横浜家庭裁判所 平成13年(少)6708号 2002年1月11日
主文
少年を児童自立支援施設に送致する。
少年に対し、平成14年1月11日から1年の間に、通算90日を限度として強制的措置をとることができる。
理由
(非行事実)
少年は、平成13年12月11日午前10時03分ころ、横浜市○△区○□×丁目×番地×△△店において、同店経営者Bの所有に係るスクラッチカード約130枚を窃取したものである。
(適用法令)
少年法3条1項2号・2項、刑法235条
(送致されたその余の非行事実について)
横浜市○○児童相談所長からは、上記認定の非行事実のほかに、<1>平成13年2月11日及び同月13日の各原動機付自転車の窃盗、<2>同年4月30日の帽子の万引き窃盗、<3>同年5月2日及び同月4日の各自転車の占有離脱物横領、<4>同月27日の原動機付自転車からのガソリン抜き取り窃盗の各非行事実が送致されているが、以上の各事実については、いずれも児童相談所長において、所轄の警察署長からの通告を受けて、児童福祉法上の措置(上記<1>については一時保護を経たうえ児童自立支援施設であるa学園入所措置、上記<2>ないし<4>については上記入所措置を解除したうえ児童福祉司による指導措置)をとってきたものである。触法行為の通告に基づき児童に対し児童福祉法上の措置がとられてきた以上、当該触法行為について重ねて少年法による保護処分を加えることは、二重の危険に類似した負担を当該児童に科するものであって、法の予定していないところというべく、上記<1>ないし<4>の各事実(以下「既措置の非行」という。)について少年を保護処分に付することはできない。
少年に対しては、前記認定の非行事実につき保護処分の要否及び付すべき保護処分の内容を検討することしかできないし、また、これを検討することで足りる。もとより、既措置の非行に対する処遇の経過やこれを経る中での少年の変化の状況などは、少年の要保護性を検討するうえでの重要な資料として考慮されるのは当然である。
(処遇の理由)
少年は、中学2年生に在学中であるが、つまらない・面白いとの自分の気持ちの赴くまま、周囲の状況には目を向けられず、気ままに楽しく過ごすことに流れてばかりで、このような行動を重ねていることに対する問題意識はほとんど育っていない。自分の気ままな行動が規制されそうだとなると反感を覚えやすいし、学校や家庭などの保護環境下にあっては、気ままに振る舞う自分をそのまま受容してくれていて当然だとの気持ちのまま、粗暴な言動に訴えて欲求を満たそうとする傾向が顕著である。
少年は、中学1年の後半から、勉強はつまらない、遊んでいるのが面白いとの気持ちが強まるまま、地域素行不良仲間との交遊を深め、怠学傾向を顕著にしながら家出を反復するなど生活の規律を失い、交遊仲間と万引きや原付バイクの窃盗等を繰り返すようにまでなって、既措置の非行<1>のほか、窃取した原付バイクを利用してのひったくり窃盗(未遂)まで実行する状況のもと、平成13年2月、一時保護のうえa学園入所措置をとられることになった。しかし、a学園での生活はつまらないとの思いが募るまま、同年4月下旬になると、外で面白く遊んでいたいとして、a学園を逃げ出し、連れ戻されてもまた逃げ出すことを繰り返しながら、脱走中には、既措置の非行<2>ないし<4>や原付バイクの窃盗まで敢行する有様であった。結局、同年5月末には、少年をa学園にこれ以上入所させておくのは困難だとして、児童福祉司の指導措置に切り替えられたが、少年は、学校には一緒に面白く遊べる仲間がいるとして、それを楽しみに登校していく状態で、まともに援業に参加しようとの意欲はなかった。このような遊び仲間と一緒に、学内を徘徊したり、放課後のみならず、授業中でも平気で学校を抜けだしては、近隣のコンビニ店等にたむろしたりしながら、各種の悪ふざけや授業妨害に及んでみたり、先生らから注意・指導を受ければ暴言・暴行をもって反抗するのも面白いとして、好き放題の生活をおくってきた。本件非行は、喉が乾いたからと、学校を抜けだして近隣のコンビニ店にジュースを買いに行った際のものである。
少年は、今回の鑑別所入所体験を経るなかでも、ほとんど内省が進まず、本件非行や既措置の非行についても、授業妨害や悪ふざけなど周囲に迷惑をかけ続けていたことについても、面白かったからやってしまったと回顧するだけで、鑑別所の生活は外に出ることができないのがつまらなかった、学校は面白いから好きだ、学校に戻りたいと述べるばかりである。物事の善悪を考えることもなく、ただ、つまらない・面白いとの気持ちの赴くまま好き放題に過ごしている自分の現状に対する問題意識はないに等しく、前向きの目標を持って意欲的に物事に取り組み、自分の行動を規制していく基本的な姿勢に欠けていることの自覚もない。
少年の現状は、すでに在宅処遇の限界を超えているといわざるを得ず、その年齢や非行性の程度がまだ低い段階にあることなどを考慮すれば、少年に対しては、児童自立支援施設に送致して基本的なところからの指導・訓練を加えるのが適切である。また、少年にみられる自分の問題についての自覚の乏しさや気ままな行動傾向の強さなどに照らせば、向後1年の間に通算90日を限度として強制的措置をとることができるようにしておくことが、児童自立支援施設での指導を全うするために必要であると認められる。
よって、少年法24条1項2号、23条1項、18条2項を適用して、主文のとおり決定する。