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横浜地方裁判所 昭和60年(ワ)2390号 判決 1988年5月26日

原告

加藤ミサ

被告

高圧ガス工業株式会社

主文

被告は、原告に対し、八二七万四四八四円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告、その余を被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、一七一九万二一三四円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行宣言の申立

二  請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生日時 昭和五五年一〇月九日午後一時三〇分頃

発生場所 茅ケ崎市元町五丁目一八番地先国道一号線上交差点

加害車両 普通貨物自動車(相模四四―て九七三七号)

所有者 被告会社

運転者 被告会社従業員訴外原義範

被害者 原告

事故の態様 原告が、右交差点の横断歩道上を青信号に従い歩行中、後方から進行してきた加害車両に衝突され、転倒し、受傷した。

2  原告の受傷、治療経過、後遺症

(一) 受傷

原告は、本件事故により右肘部挫傷、右頸部神経根部引抜き症、上腕神経叢損傷の障害を受けた。

(二) 治療経過

原告は、昭和五五年一〇月九日から昭和五九年一一月九日まで茅ケ崎中央病院、柳瀬整形外科、東京慈恵会医大病院、七沢障害交通リハビリテーシヨン病院、茅ケ崎接骨院に通院して治療を受け、昭和五九年一一月九日症状が固定した。

右頸部神経根部引抜き症

(1) 右頸肩上肢特に手指に及ぶ疼痛、痺れ感があり、右第三、第四指の知覚がにぶい。

(2) 易疲労感が著明、疲労時(家事をしていても)に右偏頭痛、後頭部痛あり。

(3) 右上肢に脱力があり、スプーン、箸、洗濯物等も落としやすく、揚げ物を落として左手に熱傷を受けたこともある。

右の原告が受けた後遺症は、自賠責後遺障害別等級表一二級に該当する。

3  被告の責任

被告は、加害車両を自己のため運行の用に供していたから、自賠法第三条に基づき、本件事故により原告が受けた損害を賠償すべき責任がある。

4  損害

(一) 治療関係 四三四万一〇六九円

(1) 治療費 三四一万七三六四円

ア 茅ケ崎中央病院 三万五六〇〇円

イ 柳瀬整形外科 二二〇万六〇四〇円

ウ 東京慈恵会医大病院 一〇万六六〇〇円

エ 七沢障害交通リハビリテーシヨン病院 一〇三万〇七二四円

オ 茅ケ崎接骨院 三万八四〇〇円

(2) 通院交通費 七一万八二六〇円

(3) 文書科(診断書) 三八〇〇円

(4) 売薬包帯等購入費 一万四一三〇円

(5) 通信費(請求書送付料) 四九七〇円

(6) 謝礼代(中元歳暮代) 一八万二五四五円

(二) 休業損害 七四九万二一〇〇円

原告は、本件事故当時主婦として家事労働に従事していたが、四年一ケ月の治療期間中、右労働に従事することができなかつた。しかるところ、昭和五五年賃金センサス女子労働者学歴年齢計によると、女子労働者の平均年収は一八三万四八〇〇円であるから、原告は、次のとおり七四九万二一〇〇円の損害を受けた。

183万4800円×(4+1/12)=749万2100円

(三) 逸失利益 三八八万八七一九円

原告は、本件事故により自賠責後遺障害別等級表第一二級に該当する後遺障害を受け、労働能力の一四パーセントを失つたが、これは、障害の性質から見て一生継続するものである。

しかるところ、原告は、症状固定時よりなお二二年就労可能であり、右期間少なくとも昭和五八年賃金センサス女子労働者学歴年齢計による女子労働者の平均年収である二一一万〇二〇〇円の一四パーセントの得べかりし利益を失つたもので、ライプニツツ方式による年五パーセントの割合による中間利息を控除すると、その現価は次のとおり三八八万八七一九円になる。

211万0200円×0.14×13.163=388万8719円

(四) 慰謝料 五五二万円

原告は、本件事故のため、昭和五五年一〇月九日から昭和五九年一一月二日まで通院を余儀なくされ、しかも前記のような後遺症が残つたもので、その苦痛は想像に絶するものがある。原告が受けた右精神的苦痛を慰謝するには五五二万円をもつてするのが相当である。

5  損害の填補

以上の原告の損害の合計は二一二四万一八八八円であるが、原告は、被告から四一四万九七五四円、自賠責保険から二〇九万円の支払を受けたので、これを右損害に充当した。

6  弁護士費用

原告は、被告が任意の支払に応じないので、原告訴訟代理人に本訴の提起、追行を委任し、その際、着手金、報酬として二一九万円の支払を約定した。

7  結論

よつて、原告は、被告に対し、一七一九万二一三四円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和六〇年一〇月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1項の事実のうち、事故態様は争い、その余の事実は認める。

本件事故が原告が横断歩道を青信号で歩行中発生した事故であることは認めるが、加害自動車は原告の右方から来たものであり、また、原告は転倒していない。

2  2項(一)、(二)の各事実は知らない。同項(三)の事実のうち、原告に自賠責後遺障害別等級表一二級に該当する後遺症が残つたことは認めるが、症状固定の時期は争う。原告の症状は、昭和五六年六月一日に固定した。

