横浜家庭裁判所 昭和40年(少ハ)3号 決定 1966年4月12日
少年 D・S子(昭二三・七・一一生)
主文
本件申請を却下する。
理由
(申請の理由)
別紙のとおり
(判断)
本件記録ならびに当裁判所調査官箱島重信の調査の結果および昭和四〇年三月一五日付審判廷における少年の陳述によると、本件「申請の理由」記載の事由がうかがわれないこともない。
ところで同日当裁判所は少年を同調査官の観察に付し、身柄を望の門学園に委託して行動観察をしていたところ、同年四月一二日同学園を無断外出し、翌日千葉県木更津市において○山○門(昭和二三年三月二四日生)なる少年と知合い、問もなく同棲生活をするようになる等、試験観察の成績かんばしくないところがみられるに至つた。しかし、両名は互に愛情を抱いて将来を誓い合い、両名の保護者とも将来の結婚生活に承諾を与え、暖かい眼で協力をしている状態にある。しかも、受託先無断外出の点は別として、その後は何等の非行もみられず、特に同年一〇月二七日在宅試験観察に切り替えてからは、安定した生活状態にあり、その後現在まで行動観察を続けてきたが、同上○山との家庭生活によつて、少年は落着きと安定とを取り戻し、保護者の力添えによつて将来もこの状態を持続できるのではないかと推測される。したがつて、現段階にあつては、少年を少年院に戻して収容する程の要保護性は認められないと言わざるをえない。
よつて、同調査官箱島重信の意見をきき、本件申請を却下する
(裁判官 梅原成昭)
参考
申請の理由
本人は当委員会第一部の決定により昭和三九年七月一三日上田清修寮を仮退院して茨城県那珂郡○○村の兄D・Gのもとに帰住し、水戸保護観察所の保護観察をうけていたが、同年八月表記父のもとに転居し、以来横浜保護観察所の保護観察をうけているものであるが、昭和四〇年二月二五日横浜保護観察所に引致され、同日当委員会第三部において「戻し収容申請の審理を開始する」旨の決定をうけ、同日以降同年三月六日を留置期限として横浜少年鑑別所に留置されている。前記保護観察所では保護観察の実施にあたり、本人は幼くして生母に別れ、放任勝の父、および本人とほぼ同年輩の子供を二人つれて父と再婚した義母のもとで愛情に飢えて成長し、家庭に親しめず、中学二年頃から急速に素行が乱れ、所謂ズべ公と交遊して家出をかさね、川崎市内の盛り場で知り合つた素行不良の男達と転々安宿を泊り歩いて徒遊生活をつづけ、遂に窃盗事件あるいは猥褻写真のモデルとなる等の非行から前記少年院に送致されるに至つた事情および社会性、道徳性が低く、不良交友にはしり易い性癖を有すること等を十分考慮し、接触を多くし、本人の真意を早く把握することに努め、仕事に精励させるとともに、家出放浪を戒め、交友関係に留意して適時適切な指導監督、補導援護のもとに、その更生に努めることを方針として保護観察を実施してきた。
仮退院の審理にあたり、当委員会第一部は表記父のもとでは更生至難と判断して前記兄D・Gのもとに帰住せしめたものであるが、本人は仮退院後兄Gのもとにあつて、飯場炊事婦として働くも、同じ飯場の土工に肉体関係を迫られて関係をつづけるうち、兄に発見され殴られる等の事があつて兄と折合が悪くなり、また飯場生活を嫌い、仮退院後、僅か一ヵ月余を経過した昭和三九年八月一七日頃、表記住居の父のもとに転居するに至つた。
爾来、姉B子とともに川崎市内の○○電信会社の女工として通勤し、同年一一月頃からは担当保護司に無断で、またその後担当保護司を訪ねても打ち明けることなく、勝手に表記住居を出て姉とともに川崎市○○町××○○荘アパートに居住していたものであるが、
一、昭和四〇年一月四日頃ささいなことで姉と喧嘩して前記アパートを飛び出し、以後家に寄りつかず、仕事にもつかず、東京都大田区○○あるいは川崎市内の簡易旅館を転々とし、その間少年院入院前から知り合つていた素行不良の男達と交遊し、更には素行不良の○原○○キと知りあい、同人と肉体関係をつづけて行動をともにし、同月一五日頃前記○原等と東京都内新宿の盛り場で警察官に補導されたが、父の迎えをうけて帰宅の途中、逃げ出して、再び○原○○キのもとにはしるが如き有様で、以後も同人と簡易旅館を転々として肉体関係をつづけ、川崎駅附近の素行不良の者達と交際し、徒食遊興の生活をつづけて、その所在を明らかにしようとしなかつた
ものである。
前記の事実は昭和四〇年三月一日づけ横浜保護観察所長からの戻し収容申出書および同書添付の関係書類によつて明らかであり、仮退院に際して誓約した犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の遵守事項
一、一定の住居に居住し、正業に従事すること。
二、善行を保持すること。
三、犯罪性のある者または素行不良の者と交際しないこと。
および、同法第三一条第三項にもとづき前記委員会第一部が定めた遵守事項の
四、行のよくない仲間とつき合わず、みだらな男遊びをしないこと。
のそれぞれに違背している。
前記本人の行状を綜合検討するに、仮退院当初から道徳性の低劣と閉鎖的な性格が窺われ、ささいなことに反撥して家出を敢行し、素行不良の男等と交遊し、不純な性関係をもち遊惰な生活をつづけているもので、少年院入院前と同様の状態にあると認められる。しかも、家庭に保護能力を欠き、本人の落ちつきうる適当な居所すらもない現在、このままに推移すれば本人の将来をあやまつ虞は濃厚である。
よつて、この際すみやかに少年院に戻して収容し、不良環境から隔離の上、本人自身の性格の陶冶を図り、根深い反社会性を除去することが急務と認められ、更にその間将来帰住すべき環境の調整を図り、本人との親和感を醸成し、再度仮退院により更生の実を挙げることが妥当と思料し、この申請をする。