横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)22号
原告
医療法人財団 石心会
右代表者理事
石井暎禧
右訴訟代理人弁護士
後藤孝典
山口紀洋
被告
神奈川県地方労働委員会
右代表者会長
江幡清
右訴訟代理人弁護士
榎本勝則
補助参加人
総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部
右代表者執行委員長
上野久雄
同
総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部幸病院分会
右代表者執行委員長
本山ひろみ
同
市川友子
右補助参加人ら訴訟代理人弁護士
福田護
野村和造
鵜飼良昭
宇野峰雪
柿内義明
千葉景子
右原、被告間の頭書事件について右補助参加人らから被告を補助するため参加の申出をなしたところ、原告から異議の申立があったので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件補助参加の申出を許可する。
理由
一 原告は、まず、行政訴訟事件では行訴法二二条の参加が認められるだけで民訴法上の補助参加は認められないと主張する。
そこで案ずるに、行訴法二二条の参加は、判決の効力が及ぶ実質的な当事者を訴訟に参加させて攻撃防禦の機会を与え資料を提出させることにより適正な裁判をなさしめようとする趣旨から設けられたものであって、講学上共同訴訟的補助参加といわれるものであり、参加人には民訴法七五条に準ずる地位が与えられている(行訴法二二条四項)。しかし行訴法二二条によって参加が認められるのは「訴訟の結果により権利を害される者」に限られるから、判決により直接権利関係に消長を来さない第三者は同条により参加は許されないのである。ところで、民訴法六四条は、判決の結果につき利害関係を有する第三者はその訴訟に参加できる旨定めているのであるが、これは訴訟の結果につき利害関係を有する者が当事者の一方を補助して勝訴させることにより自己の利益を守ることを認めた制度であって、これを行政事件訴訟において認めてはならない理由は何ら存しない。むしろ行政訴訟事件において判決の結果により権利を害される者に参加を認めている法の趣旨よりすれば、権利は直接害されないまでも判決の結果につき法律上の利害関係を有する者を自らの利益を守らしめるため民訴法六四条により補助参加させることは、法の当然容認するところのものと解することができるのである。
原告の右主張は採用することができない。
二 次に、原告は、「公正な第三者を以って任ずる準司法機関たる労働委員会が当該事件のかつての当事者の一方と連合関係を組み他方の当事者と対決するのは労働委員会制度の予想するところではないから、救済命令取消訴訟では行訴法二二条及び民訴法六四条による参加は認められない」というのである。
確かに労働委員会は、その組織、運営等において公正、中立を保つべく法規の上で定められているが、およそ国及び地方公共団体の行政機関は、その職務内容の如何に拘らず職務の執行に臨んでは常に公正、中立でなければならないものであることは当然であって、ひとり労働委員会のみが公正、中立であるべきものではない。そして労働委員会が命令を発するに当って労働者側と「連合関係」を作るというのであればそれは行政庁としてあるべき公正、中立に反することになるけれども、一旦労働者側の申立を相当として救済命令を発した後においてこの命令の当否が裁判によって争われた場合、右命令によって利益を得た労働者側が労働委員会を補助し自己に有利な命令を維持すべく努力することは、労働委員会の公的機関としての公正、中立の要請と相入れないものではないといわねばならない。
したがって、救済命令取消訴訟においても行訴法二二条による参加及び民訴法六四条による参加はともに法理論上許されてよいものである。(ただ、労働委員会による救済命令は、労働者ないしは労働組合の権利の発生、消滅等の変動をもたらすものではないから、救済命令の取消訴訟の判決によって労働者及び労働組合の権利が害されることは起り得ず、したがって救済命令取消訴訟では、行訴法二二条による参加は事実上あり得ないだけである)。
原告の右主張も採用の限りではない。
三 さらに原告は、救済命令取消訴訟の結果は労働者側の権利に直接影響を与えるものではなく、取消判決が労働者側の社会的、経済的立場に影響を与えることは否定できないが、その影響はあくまでも事実的なものであって法的なものではないと主張する。
