大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 平成2年(ワ)86号 判決 1992年3月03日

原告

田嶋克己

ほか一名

被告

茨城県

主文

一  原告両名の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告両名の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は原告田嶋克己(以下「原告克己」という。)に対し、二二八七万九三六八円及びこれに対する昭和六三年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告田嶋法子(以下「原告法子」という。)に対し、二三〇九万五九六八円及びこれに対する昭和六三年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、供用未開始の県道と交差する村道を走行していた自転車の運転者が右県道を走行していた自動車と出合頭に衝突して死亡した交通事故につき、右運転者の遺族が右県道の設置、管理の瑕疵を主張して管理者である被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)二条一項に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  交通事故の発生

亡田嶋勤(以下単に「勤」という。)は、昭和六三年一二月七日午後四時三〇分頃、自転車を運転して茨城県鹿島郡大野村浜津賀八〇三番地二先の村道(以下「本件村道」という。)を大野村武井方面から同村武井釜方面へ進行して交差点に進入した際、折から右村道の交差道路たる供用未開始の県道の一部(全長一九四〇メートル、以下「本件道路」という。)を勤の進行方向左側から走行して同交差点に進入してきた長芳美(以下「長」という。)運転の普通貨物自動車と衝突し、勤は右事故(以下「本件事故」という。)により全身打撲の傷害を負い、同月一一日死亡した。(勤の死亡日は争いがない。その余は甲一、二)

2  本件道路の管理者

本件道路は、昭和五二年二月三日路線認定され、昭和五四年九月一三日に道路区域変更の公示がされた県道大洋鹿島線であるが、本件事故当時供用未開始であり、平成元年三月三一日に供用開始がされた。(争いがない。)

3  相続

原告両名は、勤の父母であり、法定相続分に従い、各二分の一の割合で勤が本件事故により被つた損害の賠償債権を相続した。(原告克己本人、弁論の全趣旨)

4  損害の填補

原告両名は、本件事故による損害賠償として自動車損害賠償責任保険金二五七〇万三四五〇円(各一二八五万一七二五円)、交通事故の加害者である長から一五〇〇万円(各七五〇万円)をそれぞれ受領した。(争いがない。)

二  争点

本件における争点は、(一)本件道路(供用未開始道路)が国賠法二条一項にいう「道路その他の公の営造物」に該当するか否か、(二)本件道路に国賠法二条一項の設置又は管理の瑕疵があるか否か、(三)過失相殺のほか、(四)原告両名の損害額であるが、右(一)ないし(三)の点に関する当事者双方の主張の要旨は次のとおりである。

(一)  本件道路の公の営造物該当性について

(1) 原告両名

(ア) 国賠法二条は、国や公共団体の所有又は管理する危険物から生じた損害の救済を完全ならしめようとする趣旨の規定であるから、国や公共団体の所有又は管理する有体物で公の目的に供用されるべき物は、いまだ現に公の目的に使用されていなくても、当該場合の具体的事情により、現に公の目的に使用されているものに準ずると認められる場合は、同法二条一項にいう「公の営造物」にあたるものと広く解すべきである。

(イ) 本件においては、以下に述べるとおり、少なくとも公の目的に使用されているものに準ずると認められることは明らかである。

(a) 供用未開始であつても、県道にあたつては、路線認定がされたときから県が区域の決定処分をはじめ、道路の新設、改築、維持、営繕、占用の許可、監督処分等の一連の管理行為を行うことのできる道路管理者の地位にある(道路法七条、一五条、一八条)。

(b) 道路法九一条は、同条二項に定める道路予定地について、いまだ公の目的に供用されるに至らない前でも、将来、特定の公共の目的に供用すべきことが決定されている物件、いわゆる予定公物として公物に準ずる扱いをすることを定めている。

すなわち、道路区域決定後は、道路管理者の当該区域内の土地についての権原取得前においても、道路管理者の許可を受けなければ、当該土地の形質を変更し、工作物を新築し、改築し、増築し、若しくは大修繕し、又は物件を附加増置してはならないとされており(道路法九一条一項)、さらに道路管理者が当該区域内における土地について権原を取得した後においては、当該土地について道路法四条の私権の制限の規定が全面的に準用されるほか、同法第三章第三節の道路の占用に関する規定その他の規定が準用されている(同法九一条二項)。

