大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜家庭裁判所川崎支部 平成6年(家)493号 1995年6月30日

主文

一  甲事件相手方(乙事件申立人)三浦由布子の寄与分を1222万4602円と定める。

二  被相続人三浦政次(本籍東京都中野区○○×丁目××番地)の遺産を次のとおり分割する。

1  別紙遺産目録記載一1、2、同二の各不動産は、甲事件相手方(乙事件申立人)三浦由布子、甲事件相手方(乙事件相手方)西尾美紀の共有取得(共有持分は、三浦由布子4分の1、西尾美紀4分の3)とする。

2  同目録記載三の預貯金等は甲事件申立人(乙事件相手方)チャーリー・ダグラスの取得とする。

3  甲事件申立人(乙事件相手方)チャーリー・ダグラスに対し、

(一)  甲事件相手方(乙事件申立人)三浦由布子は金240万円

(二)  甲事件相手方(乙事件相手方)西尾美紀は金740万円

を本審判確定の日から6か月以内にそれぞれ支払え。

理由

第一本件申立の要旨

1  三浦政次(本籍東京都中野区○○×丁目××番地)は、昭和63年7月22日死亡し、同人の遺産につき相続が開始した。

2  その相続人は、妻である甲事件相手方(乙事件申立人)三浦由布子(以下、由布子という)、長女である甲事件相手方(乙事件相手方)西尾美紀(以下、美紀という)、被相続人とその先妻きく(調停離婚)との間の長男である甲事件申立人(乙事件相手方)チャーリー・ダグラス(以下、ダグラスという)の3名である。

3  ところで、由布子は、被相続人と婚姻後、被相続人から家計を任され、専業主婦として家事・育児に専念してきた。そして、老後のための住宅を購入すべく、毎月の生活費を切り詰める等の協力の結果、本件遺産中の土地建物を購入したものであり、また、被相続人が病気中には、その療養・看護に努めたものであるから、由布子には、本件遺産中の不動産につき特別の寄与貢献をしたものとして、同不動産相当の寄与分が認められてしかるべきである。

4  ダグラスは、被相続人の別紙遺産目録記載の遺産につき、分割の協議を試みたが、協議が整わない。

よって、由布子については本件遺産中の不動産(相当額)の寄与分を定める旨の審判を、また、相続人間での遺産分割の審判をそれぞれ求める。

第二一件記録による当裁判所の判断

1  相続の開始、相続人及びその法定相続分

本件記録によれば、三浦政次(本籍東京都中野区○○×丁目××番地)は、昭和63年7月22日死亡し、相続が開始したが、右被相続人の遺産につき相続権を有する者は、被相続人妻である由布子、子供である美紀及びダグラスであり、各自の法定相続分は、由布子が2分の1、その余が各4分の1であることが認められる。

なお、本件遺産分割申立前に、ダグラスは、被相続人の遺産につき、「遺産につき分割取得する意思はない」かのごとき書面を由布子ら宛に送付しているが、その後、その意思を撤回しており、それを無効とする事情も窺われないのであるから、ダグラスは4分の1の法定相続分を有するというべきである。

2  相続開始に至るまでの事情及び遺産の範囲

(一)  被相続人とダグラスの実母である申立外ライアンきく(以下、申立外きくという)とは、昭和32年2月、調停離婚し、その際、被相続人は、申立外きくに対し、東京都国分寺市所在の土地100坪と現金100万円を、財産分与及びダグラスの養育費として譲渡した。その後、申立外きくは、昭和42年5月、オーストラリア人エミリオ・ダグラスと結婚し、上記国分寺所在の土地を1200万円で売却した上、ダグラスを連れてオーストラリアに移住して生活し、エミリオ・ダグラス死亡後は、オーストラリアでライアン氏と3度目の結婚をして現在に至っている。

(二)  ダグラスは、オーストラリアで高校、大学教育を受け、現在は結婚して、同地で高校の音楽教師をして生活しているもので、申立外きく及びダグラスとも、昭和42年にオーストラリアに移住した後は、日本に帰国したことはない。

(三)  由布子は、駐留軍占領下の立川基地に勤務していた時に、同基地内クラブに勤務していた被相続人と知り合い、昭和32年6月4日、被相続と婚姻した直後に退職し、以後専業主婦として家事・育児(長女の美紀=昭和32年6月12日生)に専念してきた。

