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横浜地方裁判所川崎支部 平成13年(わ)165号 判決 2001年12月17日

主文

被告人両名をそれぞれ懲役14年に処する。

被告人両名に対し,未決勾留日数中各160日を,それぞれその刑に算入する。

理由

(罪となるべき事実)

第1被告人両名は,指定暴力団甲会甲川家の構成員であるが,同甲川家の川崎市内における縄張りである不正権益を維持する目的で,同じ川崎市内を活動拠点とする暴力団乙会乙川家が指定暴力団丙会へ加入することを阻止するため,同乙川家構成員を射殺しようと企て,氏名不詳者数名と共謀の上,法定の除外事由がないのに,平成13年3月16日午後9時5分ころ,川崎市a区b町c番地d所在のeビル前路上において,上記乙川家乙山組構成員であるC(当時31歳)及び同D(当時32歳)に対し,所携の自動装てん式けん銃3丁及び回転弾倉式けん銃2丁で弾丸十数発を発射し,上記Cの右側頭部等に6発を,上記Dの腹部等に5発を命中させたが,上記Cに対し,加療約7週間を要する右側頭部銃創等の傷害を,上記Dに対し,加療約7週間を要し,歩行障害の後遺症を残す可能性のある腹部銃創等の傷害をそれぞれ負わせたにとどまり,もって不特定若しくは多数の者の用に供される場所においてけん銃を発射するとともに,団体の不正権益を維持する目的で人を殺そうとしたが,その目的を遂げなかった

第2被告人両名は,氏名不詳者数名と共謀の上,法定の除外事由がないのに,上記日時ころ,上記場所において,上記けん銃5丁をこれに適合する実包十数発と共に携帯して所持した

第3被告人Aは,法定の除外事由がないのに,同月27日午前11時17分ころ,川崎市a区f町g番地所在の神奈川県F警察署において,回転弾倉式けん銃1丁(横浜地方検察庁川崎支部平成13年領第456号の1)及び自動装てん式けん銃1丁(同号の2)を所持したが,その際,警察官に同けん銃2丁を提出して自首した

第4被告人Bは,法定の除外事由がないのに,同日午前11時18分ころ,上記警察署において,回転弾倉式けん銃1丁(同第457号の1)及び自動装てん式けん銃1丁(同号の2)を所持したが,その際,警察官に同けん銃2丁を提出して自首したものである。

(証拠の標目)省略

(事実認定の補足説明)

1  弁護人は,判示第1の犯行(以下「本件犯行」という。)について,被告人両名は,被害者らの態度に立腹したため,けん銃を発射させ,殺人未遂行為に及んだのであって,かかる行為に及ぶに当たって,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」という。)3条2項に定める「団体の不正権益を維持する目的」はなかった旨主張し,被告人両名も当公判廷において,これに沿う供述をするので,当裁判所が,本件犯行について,団体の不正権益を維持する目的で行われたものであり,同法4条,3条2項,1項3号に該当することを認定した理由を説明する。

2  まず,「団体」とは,共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって,その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき,あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体)により反復して行われるものであるところ(組織犯罪処罰法2条1項),被告人両名が所属する暴力団甲会甲川家(以下「甲川家」という。)が,かかる「団体」に該当することについて,以下検討する。

関係各証拠によれば,甲川家は指定暴力団甲会(以下「甲会」という。)の下部組織(2次団体)であるが,甲川家構成員は,川崎市内において,甲川家の構成員であることを告げ,所属する組の威力を背景にして,飲食店や風俗店等に対し,みかじめ料や寄付金の要求等を繰り返し行うなどして資金源とするほか,債権回収,ノミ行為,競売妨害等をも行って資金源とし,所属する組には上納金を納めていること,甲川家は被告人両名の属する甲山組などの傘下団体を擁し,それらの傘下団体の事務所はほとんどが川崎市内にあって,準構成員も含め約677名の構成員を有し,組長,幹事長,若頭,補佐等の役職を階層的に構成していることが認められる。そうすると,甲川家は,暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることを共同の目的としており,前記の性質を有する「団体」に該当するというべきである。