(c) 本件道路については、本件事故当時、すでに被告において土地についての権原を取得しており、また一般人の通行を許容し、若しくは少なくともこれを黙認していた。

(2) 被告

本件道路は、本件事故当時供用未開始であつて、公の目的に供用されておらず、しかも防護柵による遮断により一般車両の通行を禁止していたのであるから、いまだ道路法上の道路ではなく、国賠法二条一項の「道路その他の公の営造物」に該当しない。

(二)  本件道路の設置、管理の瑕疵について

(1) 原告両名

(ア) 国賠法二条一項にいう「管理の瑕疵」には、単に道路に物的な欠陥があるというだけでなく、道路の維持、修繕等の不完全により道路が通常有すべき安全性を欠いていることをいうものと解すべきところ、本件道路は、本件事故当時、(a)に述べるような管理状況にあつてその安全性を欠如していたものであるが、被告としては(b)に述べるような本件村道通行者の安全確保の措置をとれば本件事故を回避できたのであるから、本件道路の管理に瑕疵があつたことは明らかである。

(a) 本件道路は、前記のとおり供用未開始であるから、一般人の通行が禁止されているところ、本件道路と本件村道の交わる地点付近(本件事故現場付近)の本件道路上には本件村道側から本件道路への車両の進入を防ぐ形で防護柵が設置されていたが、右防護柵は何者かによつてしばしば本件道路の両側に移動され、車両が本件道路を本件村道を横断する形で一般道路と同程度の速度で走行することが可能な状態となつており、現実にも相当量の車両が走行していた。一方、本件村道通行者にとつては、本件道路の右のような状況を認識することがきわめて困難な状況にあつた。

(b) 本件道路は、右(a)のような状況にあつたのであるから、被告としては、次のような安全確保の措置を講ずべき義務があつたにもかかわらず、これを怠つた。

<1> 本件事故現場付近の本件道路について、物理的、直接的に完全に交通を遮断する措置を講じ、一般車両の進入、通行が一切できないように管理すべき義務があつた。

<2> 仮りに、本件道路の通行を許容する必要性がある場合、その通行者は本件道路を通行しなければ公道に至ることのできない住民に限り、しかも通行証を交付するなどの方法により、実際に通行する者を限定する合理的措置を講ずべき義務があつた。

<3> さらに、仮りに、一般的な通行の許容が正当な理由に基づくものであるとしても、その通行によつて生ずべき危険を防止するため、以下のような十分な措置を講ずべき義務があつた。

<あ> 低速でジグザグに通らなければ防護柵を通行できないような状況に常時維持しておく(防護柵などの通行規制道具は移動困難なものを使用し、万一移動された場合直ちに原型に復するためのパトロールを強化する。)。

<い> 本件道路の本件事故現場付近に、「通行禁止」又は「横断者あり通行注意」などの表示を設置して、本件道路通行者に注意喚起する。

<う> 本件事故現場付近の本件村道側に道路交通法上の一時停止規制をしてその標識を設置するよう公安委員会に働きかけたり、少なくとも本件村道上に「一時停止」「車両通行あり注意」などの表示を設置し、本件村道通行者に注意を喚起する。

(イ) 被告は、本件道路は、供用未開始であるから、たとえ道路管理者の了解を得ても通行すること自体が違法行為であり、右通行者が第三者に損害を負わせた場合においても、右通行者がすべて責任を負うべきもので、道路管理者は国賠法上の責任を負わないと主張する。

しかし、被告の右主張は、公の営造物が他人に損害を及ぼす危険性を備えている場合に、その危険性が現実化した場合は、これを所有又は管理する国又は公共団体に責任を負わせるという国賠法二条の趣旨に反し、採りえない。

(2) 被告

以下に述べるとおり、本件道路の設置、管理に瑕疵はない。

(ア) 供用未開始の道路を通行することは法律上許されず、それをあえて通行する違法行為者は、その違法行為によつて生じるすべての結果に対し全責任を負うべきであつて、他に責任を転嫁することはできず、道路管理者は一切の責任を負わないものと解すべきところ、本件においては幾重にも設置された防護柵と通行止の標識により供用未開始で通行が許容されていないことを十分に知りつつあえて本件道路を通行し、本件事故を惹起した長が全責任を負うべきで、被告に右事故の責任はない。

