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横浜地方裁判所横須賀支部 昭和46年(ワ)36号 判決 1974年9月11日

原告 国

代理人 西山敦雄 外四名

被告 宇佐見星

主文

被告は原告に対し別紙物件目録(二)記載の工作物を収去して別紙物件目録(一)記載の土地を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

一  原告(所管庁関東財務局横浜財務部横須賀出張所)は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下、本件土地)の所有者である。

二  被告は、本件土地を占有すべき何らの権限を有しないのに拘らず、以下第四乃至第一一項で述べるような事情のもとに之を占有し、昭和四五年一一月一七日、突如として本件土地上にプレハブ住宅(約一〇〇平方メートル)の建築に着手し、その基礎工事として、別紙物件目録(二)記載の布コンクリートブロツクを設置するに至つた。

三  よつて、原告はその所有権に基き、被告に対し右工作物の収去並びに本件土地の明渡を求めるものである。

四  被告は、右工作物は本件土地を賃借してい訴外横須賀養鶏協同組合(以下、訴外組合)が設置したものである旨主張するので、以下その間の事情を述べる。

五  原告は、本件土地上に存在した倉庫(床面積九二五・六一平方メートル=二八〇坪)及びその敷地である本件土地の一部(一四八七・六〇平方メートル=四五〇坪、別紙第三図面中Aの部分)を、昭和三一年四月二一日訴外組合に対し、使用目的を養鶏場及び従業員宿舎とし、賃料を一ヶ年につき金九三、二一八円、期間を昭和三一年四月二一日より昭和三二年三月三一日と定めて賃貸した。

六  ところが、訴外組合より原告に対し、右契約による貸付物件は、建物の床面積に比して敷地面積が狭隘であるため建物の利用上不便であるとして、右敷地の隣接地で本件土地の残余部分合計六六一・〇六平方メートル(二〇〇坪、別紙第三図面中BC部分)を追加して賃借したいとの申入れがあつたので、原告は之を承諾し、昭和三二年七月一一日、右追加部分を、賃料一ヶ年につき金一〇、一九一円、期間昭和三一年七月一日より昭和三二年三月三一日迄、使用目的は当初の賃貸借と同一と定めて訴外組合に賃貸した。尚、追加部分の契約の期間が、昭和三一年七月一日より昭和三二年三月三一日迄となつているのは、最初の契約の直後より訴外組合が貸付建物の敷地として右追加部分を事実上使用していたので、之を事後的に承認してその間の使用料を徴収することにしたものであり、又、終期が昭和三二年三月三一日となつているのは、最初の契約の終期に一致させ、更新の際に両契約を一体化させるためである。

七  そして、之等両契約の更新に当たつて、使用目的を変更することなく、両契約を併合して一個の契約とし、右倉庫(九二五・六一平方メートル=二八〇坪)と本件土地(計二一四八・七六平方メートル=六五〇坪)を貸付物件としたのであるが、その後も期間満了の都度同一の条件で契約を更新して来た。

八  而して、訴外組合は、昭和三四年四月頃、原告に無断で本件土地の東側空地に、木造亜鉛メツキ鋼板二階建鶏舎兼居宅一棟、床面積一階五九六・一八平方メートル、二階八三・五四平方メートルを建築した許りか、賃借物件である右倉庫を原告に無断で、被告及び訴外株式会社鈴木商店に転貸し、若しくはその賃借権を譲渡して之を使用せしめ、更に、昭和四二年一月、飼育中の鶏にニユーカツスル病が発生し、同年一月七日神奈川県知事よりその処分を命ぜられた後は、前記賃借物件を全く使用しないまま放置し、ために無用の部外者が立入るなどし、右倉庫の損傷をきたしたなど、賃貸借関係に於ける信頼関係を著しく破壊したので、原告は訴外組合に対し、昭和四五年六月二〇日、前記賃貸契約を解除する旨の意思表示をした。

