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横浜地方裁判所川崎支部 昭和44年(ワ)105号 判決 1969年12月25日

理由

一、請求原因第一、三項の事実は、被告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

二、同第二項の事実は、当事者間に争いがない。

三、《証拠》によれば、被告は、一四、五年前より機械工具類の販売を業としてきたものであるが、コロタイプ印刷機を取り扱つた経験はないこと、本件物件の鑑定にあたつては本件物件を現場において観察し、特に車軸の磨耗の状況等を調査し、立会人である訴外各務トメ(債務者たる前記訴外株式会社川崎コロタイプの代表者)および各務梅雄(右トメの夫)より本件物件は二年前に新品を金二〇〇万円で購入した旨を聴取し、右車軸の磨耗状況から右両名の使用年数に関する申述を真実と推定し、また被告が取り扱つた経験のある八尺旋盤なる機械の価額が金二〇〇万円であるのと比較して、右両名の申述にかかる購入価額をほぼ真実なものと推定し、右購入価額および使用年数からして、本件物件を金五〇万円と評価したこと、右評価にあたり、右訴外会社の帳簿ないし伝票にもとづいて右立会人両名の申述の真否を調査することはせず、またコロタイプ印刷機の市価を調査することもしなかつたことを認めることができる。

四、右の事実によれば、被告は、本件物件の鑑定にあたり、債務者たる右訴外会社の代表者らの申述を聞いたのみで同会社の帳簿伝票の調査をせず、またコロタイプ印刷機を取り扱つた経験がないにもかかわらずその市価の調査をしなかつた点において、評価上厳密さを欠いたことはいなみがたく、しかもそれらの調査をするについて何らかの困難があつた事情も認められない本件においては、被告は右鑑定にあたり鑑定人として誠実に鑑定すべき義務を尽さなかつたものと評すべきである。

五、しかしながら、強制執行手続における競売物件の鑑定評価は、競売物件が不当に安価に競落されることにより、債務者に損害を与え、また債権者の満足を損う結果となるのを防止する目的で行なわれるものであつて、競落人に対し、競売物件がそれだけの価値を有することを保証する趣旨でなされるものでないことは多言を要しない。それゆえ、競買人は、みずから競売物件を調査評価し、自己の責任において競買価額を決定すべきである。

また、動産に対する強制執行にあつては、不動産に対する強制執行におけると異なり、鑑定人の評価額が競売価額を拘束することはないのであるから、競買人は自己の評価にもとづいて自由に競買の申出をすることができる。したがつて、鑑定人の評価が高きにすぎても、そのために競売手続の迅速、円滑な遂行が妨げられることはないから、債権者が債権の回収を急ぐのあまり鑑定人の評価額を競買価額としてみずから競買の申出をすることを余儀なくさせられるいわれもないのである。

六、してみれば、被告の本件物件に対する評価の方法に前記欠陥があつたとしても、原告が本件物件を金五〇万円で競落したのは、原告が自由な立場でかつ自己の責任においてこれをしたものというべきであるから、たとえその競落価額が本件物件の価格に比して高きにすぎても、それによる損害はもつぱら原告が負担すべきものであり、被告にその賠償を求める理由はないといわなければならない。

七、よつて原告の本訴請求は、その余の点を検討するまでもなく失当であるからこれを棄却

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