(イ) 原告両名主張の安全確保義務について

(a) 一部通行を許容したことについて

被告としては、交通の安全に対する配慮のみならず、県民へのサービス、住民の利便、住民の生活等も考慮に入れ、もつて住民の生活権の確保に努めなければならない責務を負つているのであるから、住民や地元大野村の要請をも考慮に入れて、本件道路を経由することなくしては公道に通ずることが全く不可能な者や本件道路通行により多大の便宜を得る者に対し、一部通行を許容したからといつて何ら責められるべき点はない。

また、日常のパトロール、道路管理の面からも完全に物理的に遮断することは多大の支障を来たすことになるうえ、供用開始を間近に控えた道路上に固定式の完全遮断の強固な防護柵を設置することは、技術的にも、交通安全の見地からも好ましいことではない。

以上のとおり、本件道路につき一部通行を許容したことは瑕疵にあたらない。

(b) 通行者の限定について

本件道路を通行しなければ公道に至ることのできない住民のほかにも、本件道路を通行する必要のある者は多数いるのであるから、右(a)に述べた見地から原告両名主張のとおり限定することは相当でないし、通行証を交付するとすると、常時随所に監視員を置いて、通行証の呈示を求めなければ実効性はないが、そのようなことは現実には不可能である。

(c) 通行による危険防止措置について

被告は、次のとおり防護柵の設置及び管理につき可能な限り十分な措置を講じており、瑕疵はない。

<1> 本件道路については、一般車両の進入を遮断するため、その両端並びに未舗装部の南端及び本件事故現場村道の南側の計四箇所に全面通行止の防護柵と標識を設置するとともに、その他の村道と交差する部分等(本件事故現場北側を含む。)の六箇所には、遮断区域内住民の生活の利便と村道の交通の安全を図るため、村道の左右両側又は片側にジグザグに防護柵を設置した。

<2> 防護柵は木製又は鋼製(前記一〇箇所の防護柵の内、木製は六箇所、鋼製は四箇所)である。

木製の場合、一基の重量が約六〇キログラム(計測の結果によると一基平均五八・六六キログラムである。)、長さ二・〇メートル、高さ一・〇メートル、幅〇・九五メートルのバリケードでできている。このバリケードを、完全通行止の場合には四基横に並べ、そこに単管パイプ二~三本を横に通し、番線にて結束し防護柵としてある。また、村道との交差部分にあつては、右のバリケードを二基ずつ同様の方法で結束し、計八基を村道の左右に設置(一箇所だけは、バリケード二基を縦に並べ、その間にコンクリートブロツクを配置)した。併せて通行止の標識も設置してある。

鋼製の場合は組立式で長さは一定でないが、長さ八・〇メートルの場合、重量は三〇キログラム、高さ〇・八メートル、幅〇・五メートルであり、長さ四・〇メートルの場合には重量、高さ、幅はそれぞれ一五キログラム、〇・八、〇・五メートルとなる。

そして、このバリケードに一個約三〇キログラムの土のうを二~四個取り付けている。また単管パイプの重量は一メートルあたり二・七三キログラムである。

したがつて、防護柵は木製、鋼製を問わず、いずれの場合でも、相当の重量を有しており、かつまたその形状からしても、一般通常人が容易に移動しうるところではない(また、右移動は道路法ないし刑法の犯罪を構成する。)。

<3> 被告県の潮来土木事務所の職員は、パトロール実施要領に基づき、管内の道路及び道路工事等施行箇所のパトロールを定期的に実施している。本件事故現場付近も、道路工事施行箇所として、その保安施設の設置状況を点検するため、パトロールの対象地となつており、事故日から遡つて事故現場付近の舗装工事の竣工検査を了した昭和六三年一〇月六日までの間に、パトロールを実施した日時をあげると、昭和六三年一二月二日、一一月二一日、同月九日、同月二日、一〇月二七日、同月一一日、である。

そして、右いずれのパトロールの際にも、前記の如く設置した防護柵には異常は認められていないのであつて、防護柵がしばしば道路脇に寄せられ、そのため車両が本件村道との交差点を全く減速しないで通過できる状況にあつたとする証人川上修の証言等原告側の証拠は信用できない。