九  従つて、原告と訴外組合との前記賃貸借契約は解除され、訴外組合は賃借物件を原告に返還すべき義務を負担していたところ、前記無断建築に係る二階建鶏舎兼居宅一棟及び右倉庫は昭和四五年一一月一二日火災により全焼するに至つたから、たとえ前記契約解除が有効でないとしても、前記契約は昭和四五年一一月一二日目的物件の滅失により終了したものである。

一〇  以上の次第で、本件土地につき訴外組合は之を占有すべき何らの権限をも有しないものである。被告は、賃貸借の目的物が右倉庫及びその敷地であるとして、訴外組合の占有権限を主張しているが、訴外組合は、養鶏に必要な施設として右倉庫の賃借を申入れたものであり、原告もまた右倉庫の使用目的を養鶏場及び従業員宿舎に限定して賃貸したものである。

而して、通常は、建物を賃貸借する場合、その敷地も当然に建物賃貸借の目的となるのであるから、当該敷地を建物から区別して独立の賃貸借の目的物とするには特別の事情がなければならない。本件に於ては、養鶏事業を営むための物的施設と言う面からみて、特に土地(本件土地)を建物(倉庫)から切り離して独立の賃貸借の目的物とすべき特別の必要性は認められない。

唯、原告と訴外組合間では、最初の賃貸借契約に加えて、別紙第三図面中BC部分の土地を追加する形をとつているが、これは前記の通り、あく迄も右倉庫の利用価値を増大するためのものであるから、右追加部分につき別個の土地賃貸借が成立したと考えるべきではない。又、本件土地と右倉庫につき夫々別個に賃料が定められている点も、契約締結の経緯に照らし、土地と建物につき別個の契約が成立したとする根拠にならない。

そうだとすると、少くとも、右倉庫が焼失した時点に於て、原告と訴外組合間の前記賃貸借契約は終了したと言うべきであるから、訴外組合が右倉庫の焼跡に新たな建物を建築し得る権限を有しないことは明らかである。

一一  更に、訴外組合が、資金難のため昭和三三年一二月頃より養鶏事業を中止して倒産のやむなきに至り、営業活動一切を放棄して有名無実の状態であつたことからみれば、被告は、訴外組合の名義を冒用して本件土地を占有したものであり、本件プレハブ住宅建設は、全く被告個人の行為であると言わねばならない。と陳述し、(証拠省略)。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

一  請求の原因第一項を認める。同第二項は、本件土地上にプレハブ住宅建築の土台である別紙物件目録(二)記載の工作物が存在することを認め、その余を否認する。同第三項を争う。同第五項は、訴外横須賀養鶏協同組合(訴外組合)が原告よりその主張の倉庫及び敷地四五〇坪(一四八七・六〇平方メートル)を賃借したことを認めるが、賃借物件の使用目的の点は不知。同第六項は、訴外組合が原告よりその主張の土地二〇〇坪(六六一・〇六平方メートル)を追加賃借したことを認めるが、賃借物件の使用目的の点は不知。同第七項は不知。同第八項は、原告主張の頃ニユーカツスル病が発生したこと、及び原告より訴外組合に対し賃貸借契約解除の通知が行われたことを認めるが、その余を争う。同第九項は、原告主張の鶏舎兼居宅一棟及び倉庫がその主張の日に焼失したことを認めるが、その余を争う。同第一〇、一一項を何れも争う。尚、係争土地の位置とその範囲及び係争工作物の位置が、原告主張の通り(別紙物件目録(一)(二)及び別紙第一乃至第三図面)であることを認める。

二  原告主張のプレハブ住宅の建築に着手したのは、被告ではなく、被告が代表理事に就任中の訴外横須賀養鶏協同組合である。

(一)  訴外組合は原告より、その主張の倉庫と、同倉庫の敷地である本件土地とを賃借してきた。

(二)  而して、右賃貸借契約に関し、訴外組合と原告間に作成された国有財産賃貸借契約書(二通)の貸付物件の表示には、土地と建物とが明確に区別されており、また、原告発行の領収書によると、土地と建物の賃料が別個に明記されているので、右賃借契約が、建物と土地とを夫々独立の目的物としたことが明白である。

