大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所相模原支部 平成16年(モ)1604号 決定 2005年1月14日

破産者

甲野太郎

主文

破産者甲野太郎の免責を許可しない。

理由

第1  破産に至る経緯

破産者が、破産に至った経緯に関し、一件記録によれば、以下の事実が認められる。

1  破産者は、平成14年5月当時、無職であったが、以前に勤務していた知人の店で働いていることにしてもらい、短時間のうちに、株式会社武富士などの消費者金融数社から、元本にして少なくとも合計約140万円を次々と借り入れた。

2  また、破産者は、平成14年以降、異議申立人A(以下「申立人A」という。)及び同B(以下「申立人B」という。)のもとで貸金の業務の手伝いをするなどしていた時期があったところ、他人名義の借用証書を作成して他人が借入れをしたかのように装って、上記両名から借入れを行った。なお、他人名義での借入れの総額は、破産者が自認している限度でも、申立人Bに対し110万円、申立人Aに対し200万円である。

もっとも、こうした他人名義による借入れが行われた正確な時期を特定することはできず、破産宣告前1年以内に行われたことを認定できる的確な資料はない。

3  また、破産者は、平成15年7月、株式会社オリエントコーポレーションで約242万円のローンを組んで自動車を購入した。

この自動車は、申立人Bが、平成15年8月18日ころ、預かるとして、破産者の兄から受領し、申立人Bにおいて保管していたが、本件免責手続における債権者の異議申立期間中の平成16年11月30日、破産者が合鍵を用いて持ち出し、破産者は、車中にあった借用書を焼却した。

4  破産者は、借り入れた金でギャンブルや高額な飲食店での飲食を行い、ギャンブルに平成14年5月ころから平成15年9月ころまでに約800万円を、上記飲食に平成14年4月ころから平成15年9月ころまでに約300万円を費消した。

他方、破産者は、平成14年以降は、ほとんど無職無収入に近い状態であった。

第2  免責について

1  免責不許可事由について

以上の経緯からすると、破産者は、返済できるような状態ではなかったにもかかわらず、多額の借入れを行ってギャンブルや高額な飲食店での飲食費用として費消したことにより破産に至ったもので、その原因は、破産者の著しい射倖行為及び浪費にあるものと認められるから、破産者は、平成16年法律第75号による廃止前の破産法(以下「廃止前の破産法」という。)375条1号、366条の9第1号所定の免責不許可事由に該当する。

他方、破産者は、上記のとおり、他人名義を冒用して借入れを行っているが、破産宣告前1年内に行ったことを認めるに足りないから、廃止前の破産法366条の9第2号の免責不許可事由に該当すると断定することはできない。

2  裁量による免責の可否について

免責不許可事由に該当するにしても、裁量により免責を許可すべきか否かを検討するに、上記の経緯によれば、射倖行為及び浪費行為で費消した額は約1100万円もの多額に上っていること、平成14年5月当時、無職の状態にあったにもかかわらず、消費者金融から短期間のうちに借り入れを重ねており、また、仮に破産者には当時、何らかの収入があったとしても、これらの借入れは、ほとんど返済が行われておらず、破産者が返済の努力をしてきたとはいえないこと、申立人B及び同Aからの借入れについては、金利が適正ではなかった疑いがあるものの、破産者は他人名義で借入れを行っており、その額は破産者の自認するものでも合計310万円の多額に上ること、また、破産者の自動車購入に関しては、僅少の頭金を支払った以外、割賦金については一切返済をしておらず、返済の努力が見られないこと、同車両について、破産者としては納得しないまま兄が申立人Bに対し引き渡したものであったとしても、本件免責手続における債権者の異議申立期間中に、車を持ち出すだけでなく、借用書を焼却しており、自らに不利益な証拠を滅失させた行為と疑われてもやむを得ない行為にまで及んでいる。

そうすると、破産者が、破産手続において協力をした旨破産管財人からの評価を受けていること、異議申立人は上記の2名にとどまること、破産者には糖尿病等の持病があることなどの事情もあるが、破産者は、その免責不許可事由における問題性が大きく、かつ、その他の諸事情を考慮しても、裁量によって免責を許可すべきとは認められない。

よって、主文のとおり決定する。

(裁判官・岩田光生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例