<4> 本件道路を管轄する茨城県潮来土木事務所において、道路パトロールに従事しうる職員の総数は二四名(運転手一名を含む。)であるが、いずれも他の業務を兼任しており、専任のパトロール要員はおらず、一日にパトロールに従事できる職員は運転手一名を含め二ないし三名にすぎない。この人員でもつて管内総延長約二七〇キロメートルの道路のパトロールを実施している。本件事故現場を含む供用未開始部分についていえば、この職員の数からして舗装工事の竣工検査を了した昭和六三年一〇月六日から本件事故の前日まで二か月の間に計六回、平均して一〇日に一回の間隔で交代で視察し、異常の有無を確認していたことは、前記防護柵の維持のための措置として社会通念上相当な方法である。より短期間のパトロールを要求することは不可能を強いることになり、また反面それでも防護柵が除去された直後の事故までは防止しえないことをも併せ考えれば、被告がした前記のパトロール回数を非難すのるは被告にあまりに酷を強いるといわざるをえない。

(三)  過失相殺について

(1) 被告

勤は、本件村道を通学路として通行していたのであるから、本件道路を車両が走行しているのを認識していたはずであり、しかも、本件事故現場付近の本件村道側には一時停止を示す白線が引かれ、本件村道幅員は本件道路幅員より明らかに狭いにもかかわらず、徐行もせず、本件事故現場の交差点に進入したのであるから、本件事故については勤に重大な過失があるというべきであり、相当割合の過失相殺がされるべきである。

(2) 原告両名

本件においては、(ア)もともと国や地方公共団体は、国民の生存権を保障する義務を負つていること、(イ)国賠法二条が無過失賠償責任に近い責任を国又は地方公共団体に負わせた趣旨、(ウ)個人と国や地方公共団体との資力の差は歴然としていること、(エ)そもそも「瑕疵」の内容の一つとして、前記のとおり本件村道を走る自転車に対して危険性を認識させる措置がとられていなかつたことがあげられていながら、そうした認識が不十分だつたとして過失相殺をするのは矛盾している、などの点からすると、過失相殺は否定すべきである。

第三争点に対する判断

一  本件道路の管理状況と本件事故の状況等について

1  前記認定事実と証拠(甲一ないし四、一〇ないし三一、三三ないし三七、乙六ないし九、一〇の一ないし四、一一の一・二、一二ないし一四、一五、一六の各一ないし四、一七の一ないし六、一八ないし二〇、二一の一・二、二二の一・二、二三、証人川上修、同小沢壮平、同森山務、原告克己本人、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 本件道路は、前記のとおり県道大洋鹿島線の一部であるが、バイパス新設箇所であり、本件事故当時、右バイパスの内北端部分と南端部分は供用開始されていたが、本件事故現場を含む一九四〇メートルの本件道路部分は供用未開始であり、その内三九八メートルはいまだ舗装工事にも着手していなかつた(本件道路の内、右三九八メートルを除く部分は、昭和六三年九月二五日までに舗装工事が完了し、同年一〇月六日竣工検査を了し、センターラインも引かれていた。)。

被告としては、右舗装部分のみを先に供用開始すると、これに交差する村道が渋滞したりすることなどが予想されたので、円滑安全な交通に寄与するため、右未舗装部分の工事完了を待つて本件道路全体を同時に供用開始する予定であつた。

(二) ところが、本件道路の内、舗装工事完了部分付近には、本件道路を通行しなければ公道に出ることのできない住民や本件道路を通行することが生活に便利な住民などがおり、大野村も本件道路を管理する被告潮来土木事務所に対し、必要最小限の車両のバイパスへの進入を許容して欲しい旨の要請をしていた。

そこで、被告潮来土木事務所は、右の要請に応じて供用開始前に舗装工事完了部分の通行を許容することとし、昭和六三年一〇月六日の竣工検査以降、鹿島警察署とも相談の結果、本件道路の両端並びに未舗装部の南端及び本件事故現場の村道南側の計四箇所には一般車両の進入を遮断するため全面通行止の防護柵と標識を設置するとともに、その他の村道と交差する部分等の六箇所には右住民らの利便を図るとともに、通行車両が高速度で走行することを防止して交通の安全を図るため、村道の左右両側又は片側にジグザグに防護柵を設置した。なお、本件事故現場付近の防護柵の設置状況は別紙図面(一)のとおりである。また、本件村道は通学路にあたつており、被告潮来土木事務所もそのことを知つて、本件村道南側を全面通行止にしたものである。

