横浜地方裁判所 昭和63年(ワ)3463号 判決 1991年2月22日
原告
望月一人
ほか一名
被告
廣田久雄
ほか一名
主文
一 被告らは連帯して、原告らに対し、各金一〇二八万二五四八円及び右各金員に対する昭和六一年一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を被告らの、その余を原告らの各負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは連帯して、原告らに対し各金二九四八万三七〇七円及び右各金員に対する昭和六一年一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、事業用大型貨物自動車と衝突事故を起こして死亡した自動二輪車の運転者の相続人(両親)が、事業用大型貨物自動車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、また右車両の所有者に対し自賠法三条に基づき、人的損害について賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
1 事故の発生
(一) 日時 昭和六一年一月一八日午後四時四五分頃
(二) 場所 横浜市磯子区新森町一番地先路上
(三) 加害車 事業用大型貨物自動車(横浜八八か五五〇四)
運転者 被告廣田久雄(以下「被告廣田」という)
所有者 被告富国運輸株式会社(以下「被告会社」という)
(四) 被害車 自動二輪車(中区あ二七)
運転者 訴外望月徹(以下「徹」という)
(五) 態様等 被告廣田が加害車を運転して直進していたところ、被害車を運転して加害車の左方を進行中に転倒して道路に投げ出された徹を加害車の後輪で轢過し、即死させた。
2 相続
原告両名は徹の両親で、徹の死亡に伴い、相続により各二分の一の割合で徹の権利義務を承継した。
3 責任原因
被告会社は、加害車を所有し、これを自己の運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づく責任がある。
二 争点
1 被告廣田の過失の存否
(一) 原告らの主張
被告廣田は、片側一車線、車道幅員各三・一五メートルの本件事故現場の道路を直進するにあたり、路側帯付近を先行して進行していた被害車の右側直近を時速五〇キロメートルの速度で追い抜こうとした過失により、徹は驚愕、狼狽し、急制動の措置をとつて転倒した。
(二) 被告らの主張
徹は本件事故現場の道路の路側帯付近を走行中、先行する加害車を左側から追い抜こうとして加害車の左側部付近に達した際、制動を誤り、進行方向左側の歩道の縁石に乗り上げて転倒し、加害車に轢過されたものであり、本件事故は徹の一方的な過失により発生したものであつて、被告廣田に過失はない。
2 損害額及び過失相殺
第三争点に対する判断
一 被告廣田の過失の存否
1 証拠(甲二、五、証人永野敏彦、同栄枝等、被告廣田久雄、検証、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件事故現場の道路(以下「本件道路」という)及びその周辺の概況は、別紙交通事故現場見取図(以下「見取図」という)記載のとおりであり、本件道路はアスフアルト舗装された道路で、高さ一五センチメートルの歩道の縁石により歩車道の区別がなされ、車道部分は幅員八メートル、中央部に三〇センチメートル幅のセンターラインによつて上下二車線に区分され、両側の歩道から各七〇センチメートル幅の路側帯が設置されており、直線かつ平坦な道路であるため前方の見通しが良く、制限速度が時速四〇キロメートルに規制されている。
また本件事故現場付近には、本件道路と海(ほぼ東方)に通ずる、歩車道の区別のない幅員約一二メートル道路が直角に交差するT字路交差点(以下「本件交差点」という)があり、本件道路の歩道は交差点付近で約〇・八メートル狭められ、その分、路側帯の幅が一・五メートルと広くなつているため屏風ケ浦交差点方面に向かう車線は右交差点付近で約四一メートルにわたつて車道部分が広くなつている。
(二) 加害車の車幅は二・四九メートル、被害車のそれは〇・七五メートルであり、各車線の車道幅員は三・八五メートルであるから、加害車がセンターライン際を走行している場合にはその車線の左側部分が約一・三メートルほど間隔があるため、被害車が加害車と並進することは十分に可能である。しかし、加害車が車道の中央部を走行している場合には、その左側部分の間隔が被害車の車幅以上あつたとしても、その間隔は狭く、加害車による風圧等を考慮すると、被害車が加害車の左側を並進することは事実上不可能である。
(三) 被告廣田は、加害車を運転して、本件道路を磯子警察署方面から屏風ケ浦交差点方面に向け、同僚の永野敏彦運転の大型貨物自動車(以下「永野車」という)の前方約五〇メートル先を時速約五〇キロメートルの速度で進行していたが、被害車には全く気付かず、本件交差点を通過直後に左方からの金属音を聞き、見取図<1>地点で左後輪で何かを踏んでのを感じて、見取図<2>地点で左側のサイドミラーによつて左側後方を確認したところ、見取図×地点で転倒している徹を認め、見取図<3>地点に停止した。
他方徹は、被害車を運転して、本件道路上を被告廣田と同方向に向けて進行していたが、本件交差点に至るまでの間に永野車をその左側から追い抜いた後、加害車に追いつき、さらに屏風ケ浦方面に向かう車線の外側線付近を進行し、本件交差点中央付近に達した加害車の左側で並進状態になつた直後、本件交差点南角付近から歩道に向けて左前方に約〇・八メートルスリツプして歩道の縁石に衝突し、車道に投げ出されて見取図×地点で加害車の左後輪で頭部を轢過された。
