水戸地方裁判所 平成14年(わ)36号 判決 2004年1月26日
主文
被告人らはいずれも無罪。
理由
第1事案の概要
1 公訴事実
平成13年11月9日付け起訴状及び平成14年4月8日付け起訴状記載の本件公訴事実の要旨は,「被告人会社Aは,埼玉県八潮市に本店を置き,産業廃棄物収集運搬処理・最終処分業等を営むもの,被告人Bは,同社の代表取締役として同社の業務全般を統括管理するもの,被告人Cは,同社の取締役として同社の現場作業等を統括管理するもの,被告人Dは,同社牛久工場工場長として同工場の運営を統括管理するものであるが,被告人B,被告人C及び被告人Dは,共謀の上,同社の業務に関し,それぞれ法定の除外事由がないのに,茨城県知事の許可を受けないで,業として,平成13年1月10日ころから同年7月19日ころまでの間,前後165回にわたり,茨城県牛久市所在の被告人会社Aの牛久工場において,甲社外4社から処分委託を受けた産業廃棄物である木くず合計約1,465立方メートルを,料金合計22万円で受け入れて,そのころ,これを同所において,粉砕するなどして処分し,もって,無許可で産業廃棄物の処分を業として行った。」というものである。
2 弁護人及び各被告人の主張
弁護人は,被告人らはいずれも無罪である旨主張する。
弁護人及び各被告人の主張内容は,これを整理して要約すると,以下のとおりである。
(1) 本件公訴事実記載の「木くず合計約1465立方メートル」(以下「本件木材」という。)は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下単に「法」という。また,以下において法律等を示す場合,いずれも本件当時のそれを意味する。)2条4項1号の「産業廃棄物」として定められている廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(以下単に「施行令」という。)2条2号の「木くず」に該当しない。
(2) 被告人らが本件木材を破砕するなどした行為は,法14条4項の「処分」に該当しない。
(3) 仮に本件木材が施行令2条2号の「木くず」に該当し,被告人らの行為が法14条4項の「処分」に該当するとしても,本件木材は,法14条4項ただし書の「専ら再生利用の目的となる産業廃棄物」に該当し,被告人会社Aはこれのみの処分を業として行う者であるため同条項本文の許可を要しない。
(4) 被告人らの行為は,法1条が掲げる目的に反する点はなく,むしろ,環境保護,循環型社会形成に寄与してきたものであって,仮に本件が形式的に法に反したとしても,その違法性は極めて軽微であって,社会通念からみて実質的違法性がなく,被告人らが有罪判決を受けた際に受ける極めて不相当な効果を考慮すれば,被告人らの行為は可罰的違法性を欠く。
(5) 被告人会社Aは,本件当時ころ,牛久工場について法14条4項の許可取得に向けて申請等を行っていたが,茨城県警はこのことを熟知しながら,不法投棄や野焼きをしている業者らを放置して,極めて軽微な本件について捜査し,検察は公訴提起の結果によっては被告人会社Aが解散に追い込まれることを知悉しながら,本件につき公訴提起をしたのであり,被告人らのみを不当に不利益に扱ったもので公訴権の濫用に該当し,本件起訴を無効としなければ著しく正義に反する。
(6) 被告人Bは,甲社外4社が公訴事実記載の牛久工場(以下単に「牛久工場」という。)に本件木材を搬入していたことを全く知らなかったから,「共謀」は存在しない。
(7) 被告人Cは,「現場作業等を統括管理するもの」とされているが,現場作業を統括管理していたのは各工場長であるから,被告人Cはそのような立場にはなかった。また,被告人Cは,甲社,丁社及び戊社が牛久工場に本件木材を搬入していたことを知らなかったから,同業者について「共謀」は存在しない。
(8) 被告人Dは,自らの業務が産業廃棄物を扱うものだという認識がなく,また,被告人会社Aが受け入れた木材の処理に産業廃棄物処分業の許可が必要か否かという点についても判断するだけの知識はなかったから,違法性の意識の可能性がなく,責任がない。
3 当裁判所の判断
当裁判所は,本件の関係各証拠を検討した結果,本件木材が産業廃棄物である「木くず」に該当するとは認められず,被告人らはいずれも無罪であると判断したので,以下その理由を示すこととする。
なお,以下において,括弧内の「甲」,「乙」又は「弁」を付した番号は証拠等関係カードにおける検察官又は弁護人請求の番号を示し,あわせて記載する丁数は証拠書類群丁数を意味する。公判廷における供述については,供述自体が証拠となるか,公判調書が証拠となるかを問わず「公判供述」とし,あわせて記載する丁数は公判調書(供述)群丁数を意味する。なお,書証については,「謄本」,「抄本」,「写し」の表示を省略する。
第2被告人会社A設立の経緯,事業内容及び本件木材の受入れ状況等について関係各証拠によれば,次のとおり認めることができる。
1 各被告人について
(1) 被告人会社Aについて