(四)  被相続人は、昭和36年6月まで上記立川基地に勤務し、同年7月から同41年10月まで○○カンパニー日本支社に勤務した後、同41年11月から同61年12月まで○○株式会社に勤務し、同社退職後は、自宅を仕事場に、由布子を補助者として経営コンサルタント(マーケティングリサーチ)の仕事を始めたが、同62年2、3月ころ体調を崩し、同年7月ころ入院(大腸癌)、昭和63年7月22日死亡した。

(五)  同人の生前の主な収入は、勤務先から支給されていた月給と、昭和62年1月、○○株式会社を退職した際に支給された退職一時金1473万円であって、同会社退職後、上記疾病で入院した昭和62年7月から同年12月までの収入は、マーケティングリサーチと○○株式会社からの相談料、同63年1月以降は、マーケティングリサーチからの相談料のみであった。

(六)  ところで、被相続人と由布子は、老後のための自宅を購入することを計画し、家計を任されていた由布子は、被相続人から受け取る月給のなかから少しずつ貯蓄をして住宅購入資金を準備する等の協力をし、被相続人は、昭和46年8月、同貯金と○○銀行からの借入金600万円との合計900万円で、川崎市○○区内の○○ハイツ×号棟××号室(土地は共有持分)を購入した。

(七)  昭和57年7月19日、被相続人は、上記○○ハイツの売却代金、上記(六)同様の由布子の協力による貯金、他からの借入金等の合計4380万円で、別紙遺産目録記載一1、2の各土地及び同目録記載二の建物(但し、別紙遺産目録記載一1の土地については、購入当時の被相続人の持分5分の5)を買い換えた。しかして、被相続人は、上記借入金のうち、○○共済会分578万6644円については昭和62年2月、被相続人の友人○○分500万円については同年3月、いずれも上記(五)の退職一時金の一部をもって完済した。

(八)  更に、被相続人は、上記退職一時金から、昭和62年4月、墓地購入費として108万円、同年9月、台所の改造費として240万円を支払った。

(九)  被相続人の預貯金残は、別紙遺産目録記載三の1ないし5のとおりである(他にその存在を認めるに足る証拠はない)。

(十)  被相続人は、由布子に対し、昭和62年9月30日、「現在住んでいる建物と多少の年金もあるから、将来の生活には困らないだろう。」といって、本件土地のうち、別紙遺産目録記載一1の土地(上記(七)のとおり、購入当時の同土地についての被相続人の持分は5分の5)の持分5分の4を贈与し、その旨の登記を了した。

(十一)  以上によれば、本件遺産分割の対象となる被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載一1、2の各土地、同二の建物及び同三1ないし5の預貯金等の財産と認める。

3  由布子の寄与分

上記2認定の事実によれば、由布子は、昭和32年6月に被相続人と結婚してから被相続人が死亡する昭和63年7月までの約31年間にわたり、専業主婦として、被相続人と同居し、且つ長女美紀を養育しながら被相続人から任された家計を切り盛りし、本件土地建物購入資金の稔出に努めてきたものであり、また、被相続人が病気で入院した際には、妻としてその療養看護に努めるなどしたものであって、被相続人の財産の維持につき特別の寄与をした者であることが明らかである。

しかして、上記認定の寄与の期間、方法、程度及び遺産の内容、額及びダグラス側の事情その他本件における一切の事情を総合すると、由布子の寄与分は、全遺産の50パーセント相当と認めるのが相当である。

4  由布子の特別受益

上記2(十)のとおり、昭和62年9月30日、由布子は、被相続人から別紙遺産目録記載一1の土地の持分5分の4を、同女の生計の資として贈与され、同日、所有権移転登記を経由したことが認められる。しかして、これは由布子の特別受益財産である。

なお、由布子が受け取ったとされる県民共済(生命保険)金300ないし400万円については、保険金受取人として由布子が指定されていた場合には、同保険金は、保険契約の効果として保険金受取人が直接取得する固有の財産であり、遺産分割の対象にはならないというべきであり、また、民法903条に定めた生前贈与ないし遺贈には該当せず、特別受益には当たらないと解するのが相当である。しかして、上記保険契約における保険金受取人が、被相続人となっていたか否かについては、確知し得る資料がないから、本件においては、同保険金について、遺産分割の対象にはしない。

また、被相続人生前中、台所の改造費として支出した240万円については、由布子に対する特別受益と解する余地はない。

5  遺産の評価額

(一)  別紙遺産目録記載一の1の土地(但し持分全部)、同一の2の土地の5分の1、同二の建物の昭和57年7月購入当時の価格合計は4380万円であった。

(二)  上記土地建物の平成7年度における固定資産税評価額は下記のとおりである。

(1) 別紙遺産目録記載一の土地のうち、

1の土地(持分全部) = 3020万6970円(5分の1 = 604万1394円)