3  3項の事実は認める。

4  4項ないし6項の各事実は争う。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  事故の発生

請求原因1項の事実(事故の発生)のうち、事故態様を除き当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証、証人原義範の証言、原告本人尋問の結果によると、原告が買物袋を両手に持ち交差点の横断歩道上を青信号にしたがい横断を開始しようとし、車道上に二・五メートル位進んだところに、加害車両が交差点を左折して来て、原告が右手に持つていた買物袋を加害車両のボンネツトの上に跳ね上げ、フエンダーミラーに絡み着けたようにして、そのまま原告を三メートルぐらい引きずつて停車したことが認められる。

二  原告の受傷、治療経過、後遺症

成立に争いのない甲第三ないし第八号証、第九号証の一ないし一〇、第一〇、第一一、第一三、第一八、第一九号証、乙第一号証、徳州会病院の鑑定結果(後記採用しない部分を除く。)、原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故により右肘部挫傷、右頸部神経根部引抜き症、上腕神経叢損傷の傷害を受け、次のとおり通院治療を受けたことが認められる。

1  昭和五五年一〇月九日から同年一〇月二三日まで、茅ケ崎中央病院に通院(実日数 五日)

主訴 右肘部腫脹疼痛あり。

治療経過 湿布、内服薬投与により症状は除々に軽減。

専門医の治療を受けるため転医

2  昭和五五年一〇月二七日から昭和五九年六月二五日まで柳瀬整形外科に通院(実日数 七二四日)

主訴 右頸、上肢に倦怠感、痺れ感、疼痛あり。

他覚的所見 右頸部、背部、右上肢全体の圧痛、右上肢は橈側、尺側ともに知覚鈍麻が認められ、右上肢の前方、側方挙上ともに筋力三(重力に抗して挙上できる程度)、頸椎は後屈時に疼痛が強く、運動制限が認められ、レントゲン線撮影では、第五第六頸椎椎間腔の狭少化変形性変化、脊骨形成が認められた。

治療経過 昭和五五年一〇月二八日から温熱療法とマツサージを行つたが、昭和五五年一一月二九日には右頸、腋喬部、背部、右上肢に疼痛があり、右手全体に痺れ感知覚鈍麻が増悪してきたので投薬を開始した。

その後昭和五六年二月一二日に依然として右手全体の痺れ感が著明で時々暈、耳鳴りの自律神経症状もみられたので、東京慈恵会医大病院整形外科を紹介した。

昭和五六年三月五日東京慈恵会医大病院整形外科から上腕神経叢の損傷が疑われる。保存療法が適当と思われる旨の報告を受け、同年三月二四日から温熱療法、マツサージ、頸椎牽引療法も開始したが、同年一一月になつても症状が軽快しないので、七沢障害交通リハビリテーシヨン病院を紹介した。

なお、原告は、右期間中の昭和五六年三月四日から同年六月一日まで(実日数 八日)東京慈恵会医大病院に通院し、頸椎牽引等の保存的療法を受けた。

3  昭和五六年一一月二〇日から昭和五九年六月二〇日まで、柳瀬整形外科に通院する一方、七沢障害交通リハビリテーシヨン病院に通院(実日数 一四八日)

主訴 右肩から上肢、右手の痺れ感あり。

治療経過 東洋医学による鍼治療を受けたが、上肢痺れ、浮腫、頭痛、頸部不快感、イライラなどの症状はとれなかつた。

4  昭和五九年六月二五日、柳瀬整形外科は、同日をもつて次のとおり原告の症状が固定したものと診断した。

主訴 右頸、肩、上肢に疼痛、易疲労感、痺れ、後頭部に疼痛あり、

他覚的所見 右上肢にライト症状、エデンテスト陽性で上腕神経叢のいわゆる胸廓出口近辺の血管神経検査として異常を認めた。右上肢の橈尺側ともに知覚鈍麻あり、右握力一七キログラム、左二二キログラム、右上肢筋力減弱、頸椎運動制限特に後屈制限あり。

後遺障害 右上肢筋力減弱、右上肢、上腕中央より抹消に知覚鈍麻、右上肢に頑固な神経症状を遺残する。

(柳瀬整形外科は、昭和五九年一一月三日に、原告の症状が同年一一月二日に固定した旨の診断書を発行しているのであるが、同診断内容は昭和五九年六月二五日の診断内容と同旨であり、原告の希望により再認定をしたものと認められる。)

5  なお、原告は、昭和六一年三月一日から約二ケ月間茅ケ崎市立病院に入院し、頭蓋直達牽引療法を受け、症状は快方に向かつている。

以上のとおり認められ、右事実によると原告の症状は、昭和五九年六月二五日固定し、その程度は自賠責後遺障害別等級表一二級一二号に該当する障害と認められる(原告の後遺症が右一二級に該当することは、当事者間に争いがない。)。

