横浜地方裁判所相模原支部 平成22年(ワ)682号 判決 2014年4月24日
原告
X1<他3名>
原告ら訴訟代理人弁護士
尾林芳匡
同
中村晋輔
同訴訟復代理人弁護士
石島淳
同
與那嶺慧理
被告
田口運送株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
山中健児
同
江畠健彦
同
橋村佳宏
同
塚越賢一郎
同訴訟復代理人弁護士
前嶋義大
主文
一 被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙一―(1)、二―(1)、三―(1)及び四―(1)各人請求債権目録の各合計欄記載の各金員(ただし、別紙一―(1)(原告X1分)については二〇〇八年八月分及び同年九月分を除き、同三―(1)(原告X2分)については二〇〇八年五月分ないし同年九月分を除き、同四―(1)(原告X3分)については二〇〇八年四月分ないし九月分を除く。)及びこれらに対する同各人請求債権目録の各支払日欄記載の各支払日の翌日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙一―(1)、二―(1)、三―(1)及び四―(1)各人請求債権目録の各合計欄記載の各金員(ただし、別紙一―(1)(原告X1分)については二〇〇八年八月分及び同年九月分を除き、同三―(1)(原告X2分)については二〇〇八年五月分ないし同年九月分を除き、同四―(1)(原告X3分)については二〇〇八年四月分ないし九月分を除く。)及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告X1、原告X2及びX3のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
五 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙一―(1)、二―(1)、三―(1)及び四―(1)各人請求債権目録の各合計欄記載の各金員及びこれらに対する同各人請求債権目録の各支払日欄記載の各支払日の翌日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告らに対し、それぞれ、別紙一―(1)、二―(1)、三―(1)及び四―(1)各人請求債権目録の各合計欄記載の各金員及びこれらに対する本判決確定の日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、被告に雇用されている原告らが、法定外の時間外労働等を日常的に行っていたと主張し、被告に対し、未払の割増賃金及びこれに対する各支払日の翌日から各支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を求めるとともに、労働基準法一一四条に基づき、上記未払の割増賃金と同額の付加金及びこれに対する本判決確定の日の翌日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
二 前提事実(いずれも争いのない事実)
(1) 当事者
ア 被告は、貨物運送等を行う株式会社である。
イ 原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成二〇年八月一日から、原告X4(以下「原告X4」という。)は、平成一七年から、原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成二〇年三月(ただし、同年五月三一日まではアルバイト)から、原告X3(以下「原告X3」という。)は、平成一七年三月九日から、それぞれ被告に雇用され、被告a第一営業所(以下「a営業所」という。)に所属し、トラック運転手として配送業務に従事している。
(2) 被告における所定労働時間及び賃金の支払日
ア 被告における所定労働時間は一日八時間であり(就業規則二〇条、二一条)、所定休日は、原告らのような営業所部門に所属する従業員は、個人毎に週二日の曜日が特定される(就業規則二二条)。
イ 賃金は、毎月末日締めの翌月一五日払いであり、時間外割増賃金等も同様の扱いとされている。支払日が休日にあたるときは、繰り上げて支給される。(賃金規定一〇条)。
(3) 平成二〇年四月から平成二二年九月までの間における原告らの出庫時刻及び帰庫時刻(原告らは、これらを出勤時刻及び退勤時刻と主張している。)は、別紙五ないし八被告主張労働時間表の該当各欄記載のとおりである。