2の土地(持分全部) = 2743万4812円(5分の1 = 548万6962円)

(2) 同二の建物 = 659万8284円

(3) 上記のうち、別紙遺産目録記載一の1の土地(持分全部)、同2の土地の持分5分の1、同二の建物の合計額は4229万2216円となる。

(三)  土地基本法等の趣旨・解釈による「平成6年以降の固定資産評価額は、公示価格ベースの約70パーセント」との経験的算定方式によれば、

(1) 別紙遺産目録記載一の土地のうち、

1の土地(持分全部) = 4315万2814円(5分の1 = 863万0562円)

2の土地(持分全部) = 3919万2588円(5分の1 = 783万8517円)

(2) 同二の建物 = 942万6120円

(3) 上記のうち、同目録記載一の1の土地(持分全部)、同2の土地の持分5分の1、同二の建物の合計額は6041万7451円となる。

(四)  上記(二)、(三)を基に、上記(一)の購入当時の各土地建物毎の価格を算定すると次のとおりとなる。

(1) 別紙遺産目録記載一の土地のうち、

1の土地(持分全部) = 3128万3895円(5分の1 = 625万6779円)

2の土地(持分全部) = 2841万2903円(5分の1 = 568万2580円)

(2) 同二の建物 = 683万3523円

(五)  以上を総合し、本件遺産分割の対象となる別紙遺産目録記載一、二の不動産(以下、本件土地建物という)の相続開始時及び審判時における価額は、次のとおりであると認定するのが相当である(審判時のそれは上記(三)により、相続開始時のそれは上記(四)に、同(三)と同(四)との差額分の半額を加算した)。

相続開始時(円) 審判時(円)

(1) 本件土地のうち、

1の土地(持分5分の1) 744万3670 863万0562

2の土地(持分5分の1) 676万0548 783万8517

(2) 本件建物 812万9821 942万6120

6  相続分の算定

(一)  相続開始時の遺産価額

上記5で認定したとおり、相続開始時の遺産価額は、不動産につき2233万4039円、預貯金等につき211万5166円(1U.Sドル100円として換算)の合計2444万9205円であるが、これら上記3認定の、由布子の寄与分50パーセントに相当する1222万4602円を控除すると1222万4603円となる。

(二)  特別受益額

上記4、5を総合すると、由布子の特別受益額は2977万円4680円である。

(三)  みなし相続財産の価額

上記(一)、(二)の合計額である4199万9283円となる。

(四)  各相続人の本来的相続分

由布子 4199万9283円×(2分の1) = 2100万円(100円以下四捨五入、以下同じ)

美紀、ダグラス

各4199万9283円×(4分の1) = 1050万円

(五)  特別受益及び寄与分による具体的相続分

由布子 2100万円+1222万5000円-2977万5000円 = 345万円

美紀及びダグラス

各1050万円

(六)  各相続人の現実の取得額

本件遺産の現在価格2802万円(上記(一)及び5(五)のとおり、不動産につき2590万円、預貯金等につき212万円の合計)に上記(五)の具体的相続分の比率を乗じて算定すると、次のとおりとなる。

由布子 2802万円×(2445分の345) = 395万円

美紀及びダグラス

2802万円×(2445分の1050) = 1203万円

7  当裁判所の定める分割方法

如上認定の各相続人の生活状況及び本件遺産に属する本件土地建物の使用状況、預貯金等の保管状況、各相続人の遺産分割に関する意見並びに本件記録に現れた一切の事情を総合検討すると、次のとおりに分割するのが相当である。

(一)  本件土地建物は、いずれも由布子、美紀の共有取得(共有持分は、由布子4分の1、美紀4分の3)とする。

(二)  別紙遺産目録記載三1ないし5の預貯金は、ダグラスの取得とする。

(三)  上記遺産取得の代償として、ダグラスに対し、

<1> 由布子は金240万円

<2> 美紀は金740万円

の支払義務があるというべく、右各金員については、本審判確定後6か月の余裕を置いて支払わせるのが相当である。

第三結語

よって、由布子の寄与分を1222万4602円と定め、被相続人三浦政次の遺産について、各当事者の分割取得分等を主文第二項のとおり定めることとし、主文のとおり審判する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例