被告人会社Aは,昭和48年ころ,廃材からチップを生産する事業等を行っていた会社が埼玉県八潮市に造ったチップ製造工場(現在の八潮工場)をその前身とし,昭和53年有限会社Aが設立され(甲50,被告人B公判供述),昭和57年株式会社被告人会社Aが組織変更により設立された。被告人会社Aは,「産業廃棄物収集運搬処理,最終処分業」,「木材のチップ製造販売」等をその目的としている。
被告人会社Aは,埼玉県八潮市を本店とし,同県八潮市に八潮工場,同県越谷市に越谷工場を有し,両工場については昭和59年に同県知事より産業廃棄物収集運搬業の許可及び産業廃棄物処分業(中間処分業,木くずの破砕)の許可を受けている(なお,許可の条件として収集運搬業に伴う保管並びに中間処分及び処分に伴う保管は,八潮工場及び越谷工場で行うこととされている。)。また,八潮工場及び越谷工場は廃棄物再生事業者の登録を受けている(壬公判供述)。
牛久工場は,昭和62年ころ,古材からチップを生産する工場として茨城県牛久市に造られ,同工場は,平成13年6月4日に同県知事より産業廃棄物収集運搬業の許可を受けているが,本件当時,産業廃棄物処分業の許可は受けていない(なお,牛久工場については,後記2において詳述する。)。
(2) 被告人Bについて
被告人Bは,被告人会社Aの創設者であり,本件当時,被告人会社Aの代表取締役であった。なお,本件後の平成13年11月,被告人会社Aの代表取締役を辞任した(現在の代表取締役はXである。)。
(3) 被告人Cについて
被告人Cは,被告人Bの長男であり,本件当時,被告人会社Aの取締役物流部長として,工場への材木搬入業者との契約の締結,受入れ業者との請求業務,現場作業等を行っていた。
(4) 被告人Dについて
被告人Dは,平成4年ころ被告人会社Aに正社員として入社して以来,牛久工場で勤務し,平成10年春ころから,牛久工場の工場長となり,本件当時も同職にあった。
2 牛久工場の設備,作業内容等について
(1) 設備について
牛久工場は,公訴事実記載の場所に存し,従業員20名,事務員1名がおり,八潮工場ないし越谷工場にはない金属探知機や切削機など(乙38,弁29等),大型,小型合わせて10基ほどの重機があり,破砕機1基,切削機2基,破砕・切削両用機1基が稼働しており,チップの販売数量は月2000から2500トンである(弁29,乙34等)。
また,牛久工場は,産業廃棄物処分業の許可取得に向けて茨城県の指導に従って設備等を改善し,平成13年1月19日に施設の事前審査が終了し,同年10月2日に使用前検査に合格し,同月16日に同許可の申請がなされており,通常であれば同年12月の下旬又は年明けころに許可がなされる状態であった(庚公判供述等)。
(2) 作業内容について
牛久工場では,主に製紙原料やボード原料になるチップ等を作っており,平成12年度の出荷実績は,牛久工場の生産チップのうち,建材用が64パーセント,製紙用が27パーセント,畜産用が6パーセント,燃料用が3パーセントであった(弁29,被告人D公判供述)。
チップの製造工程を見ると,チップの原料として角材,松杭,生木を受け入れ(詳細は後記(3)),これをチップの種類別に保管した後,製品に応じて受け入れた木材を前記破砕機や切削機により砕くなどし,磁選機(金属製の異物を取り除く機械),スクリーン機(規格にあった大きさのチップを選別する機械),水洗機(水に沈む異物を取り除く機械),金属探知機(非鉄金属をセンサーで取り除く機械)により,規格にあった大きさをそろえると同時に異物を取り除くなどして,チップを製造し,これを製紙会社や合板会社に出荷していた(壬公判供述,癸公判供述,弁23,29等)。
なお,スクリーン機により選別された結果,規格より大きいものが出た場合には再び砕くなどして製品の規格に合わせ,規格より小さいものが出た場合にはダストとして畜産用に回されていた(壬公判供述,癸公判供述,弁29等)。
このように,牛久工場においては,受け入れた木材等について,ほぼその全てがチップなどの製品になり,木材等に付いていた金属類を除けば,工場から排出される廃棄物はほとんどなかったと認められる(壬公判供述,乙4,乙11,乙46,弁29等)。
(3) 木材の受入れ全般について
牛久工場では,本件当時,前記のようにチップを製造していたが,チップを購入する各業者(ユーザー)によってそれぞれ製品規格が厳格に定められていたため(弁18ないし22),その原料となる木材の受入れの時点で,同製品規格に合う木材のみを厳密に受け入れることとしており,この点で,前記の八潮工場や越谷工場とは扱いが異なっていた。
受け入れていた木材は,家屋解体材では,柱,梁等の角材といわれるものや板材であり,その他ビルの基礎材に使われている松杭,生木などであった。ただし,角材であっても電線等の木以外のものが付着しているようなものは受け取っておらず,また,防腐剤や処理剤が混入,塗布されている木材,ゴム,クロスが張ってある木材,ペンキの付いた木材,断熱材入りの木材,化粧ベニヤなどのいわゆる新建材なども受け取っていなかった。生木についても根と枝を切り払った幹だけを受け取ることとしていた。そのため,牛久工場では,受入れの際に,持ち込もうとしている木材の点検をし,受入れができないものについては,搬入業者にトラックごと持ち帰らせることとしていた。また,木材を持ち込む業者に対して事前に受け取る木材,受け取らない木材を通知するなどしていた(壬公判供述,癸公判供述,被告人D公判供述,乙4,弁3,17,23,29等)。
