横浜家庭裁判所 昭和53年(家ロ)100号 決定 1978年7月03日
申立人 安場孝治
主文
本件申立をいずれも却下する。
理由
上記申立人安場孝治(以下本件申立人という。)は同人を申立人とし安場智恵を相手方とする当庁昭和五三年(家イ)第二七三号婚姻関係調整事件(以下甲事件という。)及び安場智恵を申立人とし本件申立人を相手方とする当庁昭和五三年(家イ)第四〇五号婚姻関係調整事件(以下乙事件という。)につき、これら事件を担当する家事審判官ら(家事審判官○○○○及び同△△△△)を忌避する旨の申立をしたが、その理由とするところは別紙「裁判官忌避の申立」と題する書面のとおりである。
よつて審案するに、本件及び前記甲乙両事件の各記録によれば、甲乙両事件はこれを併合して調停を進めるべき方針が立てられ両事件のための第一回調停期日は昭和五三年四月二八日一四時三〇分と指定されたが、上記期日の呼出状には甲事件のための呼出をする旨の記載が明確でなかつたこと、しかし右期日に先立ち担当家事調査官から本件申立人に対し上記両事件は併合して調停を進める旨告知され、本件申立人もこれを知つていたこと、上記呼出状には乙事件の申立人として安場智恵という氏名が記載されていたこと及び本件申立人はこれらをもつて呼出状が正当でないとして前記調停期日には(事前に連絡のうえ)出席しなかつたことが認められる。
しかしながら乙事件の記録によれば、同事件の申立人は安場智恵であることが明らかであるから同事件の申立人として前記期日の呼出状に安場智恵の氏名が記載されたことは何ら不当ではないし、前認定の事実関係のもとにおいては、調停期日の呼出状に甲事件のための調停期日であることを明示する記載が欠けていたからといつて、直ちに裁判所がその事件又はその事件のための申立書の存在若しくは申立書に記載された申立の趣旨や実情を無視したということはできないから、上記認定事実をもつて家事審判官忌避申立の事由とはなしえない。
次に、本件申立人は前記調停期日に調停委員会は本件申立人が欠席していたにもかかわらず、反対当事者及びその代理人(弁護士)出席のもとに実質的に調停手続を進行させたこと、特に事件当事者ではない者(前記反対当事者の父親)に発言を許し、その意見を聴取する等の行為をしたことは、弁護士が付いている当事者の一方を偏重し本件申立人を不当に軽視したものであり、この事実は担当家事審判官を忌避すべき事由に該当する旨主張している。
しかしながら、一般に調停申立人又はその相手方の一方が出席していない場合において、当事者の一方から事情を聴取し、又は当事者に対する事情聴取に先立ち、当事者の近親者等事件と関係ある者ないし事情を知る者の意見を聴取し、又は事情を聞く行為は調停手続を合理的に運営し、迅速適正に調停の実績をあげるため必要な措置であり、担当調停委員会の権限に属すると解すべきことに疑いの余地はないから、前記調停委員会がそのような措置を執つたからといつて当事者の一方を重視し、他の一方を軽視したということはできず、上記事実は担当家事審判官を忌避すべき事情に該当しないからこの点に関する本件申立人の主張は主張自体理由がないといわなければならない。
以上のほか本件及び甲、乙両事件の各記録を精査しても前記家事審判官につき調停の公正を疑わせるような事情を見出すことはできないから、本件申立人の上記家事審判官らに対する本件忌避の申立は失当で理由がない。
よつて本件忌避の申立はいずれも却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 兼子徹夫 裁判官 浜田正義 古川行男)