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横浜家庭裁判所 平成2年(家)1578号

主文

遺言者が平成2年5月16日別紙記載の遺言をしたことを確認する。

理由

第1申立ての要旨

申立人は遺言者の知人であるが、遺言者は平成2年5月16日○○市○区○○町×丁目××番地所在の○○赤十字病院において、その病状が悪化し危急に迫つたので、証人吉本久雄、同福田定夫、同大沢トキ及び同宮本和子が立会のうえ、遺言の趣旨を証人吉本久雄に口授し、同証人がこれを筆記したうえ遺言者及び他の証人に読み聞かせ、各証人がその筆記の正確なことを承認し、これに署名押印して別紙記載の遺言書を作成した。

よつて、主文と同旨の審判を求める。

第2当裁判所の判断

1  証人大沢トキ、同宮本和子及び吉本久雄の各証言、当庁家庭裁判所調査官○○○○及び前橋家庭裁判所調査官○○○作成の各調査報告書、その他本件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人の知人であつた遺言者は、平成2年5月9日○○市○区○○町×丁目××番地○○赤十字病院の452号室に入院し老衰による心不全状態の治療を受けていたが、平成2年6月3日死亡した。遺言者は、入院当初はチェーン・ストークス呼吸という一時的に呼吸が停止する症状があつたが、酸素吸入などの措置で症状はだいぶ改善され、同年5月16日(本件遺言書作成日)前後はチューブを使って鼻から酸素吸入を続けている状態で、まどろんでいる状態から覚醒している状態まで意識レベルは変化しているが、覚醒している状態であれば意識があるので自己の意思を伝えることはできたし、その主治医であつた谷川医師が同日回診した際には点滴とお粥の併用で栄養摂取をしていたものの、医師との受け答えはできていたし、本件遺言書作成当時も自己の財産について処理する判断力はあつた。しかし、同年5月18日から遺言者の全身状態が急に悪くなり、翌19日には食事が取れなくなったので、高カロリーの点滴が始められていた。

(2)  証人吉本久雄(以下、「吉本」という。)は、申立人から電話で、遺言者から申立人が預つた預金通帳について遺言者はそれを申立人にくれると言つているが遺言者はいつ亡くなるか分からないような状態なので至急その旨の遺言書を作成して欲しい旨の依頼を受け、翌16日午後2時頃遺言者の入院していた上記病院に赴き、上記谷川医師に遺言者の病状を確めたところ、遺言者には遺言をする能力があると判断できたため、危急時遺言の方式で遺言書を作成することとした。

(3)  同日午後2時過ぎ頃上記452号室において申立人が遺言者に対し、「私に預金通帳3通を預けてくれましたよね、それを私にくれると言いましたよね。」と話しかけ、「そのための遺言書を作るために来てもらつた弁護士ですよ。」と言つて吉本を紹介したところ、遺言者は頷いていた。

(4)  吉本は、同日午後2時20分頃、申立人を上記病室から退席させたうえ、同病室において、証人福田定夫、同大沢トキ、同宮本和子(以下、いずれも姓のみをもつて記す。)立会のもとに、遺言者に対し、「あなたは渡辺さんに預金を遺贈されるということですが、それでよろしいですか。」と聞き始めたところ、遺言者が口を動かしていたので、遺言者の口許に耳を近付けてみたがその内容が聞きとれなかつた。そこで、大沢に代つて聞いてもらうことにし、大沢が遺言者の口許に耳を近付けてみたが同様にその内容を聞きとることはできなかつた。そこで、吉本は遺言者に対し、「はい」、「いいえ」で答えるか、さもなければ頷くことでもよい旨を伝え、申立人から知らされていた3通の預金通帳の銀行名、支店名、預金の種類、口座番号、金額等についてその存在を遺言者に一つ一つ確かめたところ、遺言者は「アー」、「ウー」に近い声を発しながら各質問に対して頷いていた。そして、吉本が遺言者に対し、「あなたに万一のことがあつたら、これを渡辺佐和子さんに差し上げるということでよろしいですか。」と聞いた際にも、遺言者は同様に頷いていた。また、吉本が、「その他にも財産があると思いますが、それは養女にあげるということでいいのですか。」と聞いたところ、遺言者は同様に頷いていた。以上のとおり遺言者は吉本の問いに頷く程度で遺言者から遺言の趣旨の口授は行われなかつたが、吉本はその場で遺言書を作成するにあたり、遺言者から遺言の趣旨の口授があつたように記載して本件遺言書を作成し、遺言者の前でそれを読み上げたところ、遺言者は頷くだけで分かつているのかどうか分からなかつたが、預金を特定してこれを差し上げることはよろしいですねと確認した際には、遺言者が大きな声で「はい」と答えた。その後、控室において、吉本が本件遺言書を一部手直しをして欄外の訂正の記載を署名押印し、福田、大沢、宮本の順に各証人が本件遺言書に署名押印(ただし、福田は指印)し、同日午後3時頃その手続が終了した。

2  以上認定の事実によれば、本件遺言は遺言者の真意に出たものであると一応認められる。

よつて、主文のとおり審判する。

(別紙)

遺言書

遺言者○○市○区○○××-××井上ゆみは、病気療養のところ、重態に陥り、死亡の危急に迫ったので、平成2年5月16日午後2時20分、入院先の○○日赤病院452号室において、後記四名立会いのうえ、証人吉本久雄に対し、次の遺言の趣旨を口授した。

一 知人群馬県○○○市○○町××番××号渡辺佐和子に次の財産を遺贈する。

1 太陽神戸三井銀行○○支店

普通預金 ××××××××××

金額 金3,856,179円

2 富士銀行○○支店

口座番号×××-××××××

金額 金796,416円

口座番号 ×××-××××××

金額 金33,702,743円

二 その余の財産は、養子井上恵子に相続させる。

証人吉本久雄は右遺言を筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、各証人は、その筆記の正確なことを承認して左にそれぞれ署名押印した。

平成2年5月16日

群馬県○○市○○町×××番地×

証人吉本久雄

群馬県○○○市○○町××番×号

証人福田定夫

群馬県○○○市○○町×××

大沢トキ

神奈川県○○市○○区○○×××-×-×××

宮本和子

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