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横浜家庭裁判所横須賀支部 昭和58年(家)1218号 審判 1994年3月28日

申立人 大川トメ

同代理人弁護士 村野守義

申立人 内田洋子

申立人 高田由美子

同代理人弁護士 安原幸彦

相手方 大川武夫

相手方 中田良子

被相続人 大川吉之助(昭和五五年八月二七日死亡)

主文

一  被相続人大川吉之助の遺産を、次のとおり分割する。

1  別紙遺産目録第2、1、<1>の遺産は申立人高田由美子が取得する。

2  別紙遺産目録第2、1、<6>の電話加入権、同目録第3、家財一式は、申立人大川トメが取得する。

3  別紙遺産目録第2、1、<8>の遺産、2、<10>の預金のうち金六万一七九四円、<11>の預金二五万八〇一〇円、<13><14>の書替え預金二一三万〇六二三円については、次のとおり取得する。

申立人大川トメ 金八五万一八〇八円

申立人内田洋子 金五六万七八七三円

申立人高田由美子 金五六万七八七三円

相手方中田良子 金五六万七八七三円

4  相手方大川武夫の取得分は零である。

二  上記遺産のほか、別紙遺産目録第1、2、<4>の建物および同目録第2、1、<1>、<6>、2、<13>、<14>の費消分、第三の遺産の各代償として、

1  申立人三名は、本審判確定の日から三月以内に、相手方中田良子に対して、それぞれ金三万一二二二円および各金員に対する本審判確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  申立人高田由美子は、本審判確定の日から三月以内に、申立人大川トメに対して 金八〇万二六三三円、同内田洋子、相手方中田良子に対し各金五三万五〇八九円および各金員に対する本審判確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  申立人大川トメは、本審判確定の日から三月以内に、申立人内田洋子、同高田由美子、相手方良子に対して、それぞれ金一二万八八八八円および各金員に対する本審判確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  申立人高田由美子は、本審判確定の日から三月以内に、申立人大川トメに対して 金二八万九七九二円、同内田洋子、相手方中田良子に対して各金一九万三一九五円および各金員に対する本審判確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

理由

第一本件申立ての要旨

本籍神奈川県横須賀市<番地略>、亡大川吉之助は、昭和五五年八月二七日死亡し、相続人は当事者全員である。相手方大川武夫は、被相続人亡吉之助の遺産の大部分を占める貸家などの賃料を一人で受け取り費消して、話合いに応じないので、適正な遺産分割を求める。

第二当裁判所の判断

一  相続の開始、相続人

本件記録によれば、以下の事実が認められる。

1  相続の開始

本籍神奈川県横須賀市<番地略>、大川吉之助(明治三二年三月一七日生れ。以下、「亡吉之助」という。)は、昭和五五年八月二七日、死亡した。

2  相続人

申立人大川トメ(明治四〇年一〇月二九日生れ。以下、「申立人トメ」という。)は、昭和二年一月二一日に被相続人亡吉之助と婚姻した妻である。申立人トメは亡夫との間に長女昌子(昭和三年一月八日生れ)をもうけたが、同女は昭和九年四月八日に死亡したが、その後、次女申立人内田洋子(昭和五年一月一日生れ。以下、「申立人洋子」という。)、長男相手方大川武夫(昭和六年一一月一五日生れ。以下、「相手方武夫」という。)、三女申立人高田由美子(昭和八年七月二日生れ。以下、「申立人由美子」という。)、四女相手方中田良子(昭和一一年九月二一日生れ。以下、「相手方良子」という。)をもうけた。その各法定相続分は、申立人トメが三分の一、他の申立人ら、相手方らはいずれも六分の一である(昭和五五年法律第五一号による改正前の民法九〇〇条、昭和五五年法律第五一号の附則1、2参照)。

二  本件審判手続の経過

1  家事調停の申立てと経過

本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1) 申立人トメ、同洋子、同由美子の三名は、昭和五七年九月一三日、当庁に対し、被相続人亡吉之助の別紙第一遺産目録第1、第2、第3記載の遺産について遺産分割の家事調停を申し立てた(当庁昭和五七年家イ第三一〇号調停申立事件)。その申立ての理由は相手方武夫が遺産の家賃を独り占めするからというものであった。

(2) 調停委員会は、上記遺産分割の調停事件について、申立人三名代理人弁護士、相手方武夫代理人弁護士の協力のもとに、預金、賃料の資料などを整理していたが、昭和五八年二月から、相手方武夫は不出頭となり、同年三月からは相手方良子も不出頭となる。春から秋にかけて相手方武夫の非協力のゆえに期日は空転して、昭和五八年一一月一八日、相手方武夫、同良子の両名は不出頭のため、相手方武夫代理人弁護士の出席はあったものの調停手続を進行させることができないため、遺産分割の調停は不成立となり、同日、家事審判手続に移行した。

2  審判手続への移行後の経過

本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件遺産分割審判事件は、昭和五八年一一月一八日に調停から審判に移行し、その後、二回の審判期日を重ねた。

この間、昭和五九年三月、申立人三名代理人弁護士が申立人トメ、同洋子の代理人を受任しないとの通知をした(同代理人弁護士は、昭和六二年五月一五日、三名全員について改めて辞任した。)。なお、昭和五九年四月一六日付の申立人トメ他名義の趣旨の不明な手紙が当裁判所に送付され、そこには「申立人三名は弁護士をお願いできない。」旨の記載があった。

次いで同年四月、相手方武夫代理人弁護士も辞任した。その結果、本件審判事件の次回期日は追って指定することになり、次項の保全事件の審理に月日を重ねたため、昭和六二年六月までその進行を止めてしまった。