(三)  そうだとすると、賃借建物が焼失したからと言つて、土地賃借権が当然に消滅するといわれはない。訴外組合は、土地賃借権に基き、本件土地上に、プレハブ住宅の建築に着手し、且つ本件土地の占有を継続するものである。

(四)  之をもつて、被告個人の所為であるとする原告の主張は全く失当である。

と陳述し、(証拠省略。)

理由

一  請求の原因第一の事実、同第二項の内、本件土地上にプレハブ住宅建築の土台である別紙物件目録(二)記載の工作物が存在する事実、同第五項の内、訴外組合が原告よりその主張の倉庫と同倉庫の敷地四五〇坪(一四八七・六〇平方メートル)を賃借した事実、同第六項の内、訴外組合が原告よりその主張の土地二〇〇坪(六六一・〇六平方メートル)を追加賃借した事実、同第九項の内、原告主張の鶏舎兼居宅一棟及び倉庫が昭和四五年一一月一二日火災に因り焼失した事実、及び本件土地の位置範囲並びに係争工作物の位置が原告主張の通りであることは、何れも当事者間に争いがない。

二  そこで検討するに、(証拠省略)を綜合すると、請求の原因第五項の内、被告が自白した以外の事実を認定することが出来る。他に之に反する証拠は存在しない。

(証拠省略)を綜合すると、請求の原因第六項の内、被告が自白した以外の事実を認定することが出来る。他に之に反する証拠は存在しない。

(証拠省略)を綜合すると、請求の原因第七項の事実を認定することが出来る。他に之に反する証拠は存在しない。

(証拠省略)によると、被告は昭和三四年三月二五日以降訴外組合の代表理事に就任しているものであることが認められる。

以上の事実によると、原告主張の倉庫は、訴外組合に対し、使用目的を養鶏場及び従業員宿舎と定めて貸与され、且つ本件土地はその敷地として同訴外組合に貸与されたものであり、又、(証拠省略)によれば、右倉庫は、本件土地と共に国有財産であることが明らかである。

三  よつて進んで、プレハブ住宅建築の土台である別紙物件目録(二)記載の工作物を設置した者が、被告個人若しくは被告が代表理事に就任中の訴外組合の何れであるかについて判断する。

(一)  (証拠省略)を綜合すると、訴外組合は、昭和三〇年八月八日、養鶏、養鶏技術の改善向上、孵卵施設の拡充等を事業目的とし、組合員約二〇名によつて設立されたもので、昭和三一年四月二一日被告の斡旋により、事業場として前記倉庫とその敷地四五〇坪(一四八七・六〇平方メートル、本件土地の一部)を原告より借り受け、一応組合の事業が軌道に乗つたが、早くも同年末頃、孵卵、育雛の技術的欠陥から事業の継続が危ぶまれた許りか、その後、負債の増加、組合管理の不手際、運転資金の欠乏等が重なり、昭和三三年一二月頃に至つて組合の存続が極めて困難になつたため、翌三四年三月二五日改めて被告が代表理事に就任して再起を計つたが、結局目的を達することが出来ず、表面上訴外組合が前記倉庫と本件土地とを原告より賃借している形をとらざるを得ないまま、被告が同所に於て養鶏事業を継続したものの、昭和四二年一月七日頃、ニユーカツスル病の発生により飼育中の鶏を全部と殺するの止むなきに至り、その上、昭和四五年一一月一二日右倉庫が焼失したから、同日の段階では、既に訴外組合は事業を停止していて殆んど実体のないものとなつていたことが認められる。尤も、(証拠省略)によると、訴外組合は、昭和三四年四月二日本件土地上に建築した鶏舎兼居宅につき、昭和四一年八月一〇日に至つて所有権保存登記を経由した上、昭和四三年三月二三日之を被告に贈与してその旨の登記手続を履行しているが、このような財産処分を行つたからと言つて、その頃訴外組合が事業目的を遂行していたと認めることが出来ない。被告本人尋問の結果(第一回)の内、以上の認定に反する供述は信用し難く、他に之を覆えすに足りる証拠は存在しない。然らば、別紙物件目録(二)記載の工作物及び之を土台とするプレハブ住宅の建築代金は、資金面から考えて訴外組合が支出し得る筈のものではないから、被告が支出したものと認めるのが相当である。ところで、(証拠省略)によると、右建築代金三五万円を訴外組合に於て支出した如く窺えるが、然し乍ら同証言によると、同号証の名宛人欄中、被告名義の上部に存在する「横須賀養鶏組合代表」となる記載は、右プレハブ住宅の建築に着手したことが原告との間に紛争となつた後に、被告の要請に基き書き加えられた疑いが濃厚なので、右の記載部分をたやすく信用することが出来ない。従つて、右認定を左右しない。(証拠省略)は、(証拠省略)を前提とし作成されたと認める外はないから、前説示を覆えし得ない。

