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横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)2018号 判決 1992年3月09日

原告

石井浩嗣

原告兼右法定代理人親権者父

石井悟

原告兼右法定代理人親権者母

石井泰子

右原告ら訴訟代理人弁護士

高荒敏明

被告

相模原市

右代表者市長

舘盛静光

右訴訟代理人弁護士

堀家嘉郎

右訴訟復代理人弁護士

松崎勝

石津廣司

右指定代理人

落合洋一

外五名

主文

一  被告は、原告石井浩嗣に対し、金九四二三万九一一八円及び内金八七二三万九一一八円に対する昭和六一年五月二四日から、内金七〇〇万円に対する平成四年三月一〇日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告石井悟及び原告石井泰子に対し、各金三三〇万円及び内金三〇〇万円に対する昭和六一年五月二四日から、内金三〇万円に対する平成四年三月一〇日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告石井浩嗣と被告との間においては、原告石井浩嗣に生じた分の二分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告石井悟及び原告石井泰子と被告との間においては、原告石井悟及び原告石井泰子に生じた分の二分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告石井浩嗣に対し、金一億九八六三万九九一三円及び内金一億八三六三万九九一三円に対する昭和六一年五月二四日から、内金一五〇〇万円に対する判決言渡しの日の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告石井悟及び原告石井泰子に対し、各金五九九万円及び内金五〇〇万円に対する昭和六一年五月二四日から、内金九九万円に対する判決言渡しの日の翌日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第1、2項について仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者等

(一) 原告石井浩嗣(以下「原告浩嗣」という。)は、後記2の事故(以下「本件事故」という。)が発生した当時、相模原市立大沢中学校(以下「大沢中学」という。)に第三学年として在学していた。

原告石井悟(以下「原告悟」という。)は原告浩嗣の父であり、原告石井泰子(以下「原告泰子」という。)は原告浩嗣の母である。

(二) 被告は、大沢中学を設置し、管理しており、久代英治は、本件事故当時、大沢中学教諭の地位にあって、課外の部活動としての水泳部(以下、単に「水泳部」という。)の顧問をしていた。

2  本件事故の発生

原告浩嗣は、水泳部に所属していたが、昭和六一年五月二四日午後二時四〇分ころ、大沢中学内に設置されたプール(以下「本件プール」という。)で、水泳部の練習中、本件プールに設置されたスタート台(以下「本件スタート台」という。)から競泳のスタート方法としての逆飛び込みを行った際、本件プールの底に頭部を打ち付け、第五頸椎を骨折し、頸髄を損傷する傷害(以下「本件傷害」という。)を被った。

3  被告の責任

(一) 本件プールの設置管理の瑕疵(国家賠償法二条一項)

(1) 本件事故当時、本件プールは、水深が本件スタート台直下で一一〇センチメートル、本件スタート台の高さが本件プールの水面から五八センチメートルであったほか、その構造は別紙図面のとおりであった。

(2) 本件プールは、近年中学生の体位がめざましく向上していることに照らすと、飛び込み技術の習得過程にある者が逆飛び込みの練習を行うには、本件スタート台の水面からの高さに比べて水深が浅く、その構造上安全性に欠けていた。

(3) したがって、被告には、本件プールの設置管理に瑕疵があったというべきであり、国家賠償法二条一項に基づき、原告らの被った後記損害を賠償する責任がある。

(二) 安全保護義務違反(国家賠償法一条一項)

(1) 学校の教師は、学校における教育活動により生じるおそれのある危険から生徒を保護すべき義務を負っており、危険を伴う技術を指導する場合には、事故の発生を防止するために十分な措置を講じる注意義務がある。そして、課外のクラブ活動であっても、それが学校教育の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭を始め学校側に、生徒を指導し事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務があり、部活動それ自体に事故発生の危険性が内在しているときは、部の顧問教諭は部活動に自ら立ち会い、指導監督する義務がある。

(2) 本件プールは、右(一)のとおり、本件スタート台の高さに比べて水深が浅く、逆飛び込みによる事故発生の危険性が高かったのであるから、水泳部顧問の前記久代英治教諭(以下「久代教諭」という。)には、水泳部員が本件スタート台から逆飛び込みをする際、ゴーグルの脱落防止等のために入水角度が大きくなりすぎ、本件プールの底で頭部を打つことのないように、適切な飛び込み方法を指導する義務があった。

しかるに、久代教諭は、本件事故の当日、水泳部の練習に立ち会わなかったばかりか、本件事故以前、飛び込み方法について自ら指導したこともなかった。

(3) したがって、被告には、国家賠償法一条一項に基づき、原告らの被った後記損害を賠償する責任がある。

4  損害

(一) 原告浩嗣

原告浩嗣(昭和四六年九月二七日生まれ)は、本件傷害により、四肢が完全に麻痺し、知覚障害及び排泄障害が生じた。原告浩嗣は、右四肢体幹機能障害により、身体障害者等級表による一級の身体障害者と認定されている。本件傷害に伴う原告浩嗣の損害(以下「本件損害」という。)は次のとおりである。

(1) 医療費 一一万七四四八円

昭和六一年五月二四日から平成二年一二月二五日までの間、本件傷害に関する医療費として合計二〇三万〇四一〇円を要した。右合計から、現在までに支給された、日本体育・学校教育センターからの給付金一三二万二〇六九円、被告からの重度心身障害者医療費助成金五九万〇八九三円を控除すると、一一万七四四八円となる。

