反、所得税法違反被告事件についで、当裁判所は、検察官寺坂衛出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月に処する。

この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告は、香川県高松市内で世利美が経営する税理士事務所の事務員をしていたものであるが、

第一  右世俵利美、小島葵、庄司孝英、塚越治義と共謀上、右塚越治義の実父塚越正治の死亡に伴う右塚越治義の相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により、また、右塚越治義が昭和五八年中に所有地を売却したことによる同人の同年分の長期譲渡所得税について、架空保証債務を計上する方法により、それぞれ右相続税及び所得税を免れようと企て、

一  昭和五八年五月二〇日、神奈川県藤沢市朝日町一番地の一一所在の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被相続人塚越正治の死亡により同人の財産を相続した右塚越治義の正規の相続税課税価格は四億一九二〇万九〇〇〇円であったのにかかわらず、被相続人塚越正治には庄司孝英に対する四億円の保証債務があり、これを右塚越治義において負担することが確定したので、取得財産の価格からこれを控除すると同人の相続税課税価格は四二三九万八〇〇〇円で、遺産にかかる基礎控除額を控除すると納付すべき相続税額はない旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の相続税一億七二二万二九〇〇円を免れ、

二  右塚越治義に架空の手形保証債務を計上するとともに、同人において、昭和五八年中に右債務を履行するため同人所有の土地を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部を行使することができなくなったかのように仮装するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、昭和五八年分の同人の実際総所得金額が四七四万七〇六七円、分離課税による長期譲渡所得金額が八三八六万一三三五円であったのにかかわらず、昭和五九年三月一三日、前記の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、右塚越治義の総所得金額が四七四万七〇六七円で、これに対する所得税額は所得控除をして算出すると三九万五四〇〇円であり、分離課税による長期譲渡所得金額は所得税法六四条二項の規定によって零となり、これに対する所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の昭和五八年分の正規の所得税額二一五四万二一〇〇円と右申告税額との差額二一一四万六七〇〇円を免れ、

第二  前記世俵利美、小島葵、庄司孝英、塚越治義、矢部一夫と共謀の上、右矢部一夫の実父失部勝由の死亡に伴う右矢部一夫の相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により、また、同人が昭和五八年中に所有地を売却しにことによる同人の同年分の長期譲渡所得税について、架空保証債務を計上する方法により、それぞれ右相続税及び所得税を免れようと企て、

一  昭和五八年九月二二日、前記の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、被相続人矢部勝由の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は三億二五四五万五〇〇〇円で、このうち右矢部一夫の正規の相続税課税価格は二億三七五七万四〇〇〇円であったのにかかわらず、被相続人矢部勝由には庄司孝英に対する二億九八〇〇万円の保証債務があり、そのうち二億八八〇二万九一五一円を右矢部一夫において負担することが確定したので、取得財産の価格からこれを控除すると同人の相続税課税価格は零で、納付すべき相続税額はない旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の正規の相続税額六五七七万六三〇〇円の全額を免れ、

二  右矢部一夫に架空の連帯保証債務を計上するとともに、同人において、昭和五八年中に右債務を履行するにめ同人所有の土地を譲渡し、その履行に伴う求償権の全部を行使することができなくなったかのように仮装するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、昭和五八年分の同人の実際総所得金額が四八二万四二五九円、分離課税による長期譲渡所得金額が二億一六四五万一八〇〇円であったのにかかわらず、昭和五九年三月一三日、前記の所轄藤沢税務署において、同税務署長に対し、右矢部一夫の総所得金額が六八二万五四八四円で、これに対する所得税額は所得控除をして算出すると八九万六四〇〇円であり、分離課税による長期譲渡所得金額は所得税法六四条二項の規定によって零となり、これに対する所得税額はない旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同人の昭和五八年分の正規の所得税額六八六〇万二八〇〇円と右申告税額との差額六七七〇万六四〇〇円を免れ、

