横浜地方裁判所小田原支部 昭和47年(ワ)42号 判決 1969年7月16日
原告
大橋貞雄
被告
星野普明
主文
被告は原告に対し、金二三万四百円及び内金十九万二千円に対するる昭和四十四年三月十五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その一を被告の各負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り仮りに執行することができる。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は原告に対し、金四十万円及び内金三十五万円に対する昭和四十四年三月十五日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告の使用人訴外阿部勉は昭和四十三年一月一日午前三時四十五分頃原告所有の普通乗用車四〇年型日産セドリック(以下原告車という。)を運転中、藤沢市藤沢五百六十六番地の藤沢橋方面から藤沢駅方面に向う道路と、藤沢簡易裁判所方面から藤沢銀座方面に向う道路との交差点において被告運転の普通乗用車六二年型トヨペットコロナ(以下被告車という。)と出合頭の衝突をし、原告車は大破するに至つた。
二、前記衝突事故は被告の過失によるものである。即ち、被告は被告車を運転して、藤沢簡易裁判所方面から藤沢銀座方面に向つて進行中、前記交差点に差しかかつたが、右交差点は左右の見通しの悪い交差点であるから一時停止或いは徐行して左右の安全を確認の上進行しなければならない注意義務があるのにかかわらず、被告は右義務を怠り、漫然時速四十粁以上の速度のまま進行した過失により、折から藤沢橋方面から藤沢駅方面に向つて進行中の原告車の右前車輪側面に衝突させ、よつて原告車を破損させた上交差点の南側にある訴外沼上治郎所有の店舗に突入させた上同人の店舗並びにマツダ普通乗用車を破損させたものである。従つて、被告は民法第七百九条に基き、原告に対し、本件事故により原告が蒙むつた損害を賠償する義務がある。
三、本件事故により原告が蒙むつた損害は次のとおりである。
(一) 原告所有の原告車は時価最底に見積つても金四十万円以上ものであるが、本件事故により全損となり、原告は金四十万円の損害を蒙むつた。
(二) 訴外沼上治郎所有の店舗及びマツダ普通乗用車を破損した損害金三十万円を原告は昭和四十三年八月末日までに支払い、同額の損害を蒙むつた。
(三) 原告は本件事故による損害賠償の請求を訴訟で解決しなければならなくなり、右訴訟代理を原告代理人神田洋司弁護士に委任し、その費用として金五万円の支払を約束したから、原告は同額の損害を受けた。
四、しかしながら本件事故発生については原告の使用人訴外阿部勉にも過失があり、その割合は五割とみるのが妥当であるから、前記(一)、(二)の損害について過失相殺をすれば、被告が支払うべき損害はその半額の金三十五万円である。
五、よつて、原告は被告に対し、前記損害合計金四十万円及び内金三十五万円に対する事件事故後である昭和四十四年三月十五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり判決する。
原告主張の請求原因一の事実は認める、同二の事実中、被告が被告車を運転して、藤沢簡易裁判所方面から藤沢銀座方面に向つて進行し、本件交差点に差しかかつたことは認めるがその余の事実は否認する。被告は右交差点において左右の安全を確認し、時速十粁に減速し、右交差点に進入したところ、訴外阿部勉は原告車を運転し、藤沢橋方面から藤沢駅方面に向つて進行し、本件交差点に差しかかつたが、右交差点には一時停止の標識があるにもかからず、一時停止をせず時速六十粁以上の速度で交差点に進入したため、被告車の右前部に衝突し、勢あまつて訴外沼上治郎所有の店舗に突入したものであり、従つて、被告には過失がなく、本件事故は専ら、原告の使用人訴外阿部勉の過失に基くものである。同三の事実は不知、同四の事実は否認する。前記のとおり本件事故発生については被告には何らの過失もない。以上の次第で原告の本訴は失当として棄却さるべきである。証拠関係〔略〕
理由
原告主張の請求原因一の事実については当事者間に争いがない。
〔証拠略〕によれば、右認定のとおり本件事故現場は前記藤沢橋方面から藤沢駅方面に通ずる道路(以下甲道路という。)と、藤沢簡易裁判所方面から藤沢銀座方面に通ずる道路(以下乙道路という。)とがほぼ直角に交わる交通整理の行なわれていない見透の悪い交差点であり、甲道路は幅員六・四米のアスフアルト舗装の道路で公安委員会が最高速度を時速三十粁に指定し、かつ交差点の手前には同委員会の一時停止の標識が設置されていること、乙道路は幅員七米のアスフアルト舗装の道路であることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。