このことは,甲川家の上部組織である甲会が,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律3条に基づき,当該暴力団の暴力団員が当該暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成又は事業の遂行のための資金を得ることができるようにするため,当該暴力団の威力をその暴力団員に利用させ,又は当該暴力団の威力をその暴力団員が利用することを容認することを実質上の目的とする(同条1号)ことや,当該暴力団の代表者等の統制の下に階層的に構成されている団体である(同条3号)ことの要件などを満たしているとして,東京都公安委員会により指定暴力団として指定されており,それに対して同法37条1項に基づく不服申立もなされていないこと,甲川家は甲会の下部組織(2次団体)であることからも裏付けられる。

3  次に,「不正権益」とは,団体の威力に基づく一定の地域又は分野における支配力であって,当該団体の構成員による犯罪その他の不正な行為により当該団体又はその構成員が継続的に利益を得ることを容易にすべきものであるところ(組織犯罪処罰法3条2項),前記認定のとおり,甲川家は被告人両名の属する甲山組などの傘下団体を擁し,それらの傘下団体の事務所はほとんどが川崎市内にあること,甲川家構成員は,川崎市内において,甲川家の構成員であることを告げ,所属する組の威力を背景にして,飲食店等にみかじめ料等の要求を繰り返し行うなどして資金を獲得しているほか,同じく川崎市内で債権回収,ノミ行為,競売妨害等を行って資金を獲得していることからすると,甲川家は,川崎市内について,これをいわゆる縄張りとして,正当な権原がないにもかかわらず自己の権益の対象範囲としていると認められ,川崎市内において「不正権益」を有しているというべきである。

4  そこで,被告人両名が,本件犯行に及ぶに際し,以上のような甲川家の「団体の不正権益を維持する目的」を有していたかについて,以下検討する。

(1)  背景事情と経緯

関係各証拠によれば,次の事実が認められる。

① 暴力団乙会乙川家(以下「乙川家」という。)は,古くから,川崎市内を主要な縄張りとして活動する団体であるが,後に進出し,同じく川崎市内を縄張りとする甲川家と比較して力関係においてはるかに劣っていたため,その主要資金源は賭博やノミ行為に限定されている状況であるなど資金獲得活動は低調であり,これまで甲川家との間で抗争は起きなかった。

しかしながら,暴力団乙会(以下「乙会」という。)が解散し,解散後は乙川家も含めてその残党が指定暴力団丙会(以下「丙会」という。)の傘下団体に加入するという話が持ち上がり,甲川家側にもその話が伝わるに至った。

乙川家の下部組織である乙山組組長と同じく下部組織の乙田組組長が,平成13年3月8日,甲川家総長に報告したいことがある旨の連絡をし,甲川家本部長甲田組組長と甲川家幹事長甲山組組長とが会ったところ,乙川家が丙会の傘下に入ることを報告したいとのことであったため,甲川家側としては,かかる報告はこの場では受け入れられないと申し向けた。前記甲山組組長は,甲川家は,古くから川崎市内にある乙川家の乙山組及び乙田組と共存共栄を図り,大きなトラブルもなくお互い稼業をしていたものであるが,甲川家の縄張りとする川崎管内に丙会が進出することは絶対に看過できないので,今後はこの件を最大の案件として,丁会も入れ,じっくりと話し合いを持ち解決していく意向を持っていた。丁会とは,関東地区を縄張りとする組長等が会して毎月20日前後に開催される会合であり,平成13年3月17日に開催される予定であった。

ちなみに,丙会も,甲会と同様,東京都公安委員会の指定する指定暴力団で,その構成員は約6300人にも上り,仮に,乙川家が丙会の傘下に入った場合には,川崎市内において,従前は甲川家に支払われていたみかじめ料等が丙会に支払われるという事態の出現等,将来的には甲川家の縄張りが浸食される可能性が存在した。乙会が解散し,乙川家も含めた乙会が丙会に入り,近々,その正式発表があるという情報は,同月14日ころ,甲川家の組員の間に広まっており,被告人両名もこれを耳にしていた。