(二)  原告と訴外組合間の如く、建物(前記倉庫)と建物使用のための敷地(本件土地)とが同一所有者に属する賃貸借に於て、該建物が火災により滅失した場合、残された敷地の使用関係の運命については種々の考え方を生ずる。結局は契約の解釈の問題に帰するが、右賃貸借は右倉庫を養鶏場及び従業員宿舎に使用することを主たる目的とし、同倉庫の賃貸借に附随して本件土地の賃貸借が成立したものであつて、同倉庫が滅失した後にも本件土地を訴外組合の事業場に使用することを認める趣旨には解されないから、同倉庫の焼失によつて建物賃貸借が終了した段階で、本件土地の貸借関係も運命を共にして終了したものと言うべきである。ところで、本件土地は、当初四五〇坪(一四八七・六〇平方メートル)が賃貸され、次いで二〇〇坪(六六一・〇六平方メートル)が追加されたものであるが、前認定の通り、追加部分は、前記倉庫の敷地を拡張した趣旨である上に、契約更新時に当初の契約と一体化されているので、右追加分だけが独立して賃貸借の目的となつたものと解することが出来ない。又(証拠省略)によると、原告と訴外組合間に作成された契約書では、貸付物件が土地と建物とである旨記載され、更に、(証拠省略)によれば、原告発行の領収証に於て、賃料が土地と建物と別々に定められていることが夫々認められるが、之等の点は契約締結の趣旨に照らし、前認定を左右するに足りないものと考えるのが相当である。然らば、訴外組合は、前記倉庫の滅失後、本件土地上に工作物を設置し、或いは本件土地を占有する権利を有しないと言わねばならない。

(三)  (証拠省略)によると、被告は、前記倉庫が焼失した直後、原告の異議申立にも拘らず、分散している被告の家族を収容するため、急造のプレハブ住宅の建築を強行せんとしたものであることが認められる。

(四)  (証拠省略)によると、右プレハブ住宅は、間口三間(五・四五メートル)、奥行一〇間(一八・一八メートル)で、総工費約六〇万円の仮設住宅であることが認められる。

以上、(一)乃至(四)の認定事実を綜合すると、別紙物件目録(二)記載の工作物を設置し、且つ之を土台とするプレハブ住宅の建築を企画した者は、被告個人であると認めるのを相当とするから、被告が、右工作物を設置した上、訴外組合の名義を冒用して本件土地を占有しているものと認める外はない。

四  然るに、被告に於て本件土地を占有し、同地上に係争の工作物を設置し得る権限を有することについては、何等主張立証がない。

五  果して然らば、原告の主張は理由があるので、本訴請求を正当して認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用した上、主文の通り判決する。

(裁判官 石垣光雄)

別紙物件目録(一)、(二)及び別紙第一、第二、第三図面(省略)

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