大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所川崎支部 平成23年(ワ)103号 判決 2012年6月22日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告の平成22年11月11日開催の臨時株主総会におけるAを取締役に選任する旨の決議を取り消す。

2  被告の平成22年11月11日開催の臨時株主総会におけるAを代表取締役に選任する旨の決議を取り消す。

3  被告の平成22年11月11日開催の臨時株主総会における「当会社は、本店を川崎市高津区に置く」旨の定款変更決議及び「本店を川崎市高津区溝口<以下省略>に移転する」旨の決議を取り消す。

第2事案の概要

本件は、被告の株主(株式の準共有者)である原告が、被告に対し、被告において開催した臨時株主総会で行われた決議について、招集通知漏れ等の招集手続の法令違反、定足数不足等の決議方法の法令違反の瑕疵があるとして、会社法831条1項1号に基づき、上記決議の取消を求めている事案である。

1  前提事実(証拠を摘示しない事実は、当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 被告は、青果物の販売を業とする、資本金300万円、発行済株式3000株の特例有限会社である。

イ 原告は、被告の株式2000株を有する株主であったB(以下「B」という。)の妹である。

(2)  Bの死亡と相続、現状の株主構成

ア 被告の発行済株式3000株については、2000株をBが、1000株をBの妻であるC(以下「C」という。)が、各所有していたところ、Bは、平成19年9月20日に死亡した。

イ Bの相続については、別紙相続関係図のとおりであり、結局、Bのいずれも妹である原告及びD(以下「D」という。)の2名が共同相続人となったが、分割協議未了のため、上記Bの株2000株(以下「B株式」という。)は、原告とDの持分2分の1ずつの準共有状態にある。

ウ 以上により、現状の被告の株主構成は、以下のとおりである。

(ア) C 1000株保有

(イ) 原告及びD 2000株を準共有

(3)  臨時株主総会の開催及び決議内容

ア 被告は、平成22年11月9日付の原告宛に発せられた「臨時株主総会のご案内」なる書面(以下「本件招集通知」という。)により、同月11日に被告の臨時株主総会を開催する旨原告に通知した。

これに対し、原告は、同月11日付通知書により、被告に対し、上記臨時株主総会には都合により出席できない旨及び同月11日に上記臨時株主総会を開催しても無効である旨伝えた。

イ 被告は、本件招集通知のスケジュールのとおり、平成22年11月11日に臨時株主総会を開催し(以下「本件総会」という。)、①A(以下「A」という。)を取締役として選任する旨、②Aを代表取締役として選任する旨、③定款を変更して、本店を川崎市高津区溝口に置く旨の定款変更及び本店を川崎市高津区溝口<以下省略>に移転する旨の各決議(以下「本件決議」という。)を行い、同日及び同月16日にその旨の登記がされた。

ウ 本件総会の議事録によれば、本件決議にあたっての、議決権数・定足数・出席株主数等の状況は以下のとおりであった。

(ア) 発行済株式総数 3000株

(イ) この議決権を有する総株主数 2名

(ウ) この議決権の総数 3000個

(エ) 本日出席株主総数(委任状出席含む) 2名

(カ) この議決権の個数 3000個

(4)  原告は、本件総会に欠席し、委任状も提出していない。したがって、出席株主総数が2名であれば、議長兼議事録作成者とされているCが実際に出席し、Dが委任状による出席ということになる。

2  争点(本件決議に取り消すべき瑕疵事由があるか。)

(原告の主張)

(1) 招集通知漏れ

Dに対する招集通知がされていない。よって、招集手続が法令に違反している。

(2) 招集通知の期間不足

被告会社から原告宛の本件総会招集通知は、本件総会開催日の2日前の11月9日に発せられているところ、被告の場合、招集通知は会日の1週間前までに発しなければならないから、招集通知の期間が不足している。なお、Dに対して、被告の主張のとおり招集通知が11月8日に発せられているとして、これを基準に招集通知の期間の不足の点をみるとしても、原告に対する招集通知の期間が不足しているとみるべきことに変わりはない。よって、招集手続が法令(会社法299条1項)に違反している。