そして,牛久工場においては,当初,トラック1台につき500円を支払うなどして,搬入される木材を有償で受け入れていたが,本件の数年前から,チップ製品の値下がりにより無償で木材を受け入れるようになり,平成11年ころにはほとんど代金を支払わず無償で木材を受け入れるようになった(被告人B公判供述,乙5,乙18等)。また,八潮工場に木材を搬入していた業者が,同工場が一杯で搬入を断られたために牛久工場に行き,八潮工場に搬入する場合に支払っていたのと同額の処分料金を牛久工場搬入時に支払うこともあった(甲12,被告人D公判供述等)。
さらに,牛久工場では,前述のように産業廃棄物処分業の許可を受けていなかったが,同工場に木材等を持ち込む業者から,平成10年以降法律上義務化されたマニフェスト(産業廃棄物管理票)に押印してくれるように頼まれるようになったことから,このような要求があったときにはマニフェストに越谷工場の工場印を押していた(被告人D公判供述,被告人C公判供述等)。
3 本件木材の受入れ(持込み)状況等について
(1) 甲社について
関係各証拠によれば,甲社が,各起訴状添付別表1ないし39記載のとおり,本件木材の一部を牛久工場に持ち込んだことが認められる(甲29ないし33)。
甲社は,本件当時,千葉県及び茨城県から産業廃棄物収集運搬業の許可を受け,家屋の解体業や産業廃棄物の収集運搬業等を行っていた。
甲社は,Yから家屋解体の仕事を引き受け,家屋解体の際に出る木材については,同社から越谷工場に処分委託するように指示され,処分料を支払って越谷工場に処分委託していたが,牛久工場に持ち込めば木材の処分料が無料である上,越谷工場の工場印をマニフェストに押してもらえることを知ってからは,木材を牛久工場に持ち込むようになった(甲32)。
甲社では,家屋解体により出た解体材を,同社の従業員で選別し,ベニヤや塗料が付いていない,チップに適した梁や柱を選び出して牛久工場に持ち込んでいた(牛久工場に持ち込む木材は解体材全体のうち5分の1か,それ以下の量であった。)。牛久工場では木材の搬入前に木材のチェックを行い,受け入れることができない木材と判断された場合には持ち帰らされていた。また,牛久工場に搬入しない木材については,甲社にある焼却施設で焼却していた(甲’公判供述等)。
本件により持ち込んだ木材は合計約221立方メートルであり,被告人会社Aにその処分料金を支払ってはいないが,仮に同じ量の木材を越谷工場に処分委託したとすれば,合計約91万円の処分料金を支払う必要があったので,牛久工場に持ち込んだことにより,甲社としては同額の処分料金を支払わずに済んだことになる。
なお,甲社の代表取締役である甲’は,牛久工場に持ち込んでいた木材については,他に売ることも可能であったが,取引先のYが解体材をリサイクルするように言っていたので,牛久工場に木材を持ち込んで被告人会社Aのマニフェストを持っていけば,Yの受けもよく,仕事もまた来ると考えたり,また,牛久工場では,受け入れた木材を不法投棄したりせず,破砕するなどしてチップにして販売していることから,解体材の中のいい木材をリサイクルするのは良いことだと思い,牛久工場に木材の処分を委託していた旨供述している(甲’公判供述,甲32等)。
(2) 乙社について
関係各証拠によれば,乙社が,本件木材の一部を牛久工場に持ち込んだことが認められる(甲11ないし13,49ないし51)。
乙社は,本件当時,千葉県及び茨城県から産業廃棄物収集運搬業(積替え保管を含む)の許可を受け,産業廃棄物の収集運搬業等を行っていた。
乙社は,以前,解体業者から処分委託を受けた木材については大部分を焼却処分業者に委託していたが,被告人会社Aが木材をリサイクルしてチップにし,販売しているということを聞き,木材の一部を八潮工場に委託するようになった。ところが,平成11年4月ころ,八潮工場が一杯で木材を受け入れられないことがあり,その際に被告人Cから牛久工場を紹介され,以降,牛久工場に木材の処分を委託するようになった。八潮工場に処分委託していた際の処分料金は10トンダンプ1台3万円であったが,牛久工場に処分委託するようになってからも処分料金は変わらなかった(平成13年5月からは4万円に値上げされた〔甲13〕。)。
乙社は,業者から受け入れた廃棄物を自社の保管場に,木くず,コンクリート片,廃プラスチック類,ガラス・陶磁器くず,金属くずに仕分けして保管し,それぞれの廃棄物が一定量になったら,処分契約している業者に運搬し処理委託していた(甲49)。なお,木くずの受入れ料金は,焼却しかできない木くずであるのか,角材などの木くずであるのか(再生利用可能なものか否か)によって異なっていた(甲49,甲52等)。乙社が,被告人会社Aに処分委託する木材は,角材の部分及び一般廃棄物のパレットであり,その角材は長さ約1.5メートル以上,太さ直径約10センチメートル以上のものとされていた。乙社の従業員が木くずの中から,同条件に該当する角材だけを拾い出し,これがたまった段階で被告人会社Aに運搬していた(甲49)。なお,牛久工場は,乙社からは処分料金を受け取っていたものの,乙社から持ち込まれる木材についても他の持込み業者同様の基準に従ってこれを受け入れていた(被告人D公判供述)。