(四) 本件道路は両車線とも広くないため、大型車同士が対向して進行する場合、互いに車線の左側寄りを走行することが多い。
ところで本件道路の磯子警察署方面に向かう車線には、本件事故現場の南方約五〇メートル付近に路線バスの停留所が設置されており、本件事故当時、路線バスの運転手は、右停留所で停車したあと発進し、事故直後対向したきた加害車と擦れ違つている。
2 以上の認定事実によれば、徹は、本件交差点手前で時速約五〇キロメートルの速度で進行している永野車をその左側からそれ以上の速度で追い抜いていき、さらに加害車に追いついて左側を並進したのであるから、永野車は追い抜かれた際にはセンターライン際を、また加害車も本件交差点中央付近まではセンターライン際を走行していたと推認される。そして、徹が加害車と並進状態になつた地点は路側帯が広くなつている場所であることに鑑みると、徹が加害車に関係なく運転を誤り、歩道の縁石に衝突するとは考え難く、本件事故当時、反対車線上には、本件交差点の右前方約五〇メートルの地点に路線バスが停車し、進行してくることが予想されたこと、被害車のスリツプ痕の位置、方向等を考慮すると、加害車が、被害車と並進状態になつたころ、進路を車道左側に変更し、そのため、徹が加害車と並進もしくは追い抜きをすることに危険を感じて急制動措置を採り、その結果歩道の縁石に衝突して本件事故に至つたものと推認される。
なお原告らは、被告廣田が被害車を追い越したために本件事故が発生したと主張するが、その根拠とする点については、いずれも単なる計数に基づく推測にすぎず、しかも本件道路のような比較的狭い道路において、先行する自動二輪車が後方からくる大型貨物自動車に漫然追い越される事態は、通常考えにくいから、徹が被告廣田に追い越されたものとは認めがたい。
ところで、被告廣田は、本件道路のセンターライン際を走行する場合、その左側に二輪車が走行できる間隔が生じ、また本件交差点手前からは前方約四一メートルにわたり路側帯が広くなつて、それ以上の間隔が生じ、左側から追い抜いてくる二輪車の存在が予想されたのであるから、進路を左寄りに変更する場合、左側方及び左後方の安全を確認して進行すべき注意義務があつたといわなければならない。
3 そうすると、被告廣田は徹を轢過するまで、徹の存在に気付いていないのであるから、右の注意義務を怠つた過失があり、これによつて本件事故が発生したものというべきである。
二 損害額について
1 逸失利益 三七六一万四五六五円
徹は、死亡当時一七歳(昭和四三年一二月一四日生)の高校生であつた(甲三、原告望月一人)から、本件事故により死亡しなければ、一八歳まら六七歳までの四九年間就労が可能であつたと認められるので、昭和六一年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計全年齢平均年収額の四三四万七六〇〇円を基礎とし、そのうち生活費として五割を控除し、ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して、逸失利益の現価を求めると、次のとおり、三七六一万四五六五円(円未満切捨)となる。
四三四万七六〇〇円×(一-〇・五)×(一八・二五五九-〇・九五二三)=三七六一万四五六五円
2 慰謝料 一五〇〇万円
本件事故の態様、事故当時の徹の年齢、その家族構成など本件訴訟に現れた諸般の事情を考慮すると、本件事故により同人の被つた精神的苦痛を慰謝するに足る金額としては一五〇〇万円を相当と認める。
3 葬儀費 一〇〇万円
徹の死亡に伴い、その葬儀がとり行われた(弁論の全趣旨)が、徹の年齢、社会的地位に鑑みると、葬儀費は一〇〇万円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
4 相続
原告両名は、徹の死亡に伴い、右損害賠償請求権(五三六一万四五六五円)を法定相続分に従つてそれぞれ二分の一ずつ相続した(各二六八〇万七二八二円、円未満切捨)。
三 過失相殺
前記一で認定した事実によれば、徹には片側一車線の道路において、狭い路側帯付近を走行して先行する大型貨物自動車に追いつき、その左側を並進もしくは追い抜こうとし、しかも制限速度を大きく超えて被害車を運転した過失があるというべきであり、前記一で認定した被告廣田の過失を彼此勘案すると、本件事故の発生についての過失割合は、被告らの加害車側が三五パーセント、徹及び原告らの被害者側が六五パーセントとするのが相当である。
そこで、原告らの前記二の4の各損害賠償請求額から右認定の過失割合に従いそれぞれ六五パーセントを減額すると、原告らの損害額は各九三八万二五四八円(円未満切捨)となる。
四 弁護士費用
本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告らが本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として被告らに求め得る額は、各九〇万円と認めるのが相当である。
五 結論
被告らに対する原告らの認容額はそれぞれ一〇二八万二五四八円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和六一年一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員となる。
(裁判官 前田博之)
別紙 <省略>