(2) 療養雑費 一二〇八万九二三八円

入院中はもちろん、退院して自宅で療養する場合にも、紙おむつ、座薬その他療養雑費として、一日当たり少なくとも一二〇〇円は必要である。原告浩嗣の生存可能年数を昭和六〇年簡易生命表により本件事故発生時から六一年とみて、ライプニッツ方式により現価を算出すると、一二〇八万九二三八円となる。

1200円×365(日)×27.601=1208万9238円

(3) 付添看護費用 八六九一万六一一四円

ア 原告浩嗣は、尾川衣子に対し、昭和六一年五月三一日から同年七月二八日までの付添看護料として、合計七〇万八七五七円を支払った。

イ 原告浩嗣は、南雲ユキエに対し、昭和六一年八月一一日から同月二〇日までの同看護料として、合計一〇万八六八〇円を支払った。

ウ 原告浩嗣は、三上ヤエに対し、昭和六一年八月二一日から同年九月二日までの同看護料として、合計一三万四六二九円を支払った。

エ 原告浩嗣は、昭和六二年一月二九日、入院先から自宅に戻り、以後、原告悟及び同泰子の介助を受けることになった。原告浩嗣は終生介助を受ける必要があるが、原告悟、同泰子とも、原告浩嗣の存命中最後まで、同人の介助を続けることはできないことが十分に予見できるので、職業的付添看護人の付添料金を基準として看護料を算定するのが相当である。

原告浩嗣の生存可能年数を昭和六〇年簡易生命表により昭和六二年一月から六〇年とみて、ライプニッツ方式により現価を算出すると、八五九六万四〇四八円となる。

8610×365(日)×27.354=8596万4048円

(4) 逸失利益 七一六七万七七四六円

原告浩嗣は本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失し、今後、回復の見込みはない。原告浩嗣は、本件事故がなければ、満一八歳から満六七歳まで労働可能であったと推定することができる。

平成元年賃金センサスによれば、産業計・企業規模計・学歴計、年齢計の男子労働者の一年間の平均給与額は、四七九万五三〇〇円である。

三一万〇〇〇〇円×一二(月)+一〇七万五三〇〇円=四七九万五三〇〇円

本件事故発生時から就労開始時まで四年間のライプニッツ係数3.5459を五三年間のライプニッツ係数18.4934から控除した14.9475を乗じると七一六七万七七四六円となる。

479万5300円×14.9475=7167万7746円

(5) 原告浩嗣の自宅における療養のための改造費等

合計七五六万五二七五円

ア 室内床張工事等

九五万八〇〇〇円

イ ベッド

一二万九三二五円

ウ シャワーチェアー(車椅子)

一三万九〇〇〇円

エ 教室用特別テーブル

三万八五〇〇円

オ 原告浩嗣用自動車

一三三万〇〇〇〇円

カ 昇降機用コンクリート工事

五万六〇〇〇円

キ 車椅子昇降リフター

三八万五〇〇〇円

ク スポンジクッション

三万〇〇〇〇円

ケ 平井義肢製作所への支払

一万六六六〇円

コ 原告浩嗣用自動車買替え、改造費

三三五万二七九〇円

サ 医療・健康用具等

一一三万〇〇〇〇円

(6) 通学交通費 五二万四〇九二円

原告浩嗣は、昭和六二年四月から平成二年三月まで、神奈川県伊勢原市所在の私立向上高等学校に通学した。通学には、往復とも自動車を使わねばならなかった。通学一日当たりのガソリン代は一四八三円であり、これに向上高等学校への出席日数五八九日を乗ずると八七万三四八七円となる。このうち六割の五二万四〇九二円を本件事故と相当因果関係のある損害とみるのが相当である。

(7) 慰謝料 二五〇〇万円

原告浩嗣の入院の状況、後遺症の程度、年齢、中学校在学中の事故であること等の事情を考慮すると、原告浩嗣の本件事故による精神的苦痛を癒す金額は二五〇〇万円を下らない。

(8) 損害の填補

ア 原告浩嗣は、平成元年七月二八日、日本体育・学校教育センターから後遺障害の見舞金として一八九〇万円の給付を受けた。

イ 原告浩嗣は、被告から医療見舞金として昭和六一年八月二八日に一一万円、同年一二月一七日に二四万円の各給付を受けた。

ウ 原告浩嗣は、平成元年八月二三日、被告から障害見舞金として一〇〇万円の給付を受けた。

(9) 弁護士費用

原告浩嗣の総損害額(右(1)ないし(7)の損害を合算した額から右(8)の填補分を控除した額)は一億八三六三万九九一三円であるから、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は一五〇〇万円を下らない。

(二) 原告悟及び原告泰子

(1) 慰謝料 各五〇〇万円

原告悟及び同泰子は、本件事故により、わが子である原告浩嗣が死亡したのに比べて、勝るとも劣らない精神的な苦痛を被っている。原告悟、同泰子の右精神的苦痛を癒す金額としては少なくとも各五〇〇万円が相当である。

(2) 弁護士費用 各九九万円

原告悟、同泰子の損害額は各五〇〇万円であるから、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は各九九万円を下らない。

5  結論

よって、原告浩嗣は、被告に対し、国家賠償法二条一項又は同法一条一項に基づき、損害賠償金一億九八六三万九九一三円及び内金一億八三六三万九九一三円に対する本件事故発生の日である昭和六一年五月二四日から、内金一五〇〇万円に対する判決言渡しの日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告悟及び同泰子は、被告に対し、国家賠償法二条一項又は同法一条一項に基づき、それぞれ損害賠償金五九九万円及び内金五〇〇万円に対する本件事故発生の日である昭和六一年五月二四日から、内金九九万円に対する判決言渡しの日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を、それぞれ求めるものである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)及び(二)の各事実は認める。