(2) 申立人三名代理人弁護士は、昭和五九年一一月二八日、申立人三名から受任して、同年一二月一〇日、当庁に対して、審判前の保全処分(財産管理者の選任)の申立てをした。その申立ての理由は相手方武夫が勝手に財産を処分することを防止することであった。しかし、同保全事件は、昭和六一年六月に至り、財産管理者の候補者に人を得られず、同事件の進行も頓挫した。同月二五日、申立人三名代理人弁護士は上記保全事件について辞任した。このため保全手続も進行を停止した(申立人三名は、その後、この申立てを取り下げた。)。

(3) 当裁判所は、本件遺産分割審判事件について、昭和六二年六月一日、審判期日を開いたが、申立人三名は代理人を選任するため続行を求め、相手方武夫、同良子は不出頭であった。そして、申立人三名は、同年七月二一日、前記当事者欄記載の代理人弁護士二名を選任して、同年一一月、期日に出頭したが、相手方武夫はなお不出頭であった。同年一二月二四日の審判期日において、相手方武夫が、昭和五九年一一月二七日に、別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産の法定相続分六分の一の持分を加賀本肇雄に売却譲渡したことの処理をめぐり、利害関係人加賀本肇雄の代理人弁護士と申立人三名の代理人弁護士は、本件審判手続内での上記処理に関する協議を続けることは困難であるとして、話合いをうちきった。

そこで、利害関係人は本手続から脱退し、民事訴訟で解決することにして(横浜地方裁判所横須賀支部昭和六二年ワ二五九号共有物分割請求事件)、遺産分割審判事件についての期日は「追って指定」となり、その審理は中断された。

なお、相手方良子は、昭和六一年七月三一日に、同じく加賀本に対して別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産の法定相続分六分の一の持分を売却譲渡した。

3  訴訟事件の推移

本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1) 加賀本は、自ら原告となり、申立人三名を被告として横浜地方裁判所横須賀支部に対して、別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の不動産について共有物分割請求事件を提起し、平成二年六月二六日、第一審判決の言渡しがあり、東京高等裁判所は、平成二年九月三〇日、第二審判決(一部変更判決)を言い渡した。これにより確定した裁判の要旨は、後記のとおりである。(なお、共有物分割訴訟を審理した時期は、いわゆるバブル経済の時代に始まり、土地価格が高騰を続け、その頂点に至り、下落期に入った後ころまでである。)

「<1> 別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の不動産を次のとおり分割する。

(a) 同目録第1、1消防署脇物件<1>記載の不動産について、甲土地部分とその余の乙土地部分(後の六番三六の土地)とに分筆し、前者を申立人トメ(持分四分の二)、同洋子(持分四分の一)、同由美子(持分四分の一)の共有とし、後者を原告の所有とする。

(b) 同目録第1、1消防署脇物件<3>記載の不動産は、加賀本の所有とする。

(c) 同目録第1、2母屋物件<1>記載の不動産は、申立人トメ(持分一〇分の八)、同洋子(持分一〇分の一)、同由美子(持分一〇分の一)の共有とする。

(d) 同目録第1、1消防署脇物件<2><4><6>、2母屋物件<2><3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産は、申立人トメ(持分四分の二)、同洋子(持分四分の一)、同由美子(持分四分の一)の共有とする。

(e) 加賀本は、申立人トメに対し、一七八七万九〇〇〇円を、同洋子および由美子に対し、各八九四万円をそれぞれ支払え。

<2> 申立人三名は、加賀本に対し、同目録第1、1消防署脇物件<1>記載の不動産のうち乙土地部分(後の六番三六の土地)、同目録第1、1消防署脇物件<3>記載の不動産について、共有物分割を原因として申立人トメは持分六分の二、同洋子および同由美子は持分六分の一の各持分移転登記手続をせよ。

<3> 加賀本は、

(a) 同目録第1、1消防署脇物件<1>記載の不動産のうち乙土地部分(後の六番三六の土地)、同目録第1、1消防署脇物件<2><4><6>、2母屋物件<2><3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産の加賀本の持分六分の二について共有物分割を原因として、申立人トメに対し持分六分の一、同洋子及び同由美子に対し、それぞれ持分一二分の一の各持分移転登記手続をせよ。

(b) 同目録第1、2母屋物件<1>記載の不動産の加賀本の持分三〇分の四について共有物分割を原因として、申立人トメに対し持分三〇分の二、同洋子および同由美子に対し、それぞれ持分三〇分の一の各持分移転登記手続をせよ。」

(2) 次いで、加賀本は、自ら原告となり、申立人トメを被告として、横浜地方裁判所横須賀支部に対して、別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<2><3><4><6>、3線路脇物件<4><6>記載の不動産に関する相続開始後である昭和五九年一一月以降の賃料、同目録第1、2母屋物件<1>記載の不動産に関する同年一一月以降の賃料相当損害金に関する不当利得等返還請求訴訟を提起し、平成三年一一月二八日、後記のとおり第一審判決(一部認容一部棄却判決)の言渡しがあり、確定した。

「申立人トメは、加賀本に対し、一一八〇万二七三四円およびこれに対する平成元年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」

4  遺産分割審判手続の再開

本件記録によれば、以下の事実が認められる。

(1) 平成五年三月五日、申立人三名代理人の申出により遺産分割審判手続は再開され、申立人洋子および同由美子、相手方武夫、同良子の相続人四名ならびに申立人三名の代理人弁護士が出頭した。その後、同年四月九日、五月二一日、七月一六日、九月一〇日、一〇月八日、一二月三日と六回の審判期日を経た。この間、申立人三名は、数度にわたり家事調停案を提案したが、当初、申立人由美子の取得する不動産の割合が多かった。そこで、家事審判官、参与員は本件相続人間の個別的な事情のなかでもできるだけ法定相続分を尊重した内容にすることを勧めるなどを調整した結果、申立人三名は申立人トメの取得不動産の割合を増加する内容に調停案を修正することに応じた。しかし、相手方武夫、同良子は、なお共有物分割訴訟により確保した各不動産に関する分割案の部分については同意しなかった。