(3) Dの委任状の未提出

Dから、法定の要件を充足した委任状が提出されていない。よって、決議の方法が法令(会社法310条1項)に違反している。

(4) 定足数不足

ア Dが欠席し、委任状が提出されていないのであれば、本件総会は定足数(会社法309条1項)を充たしていない。よって、決議の方法が法令に違反している。

イ 仮に、Dから委任状が提出されたとしても、以下のとおり、Dの議決権行使は認められず、本件総会は定足数(会社法309条1項)を充たしていないことになる。よって、決議の方法が法令に違反している。

(ア) 議決権の行使及びその委任は、管理行為であるから、準共有者であるDが単独でこれをすることはできない。したがって、Dには、E(Bの実兄、以下「E」という。)に議決権行使を委任する権限はないから、上記委任は無効であり、議決権の代理行使は認められない。また、同代理人による本件総会での議決権行使も認められない。

(イ) 仮に、議決権の代理付与の点で問題がないとしても、株式が準共有状態にある場合には、共有者は、当該株式についての権利行使者を一人と定め、会社に対し、そのものの氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についてその権利を行使することはできないとされている(会社法106条)。ところが、B株式を準共有している原告とDについては、この権利行使者の定めも、被告に対する通知も、原告とDとの間の協議も、何らされていない。したがって、Dは、本件B株式について、議決権を行使することはできない。

(5) 原告は、上記(1)ないし(4)の瑕疵を理由に、会社法831条1項1号に基づき、本件決議の取消を求める。

(被告の主張)

(1) 原告の主張(1)は争う。Dに対する招集通知は、平成22年11月8日に、被告の使者であるEがD方を訪れ、口頭で、株主総会の日時、場所及び会議の目的事項を伝えて、行われた。

(2) 原告の主張(2)のうち、被告会社から原告宛の本件総会招集通知は、本件総会開催日の2日前の平成22年11月9日に発せられているところ、被告の場合、招集通知は会日の1週間前までに発しなければならないから、招集通知の期間が不足していることは認め、その余は争う。

原告とDは、B株式につき、会社からの招集通知を受領する物の指定・通知をしていない準共有者であるから、招集通知は、原告とDのいずれか一方だけに発すればよい。準共有者のうちの任意の一人に対する通知は全員に及ぶからである。そして、Dへの招集通知は上記アのとおり平成22年11月8日に発せられているから、決議取消事由の存否の判断について問題とすべきはDへの招集通知の日付であって、原告へのそれではないから、原告への招集通知が法定期間に足りないことを理由とする原告の瑕疵事由の主張はその前提を欠くものとして失当である。

なお、上記のDへの招集通知の日を基準としても、会日の1週間前という法定の要件は充たさない。しかしながら、原告が、本訴で提起した決議取消事由は原告への招集通知が法定期間に足りないことを理由とするものであるところ、原告が、Dへの招集通知の日を基準とし、招集通知の期間が不足することを決議取消事由として主張したとしても、本件決議から3か月以上経過しているから、これを新たな取消事由として主張することは許されない。

(3) 原告の主張(3)は争う。Dは、本件総会について、「Eを代理人と定め、本件総会に出席して、議決権を行使する一切の権限を委任する。」旨の委任状を提出している。

(4) 原告の主張(4)について

ア 同主張アは争う。Dが、委任状を提出したことは、上記(3)のとおりである。

イ 同主張イの冒頭の主張は争う。

(ア) 同主張(ア)は争う。後記(イ)のとおり、被告は、会社法106条ただし書により、B株式について、Dの議決権行使を同意しているから、Dは、議決権行使について、Eに委任する権限も有している。

(イ) 同主張(イ)のうち、共有者は、当該株式についての権利行使者を一人と定め、会社に対し、そのものの氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についてその権利を行使することはできないとされている(会社法106条)ところ、B株式を準共有している原告とDについては、この権利行使者の定めも、被告に対する通知も、原告とDとの間の協議も、何らされていないことは認め、その余は争う。

被告は、会社法106条ただし書により、B株式について、Dの議決権行使を同意しているから、Dはその全部について議決権を行使することができ、定足数不足の問題は生じない。