2  同2の事実のうち、原告浩嗣が本件プールの底に頭部を打ち付けたことは知らず、その余は認める。

3(一)  同3(一)のうち、(1)の事実は認め、(2)及び(3)の各主張は争う。

(二)(1)  同3(二)(1)のうち、部活動それ自体に事故発生の危険性が内在しているときは、部の顧問教諭は部活動に自ら立ち会い、指導監督する義務があるとの主張は争う。

(2) 同3(二)(2)のうち、久代教諭が、本件事故の当日、水泳部の練習に立ち会わなかった事実は認め、その余の事実・主張は否認又は争う。

(3) 同3(二)(3)の主張は争う。

4(一)(1) 同4(一)冒頭部分のうち、原告浩嗣が身体障害者等級表による一級の身体障害者と認定されていることは認め、その余は知らない。

(2) 同4(一)(1)の事実のうち、日本体育・学校教育センターから給付金一三二万二〇六九円、被告から重度心身障害者医療費助成金五九万〇八九三円がそれぞれ支給されたことは認め、その余は知らない。

(3) 同4(一)(2)の事実は否認する。

(4) 同4(一)(3)の事実のうち、アないしウは知らず、エは否認する。

(5) 同4(一)(4)の事実は否認する。原告浩嗣は労働能力を一〇〇パーセント喪失しているわけではない。

(6) 同4(一)(5)の事実のうち、アないしサのとおり支出があったことは知らず、コの原告浩嗣自動車の取得が損害であることは否認する。

(7) 同4(一)(6)の事実は知らない。

(8) 同4(一)(7)の事実は否認する。

(9) 同4(一)(8)のアないしウの各事実は認める。

(10) 同4(一)(9)の事実は否認する。

(二)  同4(二)の(1)及び(2)の各事実は否認する。

三  被告の主張

1  本件プールの安全性について

財団法人日本水泳連盟プール公認規則第二三条第四項は競泳公認プールのスタート台の高さを「0.4メートル以上でスタート台前面の水深から0.45メートルを減じた高さ以下」と定めており、本件スタート台は右基準に適合しているから、本件プールには瑕疵はなかった。

なお、右公認規則第三九条第四号は標準プールのスタート台の高さを「水面上の高さは0.21メートル以上とし、かつ水深から0.55メートルを減じた高さ以下とする。」と定めており、本件スタート台は右基準を三センチメートル超えているが、原告浩嗣が水泳部員であって、水泳及び逆飛び込みに習熟していたことからすると、本件プールの安全性は、右競泳公認プールの基準をもとに判断すべきである。また、仮に右標準プールの基準をもとに判断するとしても、三センチメートルの差は力学的にみて無視できる範囲であるから、三センチメートルの超過をもって、直ちに本件プールが安全性に欠けるということにはならない。

2  久代教諭の過失の不存在

(一) 本件事故の予見不可能性

課外のクラブ活動が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格別、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立ち会い、監督指導すべき義務までを負うものではない。

そして、以下の事情を総合すると、久代教諭は、本件事故を具体的に予見することができなかったというべきであるから、同教諭には過失はなかった。

(1) 水泳練習の一環としての逆飛び込みは一般的に行われているが、本件のような事故は例外的なものであり、まして、水泳部に参加している生徒は逆飛び込みを含め一定の水泳能力を有するから、水泳部の練習中に本件のような事故が発生する確率は極めて低かった。

(2) 久代教諭は、昭和六一年五月初め、水泳部の練習に立ち会った際に原告浩嗣の水泳能力を、同月一八日、水泳部の練習に立ち会った際に原告浩嗣の逆飛び込みの能力をそれぞれ確認したが、原告浩嗣は水泳及び逆飛び込みに習熟していた。

(3) 久代教諭は、後記の理由で本件事故当日の水泳部の練習に立ち会えなかったが、水泳部員の原某及び三戸部純子に当日の練習内容を記載したメモを渡し、練習内容の指示を与えた。

久代教諭は、従前、水泳部の練習に立ち会えないときは、メモを渡して練習内容を指示しており、水泳部員は、部員(生徒)の中から選出された部長又は副部長のもと、それに従って練習を行っていたが、本件のような事故が発生したことはなかった。

(4) 本件プールは水泳部の部活動だけでなく、体育の正課授業においても使用されていたが、従前、本件のような事故が発生したことはなかった。

(二) 本件事故の回避不可能性

(1) 久代教諭は、本件事故の当日、部活動保護者会に出席したので、水泳部の練習に立ち会えなかった。重要な公務のため、練習に立ち会えなかったのであるから、久代教諭には過失がなかったというべきである。

(2) 本件事故は、飛び込む過程における一瞬の出来事であるから、久代教諭が立ち会っていたとしても、防止できなかったことは明らかである。

四  抗弁

1  原告浩嗣の過失

原告浩嗣は、小学校時代から水泳が得意であり、大沢中学入学後も、体育の正課授業及び水泳部の練習を通じて逆飛び込みの指導を受けていた。原告浩嗣は、本件事故当時、中学校三年生として、十分に事理弁別の判断能力を備えていたのであるから、逆飛び込みを行うに当たっては、入水角度が大きすぎないようにするなど、安全な逆飛び込みをすべき注意義務があったというべきである。しかるに、原告浩嗣は、右注意義務を怠り、通常より高く、体が斜めに傾いた逆飛び込みを行ったのであるから、仮に被告に損害賠償責任が認められるとしても、大幅な過失相殺がなされるべきである。