(三) 防護柵は、木製又は鋼製で、木製の場合、一基の重量が約六〇キログラム、長さ二・〇メートル、高さ一・〇メートル、幅〇・九五メートルのバリケードでできており、鋼製の場合、組立式で長さは一定しないが、長さ八・〇メートルのものは重量約三〇キログラム、高さ〇・八メートル、幅〇・五メートルであり、長さ四・〇メートルのものは重量約一五キログラム、高さ及び幅は八・〇メートルのものと同じである。

木製バリケードは、完全通行止の場合には四基横に並べ、そこに単管パイプ(長さ二メートルないし二・五メートル)二、三本を横に通し、番線にて結束しており、村道との交差部分でジグザグに設置する場合には、二基ずつ同様の方法で結束し、計八基を村道の左右に設置し、併せて通行止の標識も設置していた。

鋼製バリケードは、一袋約三〇キログラムの土のうを一基に二個ないし四個、バリケード足元の押さえとして置くか、又はバリケードからぶら下げて重しとして取り付けていた。

(四) 被告潮来土木事務所の本件事故当時の職員数は、六四名であるが、この内一般職員二四名で同事務所管轄の県道等(本件道路のように供用未開始道路を含む。)を実施要領に基づき定期的にパトロール(平常時パトロールとしては、路線ごとに毎月二回以上実施する通常パトロールと概ね三か月に一回以上目標を定めて実施する定期パトロールがある。)している。

本件道路を含む大洋鹿島線については、竣工検査後、本件事故時までに、昭和六三年一〇月一一日、同月二七日、同年一一月二日、同月九日、同月二一日、同年一二月二日の六回にわたりパトロールが他の六路線と一緒に実施されているが、その際に記載する「道路パトロール日誌」にはいずれも異状なしと記載されている。

パトロールの際の防護柵の点検方法は、一般にパトロールカーにより付近まで乗り入れ、同車から降車せずに目視により行われているが、防護柵が部分的に移動されているのを直した程度の場合には特にパトロール日誌に異状として記載していない可能性もある。

(五) 本件道路の本件事故現場付近は、少なくとも竣工検査後、別紙図面(一)の<1>ないし<3>のバリケードがしばしば道路脇に移動され、車が一般道路と同程度の速度で本件村道を横断して走行しており、付近住民が右バリケードの位置を直したこともある。

また、本件村道上には、通行者に本件道路通行車両への注意喚起を促す標識は設置されていなかつた。

(六) 本件事故現場の本件事故当時の状況は、別紙図面(二)記載のとおりである(長は、<1>、<2>、<3>、<4>の順に進行し、勤は

、<ア>、と順次進行し、で衝突)。

本件事故当時、バリケードは別紙図面(二)記載のとおり移動されており、本件道路の本件事故現場付近は車両が一般道路と同様に通行できる状態であり、事故後三〇分ないし一時間三〇分経過した時点において、本件道路の車の通行量は交互に一分間あたり五台前後であつた。

また、道路の交通規制は、本件道路、本件村道ともに施されていないが、本件村道側には本件事故現場の交差点手前に停止線が施されており、本件村道の勤の進行方向からは左側にやぶがあるため本件道路北側の見通しがきわめて悪かつた。

(七) 長は、本件道路を時速約五〇キロメートルの速度で進行していたが、別紙図面(二)の<3>の地点で<ア>にいた勤を発見し、急ブレーキをかけたが、勤が一時停止や徐行をすることなく自転車で本件道路に飛び出してきたため間にあわず、同図面地点で勤と衝突した。

なお、長は本件事故につき検察庁で不起訴処分となり、原告両名が検察審査会に不服を申し立てたが、同会も不起訴相当の判断をしている。

(八) 勤は、少なくとも昭和六三年五月頃から週に一、二回は本件事故現場を中学校からの下校途中自転車で通行しており、また、別の機会に、本件道路を自転車で走つたこともあつて、本件道路を車が通行することを知つていた。