なお、申立人トメは、平成五年九月三〇日、相手方武夫を介して自分の代理人弁護士を解任する旨の書面を提出した。しかし、同年一〇月八日の審判期日での、申立人トメに対する審問の結果によれば、「上記書面は総て私が書いたものではなく、印鑑だけを押したところ、相手方武夫が裁判所に郵送したものであって、引き続き弁護士にお願いする。前の解任届は撤回します。」と述べた。

相手方武夫は、同期日に出頭して、当時申立人三名が提出していた調停案に反対したが、その理由は「不動産を母が法定相続分のとおり取得すべきである。他の金銭などについては異議がない。」と述べた。相手方武夫は、その後の期日には欠席した。

同年同月二四日、申立人三名の代理人弁護士二名は、申立人由美子と申立人トメのそれぞれ単独の代理人となるため、他の者の代理人を辞任した。

(2) 遺産分割審判事件の分離

平成五年一二月二四日、遺産分割審判事件は、申立人三名間における別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、<4>(物置)、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産(前記共有物分割請求事件での価格賠償金を含む。)についての遺産分割審判事件を申立人三名と相手方二名の全員に関する残余遺産、主として預金類などに関する遺産分割審判事件から分離された。

当家庭裁判所は、本件のような場合において、以下の理由から、遺産分割審判手続を分離することができると解する。すなわち、遺産分割をするに当たり、一部の相続人について一部の遺産にかぎり分割することが合理的であり、また民法九〇六条が定める分割の基準に照らして遺産全体の総合的な配分に齟齬をきたさず、残余財産の分配について相続人間の公平をはかることが可能であるときには、遺産分割の審判手続を分離することができると解すべきである。そして、この分離した審判事件を、必要に応じて家事調停に付することも家事審判法一一条、一八条に照らして当然可能であると解すべきである。これを本件について見ると、次のとおりである。

相手方武夫と同良子の両名は、別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、<4>(物置)、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産(価格賠償金を含む。)については、既に遺産共有による持分を他人に譲渡したものである。両名のうち、相手方武夫はみずからが譲渡した持分(法定相続分)に相応する代償金を現在は所持していない。相手方良子もみずからが譲渡した持分(法定相続分)に相応する代償金を費消してしまい現在は所持していない(同人に対する審問の結果)。したがって、相手方武夫と同良子は、前記遺産の物件については一応離脱したというべきである。そして、申立人三名は、相手方両名がした持分譲渡については、その部分は一部分割をしたものとして取り扱うべきであるとの主張をするのであるから(本件審判手続のなかで、相続人間での具体的相続分の不均衡を調整することを不必要とする趣旨ではなく、また民事訴訟手続での権利行使をしないという趣旨でないことはいうまでもない。)、現在の段階では右の持分譲渡を容認するものと認められる。それゆえ、上記各不動産について一部分割の協議を成立させたと同じ法的効果を認めるものといえ、しかも、これは爾後の調整を不要とする合意とは異なるものであるから、いわば中間的な段階的分割があったにとどまるものと認められる。また、共有物分割訴訟の結果、共有物の分割に伴う価格賠償金三五七五万九〇〇〇円は、なお遺産の分割対象としての性質を帯びるものではあるが、第一次的には申立人三名の共有に属するものであって、いかなるときにも残余遺産と一体的な処理をすべきものとまではいえない。ただし、相手方両名が、譲渡持分の対価をそのまま保持して残余遺産とともに分割をすることを求めるような場合には、なお他の残余遺産を含めた全体を総合的一体的に具体的相続分にしたがい配分すべきであり、あるいは譲渡持分の対価をそのまま保持していないときであっても、残余遺産との全体的な分割をするに際して、前記遺産である不動産と価格賠償金を含めて総合的配分をすることが、民法九〇六条が定める分割基準に照らして合理性がある場合にはなお一体的に遺産分割の手続を進めることができる。

しかし、本件では、譲渡持分の対価である金銭は現存しないこと、他の遺産としては残余の大部分は預金類などだけであって、残余遺産との一体的な配分を要請し、それが合理的であるというべき事情はうかがわれない。残余遺産のなかには、不動産もあるけれども、それは、別紙遺産目録第1、2母屋物件<4>記載の建物(物置)があるだけである。この物置は、本件記録によれば、相手方両名が加賀本に対して前記遺産である不動産の法定相続分を譲渡(売買)したときも、保存登記をしたうえで譲渡することができたのにもかかわらず、ほとんど顧みられることなく放置されていたものであることなどにかんがみれば、分離した事件の相続人である申立人三名以外の他の当事者には具体的相続分に応じた代償金をもって配分することで足りる場合であるというべきである。

結局、前示した遺産分割審判事件の分離は、これを妨げるべき事情がなんら存在しないばかりか、むしろ遺産分割の審判を適切に進めるうえでは合理的な方策であると認められる。かくして、本件審判手続を分離することは相当であるというべきである。

(3) 分離事件の付調停と調停の成立

前同日、申立人三名は、同人間における別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、<4>(物置)、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産(価格賠償金を含む。)に関する遺産分割審判事件が家事調停に付され、そこでは、申立人トメの老後の扶養を含めた合意ができたので、同日、別紙「一部遺産分割家事調停条項(要旨)」記載のとおり遺産分割の家事調停が成立した(当支部平成五年家イ第四四〇号事件)。

5  審判事件の終結

(1) 当家庭裁判所は、平成五年一二月二四日の審判期日において、本件遺産分割審判事件は、前記のように一部分離した遺産分割審判事件を調停に付した。そして、同事件について家事調停が成立したが、本件審判事件は、この間しばし休憩した後、あらためて再開し、残余の遺産に関する遺産分割の審判手続を進めた。