2  損害の填補

(一) 既払い分

(1) 原告浩嗣は、別表(一)のとおり、本件損害の填補として、障害児福祉手当六五万九六一〇円、神奈川県在宅重度障害者等手当一五万七五〇〇円、相模原市被保護者等慰問金五万七〇〇〇円の給付を受けた。

(2) 原告浩嗣は、本件損害の填補として、被告及び神奈川県から自動車改造費助成一〇万円の給付を受けた。

(3) 原告浩嗣は、本件損害の填補として、神奈川県から自動車運転免許取得費補助六万四〇〇〇円の給付を受けた。

(4) 原告浩嗣は、本件損害の填補として、別表(二)のとおり公費負担及び被告の助成合計九〇万七八六三円相当の現物給付を受けた。

(二) 将来分

(1) 原告浩嗣は、満二〇歳に達するまで引き続き、現に支給されている障害児福祉手当(平成三年一月二一日時点での支給額は年一四万八五六〇円)の支給を受ける予定である。

また、原告浩嗣は、満二〇歳以降、所得等による支給制限を受けない限り、特別障害者手当(平成三年一月二一日時点での支給額は年二七万三一二〇円)及び障害基礎年金(平成三年一月二一日時点での支給額は年八五万一五九二円)の各支給を受ける予定である。

(2) 原告浩嗣は、満二〇歳以降も引き続き、現に支給されている神奈川県在宅重度障害者等福祉手当(平成三年一月二一日時点での支給額は年三万五〇〇〇円)及び相模原市被保護者等慰問金(平成三年一月二一日時点での支給額は年一万三〇〇〇円)の各支給を受ける予定である。

(3) 原告浩嗣は、公費負担及び被告の助成を受けて補装具(車椅子等)及び日常生活用具(浴槽、湯沸器、便器、特殊便器、特殊寝台、特殊マット、入浴担架、体位変換器、特殊尿器、電動歯ブラシ、電動タイプライター、ワードプロセッサー、エアーマットレス、シャワーチェアー等)の現物給付を受けることができる。

(4) 原告浩嗣は、医療について、重度心身障害者医療費助成により、医療保険の自己負担分の助成を受けることができる。

五  抗弁に対する認否及び反論

抗弁2(一)の事実のうち、原告浩嗣が(1)ないし(4)のとおりの給付を受けたことは認める。しかし、これらの給付は社会保障としての性格が強く、本件損害の填補とはならない。抗弁2(二)については、給付されること自体不確実なものであるから、現時点において本件損害の填補があったと解することはできない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求原因1(当事者等)の事実は、当事者間に争いがない。

二本件事故の発生及びその経緯

1  原告浩嗣は水泳部に所属していたが、昭和六一年五月二四日午後二時四〇分ころ、本件プールにおいて水泳部の練習中、本件スタート台から競泳のスタート方法としての逆飛び込みを行った際に本件傷害を受けたこと、久代教諭が、本件事故の当日、水泳部の練習に立ち会わなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、<書証番号略>、証人久代英治、同篠崎英司及び同阿部透の各証言(ただし、証人久代英治の証言中後記採用しない部分を除く。)、原告石井浩嗣、同石井悟の各本人尋問の結果(ただし、原告石井浩嗣本人尋問の結果中後記採用しない部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができ、右証人久代英治の証言、原告石井浩嗣本人尋問の結果中のこの認定に反する部分は、その余の前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告浩嗣(昭和四六年九月二七日生まれ)は、昭和五九年四月、大沢中学に入学し、第一、第二学年のときは課外の部活動としてのバスケットボール部に所属していたが、昭和六一年四月、第三学年の課外の部活動としては水泳部に所属することにし、同月二五日、正式に入部した。原告浩嗣は、入部後すぐ、練習に参加するようになり、以後、本件事故の当日まで練習日には欠かさず参加した。

(二)(1)  久代教諭は、昭和五七年四月から大沢中学に勤務して数学を担当し、水泳を得意とすることから水泳部の顧問を勤めていた。久代教諭は、水泳部の休日の練習には欠かさず立ち会っていたが、放課後の練習には立ち会わないこともあった。立ち会わない場合には、本件プールの鍵を取りに来た部員に練習内容を書いたメモ用紙を渡し、部員(生徒)の中から選出された部長又は副部長の指揮のもとに練習を行うよう指示していた。

(2) 久代教諭は、練習に立ち会っても、その指揮は主に部長、副部長に任せており、部員を個別に指導する際も口頭で指示し、自ら実際に模範を示すということはなかった。逆飛び込みについても、原告浩嗣を含む部員全員に対し、「遠く浅く」という言い方で一般的指示を与えていたにすぎず、自ら実際に飛び込み方法を示すということはなく、原告浩嗣に対しては、分からないことがあれば、(原告浩嗣と親しい関係にあった)水泳部の副部長篠崎英司(以下「篠崎」という。)に聞くよう指示したのみで、逆飛び込みの方法について自ら具体的に指導したことはなかった。

(三)  久代教諭は、昭和六一年五月一日に水泳部の練習に立ち会い、原告浩嗣の泳ぎを見た。同月一八日の練習の際には、同年六月二二日の相模原市内合同記録会に向けて、競泳のスタート方法としての逆飛び込みの練習が行われ、原告浩嗣も十数回、本件スタート台から逆飛び込みの練習をした。久代教諭は、同日、練習に立ち会い、原告浩嗣の右逆飛び込みも見た。