(九) 被告潮来土木事務所は、本件事故後、本件事故現場南側の全面通行止の防護柵は大野村の要請によりジグザグの配置としたが、ジグザグ配置の防護柵もU字溝を用いるなどして従前より頑丈にし、別紙図面(一)の地点に防護柵を新たに設置し、また同図面<3>地点の全面通行止の防護柵のバリケードを西側(歩道部分)に一基増設した。

2  被告は、本件事故現場付近の防護柵がしばしば移動されていたとする証人川上の証言等は信用できず、右防護柵はパトロールの際いつも異常なく、本件事故当時を除き防護柵が移動されていた可能性は少ないという趣旨の主張をするので、右証人川上の証言等の信用性について検討する。

証人川上は、本件道路の通行車両につき、自分が本件道路脇に転居してきた昭和六二年六月以降本件事故当時まで、交通量、速度等は変わつておらず、一般道路と同様に車両が通行して危険であつた旨証言するが、証拠(乙一一、二一、二二の各一・二、二三)によれば、本件道路の路面状態、防護柵の設置状態は工事の進捗とともに変化し、一部通行可能の時期や全く不可能の時期(本件事故現場の交差点を含む南側部分の舗装が完了し、本件事故現場北側の舗装着工前の時期においては、右北側入口付近の各車線の中央に、人力では移動不可能なコンクリートブロツク二基が一基ずつ設置されており、右北側部分は車両通行不可能というしかない。)があることが認められ、これらに照らすと、右証人川上の証言はいささか正確性に欠けるといわざるをえず、特に本件道路の竣工検査(昭和六三年一〇月六日)以前の交通量等についての証言内容はその信用性に疑問があるというべきである。しかしながら、証人川上は、単に本件道路脇に居住している会社員にすぎず、特に原告両名に有利な虚偽の証言をする立場にもないのであるから、これをもつて、右証言内容全部を信用できないとして排斥するのは相当でなく(一部に勘違い、記憶違いがあるにすぎないとも考えられる。)、むしろ右竣工検査後本件道路において別紙図面(一)の<1>ないし<3>のバリケードが移動され、一定量の車両が一般道路と同程度の速度で走行していたとする点は、甲二(本件事故の実況見分調書)記載の本件道路の交通量、甲三四(別件訴訟における本件事故の目撃者の証言調書)、甲一一ないし三一、三七(本件事故現場付近居住者や通行者へのアンケート結果。内容的に不十分ないし不明確なものもあるが、本件事故現場を以前から車両が通行していたとする点では共通しており、その限度で信用できる。)とよく符合し、信用できるものというべきである。

これに対し、証人森山務、同小沢壮平は、いずれも基本的にはパトロールの際、本件道路のバリケードはいつも異常なく、通行車両も目撃しなかつたと証言する。しかしながら、証人森山自身、パトロールの際、本件道路を車両が一、二台走行しているのを見たことがある(証人小沢の証言によれば、パトロール箇所が多く、本件道路部分のパトロール時間が限られていることが認められ、これに照らすと、右通行量自体必らずしも少ないとはいい難い。)旨証言しており、一方、証人小沢は、バリケードの一部の移動を直した程度ならばパトロール日誌に記載しないことも考えられ、また、事故後別紙図面(一)の<3>地点西側の歩道上に車の通過跡が発見された旨証言しているのであつて、前記のとおり、パトロール方法自体、パトロールカーから降車せず目視によるにすぎず、付近住民がバリケードの位置を直していたこともあることを考慮すると、右両名の証言を全面的に信用しても(もつとも、証人小沢は、本件事故前、昭和六三年一〇月二七日、同年一二月二日の二回にわたりパトロールしているにもかかわらず、後者のパトロール方法については詳細に記憶していながら、前者のパトロール方法は記憶がない旨証言しているのであつて、これ自体不自然で、その証言の信用性には疑問がある。)、別紙図面(一)の<1>ないし<3>のバリケードが移動された状態で、本件道路の本件事故現場付近を、一定量の車が、一般道路と同程度の速度で通行していたことを否定することはできないというべきである。