(2) そこでは、申立人三名と相手方良子は、遺産分割の審判に当たり別紙遺産目録第1、2母屋物件、<1>の土地について「亡父の母トメに対する贈与持分を遺産分割の対象とすることは望まない。」と述べた。

ところで、本件記録によれば、同目録第1、2母屋物件、<1>の土地について、亡吉之助は、昭和五四年一〇月二五日、申立人トメに対して、その持分一〇分の六を妻が老後の生活を送る根拠地を確保するために贈与し、同月二六日、その持分移転登記手続をすませたことが認められる。したがって、これは民法九〇三条の特別受益に当たる。

(3) なお、相手方武夫は、平成六年三月一〇日の最終審判期日に出頭して、「亡父の母トメに対する贈与持分を遺産分割の対象とすることは望まない。」と述べた。(この最終審判期日には、相続人全員が出頭した。)

三  遺産の分割について

1  具体的相続分の確定

そこで先ず、審判による遺産分割をする前提として具体的相続分の確定について考察するに、相手方武夫の相続人として具体的相続分の有無、特別受益に該当すると見られる申立人トメの亡吉之助から生前に贈与された母屋物件<1>の土地の共有持分の扱いを見る。

(1) 遺産分割審判事件は、非訟事件としての一般的な原則にしたがうものであり、その基本的な手続構造は家事審判法の定めるところにしたがう。この制度は、既判力を伴わない裁判手続であり、訴訟手続と対比して審判の効力などが弱いものであるところから、最終的な蒸し返しを許さない裁判制度ではないという限界をもつ。しかし同時に、それは、既判力をもたない裁判手続であるがゆえに有する積極的な側面、つまり、訴訟手続と対比して簡便な非訟裁判手続であるため、少ない費用で将来志向型の迅速な裁判を実現することができる長所をもつ。家事審判法は、民事訴訟法と相互に整合性を保ちながら、権利義務の体系を基礎としつつ、事案を解明する固有の手続原理にしたがう狭義の家事審判制度を基幹にすえる(家事審判法第二章)。また同法は、わが国が創設し、つちかってきた司法制度である家事調停という非裁判制度を、家事紛争についてもうひとつの事案を解明する作用をになうリソースとして大切な位置を与えている(同法第三章)。すなわち、家事審判法は、家事調停と狭義の家事審判との有機的関連をもった複合的な制度とする広義の家事審判制度を立法化したものでもある。家庭裁判所は、こうした特徴をもった職権主義のもとで家事紛争を迅速かつ適切に解決することを使命とする。

ここでは、当事者主義、弁論主義が適用される民事訴訟事件とは異なり、家庭裁判所は、遺産分割審判事件の全当事者が合意したところに拘束されることはない。もっとも、狭義の審判手続のなかで、全当事者の合意がなんらの効果をもたらさないのか否かはなお検討の余地がある。遺産分割の審判は、本来、全相続人間の協議に代わるものとして在ることに思いをいたすならば、家庭裁判所は、遺産分割審判事件の手続中において、民法と家事審判法の関係法条の本旨にしたがい、その後見的な立場から許容できる合理的なものであるといえる場合には、前記合意を前提にすえて審理ならびに判断をすることができると解すべきである。遺産分割審判事件における職権主義の原理は、個人の法的利益を顧慮しないような形で国が個人間の利害関係を一方的に調整・判断することを主たる機能とするものではない。それは、相続にともなう個人の法的利益が多数当事者のあいだで錯綜してしまったため、個人間だけでは自主的な解決を期待できなくなった多面的にして複合的な遺産をめぐる紛争を家庭裁判所調査官の制度などを備えながら裁判するための原理である(審判手続でも調整作用の存在を限定的ではあるが、許すことはいうまでもない。)。家庭裁判所は、個人間の合意に無原則に拘束されることなく、個々人の協議に代わり適正・公平な権利を実現する結論を導くことを実現すべき義務を負う。こうした意味での後見的な立場に立ち、紛争解決機能を有する家庭裁判所は、当事者の調停・裁判活動の巧拙にかかわらず、当事者の合意内容を点検し、その誤解などを改めるように審判手続を運営する。これにより、その合意内容に修正を施しながら、形成された当事者の合意を審判手続の前提にすえることにより、各相続人の権利を適正に速やかに実現するのである。一定の事項について、家庭裁判所の裁量的な側面を残しながらも、当事者の合意を家事審判の基礎に置けるのは当然である。

(2) しかるとき、本件審判手続のなかでは申立人三名、相手方良子の四名の相続人である当事者は、申立人トメの亡夫から贈与された特別受益を除いた現存する遺産についてのみ審判を求めるとの合意をする。そこで、当裁判所は、右合意が、前示したような全当事者(遺産分割請求権を有する全相続人)の合意に当たるか、そしてその合意の内容は容認できないような不合理な目的に出たことなどの事情があるか否かを、次に検討する。

2  相手方武夫の具体的相続分

本件記録によれば、次の事実が認められる。

(1) 相手方武夫は、水道工事や溶接関係の仕事をする大川工業所を経営していたが、昭和五五年八月亡父吉之助が死亡した後、事業が不振となり運営資金の捻出に苦労していた。昭和五九年五月ころ、大川工業所は倒産した。

なお、相手方武夫は、本件相続の開始後、長男である自分が遺産を全部相続すべきであると主張し、他の相続人らと遺産である全不動産を単独で相続することを求めて協議を重ねていた。

(2) 相手方武夫は、自ら中心となって遺産である貸家を全体的に管理して賃料を集めていた。同人は、「賃貸人代表相続人大川武夫」の名義で、昭和五六年九月、田中良明との間で建物賃貸借契約書を、昭和五七年八月には吉本真己、高木実、嘉山博、竹川尚美、福原利夫、加瀬沢恵子との間で建物賃貸借契約書六通を、同年一〇月には山本厳、河野満寿恵との間で建物賃貸借契約書二通を、同年一一月には高橋啓二との間で建物賃貸借契約書をそれぞれ作成した。