(四)(1)  昭和六一年五月二四日、大沢中学において、午後一時三〇分から、部活動保護者会が開催された。久代教諭は、同会に出席することになっていたので、事前に、水泳部の部長阿部透(以下「阿部」という。)及び副部長三戸部純子に練習内容を書いたメモ用紙を渡した。アップ(準備体操も含めて軽く泳ぐ練習)が五本、キック(ビート板を手に持って足だけで泳ぐ練習)、プル(ビート板を足に挟んで手だけで泳ぐ練習)及びコンビ(何も使わず普通に泳ぐ練習)が三セット、一〇〇メートルクロールが五本、スタートダッシュが一二本、ダウン(整理体操も含めて軽く泳ぐ練習)が二本という内容であった。

(2) 原告浩嗣は、同日、競泳のスタート方法としての逆飛び込みの練習の際、ゴーグルを付けて飛び込む前に、篠崎に対し、ゴーグルが外れないような飛び込み方法について尋ねた。篠崎は、原告浩嗣に対し、顎を引いて臍をみるような感じで飛び込むよう指示した。原告浩嗣はその指示に従い、第二コースの本件スタート台から飛び込んだところ、空中で体が斜めになり、入水後、本件プールの底に頭部を打ち付け、本件傷害を負った。

(3) 久代教諭は、同日午後二時五〇分ころ、前記保護者会中に予定されていた各部懇談会を終え、本件プールに向かう準備をしていたとき、本件事故発生の連絡を受けた。久代教諭は、原告浩嗣を担架に乗せて保健室に運んだ。養護教諭が応急処置をし、同日午後三時七分ころ、救急車が要請され、原告浩嗣は間もなく相模原中央病院に運ばれた。

三本件プール及び本件スタート台について

1  本件事故当時、本件プールは、水深が本件スタート台直下で一一〇センチメートル、本件スタート台の高さが本件プールの水面から五八センチメートルであったほか、その構造が別紙図面のとおりであったことは、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、<書証番号略>、証人斎藤敬一、同久代英治、同篠崎英司及び同阿部透の各証言(ただし、証人阿部透の証言中後記採用しない部分を除く。)、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができ、右証人阿部透の証言中この認定に反する部分は、その余の前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  本件プールは昭和三八年ころ建設されたが、当初、競泳用のスタート台は設置されていなかった。昭和五八年春、本件プールに競泳用のスタート台が設置されたが、そのスタート台の高さは約一〇センチメートルであった(本件プールの水面からは約四三センチメートルとなる。別紙図面参照)。右スタート台には背泳スタート用のグリップがなかったことから、昭和六〇年春、本件スタート台が設置された。その構造は、高さが一番低いプール側の部分で二五センチメートル(本件プールの水面からは五八センチメートルとなる。)であったほか、別紙図面のとおりであった。

(二)(1)  篠崎は、昭和六〇年春、本件スタート台が設置された直後、本件スタート台から飛び込んだ際に腹部を本件プールの底に接触させたことがあった。

(2) 阿部は、昭和六〇年ころ、本件スタート台から飛び込んだ際に手の先が本件プールの底に触れそうになったことがあった。

(3) 水泳部員榎本央は、本件事故発生の直前、本件スタート台から飛び込んだ際に額を本件プールの底に接触させた。

(4) 他の水泳部員のなかにも、本件スタート台から飛び込んだ際に本件プールの底に額を接触させた者がいた。

(三)(1)  財団法人日本水泳連盟プール公認規則(一九八七年)は、その第二章で競泳公認プールの基準を定めている。

ア 同章中の第一七条(五〇メートルプール)①項において、五〇メートルプールの要目のひとつとして、水深は1.20メートル以上とする旨規定されており、同章中の第一八条(二五メートルプール)①項において、二五メートルプールの要目のひとつとして、水深は1.00メートル以上とする旨規定されている。

イ 同章中の第二三条(スタート台)②、④項において、スタート台は、水面上の高さを0.50メートル以上0.75メートル以下とすること、ただし、二五メートルプールにおいてスタート台前面の水深が1.20メートル未満となる場合には0.40メートル以上でスタート台前面の水深から0.45メートルを減じた高さ以下とする旨規定されている。

(2) 右公認規則は、その第三章で標準プールの基準を定めている。

ア 同章中の第三九条(プール長以外の要件)において、要件のひとつとして、水深は小中学校プールは0.80メートル以上、小中学校プール以外は1.00メートル以上(飛び込み事故防止・軽減の見地から、小中学校プールにあっても、水深を1.00メートル以上とすることが望ましい。)旨規定されている(右括弧書部分は、昭和五七年の改正で付加された。)。

イ 同条において、要件のひとつとして、スタート台の高さは、水面上の高さを0.21メートル以上、水深から0.55メートルを減じた高さ以下とすること、ただし、0.75メートルを超えない旨規定されている。

(四)(1)  日本学校健康会と日本体育・学校健康センターの統計によれば、昭和五〇年から昭和六〇年の間に起きた学校水泳プールの飛び込み事故は四七例であった。その内訳は、結果の態様について、脊髄損傷三六例、歯牙障害八例、死亡三例であり、発生状況について、体育の授業中二六例、課外指導中一二例、水泳部活動中五例、その他(自由遊び)四例であり、飛び込みの態様について、飛び込み台から入水三五例、飛び込み台以外(プールサイド)からの入水一二例であった。

(2) 水泳の飛び込み事故は、水泳の習熟度からすると、初心者にはほとんど見られず、むしろ比較的水泳に親しんでいる者に発生しやすく、かなり熟練した者が起こすことも少なくない。