第三  前記世俵利美、小島葵、庄司孝英、二宮啓、金田こと金義信、井山健一、井山一男、井山正一と共謀の上、右井山正一が相続税申告の代理人をしていた、井山いくの死亡により同人の財産を相続した井山ハル、井山和栄、井山剛之の各相続税について、架空保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により相続税を免れようと企て、昭和五九年四月二日、埼玉県浦和市常盤四丁目一一番一九号所在の所轄浦和税務署において、同税務署長に対し、被相続人井山いくの死亡により同人の財産を相続した右井山ハル、井山和栄、井山剛之の正規の相続税課税価格は別表「正規の相続税課税価格」欄記載のとおり合計六億六一五八万四〇〇〇円であったのにかかわらず、被相続人井山いくには宍戸三男に対する四億八〇〇〇万円の保証債務があり、これを右井山ハル、井山和栄、井山剛之において別表「保証債務額」欄記載のとおりそれぞれ負担することが確定したので、それぞれの取得財産の価格からこれを控除すると右井山ハル、井山和栄、井山剛之の相続税課税価格は別表「申告相続税課税価格」欄記載のとおり合計一億八三七五万八〇〇〇円で、それぞれ遺産にかかる基礎控除額を控除して算出すると右井山ハル、井山和栄、井山剛之の相続税額は別表「申告相続税額」欄記載のとおり合計五四一五万九六〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書を提出し、もって、不正の行為により、別表「正規の相続税額」欄記載のとおり右井山ハル、井山和栄、井山剛之の正規の相続税額合計二億六〇七七万七一〇〇円と右申告税額合計との差額合計二億六六一万七五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

(以下においては、検察官に対する供述調書を「検面調書」と略記し、また、作成日付も、例えば昭和六〇年八月九日付を「六〇・八・九付」と略記する。)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷(第一五回公判)における供述

判事第一の一、二、第二の一、二の各事実について

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の六〇・八・九付検面調書

一  小島葵(六〇・八・一三付八枚綴のもの、六〇・八・一九付)、庄司孝英(六〇・八・一九付)、世俵利美(六〇・八・一五付)、塚越治義(六〇・八・一五付二通)、矢部一夫(六〇・八・一五付二一枚綴のもの、六〇・八・一九付二通)の各検面調書

一  大蔵事務官作成の五九・一一・八付領置てん末書二通

判示第一の一、第二の一の各事実について

一  小島葵の六〇・八・一三付(六枚綴のもの)検面調書

一  松原義貫の検面調書

判示第一の一、二の各事実について

一  塚越治義の六〇・八・八付、六〇・八・九付各検面調書

判示第一の一の事実について

一  被告人の六〇・八・一〇付、六〇・八・一一付(二通)各検面調書

一  小島葵(六〇・八・九付)、庄司孝英(六〇・八・九付、六〇・八・一〇付)、世俵利美(六〇・八・九付、六〇・八・一〇付、六〇・八・一一付二〇枚綴のもの)、塚越治義(六〇・八・一〇付)、矢部一夫(六〇・八・一三付一四枚綴のもの)の各検面調書

一  塚越正義、中西光枝、塚越幸平、浅場町子、高橋百合子、塚越通、宮﨑礼子、矢部マツ子、塚越ミエ子、塚越伸子、磯崎一良の各検面調書

一  大蔵事務官作成の六〇・三・二五付保証債務調査書(塚越治義に係るもの)、同日付土地家屋調査書(前同)、同日付代償分割調査書、同日付借入金調査書、同日付預貯金調査書(前同)、同日付出資金調査書、同日付公租公課調査書(前同)

一  押収してある相続税の申告書一袋(昭和六〇年押第七二六号の二)

判示第一の二、第二の二の各事実について

一  被告人の六〇・八・一二付(二五枚綴のもの)検面調書

一  小島葵(六〇・八・一三付一九枚綴のもの)、庄司孝英(六〇・八・一二付、六〇・八・一七付)、世俵利美(六〇・八・一三付)、塚越治義(六〇・八・一三付)の各検面調書

