武蔵野簡易裁判所 昭和59年(ハ)282号 判決
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【判旨】
二請求原因の要旨は次のとおりであり、出火したときの無催告解除の趣旨及び出火させたという評価並びに賃料支払いの点を除いてその余の事実関係は当事者間に争いがない。
1 原告らは被告に対し、原告ら所有の別紙目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を、賃料月額七万七、〇〇〇円、毎月末日限り翌月分を支払う約定で貸渡し、本件建物の被告占有部分から出火したときは、催告を要しないで右賃貸借契約を解除できる旨を特約した。
2 右の特約は、被告が本件建物を賃借中の昭和五五年一〇月一六日と同五七年一一月一七日に出火させた経緯から結ばれたものである。
3 被告は昭和五九年三月二一日本件建物の被告占有部分である道路側シャッターの内側から出火させた。
4 原告らは被告に対し、昭和五九年四月五日到達の書面で本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
5 被告は、同年四月一日以降の本件建物の賃料を支払わない。しかして同年四月一日から同月五日までは本件建物の月額金七万七、〇〇〇円の割合の約定賃料、同月六日以降本件建物明渡済みまでは同賃料相当の損害金である。
三被告は、本件無催告解除の特約は、被告が賃借人としての善管注意義務に違背して出火事故を起し、それが賃借人の保管義務違反という債務不履行となる場合に限られ、被告の責に帰すことができない出火事故についてまで解除することができる趣旨を定めたものではない。仮りに出火原因如何にかかわらず無催告解除ができることを定めたというのであれば、右特約は借家法第一条の二に違反し、同法第六条により無効である。しかして、本件建物の今回の出火事故は、管轄消防当局者による調査により放火と推定されているから、被告には右出火の責任がなく、従つて原告の無催告解除は効力を生じない旨抗弁する。
被告が賃借人として善良な管理者の義務に違反して失火した場合に限り本件無催告解除の特約が効力を有するとする抗弁は、出火による結果の大小により差異を生じないとは言えないけれども、その主張自体が右無催告解除の特約そのものを無意味なものとする主張であつて相当でない。(善管注意義務違反は債務不履行であつて、特約をまたず契約解除の事由となるし、本件のように催告による履行そのものが不能な場合は、無催告解除が可能である。)証拠によれば、右無催告解除の特約は、東京地方裁判所八王子支部の昭和五七年一二月二四日午後四時の期日における和解調書の「(三)従前の経過に鑑み、債務者は火災防止に特に留意することとし、万一、債務者占有部分から出火したときは、目的物件の滅失により契約終了となるばあいのほか、債権者らは、何らの催告なしに本賃貸借契約を解除することができる。」との記載をいうのであるが、ここにいう「出火」とは第一、原告らの側に責がある場合と、第二、被告側に何らの責がないところの、いわゆる不可抗力の場合を除いた第三の場合、すなわち第一と第二の場合でない場合の出火を指すものと解するのが相当である。換言すれば、ここにいう出火したときとは、出火の原因が右第一の場合か第二の場合であることを被告が証明できないときは被告に責があるものとする一種の挙証責任を定めたものであると解すべきであつて、被告の責に帰すべき事由がなければ無催告解除は無効であるということでは全く無意味な定めというほかはない。被告の抗弁は理由がなく、かつ右第一又は第二の場合であることを認むべき証拠はない。
四被告は、昭和五九年四月分以降の本件建物の賃料は、被告が原告らに対し適法に提供したが受領を拒否されたため弁済供託した旨抗弁するが、右抗弁を認めるに足る証拠がない。
五よつて原告の請求は理由があるから主文のとおり判決する。
(中山善作)