(3) 横浜市は、昭和六三年、プールにおける飛び込み事故を防ぐという観点から、昭和五八年以前にできたコンクリート製スタート台付きプールを持つ二七六校(小学校一九四校、中学校七九校、高等学校三校)のスタート台(スタート台の高さは、小学校で台そのものが二〇センチメートル、水面上四五センチメートル、中学校で台そのものが二二センチメートル、水面上四七センチメートル。)を撤去した。

四被告の責任

1  右三の1及び2(三)の事実からすれば、本件スタート台は、前記「競泳公認プール」の基準は一応満たしているものの、「標準プール」の基準には適合していなかったと認められるから、中学校のプールに設置するスタート台として、適当であるとはいい難く、右三2の(二)及び(四)(3)の各事実を考え併せると、本件スタート台からの逆飛び込みは、一般の生徒はもちろん、水泳部員にとっても、適切な飛び込み方法をとらない場合は、頭部その他がプールの底に接触する事故を起こす危険性の度合が比較的高かったというべきである。そして、右三2(四)の(1)及び(2)のとおり、学校のプールで飛び込み事故が発生することはまれではなく、水泳の熟練者が飛び込み事故を起こすことも少なくないことに加えて、右三2(一)のとおりの経過で、昭和六〇年春、本件スタート台が設置され、本件プールにおける逆飛び込みは、本件スタート台を利用した場合、従前に比べて事故発生の危険性が増大していたといわざるを得ないことをも斟酌すれば、久代教諭には、本件事故発生の予見可能性があったことを否定できず、水泳部員に本件スタート台からの逆飛び込みをさせる場合、その練習に立ち会い、各部員の技量・経験の程度に応じ、入水角度が大きくならないような適切な飛び込み方法を具体的に指導すべき注意義務があったというべきである。

2  しかるに、前記二2(四)のとおり、久代教諭は、本件事故の当日、水泳部の練習に立ち会わず、他に事故を防止するための十分な措置をも講じていなかったのであるから、同教諭には、右注意義務に反する過失があったといわざるを得ない。もっとも、久代教諭が、従前から水泳部員らに対し、逆飛び込みの方法として「遠く浅く」と指示していたことは前記のとおりであるが、原告浩嗣においては、水泳部に入部して日が浅く、逆飛び込みの技術やその危険性についての認識が十分であったとは認め難いので、右のような指示をしたことをもって直ちに、水泳部顧問としての注意義務を尽くしたということはできない。

なお、久代教諭に本件事故の予見可能性があったことは右1のとおりであるから、この点についての被告の主張は採用することができず、また、水泳部の練習に立ち会えない場合、本件スタート台からの逆飛び込みを禁止すれば本件事故の回避が可能であったといえ、更に、本件事故は、水泳部の練習に立ち会った上で、飛び込みの前に原告浩嗣を十分指導していれば防ぎ得たといえるから、本件事故の回避不可能性についての被告の主張も採用することができない。

3 したがって、被告には、国家賠償法二条に基づく責任の点はさておき、国家賠償法一条一項に基づき、本件事故によって原告らが被った後記損害を賠償する責任がある。

五損害

1  原告浩嗣

(一)  原告浩嗣の後遺障害等

原告浩嗣が本件事故により第五頸椎を骨折し、頸髄を損傷する傷害を受け、身体障害者等級表による一級の身体障害者と認定されていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<書証番号略>、原告石井浩嗣及び同石井悟の各本人尋問の結果によれば、次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(1) 原告浩嗣は、昭和六一年五月二四日の本件事故発生後、相模原中央病院に運ばれて応急処置を受け、同月三一日、骨折部をつなぐ手術を受けた。その後、同年八月一一日まで同病院に入院し、同日、リハビリテーションを受けるため、山梨県にある春日井温泉病院に転院した。同年九月三日まで同病院に入院した後、同日、神奈川県リハビリテーション病院に転院した。同病院には、昭和六二年一月二九日まで入院し、退院後は平成二年一二月二五日まで通院した(昭和六二年五月一一日から同月二二日の間は入院)。

(2) 原告浩嗣は、本件傷害により、両手の握力がほとんどなくなり、両下肢も動かず、体温調節もうまくできなくなった。本件傷害による直腸膀胱障害のため、排尿について尿集器の常時装置を要し、排便も独力では困難で、座薬を用い、一回数時間の介助を受ける必要がある。移動には車椅子を使用する必要があるほか、右車椅子への乗り移りなどの日常生活面においても介助を必要とする状態となった。原告浩嗣の右障害はほぼ固定し、現在、回復の見込みはほとんどない。

(二)(1)  医療費 二〇三万〇四一〇円

<書証番号略>によれば、原告浩嗣は、前記(一)(1)で認定した入通院期間中の医療費として、相模原中央病院に対し、八一万五三一〇円を、春日井温泉病院に対し、一五万六二七〇円を、神奈川県リハビリテーション病院に対し、一〇五万八八三〇円を、それぞれ支払ったことが認められ、右金額を合計すると、医療費の支出によって生じた損害額は二〇三万〇四一〇円となる。

(2) 療養雑費 五五四万二二一八円

前記(一)(2)で認定した原告浩嗣の後遺障害の状態によれば、同人は、将来にわたり、紙おむつ、座薬等療養に必要な雑費を要すると認められ、その損害は一日八〇〇円が相当である。

原告浩嗣の余命を昭和六〇年簡易生命表により本件事故発生時から六一年とみて、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、本件事故当時の現価を算出すると、五五四万二二一八円となる。

800円×365(日)×18.9802=554万2218円

(円未満切捨て)