(4) 既払い賃金等
原告らは、平成二〇年四月から平成二二年九月までの間の賃金及びその内訳(基本給、無事故手当、精勤手当、職能給、成績給、職別給、特殊給及び臨時給)として、別紙一―(3)、二―(3)、三―(3)及び四―(3)の該当各欄記載のとおりの金員を被告から受領している。これらの賃金の各月の支払日は、別紙一―(1)、二―(1)、三―(1)及び四―(1)各人請求債権目録の各支払日欄記載のとおりである。
三 原告らの主張
(1) 原告らは、平成二〇年四月から平成二二年九月までの各月につき、別紙一―(2)①ないし<26>、二―(2)①ないし<24>、三―(2)①ないし<28>、四―(2)①ないし<30>の各「労働時間」欄記載のとおり労働し、うち深夜労働時間は、各「深夜労働時間」欄記載のとおりであり、時間外労働時間は、「各時間外(四〇以上)」欄記載のとおりであり、休日労働時間は、各「休日」欄記載のとおりである。
原告らの上記労働時間は、被告主張の出庫時刻を始業時刻、帰車時刻を終業時刻として原告らの一日の拘束時間を算出し、一日の拘束時間が八時間を超える場合には、拘束時間から法定の休憩時間として認められた一日一時間について、便宜上一律に控除した時間を労働時間、八時間を超えない場合には、拘束時間でその日の労働時間としたものである。
原告らは、集荷場における荷積み待機時間など、トラックを走行させていない時間であっても、当該トラックを管理しており、停車中のトラックから自由に離れることはできず、配送先の従業員らからトラックを動かすよう指示があれば、いつでもその指示に従ってトラックを移動させなければならないなど、当該トラックを保管管理する業務から完全に解放されたものではないから、上記待機時間を休憩時間ということはできない。
原告らの労働は、被告が主張するように「原告らの業務の性質上当然に、集荷場や移動途中における休憩、すなわち業務遂行が義務づけられておらず、労働から解放されている時間が数時間存在する」というようなものではない。
(2) そこで、原告らが支払を受けるべき割増賃金は、以下のとおりとなる。
ア 残業単価
原告らの各月の残業単価は、それぞれ一時間あたり、別紙一―(3)、二―(3)、三―(3)及び四―(3)の各残業単価欄記載のとおりである。この単価は以下のとおり算定する。
(ア) 就業規則による各年毎の月平均所定労働時間
平成二〇年 一七四時間
平成二一年 一七三・三時間
平成二二年 一七三・三時間
(イ) 算定対象賃金
基本給、無事故手当、精勤手当、職能給、成績給、職別給、特殊給、臨時給
(ウ) 一時間当たりの残業単価
次の①と②を足した額を残業単価とする。
① 基本給部分
基本給は日給制であるため、各月の基本給を職務日数で除した額を一日の所定労働時間である八時間で除した額
② 基本給以外の諸手当等
基本給以外は月毎に支払われるため、各月の支払金額を各月の平均所定労働時間で除した額
イ 以上の残業単価から、法定の割増率によって算定すると、原告らが支給を受けるべき割増賃金は別紙一―(1)、二―(1)、三―(1)及び四―(1)各人請求債権目録の各合計欄記載のとおりであり、その詳細は別紙一―(2)①ないし<26>、二―(2)①ないし<24>、三―(2)①ないし<28>、四―(2)①ないし<30>の該当各欄記載のとおりである。
(3) 被告の主張(2)は争う。
被告主張の賃金規程は、旧賃金規程が変更され平成一八年八月一日から実施されたものであるところ、原告X4及び原告X3は、この変更について周知されることはなく、また、原告X1及び原告X2は、入社に際して、業績給が割増賃金に代えて支払われる旨の説明を受けたことも、平成一八年八月一日の変更以前の旧賃金規程について、周知を受けたこともないから、原告らと被告との間に業績給を割増賃金の支払に代えて支払うものとする合意はない。
また、被告が主張する業績給のうち、職能給は乗務する車種によって支給するもの、成績給は運送料金・走行距離によって支給されるもの、職別給は作業の難易度によって支給するものとされているところ、これらの手当は、休日労働、時間外労働及び深夜労働が行われたかどうかとは無関係に支払われるものであるから、通常の労働時間に相当する部分と割増賃金に相当する部分とを明確に判別することはできず、休日労働、時間外労働及び深夜労働の対価として支払われたものといえないから、賃金規程の規定にかかわらず、これらの手当を割増賃金に代えて支払ったということはできない。