② 同月16日午後9時ころに発生した器物損壊事件を始めとして,翌17日午後3時50分ころまでの間,本件犯行を含めて,乙川家関係者・関係場所への襲撃が11件発生した。そのうち犯人が判明したのは3件で,いずれも甲川家の組員であり,それぞれ警察に出頭した際に,各自の犯行に使用したものであるとしてけん銃を提出し,これらの襲撃に使用されたけん銃のうちには共通するものがあった。したがって,同月16日から17日にかけて発生した乙川家の関係者に対する11件の襲撃は相互の連絡のもとに実行されたものと考えるのが合理的である。

③ 上記の襲撃の後,乙川家は,丙会の傘下に入ることなく,甲会の傘下に入り,甲会戊川家となったため,甲川家が川崎市内において有する縄張りは,何ら浸食されなかった。

(2)  甲山組組員の認識

以上のとおり,本件犯行当時,乙川家らが丙会に入った場合には,甲川家の重要な収入源である川崎市内の縄張りが浸食される可能性が存在したこと,乙川家らが丙会に入ることが近々正式に発表されるという情報は平成13年3月14日ころには甲川家の組員の間に広まっており,被告人両名も知っていたと認められること,甲川家側は同月8日に乙川家らの丙会入りの報告を受けることを拒絶し,甲山組組長は同月12日に甲会の縄張りである川崎への丙会の進出は絶対に看過できないとの意向を対外的に表明していたと認められることなどの客観的状況を総合すると,本件犯行当時,被告人両名を含む甲山組組員らは甲山組組長の意向を理解し,同様の気持ちを抱いていたと推認するのが合理的である。

(3)  本件犯行状況

本件犯行に関する被害者C及び同Dの各供述は,(ア)帽子を目深にかぶり,ウインドブレーカー姿ないしジャージ姿の男が少なくとも3人は犯行現場にいたこと,Cがその中に割って入ったこと,うち一人が腹の辺りから何かを取り出すような仕草をしたこと,その仕草を見てCがその男に飛びかかっていくと同時にけん銃で撃たれたことなど,犯行状況に関する重要な点において,両名の供述が一致している上,(イ)犯行現場は周囲に街路灯があって明るかったから,犯行時,少なくとも3人の男が,帽子をかぶり,けん銃を持っていた状況を目撃できたとするEの目撃供述とも齟齬がないこと,(ウ)供述内容に不自然,不合理な点は見られず,その信用性を疑わせるような事情は存在しないことなどからすると,十分信用するに値するというべきである。

したがって,本件犯行は,少なくとも3人の男が犯行現場におり,うち一人(後に記載する被告人両名の供述によれば,この者は被告人Bと認められる。)がまず腹の辺りから何かを取り出すような仕草をし,その仕草を見たCがその男に飛びかかっていくと,けん銃で撃たれたといった状況からして,被告人両名が先制して攻撃を仕掛けたものと考えるのが合理的である。

(4)  結論

以上に加えて,本件を含む乙川家の関係者への上記丁会で乙川家らの丙会入りが報告される予定であった同月17日の前日である同月16日から17日にかけての2日間という短期間に,乙川家の関係者・関係場所への襲撃が,本件犯行を含めて11件も立て続けに引き起こされ,上記のとおりこれらの襲撃は相互の連絡のもとに実行されたと考えられること,被告人Aは甲会理事で甲山組若頭補佐という幹部の地位にあって,約15年にわたり暴力団に所属していること,被告人Bも甲山組幹事で,被告人Aと比較すると組内での地位は低いとはいえ,本件犯行当時既に4年以上も暴力団に所属していた者であること等の事情を併せ考えると,本件犯行は,被告人両名が,乙川家の丙会入りを認識し,それを阻止して甲川家の縄張りを守る目的で,一連の甲川家による乙川家に対する襲撃の一環として行ったものと認めるのが相当である。