他方、相手方武夫と他の相続人三名が全員で、小比田馨との間で昭和五七年一月二八日、建物賃貸借契約公正証書を作成した。申立人トメ、同洋子、同由美子の三名が、昭和五七年三月、黄福子と建物賃貸借契約書を作成したこともある。

昭和五五年八月以後、昭和五七年七月ころまでの間の遺産である貸家からの賃料収入は約二一〇〇万円にのぼったが、申立人トメ、同由美子と相手方武夫との間では、相手方武夫の事業の経営が悪化するにともない同人が賃料を管理することについて危惧を抱くようになったことなどから、争いとなり、前示したように昭和五七年九月に本件遺産分割の家事調停の申立てがなされたのである。

なお、昭和五八年一二月、申立人トメの居宅が火災に遇い、その後、同建物を修築した。

(3) 相手方武夫は、昭和五九年五月一一日、申立人三名に対して「覚書」(C号証二七号の一)を交付し「大川吉之助の遺産について相続人大川武夫が相続する不動産は別紙分割協議書の通りであることを承諾する。その他の不動産は放棄する。その他(省略)。」の記載がある。そして全相続人五名は、同日付の「遺産分割協議書」(C号証二七号の三)を作成したが、同書類においては、相手方武夫が別紙遺産目録第1、3線路脇物件、<1><2>の不動産を取得する。」との記載がある。

その後、相手方武夫は、昭和五九年六月二日、申立人三名ならびに相手方良子に対して、あらためて「覚書」(C号証二七号の二)を交付し、前記「覚書」と同様の約定をするほか「動産は家財保険金八〇〇万円のうち焼失した家財を守るために、その六割四八〇万円を受領する。受領後に大川吉之助および大川トメの家財は大川トメに返戻する。その他(省略)。」の記載がある。

こうして、相手方武夫は、昭和五九年五月三一日、線路脇物件、<1><2>の不動産を単独で取得し、相続を原因とする所有権移転登記をすませた。相手方武夫は、同年七月一六日、加賀本肇雄が実質的に所有する有限会社日之出企画に同月一三日代物弁済を原因とする所有権移転登記をすませた。相手方武夫は、これにより二七五〇万円を取得した。

(4) 相手方武夫は、昭和五九年一一月二七日、加賀本肇雄に対して、遺産である別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産に関する法定相続分六分の一の持分を遺産分割未了物件であることを明らかにして、しかし、他の不動産の相続持分を他の相続人との関係では放棄したことは秘してやや低めの一五四八万六〇〇〇円で売却し、同年一二月、加賀本に対し持分全部移転登記をすませた。

さらに相手方武夫は、昭和六〇年六月一九日、加賀本肇雄との間で、上記不動産について有していた買戻権を三〇〇万円の対価を得ることで放棄し、その旨の抹消登記をすませた。

(5) 相手方良子は、昭和六一年七月三一日、加賀本肇雄に対して、遺産である別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産に関する法定相続分六分の一の持分を一六五〇万円で売却し、同年九月一日、加賀本に対し持分全部移転登記を済ませた。

(6) 以上の経緯により、相手方武夫は、昭和五九年五月、相手方良子を含む相続人全員に対して線路脇物件、<1><2>の不動産のほかには遺産である他の不動産には権利を主張しないことを約しながら、遺産の主要かつ大部分をなす別紙遺産目録第1、1消防署脇物件<1>ないし<4><6>、2母屋物件<1>ないし<3>、3線路脇物件<3>ないし<6>記載の各不動産に関する法定相続分六分の一の持分を事情を詳らかにしない加賀本に対して売却譲渡したものである。

相手方武夫は、相続開始時点では約二一七八万円もあったと認められる預貯金のうち相続税納付金六三二万四九三〇円、葬儀費用二一九万五四八五円を除くほかの相当額の部分を無断で払い戻してみずからの事業資金などのために費消した(後記四、1、2、<5>参照。同人はそのほか前記した相続開始後に管理していた賃料を費消した。)。

以上によれば、相手方武夫は、本件審判手続により残余遺産の分割を受けるまでもなく、既に具体的相続分を大きく越える遺産を取得したものといえ(相続開始後の賃料は遺産分割の対象ではないから、これを考慮していないことは勿論である。)、また後記する申立人トメの母屋物件についての亡夫からの贈与持分を特別受益として加えて具体的相続分を算定しても、本件記録中から認められる土地価格を斟酌して考察するとき、なお具体的相続分があるとはいえない。

さらに、相手方武夫は、昭和五九年五月一一日、他の全相続人に対して「線路脇物件、<1><2>の不動産を取得する。その他の不動産は放棄する。」ことを確約したが、相手方武夫は、現在、具体的相続分があるとはいえない者であること前示したとおりである。したがって、当裁判所はここでは、この不動産放棄の約定が本件遺産分割においていかなる法的意義・効果を有するものであるかを検討することは控える。

相手方武夫は、平成六年三月一〇日の最終審判期日において「これまでの経緯から、自分には具体的相続分のないことは承知している。」と述べた。

(7) 相手方武夫は本審判手続から脱退する意思を表示したことはないから、本件遺産分割審判手続の当事者であるとしても、以上の認定判断の結果としては、同人は残余遺産の分割について協議を求めることのできる実体法上のなんらの法的地位にも立たないというべきである。したがって、特別受益を考慮しないで、現存する遺産についてのみ遺産分割の審判をすることを求める意思表示をする適格ある当事者は申立人三名と相手方良子の四名であるというべきである。