四 被告の主張
(1) 原告らが主張する労働時間は争う。
原告らの労働時間は、別紙五ないし八被告主張労働時間表記載の出庫時刻から始業時刻までの拘束時間から、同労働時間表の各「内休憩 田口運送」欄記載の時間数を控除した時間である。
原告らの一日の業務の基本的な流れは、原告らがa営業所に所属しており、a営業所における基本的な集荷場所がb株式会社に配送を委託しているc社d工場(以下「d工場」という。)となるため、同工場において荷積みをした後に配送をし、配送先で荷下ろしをした後、再び、d工場に戻り、同所で二回目の荷積みをして配送し、配送先で荷下ろしをしてa営業所に戻るという流れとなる。そして、二回目の荷積みをするにあたっては、運転手がd工場に着いた後に、d工場側で仕分けやピッキング作業等の準備作業が必要であり、その到着時刻から実際に二回目の荷積みができるようになるまで通常二時間程度は待機時間となり、運転手は、その待機時間については、自身のトラックをd工場内の駐車スペースに駐車した上で、d工場内にある被告の休憩所で休憩することも、車内で休憩することも一切自由である。また、上記二回目のd工場の荷積みに限らず、運転手には、各荷積み及び荷下ろしについても、少なからず上記のような待機時間が生ずる。
したがって、このような待機時間は、労働から解放された時間(休憩時間)といえるから、休憩時間を一律一時間として労働時間を算出する原告ら主張は失当である。
(2) 被告は、現行の賃金規程において、割増賃金につき、まず、運転者に対して職能給、成績給、職別給、特殊給、臨時給の業績給を支給する旨を規定し(第八条)、変動給の手当(業績給)は、残業手当(時間外労働割増賃金手当、休日労働割増賃金手当、深夜労働割増賃金手当)に代わるものとして支給する旨を規定しており(第九条)、また、給与明細書においても、「基本給」と「職能給」、「成績給」、「職別給」、「特殊給」、「臨時給」が記載され、さらに後五項目の合計額が「残業手当」として明記されていることなどから、被告においては、割増賃金を業績給(手当性)により支払っており、原告らに対する割増賃金は既に支払済みである。
(3) 原告らの被告に対する平成二〇年一一月一五日支給(同年一〇月分)以前の未払賃金債権は、本件訴訟の提起時には既に時効により消滅している。
被告は、本訴において、上記時効を援用する。
第三当裁判所の判断
一 原告らの労働時間について
(1) 平成二〇年四月から平成二二年九月までの間における原告らの出勤時刻及び退勤時刻が被告が主張する原告らの出庫時刻及び帰庫時刻と一致しており、その各時刻が別紙一―(2)①ないし<26>、二―(2)①ないし<24>、三―(2)①ないし<28>、四―(2)①ないし<30>の該当各欄(別紙五ないし八被告主張労働時間表の該当各欄)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。
(2) 原告らは、上記出勤時刻から退勤時刻までの間の拘束時間から休憩時間として一時間を控除した時間数を原告らの労働時間であると主張するが、被告は、原告らには集荷場や配送先における待機時間など労働から解放されている時間が数時間存在するとして、上記拘束時間から別紙五ないし八被告主張労働時間表の「内休憩 田口運送」欄記載の各時間数を控除したものを労働時間であると主張する。
しかるところ、証拠<省略>によると、原告らの一日における業務の流れは、概ね以下のとおりであると認められる。
ア 原告らは、朝、出社し、a営業所から原告らが管理を任されているトラックに乗ってd工場に向かい、d工場に到着後は、荷物の積み込みを待つ出荷場のトラックの列に加わり、荷物を積み込んだ際に十分に冷却できるよう、冷蔵庫の保冷器を稼働させたままトラックのエンジンを切って停車させる。しかし、トラックを停車させる場所は出荷場へ向かう行列の途中であるから、行列が前に進む毎に自分の運転するトラックも前進させなければならず、そのため、原告らは、トラックを離れることはできず、原告らがトラックから離れることができるのは、トラックを停車させた位置から二〇〇m離れたところにあるb社の事務所まで、その日に配送する荷物の伝票を受け取りにいく往復の約五分程度にすぎない。
イ 原告らは、伝票を受け取って自身のトラックに戻ると、荷物の積み込みのための移動をトラック内で待つことになるが、荷物の積み込みの開始される時刻は概ね午前七時とされているものの、必ずしもその時刻に積み込みが開始されるものではなく、その開始時刻は、d工場や荷積みを担当するe社の担当者の都合により、日によって一〇分程度前後することもある。