(3) 付添看護費用 三七四七万二〇八四円

ア <書証番号略>及び原告石井悟本人尋問の結果によれば、原告浩嗣は、小川衣子に対し、昭和六一年五月三一日から同年七月二八日までの看護料として、合計七〇万八七五七円を、南雲ユキエに対し、同年八月一一日から同月二〇日までの看護料として、合計一〇万八六八〇円を、三上ヤエに対し、同月二一日から同年九月二日までの看護料として、合計一三万四六二九円をそれぞれ支払ったことが認められる。

イ 前記(一)(2)で認定したとおり、原告浩嗣は、終生介助を受ける必要がある。

原告浩嗣が神奈川リハビリテーション病院から退院した昭和六二年一月二九日以降の付添看護費用については、原告悟又は同泰子が原告浩嗣の存命中最後まで同人の看護を続けることができないことが十分に予見できることなどの事情を考慮すると、職業的付添看護婦、家政婦等の付添料金を基準とするのが相当である。そして、<書証番号略>によれば、神奈川県看護婦家政婦紹介事業協会の料金(昭和六二年四月一日改正)は、看護補助者の一日(八時間)の料金が五五五〇円(食費一〇〇〇円を除く。)であるから、後遺障害の状態に照らし、この金額の限度で原告浩嗣の一日の損害と認める。

原告浩嗣の余命を前記認定のとおり、本件事故発生時から六一年とみて、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、本件事故当時の現価を算出すると、三六五二万〇〇一八円となる。

5550×365(日)×(18.9802−0.9523)=3652万0018円(円未満切捨て)

ウ 右ア及びイで認定した損害額を合計すると、三七四七万二〇八四円となる。

(4) 逸失利益 六八〇四万五五〇四円

ア 原告浩嗣の本件事故による後遺障害の状態よりすれば、同人は、労働能力を一〇〇パーセント喪失したと認めるのが相当である。なお、原告石井浩嗣及び同石井悟の各本人尋問の結果によれば、原告浩嗣は、後記のとおり、本件事故後、高等学校に入学し、卒業したが、在学中は筆記による定期試験を受けていたこと、現在、自動車の運転免許を取得していることが認められるけれども、筆記は補助具を用いてのことであり、運転免許は同人用に改造された自動車についてのものであるから、これらの事実のみでは右認定を左右するに足りず、他に同認定を覆すに足りる証拠はない。

イ 平成元年賃金センサスにおける高校卒業男子の産業計・企業規模計・年齢計の平均年収を基準にして、一八歳から六七歳までの稼働可能期間の逸失利益について、ライプニッツ方式により中間利息を控除して、本件事故当時の現価を算出すると、六八〇四万五五〇四円となる。

455万2300円×(18.4934−3.5459)=6804万5504円(円未満切捨て)

(5) 原告浩嗣の自宅における療養のための改造費等 三三〇万八九八五円

ア 本件事故による損害として、以下のものが認められ、これらを合計すると、三三〇万八九八五円となる。

a <書証番号略>及び原告石井悟本人尋問の結果によれば、原告浩嗣が車椅子で移動しやすいように、自宅を改造した費用として、九五万八〇〇〇円を要したことが認められ、これは本件事故による損害と認めるのが相当である。

b <書証番号略>及び原告石井悟本人尋問の結果によれば、原告浩嗣の自宅における療養のため、ベッド購入費一二万九三二五円、スポンジクッション購入費三万円、入浴用のシャワーチェアー購入費一三万九〇〇〇円、車椅子昇降リフターの購入費三八万五〇〇〇円、同リフター用コンクリート工事費五万六〇〇〇円を要したことが認められ、これらは本件事故による損害と認めるのが相当である。

c <書証番号略>及び原告石井悟本人尋問の結果によれば、原告浩嗣が高等学校で授業を受けるための特別製テーブルの購入費として三万八五〇〇円を要したたことが認められ、これは本件事故による損害と認めるのが相当である。

d <書証番号略>及び原告石井悟本人尋問の結果によれば、原告浩嗣が高等学校に通学する際に使用する自動車の購入費として一三三万円を要したことが認められ、これは本件事故による損害と認めるのが相当である。

e 原告浩嗣が被告及び神奈川県から自動車改造費助成一〇万円の給付を受けたこと(抗弁2(一)(2)の事実)は当事者間に争いがなく、<書証番号略>、原告石井悟本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告浩嗣は、平成元年九月、自動車を買い替えて自ら運転するための改造を加え、相当額の支出をしたことが認められるが、これに関連する費用のうち、ハンドル回旋装置の費用及び身体障害者用運転装置一式の費用として支出された合計三四万三一六〇円から右助成金で賄われたものと認め得る一〇万円を差し引いた二四万三一六〇円を本件事故によって現実に生じた損害と解するのが相当である。

イ 原告浩嗣が請求原因4(一)(5)サで主張する医療・健康用具等については、本件全証拠によっても、原告浩嗣の前記後遺障害の治療に必要なものであることを認めるには足りないから、本件事故による損害とはいい得ない。

(6) 通学交通費 三五万三四〇〇円

<書証番号略>、原告石井浩嗣及び同石井悟の各本人尋問の結果によれば、原告浩嗣は、昭和六二年四月、神奈川県伊勢原市にある私立向上高等学校に入学し、第一学年時二〇〇日、第二学年時二一〇日、第三学年時一七九日、それぞれ通学し、平成二年三月、同校を卒業したこと、通学には、原告泰子の運転する自動車を使用したことが認められるところ、通学距離、自動車の燃費等を斟酌して、右自動車使用のガソリン代のうち、一日六〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。したがって、合計三五万三四〇〇円の損害となる。