また、前記認定した事実関係によれば、四名の相続人の上記合意は、民法の相続法の基本的な原則に反する目的にでるなど法条の趣旨を潜脱する意図をうかがわせる事情はなにもない。むしろ、申立人トメの老後の安定や、同女を扶養するうえでの監護ならびに財産管理上の問題を平穏かつ柔軟に確保するためという相当な目的にでるものといえる。しかるとき、当家庭裁判所は、本件審判手続において、民法と家事審判法の関係法条の本旨に照らして、その後見的な立場から慎重に検討を加えるとき、本件の上記合意は許容できる合理的なものであると思料する。それゆえ、前記したこれら相続人四名の合意は、特別受益を含めないことによる申立人洋子、同由美子、相手方良子の取得分の減少と申立人トメの取得分の増加をもたらす相続分の一部を譲渡する契約を中心とする実体法と手続法の双面性をもった合意として有効であるから、以下の遺産分割審判の審理と判断の前提にすえることにする。

してみれば、残余遺産の審判に当たり、前提となる申立人トメの具体的相続分は三分の一、申立人洋子、同由美子、相手方良子はそれぞれ九分の二となる。分割対象遺産は、現存遺産だけである。特別受益財産は具体的相続分を計算するうえでは顧慮しなかったが、特別受益者がだれであって、その受益財産の内容などは、残余遺産分割の配分を決める際には、これを考慮したうえで配分できることは、いうまでもなく禁止されない。(相手方武夫は、前に説示した次第から、今では具体的相続分のない者であり、残余遺産の分割を求めることのできる法的地位に立つ者でないことが判明した。もっとも、当家庭裁判所は、相手方武夫の立場がそうであるとしても、本件においては、相手方武夫を除いた他の相続人だけで残余遺産について遺産分割調停を成立させることは相当でないと考える。)

(8) 遺産分割審判は、民法の規定にしたがい遺産全体を総合的に、かつ公平に配分すべきが原則である。そして、同審判の目的は、本来、現存する遺産を適正かつ速やかに具体的相続分にしたがい各相続人に対して配分することにある。ところで、<1>一部分割協議などが先行した場合に残余遺産を分割するに際しては前の一部分割の結果の不均衡を調整するため、あるいは<2>なんらかの理由から遺産が散逸した場合であって、その問題を家事審判手続において審判対象にすることを可能とする条件が備わったとしても、先行する法律行為の意義や、先行する事実行為における帰責原因などの究明にかたむき過ぎると、遺産全体を構成する各財産の変動過程をそれぞれ時間的に振り返るかたちで拡散的な審理を余儀なくされることになる。これはときとして残存する遺産をいたずらに費用負担の重圧のもとに置き、その価値を減少させる一方、手続的にも当事者に分かりにくい負担をしいて解決を延引させる結果となる。遺産分割は、相続という過渡的な財産状態の解消をめざして、あくまでも現存する遺産を分割することを目的とするものであるが、遺産の総合的一体的分割を形式的に重んじることに過ぎるあまり、本来の制度目的を転倒するような事態をまねくのは許されない。家庭裁判所は、遺産分割の目的を実質的に尊重しながら、当該相続人たちの置かれた状況や社会経済的な観点もにらみつつ、その事案の内容や特質を総合的に考えながら裁量的判断をもって、その審理の範囲を決めることができると解すべきである。

したがって、かかる立場から判断するとき、一定の内容規模で段階的な分割を余儀なくされた場合には、例外的に、相続人の具体的相続分を正確に求めてそれぞれその過不足を調整することそれ自体は、最終的には、当事者主義、弁論主義が適用される不当利得返還請求訴訟、損害賠償請求訴訟などの訴訟事項に属すべきであると解するのが相当である。これにより、遺産分割の紛争について、過去を向いた既判力をもち厳格な主張立証責任を課する審理構造ではなく、将来を向いた既判力をもたない軽易迅速な審理構造に則した遺産分割審判手続を実現することができる。

前に認定した事実関係によれば、本件は、相続開始後約一三年、調停の申立て後約一一年、審判に移行した後約一〇年というきわめて長い歳月の間、遺産を管理する態勢を的確に整えることもできないまま経過してきた。この間、前示したような内容規模で段階的、部分的な分割協議などを経たうえ、共有物分割訴訟によって一部の不動産は非相続人である第三者の所有に帰して遺産外に逸出し、その際第三者から価格賠償金を取得するなどきわめて錯綜した状況にある。したがって、各相続人の最終的な具体的相続分の実現、すなわち過不足の調整はなお民事訴訟手続による解決にまたざるを得ない場合に当たるといえる。

四  残余遺産の分割

1  残余遺産の存否など

(1) 本件記録によれば、現存する残余遺産(代償金を含む。)の範囲は以下のとおりである。

<1> 別紙遺産目録第1、2母屋物件<4>の建物(物置)(この時価は四二万一五〇〇円と認める。)の相手方良子の相続分九分の二相当の代償金九万三六六六円(一円未満切捨て)

<2> 同目録第2、1、<1>の建物更生共済(自然災害担保付建物更生共済契約上)の権利

(二四〇万七九〇〇円)

<3> 同目録第2、1、<6>の電話加入権

(この時価は八万円と認める。)

<4> 同目録第2、1、<8>の農協出資金

(一〇万五〇〇〇円)

<5> 同目録第2、2、<10>の普通預金

(六万一七九四円)

<6> 同目録第2、2、<11>の普通預金

(二五万八〇一〇円)

<7> 同目録第2、2、<13>の定期預金(二五五万九一四三円)と<14>の定期預金(五一万一六一三円)を併せて書き替えた預金残二一三万〇六二三円

<8> 上記<7>記載の<13><14>の定期預金の書替え後の預金から申立人由美子が平成四年一一月一〇日支出したことによる代償金八六万九三七七円

(この支出が遺産の管理のために必要な支出であったかは明らかでないから、遺産分割の対象から控除することは相当でない。)

<9> 同目録第3の家財一式

(この時価は五〇万円と認める。)

