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横浜家庭裁判所 平成20年(少)4804号 決定 2009年7月31日

少年

A (平○.○.○生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は,平成20年10月11日午前2時5分ころから同日午前4時ころまでの間,a市b区c町d丁目e番地fの自宅居室内において,実弟であるB(当時13歳)に対し,その顔面を手拳で殴打し,物干し竿で左腕を突く等の暴行を加え,よって,同人に全治約2週間を要する頭部,顔面等皮下出血を伴う打撲傷の傷害を負わせたものである。

なお,少年については,平成21年(少)第2527号ぐ犯保護事件も係属しており,その概要は,「少年は,傷害保護事件(平成20年(少)第4804号)により,平成20年12月8日,自立援助ホームである「○○」に補導委託の決定を受け,現在試験観察中であるが,平成21年2月23日から無断で抜け出し,同年3月2日の朝方及び夕方の二度にわたって,a市b区c町d丁目e番地fの自宅居室内及びa市b区c町d丁目所在の韓国料理店「□□」前歩道上において,実母の首を絞めるという暴行を加え,同月29日,上記自宅居室内において,同人の背中を足蹴にするという暴行を加え,同人に肋骨骨折の傷害を負わせ,同年4月27日午前0時ころ,a市b区c町d丁目g番h号所在の「△△」○○店店内において,同人の脛を足蹴にしたり,髪を引っ張って壁に頭をぶつけたりするという暴行を加えた。少年は,監護者である受託者の正当な監督に服さず,正当な理由なく委託先に戻らないので,少年をこのまま放置すれば,その性格・環境に照らして,将来,傷害,暴行等の犯罪を犯すおそれがある。」というものである。本件ぐ犯事実は,本件非行(傷害保護事件,平成20年(少)第4804号)の後に発生したものであり,本件非行をもたらしたぐ犯行状が継続していることを示すものであって,その間に質的な相違は認められないので,本件非行に吸収され,要保護性に関する事実として考慮すれば足りるというべきである。

したがって,本件ぐ犯事実は非行事実として摘示しないこととする。

(法令の適用)

刑法204条

(処遇の理由)

1  本件非行は,少年が実弟に暴行を加えて傷害を負わせたという事案である。

少年は,小学6年生のころから,実弟に暴力を振るうようになり,中学2年生のころからは,実母に対しても暴力を振るうなど,日常的に家庭内暴力に及んでいたところ,平成19年8月15日,実弟に対する傷害保護事件等により初等少年院送致決定を受けた。少年は,平成20年8月26日,少年院を仮退院したが,実母のもとに帰住後間もなく,実母に甘える実弟に対する嫉妬から再び同人に暴力を振るうようになり,同年12月8日,本件非行により○○に補導委託するとの決定を受けた。少年は,平成21年2月まで菓子の製造工場で真面目に稼働していたが,同月23日,補導委託先での人間関係に悩むなどして○○を無断で抜け出し,友人宅を転々としていた。同年7月6日,緊急同行状が執行され,本件ぐ犯事実で観護措置決定を受けるまでの間,少年は,補導委託先に戻るよう諭した実母と口論となって暴力を振るったり,6月ころ,後輩に傷害を負わせ,金員を脅し取ろうとするなどした。このように,少年は関係機関の指導にもかかわらず前件と同様の非行を繰り返しており,少年の要保護性は大きい。

2  少年の資質・性格上の問題点を見ると,少年は,母子間で適切な愛着関係を築けずに強い愛情欲求不満を抱えていることを背景に,他者への過度な依存心と不信感が交錯し,適切な対人距離を保つことが難しいこと,周囲から良い評価を得たい気持ちが強く,周りの期待や意向に沿って頑張ろうとするが,社会的な評価を得られるだけの社会適応力や問題対処力は備わっておらず,少しでも困難が生じるとくじけやすいこと,周囲の評価を過剰に意識する分,自分の弱さが露呈することを恐れる気持ちが強く,失敗や挫折をしても,自己の非を認めず,体よく言い繕ったり,責任転嫁して自己弁護に終始すること等が指摘できる。このような少年の資質・性格上の問題点は,本件非行や補導委託先を無断で抜け出した経緯等に如実に現れており,これらの点が改善されなければ,再び非行に及ぶ可能性は高いと考えられる。

3  少年の保護環境について見ると,父母は平成9年に離婚しており,実母は少年を引き取ったが,過度の飲酒や幼少期の少年への体罰等により,少年との間で適切な愛着関係を構築できなかった。本件非行の背景には,少年の愛情欲求が満たされないことへの寂しさや怒りがあると考えられるところ,実母は少年の度重なる暴力等を理由に少年との関わりを拒絶しており,実母に少年の気持ちを酌んだ細やかな監護を期待することはできない。

4  したがって,以上の諸事情に照らすと,本件非行の内容,補導委託決定後の状況,資質・性格上の問題,家庭環境等の諸事情を考慮すると,少年に対し在宅処遇をもって臨むのは相当でなく,施設に収容した上,専門家による指導・教育を施す必要性は高いというべきである。そして,少年に対しては,家族への気持ちを整理させながら,精神的・経済的に自立した生活を送るための強さと自律性を養うことが必要であり,そのためには,少年を中等少年院に送致して矯正教育を施すのが相当である。

よって,少年法24条1項3号,少年審判規則37条1項を適用して,主文のとおり決定する。

(裁判官 稲玉祐)

〔参考1〕 環境調整命令書

平成21年7月31日

横浜保護観察所長 殿

横浜家庭裁判所

裁判官 稲玉祐

少年の環境調整に関する措置について

氏名 A

年齢 17歳(平成○年○月○日生)

職業 無職

本籍 <編略>

住居 <編略>

当裁判所は,平成21年7月31日,上記少年について,中等少年院に送致する旨の決定をしましたが,少年法24条2項,少年審判規則39条に基づき,下記のとおり,少年の環境調整に関する措置を講じられるよう要請します。なお,詳細については別途の決定謄本並びに少年調査票及び鑑別結果通知書の各写しを参照してください。

1 必要な措置

少年院退院時の帰住先の調整が難航する可能性が高いことから,早い段階から帰住先の調整に着手すること。

2 措置を必要とする理由

少年は,小学6年生のころから,実弟に暴力を振るうようになり,中学2年生のころからは,実母に対しても暴力を振るうなど,日常的に家庭内暴力に及んでいたところ,平成19年8月15日,実弟に対する傷害保護事件等により初等少年院送致決定を受け,平成20年8月26日,少年院を仮退院した。しかし,実母の元に帰住後間もなく,実母に甘える実弟に対する嫉妬から再び同人に暴力を振るうようになり,同年12月8日,本件非行により○○に補導委託するとの決定を受けたが,少年は,○○を無断で抜け出し,補導委託先に戻るよう諭した実母と口論となって暴力を振るうなどした。

本件非行の背景には,少年の愛情欲求が満たされないことへの寂しさや怒りがあると考えられるところ,実母は度重なる少年の暴力等を理由に少年との関わりを拒絶しており,実母に少年の気持ちを酌んだ監護を期待することはできない。少年院退院時の帰住先を実母の元とした場合,少年の再非行が懸念される。

このように,少年について,少年院退院時の帰住先の調整が難航する可能性が高いと考えられることから,矯正教育期間中,早期の段階から,少年の帰住先について検討,調整する必要があると考える。

以上

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