(5)  以上の認定に反する被告人両名の各供述についてみるに,(ア)被告人Aは,当公判廷において,突如として,不良外国人の警備のためにけん銃を持ち出したこと,乙山組組員が挨拶をしなかったことに立腹してけん銃を発射したこと,Bは相手に倒されてからけん銃を取り出したことを供述するが,捜査段階においては,当初から,けん銃を持ち出したのは乙川家にけん銃を撃ち込んで丙会入りを阻止し,甲川家の縄張りを守ろうと思ったためであり,Bは相手から攻撃される前にけん銃を取り出そうとした旨供述していたものであるところ,このように供述を変遷させる理由について何ら説明がないこと,乙山組組員の挨拶のないことに立腹したためけん銃を発射したという点は既に自己の刑責の軽減を意図してBとの間で話を合わせた旨供述すること,Bがけん銃を取り出した状況についての変遷後の供述はC及びDの各供述と矛盾することなどからすると,当公判廷における供述は到底信用することができない。(イ)被告人Bは,当初の捜査段階において,甲川家の縄張りを守るために本件犯行に及んだ旨供述する部分あるも,その後ほぼ一貫して,乙山組の組員の態度に立腹したことが原因である旨供述する。しかしながら,被告人Bがけん銃を握って取り出そうとした時期については,犯行状況に関する重要な部分でありながら,供述を変遷させ,しかもその変遷の理由は説明されていないこと,犯行現場にいたのは自分と被告人Aであると供述し,C,D,目撃者らの供述と明白に矛盾することなどからすると,被告人Bの供述も到底信用できないというべきである。

(6)  以上によれば,前述(4)のとおり,本件犯行が乙川家の丙会入りを阻止して甲川家の縄張りを守るために敢行されたものと認めるべきであるから,被告人両名は,本件犯行に及ぶに際し,「団体の不正権益を維持する目的」を有していたというべきである。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は,被告人両名につき,判示第3及び第4の犯行について刑法上の自首(刑法42条1項)が成立し,刑を減軽すべきである旨主張するので,検討するに,被告人両名は,犯行が捜査機関に発覚する前に,判示第3及び第4に係るけん銃各2丁をそれぞれ携帯して警察署に出頭し,これらを警察官に提出したものであるから,判示第3及び第4の犯行については,刑の必要的減免を定める銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)31条の5所定の自首及び刑法上の自首の成立を認めることができるが,銃刀法の自首減軽に加えて,刑法上の自首による減軽をすることは,本件事案の性質,自首の動機,その時期,その態様等諸般の情状に照らして相当ではない。

(法令の適用)

罰条

判示第1の所為のうちけん銃発射の点

被告人両名につきそれぞれ包括して刑法60条,銃刀法31条,3条の13

組織犯罪処罰法違反の点

被告人両名につきそれぞれ被害者ごとに,いずれも刑法60条,組織犯罪処罰法4条,3条2項,1項3号(刑法199条)

判示第2の所為

被告人両名につきそれぞれ包括して刑法60条,銃刀法31条の3第2項,1項,3条1項

判示第3(被告人A)及び第4(被告人B)の各所為

いずれも,包括して同法31条の3第1項,3条1項

科刑上一罪の処理

判示第1の罪について

被告人両名につきそれぞれ刑法54条1項前段,10条(けん銃の発射とC,Dに対する各組織犯罪処罰法違反の行為とはそれぞれ1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,結局以上を一罪として刑及び犯情の最も重いDに対する組織犯罪処罰法違反の罪の刑で処断)

刑種の選択

判示第1の罪について

被告人両名につきそれぞれ有期懲役刑

法律上の減軽

判示第3(被告人A)及び第4(被告人B)の各罪について

銃刀法31条の5,刑法68条3号(自首)

併合罪の処理

被告人両名につきそれぞれ同法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第1の罪の刑に同法14条の制限内で法定の加重)

未決勾留日数の算入

被告人両名につきそれぞれ同法21条

訴訟費用の不負担

被告人両名につきそれぞれ刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

1  本件は,川崎市内を縄張りとして活動する甲川家甲山組に所属する被告人両名が,同じく同市内を縄張りとする乙川家の丙会入りを阻止して甲川家の同市内における縄張りを維持するため,乙山組に所属する組員2名を射殺しようとして,適合実包入りのけん銃5丁を携帯して乙山組事務所近くに赴き,公道上で,弾丸十数発を発射させて,乙山組組員2名に判示の重傷を負わせたが,殺害するに至らず(判示第1及び第2の各事実),後日,けん銃各2丁を所持して警察署に出頭し(判示第3及び第4の各事実),これらを警察官に提出して自首したという事案である。