判示第一の二の事実について

一  塚越治義の六〇・八・一七付(四枚綴のもの)検面調書

一  大蔵事務官作成の六〇・三・二六付求償権の行使不能額調査書(塚越治義に係るもの)、同日付特別控除額調査書(前同)、同日付不動産収入調査書(前同)、同日付租税公課調査書、同日付減価償却費調査書(前同)、同日付申告経費調査書(前同)

一  押収してある五八年分の所得税の確定申告書一袋(同号の一)

判示第二の一、二の各事実について

一  塚越治義(六〇・八・一七付五枚綴のもの)、矢部一夫(六〇・八・一〇付、六〇・八・一五付一三枚綴のもの)の各検面調書

判示第二の一の事実について

一  被告人の六〇・八・一二付(五九枚綴のもの)検面調書

一  小島葵(六〇・八・一一付)、庄司孝英(六〇・八・一一付)、世俵利美(六〇・八・一二付)、塚越治義(六〇・八・一二付)、矢部一夫(六〇・八・一二付)の各検面調書

一  矢部慶三(二通)、矢部トキ子、西山セツ子、矢部光男、矢部勤、矢部恒夫、矢部マツ子の各検面調書

一  大蔵事務官作成の六〇・三・二五付保証債務調査書(矢部一夫に係るもの)、同日付土地家屋調査書(前同)、同日付公租公課調査書(前同)、同日付貸家頂り金調査書、同日付現金調査書、同日付預貯金調査書(前同)、同日付長期前払保険料調査書

一  押収してある相続税の申告書一袋(同号の四)

判示第二の二の事実について

一  矢部一夫の六〇・八・一三付(七八枚綴のもの)検面調書

一  大蔵事務官作成の六〇・三・二六付譲渡費用調査書、同日付求償権の行使不能額調査書(矢部一夫に係るもの)、同日付特別控除額調査書(前同)、同日付不動産収入調査書(前同)、同日付固定資産税調査書、同日付損害保険料調査書、同日付修繕費調査書、同日付減価償却費調査書(前同)、同日付雑費調査書、同日付申告経費調査書(前同)、同日付給付補填備金調査書

一  押収してある五八年分の所得税の確定申告書一袋(同号の三)

判示第三の事実について

一  第四回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の六〇・一二・一一付、六〇・一二・一二付各検面調書

一  小島葵(六〇・一二・二付、六〇・一二・九付一五枚綴のもの)、庄司孝英(六〇・一二・一一付、六〇・一二・一四付、六〇・一二・一七付、六〇・一二・二一付)、世俵利美(六〇・一二・一二付)、金田こと金義信(六〇・一二・二一付)、二宮啓(六〇・一二・二〇付二通、六〇・一二・二一付)、井山健一(六〇・一二・一三付、六〇・一二・一八付、六〇・一二・二〇付)、井山一男(六〇・一二・一四付、六〇・一二・一九付、六〇・一二・二一付二通)、井山正一(六〇・一二・一二付、六〇・一二・一三付、六〇・一二・一七付、六〇・一二・二〇付二六枚綴のもの、六〇・一二・二一付)の各検面調書

一  井山和栄の検面調書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一  井山ハル、井山剛之、近藤さう、安西ケイの大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の六〇・一〇・二一付保証債務調査書、同日付有価証券調査書、同日付未収地代調査書、同日付土地調査書、同日付公租公課調査書

一  大蔵事務官作成の六〇・八・二三付領置てん末書

一  押収してある相続税の申告書綴一綴(同号の五)、相続税の申告関係書綴一綴(同号の六)、遺産分割協議書、領収証綴一綴(同号の七)

(法令の適用)

被告人の判示第一の一、第二の一、第三の各所為はいずれも刑法六五条一項、六〇条、相続税法六八条一項(判示第三の所為について、さらに同法七一条一項)に、判示第一の二、第二の二の各所為はいずれも刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するので、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、被告人を懲役一〇月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上田耕生 裁判官 白神文弘 裁判官 坂本宗一)

別表

<省略>

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