六〇〇円×五八九(日)=三五万三四〇〇円

(7) 慰謝料 二〇〇〇万円

本件事故の態様、原告浩嗣の受けた傷害の内容、治療経過、現在の後遺障害の程度、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、同人が本件事故によって被った精神的苦痛に対する慰謝料は二〇〇〇万円が相当である。

(8) 過失相殺

<書証番号略>、証人斎藤敬一、同久代英治及び同阿部透の各証言、並びに原告石井浩嗣本人尋問の結果によれば、原告浩嗣は小学校時代から水泳が比較的得意であり、大沢中学入学後も、水泳部に所属しない一般生徒の水準からすると水泳に習熟していたといえること、小学校時代も大沢中学に入学してからも、体育の正課授業で一応は逆飛び込みの指導を受けており、本件事故以前に、本件スタート台から飛び込んだ経験もあったことが認められ、これらの事実に、原告浩嗣は、本件事故当時、中学三年生として十分な事理弁識能力を備えていたというべきであるうえ、逆飛び込みの方法として、かねてより久代教諭から「遠く浅く」と指示を受けていたことをも併せ考えると、原告浩嗣にも、本件スタート台から逆飛び込みをするに当たっては入水角度が大きくならないようにするなど、適切な逆飛び込みを行うよう留意すべき注意義務があったというべきところ、前記二2(四)(2)の事故発生の状況からすれば、原告浩嗣には本件事故について右注意義務に反する過失があったといわざるを得ない。

そして、これまでに認定説示した事実関係を前提にすると、原告浩嗣の過失割合を二割とするのが相当と認められるので、右(1)ないし(7)の損害合計一億三六七五万二六〇一円について、この割合による過失相殺をすると、原告浩嗣が被告に対し損害賠償請求できる金額は、一億〇九四〇万二〇八〇円となる。

(9) 損害の填補

ア 請求原因4(一)(1)の事実のうち、日本体育・学校教育センターから給付金一三二万二〇六九円、被告から重度心身障害者医療費助成金五九万〇八九三円がそれぞれ支給されたこと、同4(一)(8)のアないしウの各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

イ 原告浩嗣が、別表(一)のとおり、障害児福祉手当六五万九六一〇円、神奈川県在宅重度障害者等手当一五万七五〇〇円、相模原市被保護者等慰問金五万七〇〇〇円の給付を、神奈川県から自動車運転免許取得費補助六万四〇〇〇円の給付を、別表(二)のとおり、公費負担及び被告の助成合計九〇万七八六三円相当の現物給付を、それぞれ受けたことは当事者間に争いがない。

しかしながら、<書証番号略>により認められる右各給付の根拠になった条例及び要綱、並びに特別児童扶養手当等の支給に関する法律によれば、右各金銭給付及び各現物給付は、いずれも、重度身体障害者の生活の安定、日常生活の利便向上、社会復帰の促進等福祉の増進を図ることを目的として支給されるものであって、本件事故による損害の填補を目的としたものとは認められないから、抗弁2のうち、原告浩嗣の損害賠償債権額から(一)の(1)、(3)及び(4)の各金額を控除することを求める主張は失当であって、採用できない。

ウ 被告の抗弁2のうち、(二)の点は、(1)ないし(3)の手当、現物給付等が、右イ記載のとおり本件事故による損害の填補を目的とするものでないばかりでなく、同(4)の助成金を含め、いまだ現実にその給付がない以上、いずれについても原告浩嗣の前記損害賠償債権額から控除するのは相当でないと解されるので、その余の点を判断するまでもなく、すべて理由がない。

エ そこで、原告浩嗣が本件損害の填補として自認する右アの給付額合計二二一六万二九六二円を前記損害賠償債権額から控除すると、八七二三万九一一八円となる。

(10) 弁護士費用 七〇〇万円

原告浩嗣が本件訴訟の追行を原告ら代理人に委任したことは、記録上明らかであり、本件訴訟の内容、経過、請求認容額その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は七〇〇万円が相当である。

2  原告悟及び原告泰子

(一)  慰謝料 各三〇〇万円

原告悟、同泰子が原告浩嗣の両親であることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、原告悟及び同泰子は、原告浩嗣が本件事故で前記認定のとおりの身体障害者となったことにより、同人の死亡に比肩するような精神的苦痛を被ったことが明らかというべきところ、右精神的苦痛に対する慰謝料は、同原告らにつき各三〇〇万円と認めるのが相当である。

(二)  弁護士費用 各三〇万円

原告悟及び同泰子が本件訴訟の追行を原告ら代理人に委任したことは、記録上明らかであり、本件訴訟の内容、経過、請求認容額その他本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は各三〇万円が相当である。

六結論

以上によれば、原告らの本訴請求は、被告に対し、本件事故による損害の賠償として、原告浩嗣については、合計九四二三万九一一八円及び内金八七二三万九一一八円(弁護士費用を除いた金額)に対する本件事故発生の日である昭和六一年五月二四日から、内金七〇〇万円(弁護士費用相当額)に対する本判決言渡しの日の翌日である平成四年三月一〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告悟及び同泰子については、各合計三三〇万円及び内金三〇〇万円(弁護士費用を除いた金額)に対する本件事故発生の日である昭和六一年五月二四日から、内金三〇万円(弁護士費用相当額)に対する本判決言渡しの日の翌日である平成四年三月一〇日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める限度で理由があるから認容すべきであるが、その余は失当として棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言については、相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官尾方滋 裁判官加々美光子 裁判官大野正男)

別紙別表(一)(二)<省略>

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