そこで抽象的一般論はさて措き、本件訴訟の結果の補助参加人らに与える影響について検討するに、(証拠略)によると、被告のした本件救済命令は、
1 参加人市川友子に対する原告の措置の是正として、参加人市川の昭和五九年二月二九日の不就労を年次有給休暇として取扱うべきこと、同年三月二日付戒告処分を撤回すべきこと、同年四月二八日の配転命令を撤回すべきこと、同年五月二日付出勤停止処分を撤回すべきこと
2 参加人総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部幸病院分会(以下「補助参加人分会」という)の団交申入れに応ずべきこと
を内容とするものであるから、右命令が維持されるか取消されるかは参加人市川の原告に対する労働契約上の権利に影響を与え、参加人分会の原告に対する団体交渉権の行使の上で影響を与えるものであることは明らかであり、参加人総評全国一般労働組合神奈川地方連合川崎地域支部もまた補助参加人分会の上部団体として、傘下組合の団体交渉権を侵害する原告の不当労働行為により同時に自らの組合の団結権、及び団体行動権を侵害されるから本件判決の結果如何により影響を受けることは明白なところである。
よって補助参加人らいずれも本件救済命令取消訴訟の結果について法律上の利害関係を有するものというべきである。
四 以上説示のとおり補助参加人らの参加の申出は理由があるので民訴法六六条一項により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 安國種彦 裁判官 山野井勇作 裁判官 小池喜彦)
補助参加申出書
参加の趣旨
右原・被告間の御庁昭和六〇年(行ウ)第二二号不当労働行為救済命令取消請求事件について、被告のため補助参加の申出をする。
参加の理由
一 前記訴訟事件において取消の対象とされている被告がなした不当労働行為救済命令は、原告のなした補助参加人らに対する不当労働行為について補助参加人らを救済する内容のものであり、補助参加人らは、いずれも同事件について利害関係を有する。
二 よって補助参加人らは民事訴訟法六四条により被告を補助するため本申出に及んだ。
昭和六〇年六月二一日
補助参加申出に対する異議
右当事者間頭書事件につき、被告補助参加人三名は昭和六〇年六月二一日付補助参加申出書により、被告補助参加の申出をなした。
しかし、補助参加人らは、本件訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するものではない。
よって、原告は被告補助参加人三名の参加申出に異議がある。
昭和六〇年七月一八日
補助参加申出に対する異議申立
右当事者間頭書事件につき、原告は被告補助参加人らが昭和六〇年六月二一日になした補助参加申出に対し、左記の通り異議を申立てる。
昭和六〇年九月一七日
記
一 救済命令の取消訴訟に対し、労働者側(救済の申立人)の参加は、民事訴訟法第六四条の補助参加であれ、行政訴訟法の第二二条の訴訟参加であれ許されない。
二 まず、補助参加が認められぬ理由は、救済命令取消訴訟は、いうまでもなく行政訴訟であり、一般論として行政訴訟事件に対しては民事訴訟法上の補助参加は認められないからである。
行政訴訟法に関する利害関係人が行政訴訟法に参加する手続は、行政訴訟法第二二条所定の訴訟参加しか許されぬからである。
何故なら、
(一) 単に訴訟の結果に法律上の利害関係を有するというだけで、公共の利害に直接関係ある取消訴訟に関与することを認めるのは適当でない。
(二) 民事訴訟法による補助参加も、取消訴訟においては共同訴訟的補助参加の性格を帯びるとすれば、参加人の地位は強大であるから、参加を広く認めることは一層問題である。
(三) 行政訴訟法は共同訴訟や請求の併合等につき通常民訴事件よりも、より厳格な制限をおいており、その趣旨から考えると第三者の訴訟参加について行政訴訟法第二二条のような特別規定があるということは、それ以外の訴訟参加を排除しようとする趣旨と解すべきである。
(四) 旧行政事件訴訟特例法は、行政事件訴訟を民事訴訟の一環と把え、原則として民事訴訟法によるとしていた(同法第一条)のに対し、行政事件訴訟法では「この法律に定めがない事項については、民事訴訟法の例による」(同法第七条)とあるのみであるから、旧法と同様に取扱わねばならぬ理由はないからである(高村克己「訴訟参加」実務民事訴訟講座8 一九七頁以下、福永有利 判例評論判例時報一一二〇号 一九五頁以下)。