本件により持ち込んだ木材は合計約140立方メートルであり,被告人会社Aに処分料金として合計22万円支払ったが,仮に同じ量の木材を焼却処分業者に委託していたとすれば,10トンダンプ1台につき8万円の処分料金を取られるので,合計で56万円の処分料金を支払う必要があったことになるので,牛久工場に持ち込んだことにより,乙社としては34万円の処分料金を支払わずに済んだことになる。
なお,本件で木材を牛久工場に処分委託することを決めた乙社の専務取締役である乙’は,牛久工場に木材の処分を委託すれば,焼却処分業者に委託するよりも処分料金が安いということもあるが,牛久工場では,受け入れた木材を不法投棄したりせず,破砕するなどの処理をしてチップにし,販売していることから,焼却するよりも環境に良いだろうと考えて牛久工場に木材の処分を委託した旨供述している(甲13)。
(3) 丙社について
関係各証拠によれば,丙社が,各起訴状添付別表47ないし112記載のとおり,本件木材の一部を牛久工場に持ち込んだことが認められる(甲15ないし17)。
丙社は,本件当時,千葉県及び茨城県から産業廃棄物収集運搬業の許可を受け,建物の解体業や産業廃棄物の収集運搬業等を行っていた。
丙社は,10年くらい前から,八潮工場や越谷工場に,最初は無償で,平成9年ころからは有償で,木材の処分を委託していた。また,平成6年ころからは,牛久工場に,無償で木材の処分を委託するようになった(甲17)。
本件により持ち込んだ木材は合計約808立方メートルであり,被告人会社Aにその処分料金を支払ってはいないが,仮に同じ量の木材を八潮工場や越谷工場に処分委託していたとすれば,合計約66万円の処分料金を支払う必要があり,また,仮に同じ量の木材を被告人会社A以外の産業廃棄物処分業者に処分委託していれば約330万円の処分料金を支払う必要があり,牛久工場に持ち込んだことにより,丙社としては同額の処分料金を支払わずに済んだことになる(甲17)。
なお,丙社の事業全体を統括管理し,本件で木材を牛久工場に処分委託することを決めた同社の取締役である丙’は,牛久工場に木材の処分を委託したのは,牛久工場は受け入れた木材を不法投棄したりせずに,リサイクルしてチップにし,販売しているからいいだろうという気持ちがあった旨供述している(甲17)。
(4) 丁社について
関係各証拠によれば,丁社が,各起訴状添付別表113ないし161記載のとおり,本件木材の一部を牛久工場に持ち込んだことが認められる(甲19ないし22。なお,各起訴状添付別表159には委託した年月日が平成13年7月19日とされているが,甲53により,同月18日と認められる。)。
丁社は,本件当時,茨城県から産業廃棄物収集運搬業の許可を受け,建築物等の解体工事や産業廃棄物の収集運搬業等を行っていた。
丁社は,当初,八潮工場や越谷工場に,有償で木材の処分を委託していたが,平成8年6月ころ牛久工場が木材を処分していると知り,解体現場が牛久工場に近い場合には牛久工場に木材の処分を委託するようになった(甲21,甲22)。
丁社は,解体工事現場で,木くずや鉄くず等の種類ごとに分別し,柱や梁等の木材は牛久工場へ運んで処理してもらい,鉄骨等の金属くずは別の会社に処理してもらい,それぞれの処分場で処理してもらえない小さい木くずやベニヤ板等は,丁社で持っている焼却炉で焼却処分していた(甲20等)。
本件により持ち込んだ木材は合計約196立方メートルであり,被告人会社Aにその処分料金を支払ってはいないが,仮に同じ量の木材を八潮工場や越谷工場に処分委託していたとすれば,合計約98万円の処分料金を支払う必要があったことになるので,牛久工場に持ち込んだことにより,丁社としては同額の処分料金を支払わずに済んだことになる(甲22)。
なお,丁社の事業全体を統括管理し,本件で木材を牛久工場に処分委託することを決めた同社の実質的経営者である丁’は,牛久工場に木材の処分を委託したのは,牛久工場は,八潮工場や越谷工場と同じように,受け入れた木材を不法投棄したりせず,破砕するなどしてチップにして販売していたことから,無許可でもいいだろうと安易に考えた旨供述している(甲22)。
(5) 戊社について
関係各証拠によれば,戊社が,各起訴状添付別表161ないし165記載のとおり,本件木材の一部を牛久工場に持ち込んだことが認められる(甲25ないし27)。
戊社は,本件当時,土木工事業,家屋解体業等を行っていた。
戊社は,当初,家屋解体等に伴って排出される産業廃棄物については自社処理していたが,平成7年ころからは,家屋解体の際に出る木材について牛久工場に処分を委託するようになった(甲25,甲26)。
本件により持ち込んだ木材は合計約100立方メートルであり,被告人会社Aにその処分料金を支払ってはいないが,仮に同じ量の木材を正規の処分業者に処分委託していたとすれば,合計約70万円の処分料金を支払う必要があったことになるので,牛久工場に持ち込んだことにより,戊社としては同額の処分料金を支払わずに済んだことになる(甲26)。