原告らが配送する荷物は、牛乳・ヨーグルトなどの乳製品やたこ焼き・枝豆などの冷凍食品であり、配送先は、沼津、埼玉、千葉などである。
ウ 原告らは、一回目の配送を終えて、二回目の配送の荷積みのため、概ね午後一時ないし二時ころd工場に戻ってくる。そして、原告らは、d工場に戻ると、d工場内にあるb社の事務所の隣の部屋に設置されている伝票入れに一回目配送分の荷物の伝票を入れて報告し、二回目の荷物の伝票が出るまでの間、その部屋で待機することになる。二回目の伝票が出てくる時刻は概ね午後二時三〇分ころであるが、必ずしも特定されておらず、原告らは、その日の伝票が何時出るか知らされず、かつ、担当者から伝票を渡されたなら、直ちに伝票を持って出荷場に移動しなければならないこととなっている。
エ 原告らは、b社の事務所に常駐している被告の従業員から二回目の伝票を渡され、これを持って同事務所から約二〇〇m離れた場所にある出荷場に移動し、出荷場においては、d工場の冷蔵庫からの荷出し作業を担当しているe社の従業員がコース毎に出してくる荷物の中から、原告らが担当する荷物を受け取り、伝票と照合して点検し、パレットに載った状態になっている荷物を、荷崩れを防ぐためラップで巻くなどの作業をし、出荷場に待機しているフォークリフトの作業員に依頼して、荷物を順次トラックに積んでもらう。
なお、荷物は五月雨式に出てくる上、出荷場には、四台ないし七台の被告のトラックが同数の従業員とともに待機しているほか、被告以外の運送会社のトラックも二〇台程度待機していることから、プラットホーム(倉庫内の冷蔵庫の扉からトラックの荷台を付ける搬入口までの間のスペース)上に荷物が滞留し、他の運送会社に迷惑をかけることがないようにするため、原告らは、荷出し担当者が出してきた荷物を即時に受け取り、自分のトラックに運ぶ作業をする必要があり、そのため、原告らは、常に荷出し担当者に注目し、自分が担当する荷物が出て来た時は、遅滞なく自分のトラックに荷物を運び、また、自分以外の被告の従業員の担当する荷物が出て来た時にも、その荷運びやラップ作業等を手伝ったりしている。
また、荷物をトラックに積み込んだ後も、原告らが扱う荷物が乳製品や冷凍食品であるから、原告らは、トラックの管理のほか、トラックの冷凍機等の温度管理を厳格に行うことを要求されている。
オ 原告らの配送先においては、荷下ろしのための駐車スペースがない所もあり、そのような場合、原告らは、一旦、配送先から離れ近くの国道の側道等にトラックを駐車させ、配送先からの連絡があるまでトラック内で待機することになるが、原告らは、いつ配送先からの連絡があるか分からない状態でトラックとその中の荷物を継続的に管理保管し続けなければならないため、トラックを離れることもできず、携帯電話を手放すこともできない。
(3) 上記認定の原告らトラック運転手の労働実態に照らすと、出荷場や配送先における待機時間は、いずれも待ち時間が実作業時間に当たり、使用者である被告の指揮命令下に置かれたものと評価することができるものであり、その待機時間中に原告らがトイレに行ったり、コンビニエンス・ストアに買い物に行くなどしてトラックを離れる時間があったとしても、これをもって休憩時間であると評価するのは相当ではない。そして、前記認定の原告らの労働実態に照らすと、原告らが主張するとおり、原告らの拘束時間中の一時間を休憩時間と認めるのが相当であり、本件全証拠によるも、原告らの休憩時間が一日につき平均して一時間を超えているものと評価し得るような事実ないし事情は認められない。
そうすると、平成二〇年四月から平成二二年九月までの間における原告らの労働時間、深夜労働時間、時間外労働時間、休日労働時間は、別紙一―(2)①ないし<26>、二―(2)①ないし<24>、三―(2)①ないし<28>、四―(2)①ないし<30>の該当各欄記載のとおりとなる。
なお、被告は、原告らの主張する労働時間に関する主張には、原告の平成二五年一〇月三〇日付け「訴えの変更(拡張)の申立書」において初めて主張されたものがあり、これらの主張は、時機に後れたものとして却下されるべきである旨主張するが、原告らの上記主張は、被告が平成二五年一〇月三日の本件第四回口頭弁論期日において提出した運転日報(乙二四ないし三五。いずれも枝番を含む。)に基づいて原告らの労働時間を算定し直したものであり、このような原告らの主張の追加が原告らの故意又は重大な過失によって時機に後れたものとは認められないし、これによって訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないから、被告の主張は採用できない。