三 ところで行政訴訟法による参加も、民事訴訟法によみ補助参加も、各参加の要件を満たす限り許されるとする説(併用説)もある。しかし、併用説は行政訴訟上の参加制度の固有の意義を無視するものである。何故なら、両法の参加の要件を比較すれば、民事訴訟法の要件が行政訴訟法の要件より明らかに広いのであるから、規定として論理的には民事訴訟法の補助参加の規定だけで足りることとなり、行政訴訟法二二条を設けた意味がなくなることとなる。しかしこれは、行政訴訟法の参加制度の立法趣旨にもとることであろう。
しかも、行政訴訟法においては判決の効力は第三者に及ぶのであるから(同法第三二条)何人が訴訟を遂行できるかは社会的に重要な意味を持っている。その点、民事訴訟法の要件は曖昧であるのに較べ、行政訴訟法は自己の権利を直接侵害される者に限定しており、この者が最も訴訟に真剣に取組むことが予想され、対世効力をもつ取消訴訟の当事者とするにふさわしいからである。
四 かくして行政訴訟法に対する参加手続は、一般に行政訴訟法第二二条所定の参加しか認められぬのであるが、救済命令取消訴訟にあっては救済命令の特殊性から、労働者側には行政訴訟法上の参加も認められない。
何故なら、参加を認めることは、第一に労働委員会の設立の制度趣旨に根本的に反するからである。仮に労働者側の参加が許されると救済命令取消訴訟が審理される法廷は、労働委員会と労働者側が連合し、使用者側と対決することになる。公正な第三者をもって任ずる準司法機関たる労働委員会が、当該事件のかつての当事者の一方と連合関係を組み、他方の当事者と対決し、労働委員会と労働者が勝訴して共に歓び、敗訴して共に涙だすることになるが、この状況はおよそ準司法機関たる労働委員会制度の予想するところではない(三好達 緊急命令の問題点 新実務民事訴訟講座一一 三二〇頁は、この奇妙な現象を指摘し、立法論としてではあるが、参加の禁止の必要性を唱題している)。しかもこのような構造が許されると取消訴訟の法廷の奇妙さにとどまらず、労働委員会段階での救済申立審理自身の中立性、公正さを疑わしめ、結局、経営者側は労働委員会に不信を抱く結果、労働委員会自身その社会的権威と意義を失うに至るのである。
第二の根拠は、救済命令の性格から由来するものである。即ち、救済命令は使用者に対し、原状回復のため公法上の義務を課する処分であるから、救済命令取消訴訟の結果は、労働者側の権利に直接は何らの影響を及ぼすものではない。実際上は、取消判決が労働者側の社会的、経済的立場に影響することは否定出来ないが、その影響はあくまで事実的なものであって、法的なものではない。
何故ならば、救済命令取消訴訟の判決があったからといって、実体法的には労働者側は何らの債務名義を有する訳ではないからである。
このように、救済命令取消訴訟の判決の効力を厳格に分析し、それにより参加を否定することこそ、第一で述べた労働委員会の設立制度趣旨に合致するところなのである。逆に言えば、救済命令取消訴訟はもとより、労働委員会の一定の公権力の発動に対し使用者側がその発動の適否を司法機関に問うというものであり、制度としてはあくまでも労働委員会の救済命令制度の制度的保証として設けられるものであって、個別の当該労働者を直接・即時に救済することを目的とした手続ではないからである。
五 ところで労働者側の参加については、実務、学説とも、その根拠法は別として肯定するものが多い。その理由は、結局、参加を認める必要性が大であるということであろう(福永 前掲書一九六頁)。
しかし前述した通り、そもそも救済命令は労使の私法上の法律関係につき、これを確認したり形成したりする作用は一切ないのであるから、参加の必要性が必至であるという前提自身が誤っているのである。救済命令はもともと簡便な手続により迅速に命令が出て使用者がこれに従い、早急に事件が解決されることを主目的としているのであるから、使用者側がこの結論にあくまで不服な場合は、取消判決すら従わぬことすら予想されるのであり、紛争の根本的解決は労使間の実体法上の訴訟によってなされるべきである。そして取消訴訟はあくまで権限を発動した労働委員会とこれを受けた使用者側だけによって命令の適否が公正中立、整斉と審理されるべきである。
右理由により、被告補助参加人の参加は許されるべきでないのである。
以上