なお,戊社の経営者で同社の取締役である戊’は,戊社の経営が苦しかったことから,牛久工場は処分料金が無料であれば経営が助かると考えたことや,牛久工場は木材をチップにして販売し,リサイクルしているのだから,焼却するより環境に良いだろうと考えて牛久工場に木材の処分委託をすることにしたのであり,もし牛久工場が木材を不法投棄するようなところであれば木材の処分委託はしなかった旨供述している(甲26)。
第3本件木材は産業廃棄物に該当するか否かについて(第1の2(1)の主張)前記第2の事実を前提として,本件木材が産業廃棄物である「木くず」に該当するか否かについて検討する。
1 廃棄物の意義
法2条1項において廃棄物とは,「ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のものをいう。」とされ,さらに,同条4項1号において「産業廃棄物」とは「事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物」をいうと規定され,施行令2条1号ないし13号には法2条4項1号の政令で定める廃棄物として13種類の産業廃棄物が定められ,同条2号において,「木くず」が規定されている(なお,昭和46年10月25日(環整第45号)厚生省環境衛生局環境整備課長通知「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の運用に伴う留意事項について」においては,施行令2条2号に掲げる産業廃棄物に該当するものは,日本標準産業分類による大分類Eに該当する事業の事業活動に伴って生ずる木くずであって工作物の新築,改築(増築を含む。)又は除去に伴って生じたもの,中分類16,小分類171及び181に該当する事業の事業活動に伴って生ずる木くず並びに輸入木材の輸入を業務の一部又は全部として行っている総合商社,貿易商社等の輸入材木に係る木くずであって,おがくず,バーク類等が含まれるものであるとしている。)。
そして,本件木材が,この産業廃棄物である「木くず」に該当するか否かの判断に際しては,いわゆるおからが平成5年政令第385号による改正前の廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令2条4号にいう「不要物」,ひいては法2条4項にいう「産業廃棄物」に当たるか否かにつき判断した平成11年3月10日最高裁判所第2小法廷決定(刑集53巻3号339頁)が参考となる。同決定は,同施行令2条4号にいう「不要物」とは,自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要になった物をいい,これに該当するか否かは,その物の性状,排出の状況,通常の取扱い形態,取引価値の有無及び事業者の意思等を総合的に勘案して決するのが相当である,とした。
そこで,以下においては同決定で示された定義及び考慮事項を参考に,本件木材が産業廃棄物である「木くず」に該当するか否かを検討する。
2 本件木材の性状及び排出の状況について
(1) 本件木材の具体的性状については,既に処分されているため必ずしも明らかではないが,前記第2の2(3)のとおりの牛久工場での木材の受入れ状況,前記第2の3のとおりの甲社外4社のこれまでの牛久工場への木材の持込み状況等から判断するに,本件木材は,家屋解体等により排出された木材のうち,小さい木くず,クロス等の木以外のものが付着した木材,防腐剤等が塗布などされた木材,ペンキで塗装された木材,化粧ベニヤなどの新建材以外で,一定の大きさの柱,梁等の角材や板材,ないしは,ビルの基礎材に使われている松杭,根と枝を切り払った幹だけの状態の生木であったと認められる。
また,本件木材の排出方法について見ると,前記第2の3のとおり,甲社においては家屋解体により出た解体材のうち,同社の従業員が前記のような種類の木材を選別して牛久工場に持ち込み(解体材全体の内5分の1かそれ以下の量であった。),乙社においては業者から受け入れた廃棄物を種類別に仕分けして保管し,同社の従業員が木くずの中から長さ約1.5メートル以上,太さ直径約10センチメートル以上の木材を拾い出して集め,たまった段階で牛久工場に持ち込み,丁社においては解体工事現場で廃材を種類ごとに選別し,柱や梁等の木材を牛久工場に持ち込んでいたと認められ,その他の丙社,戊社においては証拠上必ずしも明らかではないが,その業務内容等からすると同様の形態であったと認めるのが相当である。
なお,この点に関し,平成13年6月28日及び同年7月に実施した戊社に対する張込み捜査中に,同社のトラックに木材を積み込んでこれを牛久工場に搬入するところを直接目撃した警察官己は,その木材の性状等に関し,野ざらしでいずれ燃やしてしまうようなもので,いいものではなく,廃棄物であると判断した旨を証言しているところ(己公判供述等),同警察官は,約300メートル離れた場所から双眼鏡で見たに過ぎず,かつ,上記のように判断した根拠についても,「有価物ならば,ちゃんとした建家に入れておくんじゃないかなと感じた」などとかなり主観的な考えに基づくものであることを述べており,同証言をもって,上記認定は左右されない。