徳州会病院の鑑定結果のうち以上の認定に反する部分は前掲各証拠に照らしにわかに採用できない。

三  被告の責任

被告が、自賠法第三条に基づき、本件事故により原告が受けた損害を賠償すべきことは当事者間に争いがない。

四  損害

そこで、次に、原告が本件事故によつて受けた損害について検討する。

1  治療関係

(一)  治療費

前掲甲第八号証、第九号証の一ないし一〇、第一〇号、第一一号証によると、原告は、治療費として、前示の通院につき茅ケ崎中央病院に三万五六〇〇円、柳瀬整形外科に二二〇万六〇四〇円、東京慈恵会医大病院に一〇万六六〇〇円、七沢障害交通リハビリテーシヨン病院に九八万八八三一円を支払つたことが認められる。

七沢障害交通リハビリテーシヨン病院に対するその余の支払い、茅ケ崎接骨院に対する支払についてはこれを認めるに足る証拠がない。

(二)  通院交通費

成立に争いのない甲第一四号証によると、原告は、前示の柳瀬整形外科への通院にバスを利用し、その費用として合計一三万一七四〇円を支出し、東京慈恵会病院への通院にバス、電車、タクシーを利用し、その費用として合計三万八七〇〇円を支出し、七沢障害交通リハビリテーシヨン病院への通院にバス、電車、タクシーを利用し、その費用として合計四八万四三一〇円(甲第一四号証の同病院関係部分から症状固定後の分を除く。)を支出したことが認められる。

(三)  文書料

成立に争いのない甲第一五号証の二によると、原告は、七沢障害交通リハビリテーシヨン病院に文書料として三八〇〇円を支払つたことが認められる。

(四)  売薬包帯等購入費

成立に争いのない甲第一五号証の一によると、原告は、昭和五五年一一月二日から昭和五六年一月一六日までの間、今井調剤薬局等から首保温用品、肘用包帯等を購入し、合計三三三〇円(甲第一五号証の二の売薬包帯部分から症状固定後の部分を除く。)を支払つたことが認められる。

(五)  通信費

前掲甲第一五号証の一、成立に争いのない同号証の三ないし一〇によると、原告は、本件事故に関し、千代田火災海上保険株式会社に対する通信費として合計四九七〇円を支出したことが認められる。

(六)  謝礼代

前掲甲第一五号証の一によると、原告は、柳瀬整形病院、七沢障害交通リハビリテーシヨン病院の医師、看護婦に毎年中元、歳暮を贈り、そのため、一八万円を超える支出をしたことが認められるが、右支出は、治療に対する対価としての実質を持たず、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。

2  休業損害

原告本人尋問の結果、弁論の前趣旨によると、原告は、本件事故当時主婦として家事労働に従事していたこと、本件事故により、昭和五五年一〇月九日から昭和五九年六月二五日までの間、実日数八七七日通院していたもので、右事実に前示の原告の症状も合わせ考慮すると、原告は、右通院期間中少なくとも四分の三は右労働に従事することができなかつたものと認められる。

しかるところ、昭和五五年賃金センサス女子労働者学歴年齢計による、同年度の女子労働者の平均年収が一八三万四八〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であるから、原告は、右通院期間中、次のとおり、少なくとも六四八万〇八六五円の損害を受けたものと認められる。

183万4800円×(4+259/365)×3/4=648万0865円

3  逸失利益

前示のとおり、原告は、自賠責後遺障害別等級表一二級に該当する後遺障害を受けたもので、前掲甲第一九号証、徳州会病院の鑑定結果をも合わせ考慮すると、原告は、症状固定後五年間にわたりその労働能力の一四パーセントを失つたものと認めるのが相当である。

しかるところ、昭和五八年賃金センサス女子労働者学歴年齢計による、同年度の女子労働者の平均年収が二一一万〇二〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であるから、原告は、右期間少なくとも右二一一万〇二〇〇円の年収の一四パーセントの得べかりし利益を失つたものと認められ、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり一二七万九六三二円となる。

211万1200円×0.14×4.3294=127万9632円

4  慰謝料

前示のとおり、原告は、本件事故のため昭和五五年一〇月九日から昭和五九年六月二五日まで通院治療を余儀なくされ、かつ自賠責後遺障害別等級表一二級に該当する後遺症が残つたもので、その他本件に願われた諸般の事情を考慮すると、本件事故により原告の受けた精神的苦痛を慰謝するには、二〇〇万円をもつてするのが相当である。

五  損害の填補

以上の原告の損害の合計は一三七六万四二三八円であるが、原告が、右損害につき被告から四一四万九七五四円、自賠責保険から二〇九万円の支払を受けたことは原告において自認するところであるから、これを右損害に充当すると、原告の受けた損害は七五二万四四八四円になる。

六  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告が本訴の提起、追行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用を負担したものと認められるところ、本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は七五万円をもつて相当と認める。

七  結論

以上によると、原告の本訴請求は、被告に対し、八二七万四四八四円及びこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和六〇年一〇月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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