二  本件道路の公の営造物該当性について

国賠法二条一項にいう「公の営造物」とは、国又は公共団体が特定の公の目的に供する有体物及び物的設備をいうものと解すべきところ、前記認定のとおり、本件道路は供用未開始であるとはいえ、既に路線認定、区域変更決定もされ、ジグザグに防護柵を配置するなどして、不完全ながら事実上道路として使用に供されていたのであるから、国賠法二条一項にいう「公の営造物」と認めるのが相当である。

三  本件道路の設置、管理の瑕疵について

営造物の設置、管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいうものと解すべきであり、瑕疵の有無は、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきである。

これを本件についてみると、前記認定のとおり、本件道路の舗装部分は、昭和六三年一〇月六日の竣工検査以後は、供用未開始であるとはいえ、物理的には完成し、センターラインも引かれ、被告自身、付近住民の便宜を考慮して、村道との交差部分は全面通行止とせず、防護柵をジグザグに設置して車の走行を許容していたというのであるから、このような状況が一定期間続くと、たとえ、右防護柵自体ある程度の重量があつて容易には移動できないものであるとしても、右防護柵を人力で移動することが不可能でない以上、これを道路脇に移動して一般道路と同様の速度で走行しようとする車の存在することは容易に予測できるものといわなければならず、現に存在していたのである。他方、本件道路と交差する本件村道自体は従前から通行に供されており、しかも通学路にあたる(被告もそれを知つていた。)うえ、一見すると、通行止の標識等により本件道路は供用未開始で通行が禁止されており、車両が通行しないように見え、しかも本件村道を西側方向から東側方向へ通過する者にとつて、本件道路北側への見通しがやぶでさえぎられてきわめて悪い状態にあつたのであるから、本件道路を通行する車と本件村道を通行する歩行者や自転車との交通事故の危険性が客観的に存在していたものというべく、またこれを被告において予測することも必らずしも困難であつたとはいい難い。そうすると、本件道路の管理者としては、バリケードを移動した状態で車両が本件道路(本件事故現場の交差点)を走行する危険に備えて、バリケードの数を増やすとともに、材質等をより頑丈なものにして移動困難なものにしたり、パトロールの回数をより頻繁にしてバリケードが移動されているような場合は直ちに原型に復する態勢をとるか、又は本件村道側に本件道路を通行する車両があることを示す危険標識を設置するなどして、本件事故現場を含む本件道路と本件村道との交差点においての交通事故を未然に防止するための安全確保の措置を講ずることが最小限度必要であつたものと解するのが相当であり、これを講じていれば本件事故を避けえたものというべきである。

被告は、これ以上の回数のパトロールを要求することは人員(ひいては予算)の面から不可能を強いることになる旨主張するが、右のようないわば予算措置の制約により直ちに道路の管理瑕疵によつて生じた損害に対する賠償責任を免れうるものと考えることはできない。

以上によれば、本件道路は通常有すべき安全性を欠いていたものであり、その管理に瑕疵があつたものというべきであるから、被告は国賠法二条一項により、右瑕疵があつたため生じた本件事故に基づく損害につき賠償責任を負うものである(原告両名は、本件道路を完全通行止にしたり、あるいは通行者を限定すべきであつたと主張するが、一般通行の用に供したとしても右に述べた措置を講ずれば本件事故は防げたものと解されるから、付近住民の便宜を考慮して本件道路の通行を許容したこと自体を瑕疵ということはできない。)。

なお、被告は、本件道路は供用未開始であつて通行が許されないから、あえて通行したことによつて事故等が発生したとしても、道路管理者は道路管理上の責任を一切負わないのであつて、本件事故の責任もない旨主張するが、違法通行者との関係では右のような論理が適用されるとしても、本件事故の被害者勤は違法通行者ではないのであるから、本件道路の設置、管理に瑕疵があり、それと本件事故との相当因果関係が認められる以上、被告の国賠法二条一項に基づく責任を免除する根拠となりえないというべきであつて、被告の右主張は採用できない。

四  原告両名の損害額について

1  勤の損害

(一) 逸失利益 三五七一万三九七二円(請求額四八九七万五七一四円)

