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横浜家庭裁判所 昭和38年(少ハ)11号 1963年4月19日

主文

本人を満二〇年に達するまで中等少年院に戻して収容する。

理由

第一関東地方更生保護委員会の本件申請の理由要旨

本人は昭和三六年四月二八日横浜家庭裁判所において初等少年院送致となり、同三七年六月二四日千葉星華学院を仮退院し横浜市○○区○○町一の○居住の母の許に帰住し、爾来横浜保護観察所の保護観察を受けていたものである。

仮退院後本人は更生の意欲極めて稀薄であり、同年八月頃までの間二回にわたり窃盗をなし、かつ斡旋された職に五日従事したのみで、徒食、浪費、家出、不良交友等放縦な生活に終始したことを理由に同年八月一四日横浜保護観察所に引致され、同月一七日附をもつて同保護観察所長から戻し収容の申出がなされた。しかし関東地方更生保護委員会においては、本人は仮退院後日浅く未だ充分な保護観察を行なう遑がなかつた点、実母が被害の弁償をして本人の更生に熱意を披瀝している点、本人に一応改悛の情が認められ、且つ担当保護司が住込就職先を用意しており本人も更生を誓つている点等諸般の情勢を綜合判断して引続き保護観察によりその更生を期待できるものと判断し、同月二一日同委員会において少年院に戻して収容すべき旨の決定の申請をしない旨の決定をなし即日本人を釈放した。

そして横浜保護観察所においては釈放の即日直ちに本人を横浜市▽▽区△△町八○○三○原コンクリート株式会社横浜工場にコンクリート工として住込就職させ、爾来適時適切な指導監督、補導援護を行なつて来た。しかるに本人の生活態度は依然改らず前記釈放されてから本件で同三八年四月三日引致されるまでの間において

(1)  同三七年八月二一日以降居住すべき場所として指定された住込就職先である前記○原コンクリート株式会社横浜工場に落ち付かず、同工場で僅か五日間位働いただけで正当な理由なく離職し、同月二六日頃同工場を飛び出し同年一二月三〇日頃までの間東京都内を放浪して、その所在を暗ましもつて保護観察を離脱するとともに、その工場出奔の際同工場工員寮内において同僚木○収○所有の背広上衣一着、現金一、二〇〇円及び同僚佐○清○所有の靴一足、現金一、四五〇円を窃取し

(2)  同年一二月三〇日頃横浜保護観察所に出頭し従前の非行につき陳謝し、重ねて同保護観察所の斡旋により、同日以降鎌倉市○○八○○二○部工務店に大工見習として住込就職し、同工務店を居住すべき場所として指定されたのに拘らず、同三八年四月一日頃、予てから交際のあつた女子高校生○波○子と逢引する意図のもとに前記○部工務店から無断で飛び出し、その際雇主○部○一所有のトランヂスターラジオ一台、同僚若○某所有のトレンチコート一着を窃取した。

以上は仮退院に際し本人が誓約した犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の遵守事項の一、二、四の各号及び同法第三一条第三項に基づき同委員会の定めた遵守事項の(3)二〇〇粁以上ある地に旅行し、または三日を越えて住居をあけるときは前もつて受持者の許可を受けること、(4)家出放浪を決してやらないこと、(5)交友関係を注意し職業に安定して母を安心させること、(6)保護観察官、保護司の指示を固く守ること、のそれぞれに違反したものである。

以上本人の行状及び保護観察の経過を綜合勘案するに、本人のわがままで自己中心的な性格はいささかも矯正されておらず、放浪癖は固定化の一途をたどりその反社会性は極めて濃厚なものと認めざるを得ない。しかも再三に亘る担当者の努力により更生の場としてほぼふさわしい職場が与えられ補導援護の面においても遺憾な点は認められなかつたにも拘らず、自らの放縦遊惰な生活態度により自立更生の機会を放棄するにおいては、保護観察の限界に到達しているものと言わなければならない。

一方本人の更生に協力的であつた実母も本人の乱脈を極めた生活態度に対し心痛の余り昭和三八年一月上旬頃からその所在を明らかにしておらず、また終始本人に愛情をもつて接していた雇主○部○一も失望し今後の受容れを拒んでおり、他に適当な社会資源も見当らぬ現状においては、このままに本人を放置するとき、再び放浪生活に入り犯罪を累ねる虞極めて濃厚であり、この際速かに本人を少年院に戻して収容し厳正な団体生活に馴致させることにより反省の機会を与えその反社会性を除去し、且つその間において実母の所在を捜索して調整を図り、或は他に適当な社会資源を開拓する等の方途により、次の機会において本人の更生を期待することが最も適当であると思料するので本件申請をする。

第二当裁判所の認定及びこれに対する判断

本件記録中、(1)横浜保護観察所長の関東地方更生保護委員会宛本人に対する保護観察の経過状況報告書、(2)保護観察官の本人に対する調査書二通、(3)仮退院証書及び誓約書、(4)横浜少年鑑別所の昭和三八年四月一九日附鑑別結果通知書、(5)当裁判所調査官の本人に対する昭和三八年四月附意見書、(6)当裁判所の審判における本人及び保護観察官の各陳述を綜合するに、本件申請理由のとおり少年院から仮退院して横浜保護観察所の保護観察中、遵守事項を遵守せず、非行を反覆累行したことが認定できる。

右認定事実、その他同様認定できる窃盗事件につき昭和三八年二月一八日横浜家庭裁判所において審判があつたが本人は当時○部工務店に就職していたので不処分になつたこと及び本人の性格、行状並びに現在の環境に照らせば将来重ねて非行を反覆する虞が多分に存在し、保護観察を継続するも何等の実効を期することができないと判断されるので、諸般の経過に鑑みこの際本人を満二〇年に達するまで中等少年院に戻して収容するのを相当と認める。(母は横浜保護観察所担当観察官中島源蔵に時々電話連絡があり、本人が親に迷惑をかけないようになつたら住居を知らせると申出あり)

よつて犯罪者予防更生法第四三条第一項により本件申請を認容し、主文のとおり決定する。

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