(2) 現存しない遺産等

本件記録によれば、現存しない遺産、あるいは遺産ではないものは次のとおりであると認められる。

(a) 遺産でないもの

<1> 同目録第2、1、<2><3>の建物損害保険

(名義の流用であるもの)

<2> 同目録第2、1、<4>の生命保険金

(b) 現存しない遺産

<1> 同目録第1、消防署脇物件<5>の建物

(昭和四九年滅失により同五七年一二月に閉鎖登記)

<2> 同目録第2、1、<5>の未収賃料

(その後、回収したが、費消された。)

<3> 同目録第2、1、<7>の所得還付金 (横須賀市税務署、四三万五一〇〇円)

(その後、還付を受けたが、費消された。)

<4> 同目録第2、2、<1>手元現金(五万円)

(その後、生活費として費消された。)

<5> 同目録第2、2、<2>ないし<9>の普通預金、定期預金、<12>の普通預金、<15><16>の定期預金、<10>の普通預金の普通預金八六四〇円、以上の合計は一八四一万九六四一円である。(以上は費消された。)

2  残余遺産の分割方法

前記した事情のほか、本件記録によれば、残余遺産は次のとおり分割することが相当である。

(1) 申立人三名は、物置の代償金九万三六六六円について、申立人トメは相続分三分の一、他の申立人二名は相続分三分の二を均等に負担するとして各三分の一を負担すべきであるから、相手方良子に対して、それぞれ三万一二二二円を支払うべきである。

(2) 申立人由美子は、前項1(1)<2>の建物更生共済保険契約上の地位を単独取得することにし、同人は、他の相続人に対してその代償金として、申立人トメには八〇万二六三三円を、同洋子、相手方良子には各五三万五〇八九円を支払うべきである。

(3) 申立人トメは、前項1(1)<3>の電話加入権と<9>の家財一式を単独取得することとし、同人は、他の相続人に対してその代償金として、申立人洋子、同由美子、相手方良子に対してそれぞれ一二万八八八八円を支払うべきである。

(4) 前項1(1)の<4>ないし<7>の遺産については次のとおり配分する。

申立人トメ 八五万一八〇八円

申立人洋子 五六万七八七三円

申立人由美子 五六万七八七三円

相手方良子 五六万七八七三円

(5) 申立人由美子は、前項1(1)<8>の代償金として、申立人トメには二八万九七九二円を、同洋子、相手方良子には各一九万三一九五円を支払うべきである。

(6) 前記の代償金の支払いは本件審判の確定した後三カ月の余裕を置いて、各金員について審判の確定した日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わせるのが相当である。

3  相手方武夫は、前示したとおりであるから、本件審判における残余遺産の分割に当たり取得する分はないというべきである。

五  結 論

よって、当家庭裁判所は、申立人三名の本件遺産分割審判の申立てのうち、既に分離した部分を除く残余遺産に関する遺産分割の審判申立て部分について、当家庭裁判所支部参与員北嶋岩次郎、同渡辺千代子の各意見を聴取したうえで、主文のとおり審判することとする。

(家事審判官 稲田龍樹)

別紙 遺産目録

第1 不動産

1 消防署脇物件

<1> 神奈川県横須賀市森崎一丁目六番二〇

宅地 八〇八・二六平方メートル

〔注〕 後に上記六番二〇の土地から、前記本文記載の乙土地部分を横須賀市森崎一丁目六番三六 宅地 三一三・〇八平方メートルに分筆した。

<2> 神奈川県横須賀市森崎一丁目六番地二〇

家屋番号 六番二〇の一

木造亜鉛メッキ鋼板葦二階建 店舗兼居宅

一階 九三・五七平方メートル

二階 八六・九五平方メートル

<3> 神奈川県横須賀市森崎一丁目六番地二〇

家屋番号 六番二〇の二

木造瓦葺二階建 店舗兼居宅

一階 一九二・一八平方メートル

二階 一八五・五五平方メートル

<4> 神奈川県横須賀市森崎一丁目六番地二〇

家屋番号 六番二〇の三

木造瓦葺二階建 店舗兼居宅

一階 四一・四〇平方メートル

二階 四一・四〇平方メートル

<5> 神奈川県横須賀市森崎一丁目六番地二〇

家屋番号 六番二〇の五

木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建 居宅

七一・〇七平方メートル

<6> 神奈川県横須賀市森崎一丁目六番地二〇

家屋番号 六番二〇の七

木造瓦葺平家建 店舗

二二・八八平方メートル

2 母屋物件

<1> 神奈川県横須賀市森崎二丁目二九四番

宅地 五五八・六七平方メートル

共有持分 三〇分の一二

<2> 神奈川県横須賀市森崎二丁目二九四番地

家屋番号 二九四番

木造瓦葺二階建居宅

一階 一二六・四九平方メートル

二階 三六・四三平方メートル

<3> 神奈川県横須賀市森崎二丁目二九五番

山林 二一八平方メートル

<4> 神奈川県横須賀市森崎二丁目二九五番地

木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建 物置 二九・七五平方メートル

ただし、未登記

3 線路脇物件

<1> 神奈川県横須賀市森崎二丁目五三番一

宅地 一六五・〇〇平方メートル

<2> 神奈川県横須賀市森崎二丁目五一番三

宅地 二六・〇〇平方メートル

<3> 神奈川県横須賀市森崎二丁目五一番一

宅地 五九・五〇平方メートル

<4> 神奈川県横須賀市森崎二丁目五一番地一

家屋番号 五一番一

木造瓦・亜鉛メッキ鋼板葺二階建 店舗・居宅

一階 八〇・五六平方メートル

二階 四九・六八平方メートル

<5> 神奈川県横須賀市森崎二丁目五三番三

宅地 三六・三六平方メートル

<6> 神奈川県横須賀市森崎二丁目五三番地三

家屋番号 五三番三

木造瓦亜鉛メッキ鋼板交葺二階建 店舗兼居宅

一階 五〇・五九平方メートル

二階 五〇・五九平方メートル

第2 有価証券、現金、預金など

1 有価証券

<1> 横須賀農協 建物更生共済

二四〇万七九〇〇円

(自然災害担保付建物更生共済契約 契約番号など

一四一〇〇〇七-〇三七一

一四一〇〇〇七-〇三八一

一四一〇〇〇七-〇四八〇

一四一〇〇〇七-〇四九五

一四一〇〇〇七-〇五四九

一四一〇〇〇七-〇六五六

一四一〇〇〇七-〇六六六

一四一〇〇〇七-〇六七一)