また,本件当時,茨城県生活環境部廃棄物対策課に勤務していた庚は,牛久工場に木材を持ち込む業者に原則としてその木材の選別をさせている旨の説明は聞いていない,業者に選別させる場合もあるだろうが,混ざって搬入される場合が多いし,被告人会社Aで何らかの選別をしているように聞いていた旨を証言しているところ(庚公判供述),本件当時,同人がこの点に関して明確な問題意識を抱いていたか否かは疑問であって,チップ製品の規格に応じて原料の選別をする場合のことを述べているとも考えられ,この証言についても,上記認定に影響を及ぼさないものと判断される。
さらに,丁社の従業員である辛は,木材を運搬して牛久工場の事務所に行った時,いつもは積荷や重量を調べられたことはなかった旨供述し(甲20),前記丁’は,牛久工場では待ち時間がほとんどなく木くずを受け入れてくれるので便利だと考えて同工場に委託し続けた旨供述しているが(甲22),前記第2の2(3)のとおり,被告人会社Aは木材を持ち込む業者に対して事前に受け取る木材,受け取らない木材を通知するなどしていたことが認められるのであり,やはりこの供述についても,上記認定に影響を及ぼさないものと判断される。
(2) 加えて,ここで本件木材のように建設業,解体業により排出された木材が,本件当時,各種法令等においてどのような位置付けのものとされているかについて検討する。
資源の有効な利用の促進に関する法律及び同施行令によれば,木材は,「建設工事に係る副産物(土木建築に関する工事に伴い副次的に得られた物品,同法2条2項)であって,その全部又は一部を再生資源(副産物のうち有用なものであって,原料として利用することができるもの又はその可能性のあるもの,同法2条4項)として利用することを促進することが当該再生資源の有効な利用を図る上で特に必要なもの」を意味する「指定副産物」とされ(同法2条13項,同施行令7条),さらに,同法34条及びこれを受けた建設業に属する事業を行う者の指定副産物に係る再生資源の利用の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令6条により,建設工事事業者は,木材を工事現場から搬出する場合において,あらかじめ再資源化施設(建設工事に係る再生資源を利用するために必要な加工を行う施設をいう,同省令2条1号)に関する受入れの条件を勘案し,指定副産物相互及び指定副産物と建設工事に伴い得られたその他の副産物との分別並びに指定副産物の破砕又は切断を行った上で,再資源化施設に搬出するものと規定されている。
また,弁護人も弁論等において指摘する,建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律及び同法施行令によれば,木材は,「木材その他建設資材のうち,建設資材廃棄物(土木建築に関する工事に使用する資材が廃棄物〔法2条1項に規定する廃棄物を意味する。〕となったものをいう,同法2条1項,2項)となった場合におけるその再資源化(分別解体等に伴って生じた建設資材廃棄物について,資材又は原材料として利用することができる状態にする行為,同法2条4項1号)が資源の有効な利用及び廃棄物の減量を図る上で特に必要であり,かつ,その再資源化が経済性の面において制約が著しくないと認められるもの」を意味する「特定建設資材」とされ(同法2条5項,同法施行令1条3号),さらに同法9条,同法施行規則2条において,解体等の工事の受注者は,特定建設資材を用いた建築物等に係る解体工事又はその施工に特定建設資材を使用する新築工事等において,特定建設資材廃棄物をその種類ごとに分別することを確保するための適切な施工方法(解体工事の工程に係る分別解体等の方法は,手作業ないし手作業及び機械による作業とされている,同法施行規則2条5項)により,分別解体等をしなければならないとしている。
そして,平成13年6月1日(環廃産第276号)環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長通知「建設工事等から生ずる廃棄物の適正処理について」(本件は,平成13年1月から7月までの行為が問題とされているが,同時期の木材の位置づけを検討するには平成13年6月の同通知は有用である〔なお,同通知以前にも同通知により事実上廃止された平成11年3月23日(衛産第20号)厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課産業廃棄物対策室長通知「建設工事等から生ずる廃棄物の適正処理について」が存在している。〕。)においては,工作物の新築,改築,又は除去に伴って生ずる木くずを「建設廃棄物」とし,廃棄物の排出業者は,建設廃棄物の再生利用等に減量化を含めた適正処理を図るため作業所(現場)において分別に努めなければならないとし,さらに排出業者等は,建設廃棄物の減量化・資源化を図るため,建設廃棄物の再生利用に努めなければならないとしている(なお,同通知において,「再生」とは,廃棄物から原材料等の有用物を得ること,または処理して有用物にすることをいい,「再生利用」とは,これらにより得られた有用物又は廃棄物を有効に活用することをいうとしている。)。
以上のように,各種法令等において,建設業,解体業により排出された木材については,排出業者において適切に分別し,再資源化ないし再生利用すべきものとされている。