〔証拠略〕を総合すれば、原告の使用人訴外阿部勉は本件事故当日初詣を兼ねて熱海までドライブするため乗用車二台に分乗し、同訴外人は原告車に友人の訴外高野信之、同潮田哲夫を乗せて運転し、江の島を経て熱海に向うべく時速四十粁以上の速度で甲道路を進行し、本件交差点に差しかかつたが、同訴外人は右道路を初めて通行するため、江の島に出るにはどのように進行したらよいかということばかりに気をとられて、右公安委員会の速度制限、一時停止の標識に気付かず、交差点の手前で一時停止することなく、前記速度のまま本件交差点に進入したところ、原告車より僅かに早く、左方乙道路から右交差点に進入していた被告車を左斜前方約六・六米の地点に発見し、危険を感じ、急ぎハンドルを右に切つたが間に合わず、原告車の左前部を被告車の右前部に衝突させてそのまま約八米前進し、訴外沼上治郎方店舗に突込み停止したこと、被告車は時速約四十粁で乙道路を進行し、本件交差点に差しかかり、原告車より僅かに早く、そのままの速度で交差点に進入したが、右方甲道路から交差点に進入して来た原告車を認め、危険を感じ急ブレーキをかけたが間に合わず、右のとおり衝突したものであることが認められる。〔証拠略〕中右認定に反する部分はたやすく措信できなく、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。
右各認定の事実によれば、甲道路は公安委員会が最高速度を時速三十粁に制限し、かつ交差点の手前には一時停止の標識が設置されていたのであるから、訴外阿部勉は右交差点の手前で減速し、且つ一時停止すべき注意義務があり、更に左方道路から被告車が原告車より僅かに早く交差点に入つていたのであるから、右訴外人は被告車の進行を妨げてはならない注意義務があるのにかかわがず、訴外阿部勉は右各注意義務を怠り、本件交差点に進入したものであるから、本件事故は同訴外人の過失によるものといわなければならない。しかしながら、本件交差点は交通整理の行なわれていない見透の悪い交差点であるから被告は右交差点に入るには徐行しなければならない注意義務があるにもかかわらず、被告は右注意義務を怠り、本件交差点に進入したものであるから、本件事故発生については被告にも又過失があつたものといわなければならない。そして、右過失の程度は訴外阿部勉が七、被告が三の各割合と認定するのが相当である。
右のとおり、本件事故発生について被告に過失があつた以上被告は民法第七百九条により本件事故により原告が蒙むつた損害を賠償する義務があるから、原告が蒙むつた損害額につき判断する。
〔証拠略〕によれば、本件事故により原告車は大破し、修理不能な状態になつたこと、しかして、本件事故当時の原告車の時価は金四十万円を下らないものであつたこと、原告は原告車が使用できなくなり、他の自動車を購入したが、その際、原告車を金六万円で下取りして貰つたことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。従つて、原告は原告車の破損により金三十四万円の損害を蒙むつたものというべきであるところ、訴外阿部勉にも前記のとおり過失が認められ、原告は右訴外人の使用者であるから、右損害につき右訴外人の前記過失を斟酌するのが相当であり、右過失を斟酌すれば、原告の右損害中、被告に対し請求できる限度は右の三割金十万二千円と認めるのが相当である。
〔証拠略〕によれば、原告車は本件事故により訴外沼上治郎方店舗に突込み、右店舗の一部及び同店舗内に駐車していた右訴外人所有の自動車を破損したため、原告は右訴外人に対し、右破損による損害賠償として昭和四十三年八月末日までに金三十万円を支払つたことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。しかして、本件事故は訴外阿部勉及び被告間の共同過失によつて惹起されたものであるから、訴外阿部勉の使用者である原告も、右訴外人とともにいわゆる共同不法行為者として被害者である訴外沼上治郎に対し、その損害を賠償する立場にあるものであるから、原告の被告に対する右損害の請求は共同不法行為者の一人である被告に対し求償権を行使するものであると解されるところ、前記訴外阿部勉、被告の各過失の程度を斟酌し、右金員のうち、被告の負担部分はその三割の金九万円と認めるのが相当である。従つて、原告は被告に対し、右金九万円の限度において請求し得るに過ぎないものといわなければならない。
原告が本件事故による損害賠償を請求するため、弁護士神田洋司に訴訟代理を委任し、同弁護士が原告代理人として昭和四十四年三月三日横浜地方裁判所小田原支部に本件訴訟を提起し爾来本件訴訟を遂行して来たこと、右請求金額が金四十万円であることは本件訴訟の経過に徴し明らかである。しかして、原告本人尋問の結果により認められる、原、被告間の示談交渉の経過に照らし、本件訴訟は素人である原告自身において遂行することは必ずしも容易なものではなく、弁護士に委任してこれを遂行しなければ、その目的を達することは因難であつたものと認められるから、原告が本件訴訟を前記弁護士に委任した結果、同弁護士に対し負担するに至つた報酬支払の債務はその相当額と認められる範囲において、本件事故に起因するもので、これと相当因果関係の範囲内にあるものというべく、被告はこれを賠償する義務がある。そして、〔証拠略〕によれば、原告は神田弁護士に対し、金五万円の報酬を支払うべき旨約束したことが認められるが、日本弁護士連合会報酬等基準規程に照らし、相当額と認められる報酬額は前記認定額の金十九万二千円に対する二割の割合による金三万八千四百円と認める。
そうだとすれば、被告は原告に対し、自動車破損による損害として金十万二千円、求償金として金九万円、弁護士に対する報酬として金三万八千四百円以上合計金二十三万四百円及び内金十九万二千円に対する本件事故後である昭和四十四年三月十五日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務あることが明らかであるから、原告の本訴請求は右義務の履行を求める限度において正当として認容すべく、その余の請求は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 青山惟通)