大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 平成20年(ワ)508号 判決 2009年7月29日

主文

1  被告は、原告に対し、756万円及びこれに対する平成20年6月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、これを20分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(原告が本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らに支払うべき報酬額はいくらか。)について

原告が本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らに支払うべき報酬額は、両者間の訴訟委任契約に基づいて発生するものであるところ、〔証拠省略〕の全趣旨によれば、その契約当事者である原告と本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らとの間には、原告は同弁護士らに対し、勝訴判決が確定することを停止条件として、日弁連報酬基準の下限額に準じた弁護士報酬を支払うこと、同弁護士らは原告に対し、日弁連報酬基準に基づいて算出される弁護士報酬の額が法242条の2第12項に基づき被告が原告に対して支払うこととなる弁護士報酬の額を超過する場合には、その超過部分を免除することを合意したこと、日弁連報酬基準によれば、弁護士に支払うべき着手金は「事件等の対象の経済的利益の額」を、報酬金は「委任事務処理により確保した経済的利益の額」をそれぞれ基準として同基準別表のとおり算出するものとし、事件の内容により30パーセントの範囲内で増減額することができるとしていたことが認められる。そして、原告及び本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らは、本件住民訴訟における認容額をもって日弁連報酬基準にいう「経済的利益の額」とすべきことを本訴及び本訴外で一貫して主張している(〔証拠省略〕)から、かかる前提に基づいて原告の支払うべき報酬額を算定することを訴訟委任契約の内容として合意していたものと推認するのが合理的であり、これに反する合意があったことをうかがわせる証拠はない。したがって、本件住民訴訟における認容額を「経済的利益の額」として別表を適用すると、着手金が600万円(1億7700万円×0.03+69万円)、報酬金が1200万円(1億7700万円×0.06+138万円)の合計1800万円となるところ、原告が本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らに支払うべき報酬額は、日弁連報酬基準の下限額と合意されていたから、上記1800万円から30%を減額した1260万円となる。したがって、原告が本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らに支払うべき報酬額は、原告の主張するとおり1260万円であると認められる。

2  争点(2)(原告が本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らに支払うべき報酬額のうち「相当と認められる額」はいくらか。)について

(1)  法242条の2第1項4号の規定による住民訴訟を弁護士に委任して提起した住民が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合に、同条第12項に基づいて、その訴訟を委任した弁護士に支払うべき報酬額の範囲内で普通地方公共団体に請求できる「相当と認められる額」とは、住民から訴訟委任を受けた弁護士が当該訴訟のために行った活動の対価として必要かつ十分な程度として社会通念上適正妥当と認められる額をいい、その具体的な額は、当該訴訟における事案の難易、弁護士が要した労力の程度及び時間、認容された額、判決の結果普通地方公共団体が回収した額、住民訴訟の性格その他諸般の事情を総合的に勘案して定められるべきものと解するのが相当である(最高裁平成21年4月23日第一小法廷判決・裁判所時報1482号8頁参照)。

(2)  まず、住民訴訟の判決認容額及び回収額は、「相当と認められる額」を定めるに当たって重要な考慮要素となるところ(前掲最高裁判決参照)、本件住民訴訟の判決認容額の元本は1億7700万円である。そして、Aは、平成21年3月31日現在で資本金840億円を有し、同年3月期の連結売上高1兆1075億円、単独売上高6430億円を計上する大企業であり(弁論の全趣旨)、上記判決認容額の支払能力に問題はないと認められる上、本件住民訴訟において訴訟告知を受けているAには参加的効力が及ぶため(法242条の3第4項、民訴法46条柱書、53条4項参照)、Aが本件住民訴訟の口頭弁論終結時以前に生じた事由によって上記判決認容額の損害賠償義務を争う余地はないものと解されることにかんがみると、被告がいずれ上記判決認容額をAから回収し得ることは相当程度確実ということができる。

(3)ア  もっとも、住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とするものであり、その公益的な性格上、私的な権利・利益の追求を目的とする訴訟の場合と比べて、弁護士報酬額は低額で合意されるのが一般的と考えられるのであり、現に本件でも、前記認定のとおり、原告が本件住民訴訟の訴訟代理人弁護士らに支払うべき報酬額は、日弁連報酬基準の下限額(目安となる額から30%を減額した額)に準じる旨合意されていた。

イ  また、前提事実に〔証拠省略〕を併せると、本件住民訴訟において、原告の訴訟代理人弁護士らは、前記第2の2(2)【原告の主張】アに記載のような訴訟活動を行ったことが認められるが、口頭弁論期日の回数が判決言渡期日を除いて8回と比較的少なかったことや、提出された甲号証の多くは本件刑事事件における証拠をそのまま利用したものであったこと(前提事実(3))を考慮すると、本件住民訴訟の事案は、同種同規模の訴訟の事案と比べて複雑困難なものとはいえず、弁護士がこれに要した労力や時間の負担は相対的に軽いものであったと評することができる(なお、被告は、本件住民訴訟における原告の訴訟代理人弁護士らの訴訟活動には評価すべきものが存在しないと主張するが、訴訟代理人弁護士らの提出した甲号証89点及び申請した人証1名は、いずれも受訴裁判所においてその関連性及び必要性が認められたからこそ採用・取調べがされたのであって、かかる立証活動の有用性を過小に評価することは妥当でない。)。

(4)  以上の諸事情を総合的に勘案すると、本件住民訴訟において原告が支払うべき弁護士報酬1260万円の範囲内で「相当と認められる額」は、その40%を減額した756万円(1260万円×(1-0.4))と認定することができる。

3  遅延損害金の起算日について

法242条の2第12項に基づいて普通地方公共団体が負担する相当な弁護士報酬額の支払債務は、法律の規定によって発生するものであるから、期限の定めのない債務(民法412条3項)として、履行の請求を受けた時から遅滞に陥るものと解される。

〔証拠省略〕によれば、被告は、平成20年6月19日に原告から本件住民訴訟に係る相当な弁護士報酬額の支払請求を受けたことが認められるから、その翌日である同年6月20日が遅延損害金の起算日となるというべきである。

第4結論

以上の次第で、原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築民枝 裁判官 德田祐介 豊島英征)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例