二 割増賃金について
(1) 前提事実(2)及び(4)並びに弁論の全趣旨によれば、原告らの残業単価は、原告らの主張(2)アに記載のとおり算定されるべきであり、これによると、原告らの各月の残業単価は、それぞれ一時間あたり、別紙一―(3)、二―(3)、三―(3)及び四―(3)の各残業単価欄記載のとおりであると認められる。
(2) そこで、上記の残業単価から、所定の割増率に従って前記認定の時間外労働等により原告らが被告から支給されるべき割増賃金を算定すると、その額は、別紙一―(2)①ないし<26>、二―(2)①ないし<24>、三―(2)①ないし<28>、四―(2)①ないし<30>の該当各欄記載のとおりとなり、その合計額は、別紙一―(1)、二―(1)、三―(1)及び四―(1)各人請求債権目録の各合計欄記載のとおりとなる。
三 被告は、割増賃金を業績給(手当性)により支払っているから、原告らに対する未払の割増賃金は存在しない旨主張する。そして、確かに、現行の被告の賃金規程(乙二)には、上記第二、四(2)掲記のような残業手当等についての規定があるし、給与明細書においても、「基本給」と「職能給」、「成績給」、「職別給」、「特殊給」、「臨時給」が記載され、さらに後五項目の合計額が「残業手当」として明記されていることも証拠(甲一ないし四。枝番を含む。)によって認められる。
しかし、一定額の手当を割増賃金に代えて支払うことが適法とされるためには、通常の労働時間に相当する部分と割増賃金に当たる部分を明確に判別できることが必要であると解されるところ、被告が残業手当としている業績給のうちの職能給及び職別給は、それぞれ、乗務する車種によって支給するもの、作業の難易度によって支給するものとされており(乙二)、必ずしも時間外労働等を行うことによって発生するものではなく、通常の労働時間内の労働によっても発生するものといえるから、原告らが残業手当として受領している給与には、通常の労働時間に相当する部分が含まれており、仮に割増賃金に当たる部分が存在するとしても、これを通常の労働時間に相当する部分と明確に区別することはできない。
また、前述したとおり、原告らについては、被告が主張するような休憩時間が存在しているとは認められないところ、被告が原告らに支払った業績給は、休憩時間に関する被告の主張を前提としてその支給額が決められていたものと解されることからすると、かかる業績給が前記認定の原告らの時間外労働等の対価であると評価することはできない。
そうすると、被告の賃金規程の有効性について判断するまでもなく、被告の主張は採用できない。
四 そうすると、被告は、原告らに対し、上記二(2)認定の割増賃金を支払うべき義務があることになり、また、原告が上記の割増賃金の支払をしないことは労働基準法三七条に違反することになるから、同法一一四条に基づき、裁判所は、原告らの請求により、原告らに対し上記割増賃金と同一額の付加金の支払を命ずることができることになる。
五 消滅時効等について
(1) 原告らが本訴を提起したのが平成二二年一一月八日であることは当裁判所に顕著な事実であるところ、被告における賃金の支払日は前提事実(2)のとおりであるから、原告らが請求している割増賃金のうち支払日が平成二〇年一〇月一五日までの分(同年九月分以前の割増賃金)については、各支払日から二年の経過により、その割増賃金債権は時効により消滅したものといえる。
そして、被告が本訴において上記各時効を援用していることは当裁判所に顕著な事実である。
(2) また、原告らが請求している付加金のうち、支払日が平成二〇年一〇月一五日までの割増賃金に対応する付加金については、本訴提起時において、違反があった日から二年を超えているから、その付加金請求権は二年の除斥期間によって消滅していることになる。
六 以上の次第であるから、原告X1、原告X2及び原告X3の各請求については主文第一項掲記の限度で理由があり、原告X4の請求は全て理由があることになる。
よって、訴訟費用の負担につき民訴法六五条、六一条、六四条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小池喜彦)
別紙<省略>