3 本件木材の通常の取扱い形態について
弁10によれば,平成11年における「木くず」の排出・処理状況は,その排出量全体のうち28パーセントが再生利用され,62パーセントが減量化され,10パーセントが最終処分されていることが認められる。
また,本件木材は,前記のように家屋の解体等により排出される解体材全体のうちの一部であると認められるが,本件木材だけをみても,平成13年1月10日ころから同年7月19日ころまでの間,前後165回にわたり,合計約1465立方メートル排出されていることからすると,本件木材と同種の木材は継続的かつ大量に排出されていたといえる。
そして,建設業,解体業により排出された木材については市況が悪くなっていた関係があり,これを買い取っていくという市況ができている状況ではなく(庚公判供述),さらに,被告人会社A以外の業者は,一般にこうした木材を処分料金を受領して焼却処分等していたと認められる(Z公判供述等)。
4 本件木材の取引価値の有無及び事業者の意思について
(1) 本件木材に関する被告人会社Aの意思については,牛久工場は,前記第2の2(1)のとおり,チップの製造能力としては産業廃棄物処分業の許可及び廃棄物再生事業者の登録を受けている八潮工場及び越谷工場と比べても遜色がなく(乙38,弁29等参照),また,粉じんや騒音の点で補正を加えれば産業廃棄物処分業の許可を与えるに足りる設備を有し(庚公判供述),本件木材をチップの原料として受け入れ,前記第2の2(2)のような工程により,そのほぼ全てをチップとして加工していたものであって,こうした被告人会社Aの設備,作業内容等の客観的事実からすれば,被告人会社Aが本件木材につき廃棄物とは認識せず,チップの原料として価値あるものと認識していたことが優に認められる。なお,被告人会社Aは,本件以前に何度か産業廃棄物処分業の許可を申請することを検討し,平成11年に牛久工場で火災が発生したことを契機として同許可の申請に向けて多額の費用をかけて種々の施策を講じ,実際に申請を行っているが,その動機につき,被告人Bは,時代の流れで木材の市況が非常に悪くなっており,許可を取れば処理代金がもらえると考えた旨を述べており(被告人B公判供述等),この許可申請の点のみをもって,被告人会社Aが本件木材を産業廃棄物と認識していたとすることはできない。
また,甲社外4社の意思についても,前記甲’,前記乙’,前記丙’,前記丁’,前記戊’は,それぞれ,牛久工場が本件木材のほぼ全てをチップに加工して販売していることを十分認識した上で,その原料として本件木材を牛久工場に搬入していたことが認められる。
(2) 有償性について
なお,前述のように,本件木材についてはそのほとんどが無償で牛久工場に受け入れられ,乙社からの木材合計約140立方メートルについては処分料金として合計22万円が乙社から被告人会社Aに対して支払われており,被告人会社Aから甲社外4社に対し本件木材受入れにつき何らの金員も支払われていない。
現在,ある物が廃棄物に該当するか否かを判断する際の基準としては,当該物の有償性,すなわち受入れ業者が有償によりその物を入手したか否かが重視されている(庚公判供述,Z公判供述,昭和57年6月14日(環産第21号)厚生省環境衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の疑義について」問17,平成5年3月31日(衛産第36号)厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業の許可に係る廃棄物の処理及び清掃に関する法律適用上の疑義について」問19ないし問22等)。
確かに,有償によりその物を入手したか否かの基準は,当該物が占有者ないし排出者にとって有用なものであるかを認定する上で,明確かつ有効な基準であるといえる。
しかしながら,同基準を廃棄物に該当するか否かの絶対的ないしは決定的な基準とすると,その物の市況の変動によって廃棄物であるか否かが左右されることになりかねず,その処理等に許可が必要か否かも変わってくることになって法的安定性を著しく欠くものといわざるを得ない(なお,前記平成5年3月31日(衛産第36号)厚生省生活衛生局水道環境部産業廃棄物対策室長通知「産業廃棄物処理業及び特別管理産業廃棄物処理業の許可に係る廃棄物の処理及び清掃に関する法律適用上の疑義について」問19及び同問20においては,市況の変動により許可の要否が変わることを是認しているようである。)。また,ある物を廃棄しようと考えている場合に同基準をもって廃棄物であるか否かを判断することは有用であるが,ある物を再生利用しようと考えている場合には,その物を受け入れた後に,加工等を行って販売するなどの経済活動が行われるのであって,かような場合にも,その物の価値を当該経済活動との相関性なくして判断することは,近時の改正により法の目的として「再生」が加わったことや,資源の有効利用ないしは再資源化の法整備が進み,再資源化等を経済システムに乗せて循環型社会へと向かおうとする社会的動向と矛盾するといわざるを得ない。