2  被告人両名に共通の事情

けん銃の発射,組織犯罪処罰法違反等の事案(判示第1及び第2)について,その動機,目的等は,既に認定したとおり,乙川家の丙会入りを阻止して甲川家の川崎市内における縄張りを守るという点にあるが,縄張りという概念自体,何ら正当な権原がないにもかかわらず,自己の権益の対象範囲として設定するものであることに照らすと,暴力団特有の理屈,発想に基づくもので,極めて反社会的であり,全く酌量の余地はない。

被告人両名は,少なくとも5丁ものけん銃と実包十数発を携帯して判示第1及び第2の犯行に赴いていること,被害者両名に対し極めて至近距離から弾丸十数発を発射させたものであって,強固な確定的殺意が窺われること,しかも,午後9時過ぎという時間帯に,飲食店等が建ち並び,人通りのある繁華街の路上で,けん銃の弾丸十数発発射させるというのは,一般人に致死傷等の被害が生じる危険性も極めて高いことからすると,その犯行態様は悪質で危険極まりない。

その結果,Cは6発の弾丸を右側頭部等に受け,判示の重傷を負って,左腕にしびれを感じ,左中指と左親指の指先を曲げることのできないという後遺症を被り,しかも,幸いにも死亡には至らなかったものの,弾丸のうち1発は右側胸部中央付近に当たったため,Cが防弾チョッキを着用していなかったなら,弾丸が体内に入って肺や心臓等の内臓あるいは大動脈などを損傷して致命傷になっていた可能性があったし,Dは5発の弾丸を腹部等に受け,判示の重傷を負って,骨盤の骨折等のため腰の辺りから左足にかけて痛みを感じ,歩くときには杖をつく必要があるという後遺症を被り,しかも幸いにも死亡には至らなかったものの,弾丸が腹部に命中していたため,弾丸が腹腔内で血管を切断していた場合には致命傷になっていた可能性があったのであって,誠に重大であるといわざるをえない。もちろん,近隣住民及び一般社会に大きな恐怖感や不安感を与えたことはいうまでもない。

また,被告人両名は,けん銃の発射,組織犯罪処罰法違反の行為等に及んだ動機,目的について,公判廷において,あくまでも,被害者両名の態度に立腹したためであると供述するなど,その供述態度からすると,真摯な反省態度が見られない。

他方,被告人両名は,けん銃各2丁を所持して警察に出頭したこと,被害者両名に対して弁護人を通して謝罪し,示談が成立したこと,被害者両名も被告人両名を宥恕し,刑が減軽されて可能な限り寛大な軽い刑となることを嘆願する書面を提出していること,被告人両名は所属する暴力団を脱退する旨の意思を表明し,暴力団組長の承認を得ていることなど,酌むべき事情も認められる。

3  被告人Aについての事情

被告人Aは,約15年にわたり暴力団員として活動し,本件当時は甲会理事,甲川家甲山組の若頭補佐として活動していたものであり,その犯情は悪い。

他方,被告人Aは,前科2犯あるもいずれも10年以上前のものであること,当公判廷において,友人が被告人Aの社会復帰後は一緒に飲食店を経営したい旨述べること,被告人Aも社会復帰後は正業に専念するつもりであり,本件により市民及び被害者等に迷惑をかけたことを反省している旨述べることなど酌むべき事情がある。

4  被告人Bについての事情

被告人Bは,約5年にわたり暴力団員として活動し,本件当時は,甲川家甲山組の幹事として活動していたものであり,その犯情は悪い。

他方,被告人Bは,前科としては罰金前科1犯のみであること,当公判廷において,被告人Bの母親が他の兄弟とともに監督し更生させたい旨述べること,被告人Bも社会復帰後は兄弟とともにとび職人として働くつもりである旨述べるとともに,本件により被害者らに迷惑をかけたことを申し訳なく思い,二度とこのような事件を起こさないようにする旨述べることなど酌むべき事情がある。

5  以上の諸事情を総合考慮し,被告人両名に対しては主文の刑に処するのが相当であると判断した。

(求刑 被告人両名に対しそれぞれ懲役17年)

(裁判長裁判官 中島肇 裁判官 髙木順子 裁判官 大野昭子)

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