勤は、本件事故当時満一五歳(昭和四八年五月二七日生)の健康な男子中学生であつた(甲一、三三、弁論の全趣旨)。

右事実によれば、勤は本件事故に遭わなければ満一八歳から満六七歳まで四九年間稼働可能であり、右稼働期間中昭和六三年賃金センサスの産業計、企業規模計、学歴計、全年齢の男子労働者の平均賃金額四五五万一〇〇〇円を下らない年収を得ることができ、全期間について生活費としては収入の五割を必要としたものと認められ、年五分の割合による中間利息の控除はライプニツツ方式によるのが相当であるから、以上を基礎とし、本件事故当時の現価を算出すると、三五七一万三九七二円(円未満切捨て)となる。右説示と異なる原告両名主張の算定方法(ホフマン方式、昭和六一年賃金センサスの平均賃金を基礎)は採用できない。

(計算式)

4,551,000×(18.418-2.723)×(1-0.5)=35,713,972

(二) 慰謝料 一五〇〇万円(原告両名固有の慰謝料を含め請求額二八〇〇万円)

本件事故の態様、勤の死亡時の年齢等諸般の事情を考慮すると、勤の慰謝料(原告両名固有の慰謝料を含む。)は一五〇〇万円が相当である。

2  原告両名固有の損害

(一) 病院関係費用 〇(請求額合計三万一六五五円)

原告両名は、勤の病院関係費用として三万一六五五円(原告両名各二分の一)を支出したと主張するが、右支出を認めるに足りる証拠はない。

(二) 葬儀費用(墓地取得費を含む。) 各五〇万円(請求額合計三六二万八七四二円)

勤の両親である原告両名は、勤の葬儀を執り行い、墓地取得費を含め、相当額の支出を余儀なくされた(甲三三、弁論の全趣旨)ところ、勤の年齢、境遇、家族構成等諸般の事情に照らすと、本件事故と相当因果関係のある額は原告両名それぞれにつき五〇万円と認めるのが相当である。

(三) 付添費、休業損害 各二万二五〇〇円(請求額原告克己七万五〇〇〇円、原告法子二九万一六〇〇円)

勤は、事故当日の昭和六三年一二月七日から同月一一日の死亡まで鹿島労災病院に入院し、原告両名が付添つていた(甲三三、弁論の全趣旨)ところ、本件事故と相当因果関係のある入院付添費用としては、原告両名それぞれにつき一日四五〇〇円各二万二五〇〇円をもつて相当と認める。原告両名はそれ以外に勤の入院、死亡に伴い、職場を休み、収入が減少した旨主張するが、右収入減少を認めるに足りる証拠はないうえ、本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(四) 原告克己の両親、兄弟の交通費、休業損害 〇(請求額合計二一六万一一三〇円)

原告両名は、勤の入院、死亡のため、原告克己の両親、兄弟の交通費の支出を余儀なくされ休業損害の補填をした旨主張するが、右は本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。

(五) 雑費 〇(請求額合計一万四九四六円)

右支出を認めるに足りる証拠はない。

3  相続

前記認定のとおり、原告両名は右1の勤の損害賠償債権(合計五〇七一万三九七二円)を各二分の一ずつ相続した。

五  過失相殺について

前記認定の本件事故の態様によれば、勤が本件事故に遭遇したことについては、本件道路を車が通行することを知りながら、本件道路の交通に全く注意を払うことなく、その進路前方に飛び出したこともその一因であつたものと認めることができるから、過失相殺として、原告両名の損害額(前記四の合計額各二五八七万九四八六円)から相当額(勤の過失割合は少なくとも二割二分を超えるものというべきである。)を減じて同人らの損害額を算出すると、前記の損害填補の各受領合計額に達しないといわざるをえない。

原告両名は、本件のような国賠法に基づく損害賠償請求の場合には過失相殺の適用を否定すべきであると主張するが、損害の公平な分担を目的とする過失相殺の規定は国賠法の適用にあたつても当然適用されると解すべきであつて、原告両名の右主張は採用できない(なお、前記のとおり、本件においては本件村道通行者に危険性を認識させる措置を講じなかつたことが瑕疵の一つの要素となつているが、右のとおり、勤自身は本件道路を車が通行することを知つていたものと考えられるから、過失相殺を認めたとしても瑕疵の認定と矛盾するものではない。)。

六  結論

以上検討したとおり、原告両名の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢崎秀一 山﨑まさよ 神山隆一)

別紙〔略〕

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例