そこで,再生利用を予定する物の取引価値の有無ないしはこれに対する事業者の意思内容を判断するに際しては,有償により受け入れられたか否かという形式的な基準ではなく,当該物の取引が,排出業者ないし受入れ業者にとって,それぞれの当該物に関連する一連の経済活動の中で価値ないし利益があると判断されているか否かを実質的・個別的に検討する必要があると解される。
被告人会社Aについてみると,被告人会社Aは,前記第2の2(1)のとおりの設備を持つ牛久工場において,木材に同(2)のとおりのような工作を加えてチップを製造してこれを売却しており,本件木材はまさにその原料となるのであるから,被告人会社Aにとって本件木材は取引価値があると認められる。また,甲社外4社にとっても,前記第2の3のとおり,牛久工場以外に本件木材を持ち込んでいれば処分料金を支払う必要,ないしは,より高額の処分料金を支払う必要があったのであるから,本件木材を牛久工場に持ち込んだことによりその支払分や差額分について利益を受けたことになり,かような利益を享受することができたのは,本件木材に価値が認められることの裏返しということができる。加えて,乙社においては,前記第2の3(2)のとおり,再生利用可能な角材については木くずの受入れ料金が安く設定されており,このことからしても,乙社がかような角材についてはその排出(牛久工場への搬入)段階において利益(前記第2の3(2)5段落目参照)を得られると判断していたことが推測される。
(3) 以上の諸般の事情を総合考慮すれば,被告人会社Aが無償ないし有償により本件木材を受け入れていたこと自体によって,本件木材の取引価値ないしその有価性の認識が否定されるとはいえず,かえって本件木材を巡る経済活動全体の流れに照らし,本件木材には取引価値が認められ,被告人会社Aらにおいても有価物と認識して取り引きしていたものと認めるのが相当である。
5 結論
以上検討したような,本件木材に固有の性状,排出状況,取引価値及び被告人会社A及び甲社外4社の意思などの本件における個別・具体的な事情に加え,各種法令等における本件木材を含む建設業,解体業により排出された木材の再資源化ないし再生利用の位置付けの状況などを併せ考えれば,本件木材の通常の取扱い形態が前述のようなものであることを十分踏まえても,本件木材は,建設業,解体業等により排出された当初は産業廃棄物である「木くず」の一部であったものの,甲社外4社が前記各法令等の趣旨に合致した選別等の作業をしたことにより,同社らが牛久工場に搬入する段階では,分離ないし処理されて有用物になったと認められる,ないしは,少なくとも,同段階においていまだ産業廃棄物であったとの立証はなされていないと認められる(なお,前記のように,平成13年6月1日(環廃産第276号)環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課長通知「建設工事等から生ずる廃棄物の適正処理について」において,「再生」とは,廃棄物から原材料等の有用物を得ること,または処理して有用物にすることをいうとしており,廃棄物中から有用物が生じることを前提としている。)。
よって,本件木材が産業廃棄物である「木くず」に該当すると認めることはできない。
第4公訴権の濫用に該当するか(第1の2(5)の主張)
なお,弁護人は,予備的な主張と解されるが,前記第1の2(5)のとおり本件起訴は公訴権の濫用である旨主張していることから,念のためこの点についても付言する。
検察官の公訴提起が,その起訴裁量権を逸脱し,公訴権の濫用として無効になる場合があるとしても,それは公訴提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られると解すべきところ(昭和55年12月17日最高裁判所第1小法廷決定,刑集34巻7号672頁),そもそも無許可営業の罪は,その法定刑から見ても決して極めて軽微な犯罪であるということはできず,また,その違反を犯して有罪判決を受けた者が,産業廃棄物処理業の許可を取り消されるとともに,産業廃棄物処理業者としての欠格事由となることは,もともと廃棄物の処理及び清掃に関する法律が予定しているところのものであり,同罪で処罰された者がそれにより不利益を受けるからといって,そのことを理由に公訴提起が起訴裁量権を逸脱して許されなくなるなどとすることはできない。加えて,茨城県警が不法投棄している業者らが相当数存在するのを知りながらこれらを放置して,ことさらに被告人らのみを公訴提起したことをうかがわせる事情は認められない。その他,本件公訴提起に至る捜査の経緯等,その他の事情を十分検討しても,本件公訴の提起が,起訴裁量権を逸脱し,かつ,その程度が職務犯罪を構成するような極限的な場合に当たるような事情は認められない。
よって,本件公訴提起を公訴権の濫用として無効とすべき理由はなく,弁護人の前記第1の2(5)の主張は採用することができない。
第5結語
以上の検討の結果によれば,本件公訴提起が無効であるとは認められないが,本件公訴事実については犯罪の証明がないから,刑事訴訟法336条により,被告人会社A,被告人B,被告人C及び被告人Dに対し無罪の言渡しをする。
(裁判長裁判官 林正彦 裁判官 江口和伸 裁判官 小西慶一)