(ウ) 仮に、DがB株式全部につき、議決権を行使することができないとしても、共有者各自の持分の価格に応じた議決権の行使を会社が認めることができるから、少なくとも、Dの持分に相当する1000株については、被告の同意により、Dは議決権を行使することができ、定足数不足の問題は生じない。

(5) 原告の主張(5)は争う。

第3判断

1  原告主張の各決議取消(瑕疵)事由について

(1)  招集通知漏れについて

証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、Dに対する招集通知は、平成22年11月8日に、被告の使者であるEがD方を訪れ、口頭で、株主総会の日時、場所及び会議の目的事項を伝えて、行われたことを認めることができる。よって、Dに対する招集通知漏れを理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。

(2)  招集通知の期間不足

ア 被告会社から原告宛の本件総会招集通知は、本件総会開催日の2日前の11月9日に発せられているところ、被告の場合、招集通知は会日の1週間前までに発しなければならないから、招集通知の期間が不足していることは、当事者間に争いがない。また、上記(2)のとおり、D宛の招集通知は、平成22年11月8日に発せられているが、これを基準としても、招集通知の期間が不足しているものと認められる。決議取消事由の存否の判断について、原告への通知とD宛の通知のいずれを問題とするか、また、これにより決議取消事由が異なるといえるかはさておき、いずれにしても、招集通知の期間が不足しており、会社法299条1項に違反するものと一応認められ、決議の取消事由に該当するものと解される。

イ しかしながら、本件決議の内容、被告の株主総数、前提事実のとおり、原告は、同月11日付通知書により、被告に対し、上記臨時株主総会には都合により出席できない旨及び同月11日に上記臨時株主総会を開催しても無効である旨伝えていることからすると、上記瑕疵は、招集手続の法令違反という手続上の瑕疵に過ぎず、その違反に関する事実が重大であるともいえず、かつ、決議に影響を及ぼさないものと認められるから、会社法831条2項により、招集通知の期間不足を理由とする決議取消の請求はこれを棄却するのが相当である。

(3)  Dの委任状の未提出について

証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、平成22年11月8日に、EがD方を訪れた際、Dは、本件総会について、「Eを代理人と定め、本件総会に出席して、議決権を行使する一切の権限を委任する。」旨の委任状を作成し、Eに交付したこと、Eは、この委任に基づき、本件総会にDの代理人として出席し、B株式についてその議決権を行使したことを認めることができる。よって、Dの委任状の未提出を理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。

(4)  定足数不足について

ア Dが、委任状を作成して、Eに交付したこと、Eは、この委任に基づき、本件総会にDの代理人として出席し、B株式についてその議決権を行使したことは、上記(3)認定のとおりである。よって、Dの委任状の未提出による定足数不足を理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。

イ また、原告は、2分の1の準共有持分しかないDには、Eに議決権行使を委任する権限はないから、上記委任は無効であると主張する。しかし、後記ウ認定のとおり、被告は、B株式について、Dが議決権を行使することに同意しているものと認められるから、Dは、同株式の議決権行使を第三者に委任する権限もあるということができる。よって、Dには委任権限がないことによる定足数不足を理由とする原告の決議瑕疵の主張は採用できない。

ウ 共有者は、当該株式についての権利行使者を一人と定め、会社に対し、そのものの氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についてその権利を行使することはできないとされている(会社法106条)ところ、B株式を準共有している原告とDについては、この権利行使者の定めも、被告に対する通知も、原告とDとの間の協議も、何らされていないことは当事者間に争いがない。しかしながら、証拠(甲4、乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、B株式について、Dが議決権を行使することに同意しているものと認められる。したがって、会社法106条ただし書により、Dは、B株式について議決権を行使することができると解される。そして、Dによる議決権行使の内容が原告の意向(甲3及び弁論の全趣旨から、原告は本件決議には反対の意向であったことが推認される。)と異なるとしても、議決権の行使自体に瑕疵はないから、決議取消事由には該当しないと解するのが相当である。

2  以上によれば、上記の各決議瑕疵を理由として、本件決議の取消を求める原告の請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 福島節男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例