<2> 建物損害保険

日本火災海上株式会社 一四三万九一〇〇円

<3> 建物損害保険

日本火災海上株式会社 四六万〇一〇〇円

<4> 生命保険(日本生命)

契約者 被相続人亡吉之助

被保険者 大川トメ 四八万五八四〇円

<5> 未収家賃(五件) 三六万五一〇〇円

<6> 電話加入権 時価八万〇〇〇〇円 (〇四六八-三六-〇三四一)

<7> 所得税還付金(横須賀税務署) 四三万五一〇〇円

<8> 横須賀市農協出資金

一〇五口(単価一〇〇〇円) 一〇万五〇〇〇円

2 現金・預金

<1> 手元現金 五万円

<2> 普通預金 六二七万六〇八三円(横須賀市農協浦賀支所 No.五〇一八九二二四)

<3> 定期預金 五二万八〇八三円(横須賀市農協浦賀支所 No.五一六〇八三一〇)

<4> 定期預金 二〇四万二五八三円(横須賀市農協浦賀支所 No.五二六一六三四八)

<5> 定期預金 二〇四万二五八三円(横須賀市農協浦賀支所 No.五二六一六三八〇)

<6> 定期預金 三〇六万三八七五円(横須賀市農協浦賀支所 No.五二六一六三七〇)

<7> 定期預金 六三万四四〇四円(横須賀市農協浦賀支所 No.五一八八一〇〇)

<8> 定期預金 六一万二七七五円(横須賀市農協浦賀支所 No.五二六一九二七〇)

<9> 定期預金 二〇万一一六一円(横須賀市農協浦賀支所 No.五二九四三二三〇)

<10> 普通預金 七万〇四三四円(横須賀市農協衣笠支所 No.五〇一八九二一六)

<11> 普通預金 一八万五一九五円(横須賀市農協衣笠支所 No.五〇一八九二三二)

<12> 普通預金 七万四三二一円(横須賀市農協浦賀支所 No.五〇一八九二四〇)

<13> 定期預金 二五五万九一四三円(横須賀市農協浦賀支所 No.五二五五五四七〇)

<14> 定期預金 五一万一六一三円(横須賀市農協浦賀支所 No.五二五六六五四〇)

<15> 定期預金 一六〇万〇〇〇六円(第一勧業銀行衣笠支店 No.二四九一五三二)

<16> 定期預金 一三三万五一二七円(第一勧業銀行衣笠支店 No.六一〇九二二四-〇〇二)

以上の合計金額は二一七八万七四六九円

第3動産

家庭用財産 家財一式 五〇万円相当

第4価格賠償金

共有物分割事件での加賀本から大川トメなど三名に対する価格賠償金 三五七五万九〇〇〇円

別紙 「一部遺産分割家事調停条項(要旨)」

(横浜家庭裁判所横須賀支部平成五年家イ第四四〇号事件)

被相続人大川吉之助(昭和五五年八月二七日死亡)の一部遺産について相続人である大川トメ、内田洋子、高田由美子は、以下のとおり合意する。

1 大川トメは、別紙遺産目録第1、2、<1>記載の物件の共有持分六〇分の二一、同<2><3><4>の各物件、同目録第4記載の価格賠償金のうち二〇五二万四一一三円を相続し、

内田洋子は、大川トメに対して、それぞれ遺産分割を原因として同目録第1、2、<1>記載の物件について内田洋子の共有持分三〇分の三の、上記第1、2、<2>、<3>記載の物件について内田洋子の共有持分一二分の三の、各持分全部移転登記手続をし、

高田由美子は、大川トメに対して、それぞれ遺産分割を原因として同目録第1、2、<1>記載の物件について高田由美子の共有持分六〇分の三の、上記第1、2、<2>、<3>記載の物件について高田由美子の共有持分一二分の三の、各持分全部移転登記手続をする。

2 内田洋子は、別紙遺産目録第4記載の価格賠償金のうち一〇〇〇万円を相続する。

3 高田由美子は、同目録第1、2、<1>記載の物件について共有持分六〇分の三の、上記第1、1、<1>のうちの六番三六の土地、<2>、<4>、<6>記載の物件および同目録第1、3、<3>、<4>、<5>、<6>記載の物件、ならびに同目録第4記載の価格賠償金のうち五二三万四八八七円を相続し、

大川トメ、内田洋子は、高田由美子に対して、それぞれ遺産分割を原因として上記第1、1、<1>のうちの六番三六の土地、<2>、<4>、<6>記載の物件および同目録第1、3、<3>、<4>、<5>、<6>記載の物件について大川トメの共有持分一二分の六、内田洋子の共有持分一二分の三の各持分全部移転登記手続をする。

4 高田由美子は、大川トメと引続き同居し、同人の終生にわたり、扶養する義務を負担する。

5 大川トメ、内田洋子、高田由美子と加賀本肇雄間の共有物分割訴訟事件(一、二審)および横浜家庭裁判所横須賀支部昭和五八年家第一二一八号遺産分割審判事件に要した費用はすべて大川トメと高田由美子が負担する。

6 分離分の調停費用は各自の負担とする。

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