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水戸地方裁判所 昭和23年(行)36号 判決

原告 石井庄之介 外一名

被告 白河村農地委員会

一、主  文

被告が昭和二十三年三月十日附を以てした原告庄之介の別紙目録記載の不動産に係る耕作権抛棄承認申請に関する承認行爲は無効なることを確認する。

被告が昭和二十三年九月二十六日爲した訴外八文字せつと同山田秋義及び同八文字健三との間の各耕作権変更承認の行爲は之を取消す。

原告等その余の請求は之を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨

主文第一、二、四項同旨の判決及び昭和二十三年四月二十九日訴外木名瀬清之介、八文字せつ両名が農地調整法施行規則第八條の規定による申請を被告に対し爲し同月三十日之が承認を爲したことは無効なることを確認する。

三、事  実

原告訴訟代理人は其の請求原因として、別紙目録記載の土地(以下單に本件土地と略称)は元訴外木名瀬清之介の所有であつたが、原告庄之介は同人から之を十数年以前に賃貸借契約に基いて借り受け占有耕作していたのであるが、本件土地は遠隔の土地にあり、原告清耕作中の同字東台千三十四番山林二町二反五畝四歩の内現況畑五反歩が近くにあるので昭和二十三年三月中右原告庄之介と同清との間に右二つの土地を相互に交換して耕作する旨の契約が成立しその直後原告清は本件土地に立ち入り耕作したが原告庄之介は原告清に於て右合意に基く履行がないものと誤信して昭和二十三年三月十日被告宛に本件土地に対する耕作権抛棄の申立をなし、被告委員会は右抛棄の申立を同日承認した、然るに右抛棄は前記の通り誤信によるものであるばかりでなく、右抛棄の申込は之を被告委員会に対して爲すべきでなく、賃貸借の相手方である地主木名瀬清之介に対して爲されなければならないのである、而も抛棄による解約については農地調整法第九條第三項同法附則第三項の規定による縣知事の許可を得て初めて法律上解約の効力が発生するのである、從つて被告委員会の爲した右承認は無効であつて何等法律上の効力を発生すべきものでない。然るにその後訴外八文字せつは同木名瀬清之介と本件土地につき賃貸借契約を締結したと称して架空な賃貸借契約をなし、被告委員会亦右事情を知つて同年四月三十日右架空な賃貸借契約を承認したのであるから右承認行爲も亦無効である。以上のように訴外木名瀬清之介と原告庄之介との間の本件土地に対する賃貸借の解約がないのに同年六月中前記せつ及び同人より耕作権の一部讓渡を受けたと称する訴外山田秋義同八文字健三は不法にも本件土地に侵入耕作を初めたので原告清は原告庄之介を相手方とし訴外八文字せつ及び同木名瀬清之介の両名を利害関係人として水戸地方裁判所に対し本件土地に対する耕作権確認の調停申立をし同事件は同裁判所昭和二十三年(セ)第八七号耕作権確認小作調停事件として繋属し同年七月中原告庄之介が本件土地につき耕作権あること、同人は白河村農地委員会に対し耕作権抛棄の申立を撤回すること、前記原告清所有の土地と原告庄之介の本件土地に対する自作農創設特別措置法による買受請求権との交換申立書を原告両名が協力して同委員会に提出する旨の調停が成立し尚前記せつも原告庄之介の本件土地に対する耕作権を確認し同人に右土地を明渡すこととなつた。而して右調停に出頭して証人として訊問された訴外山田秋義同八文字健三も共に該調停の趣旨を了解しており、又被告委員会も原告両名より前記調停による土地耕作に関する交換申立書提出と同時に該調停の調書写が共に提出されたので以上の事実を承知していた筈である、然るにその後に至つて被告委員会は同年九月二十六日訴外八文字せつから訴外山田秋義同八文字健三に対する耕作権の一部讓渡につき之が承認をした。然し右承認は訴外木名瀬清之介に何等本件土地の引上なく而も更に被告委員会に於て本件土地の耕作権が原告庄之介に在ることを知悉してなしたものであるから瑕疵ある違法の処分と謂わなければならぬ。仍て茲に本訴請求に及んだ次第であると述べ、被告主張事実に対し訴外清之介が不在地主であることは認めるがその余の原告主張に反する被告主張はこれを否認すると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告等の請求は之を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、答弁として原告主張事実中本件土地が元訴外木名瀬清之介の所有地であつて、原告庄之介が原告等主張のようにこれを賃借耕作していたこと、この土地につき昭和二十三年三月十日原告庄之介が被告に対し耕作権抛棄の申立をなし同日被告委員会が之を承認したこと、其の後訴外八文字せつが地主木名瀬清之介より本件土地を賃借し、被告宛この旨承認申請があつたので同年四月三十日被告は之を承認したこと、水戸地方裁判所昭和二十三年(セ)第八七号耕作権確認小作調停事件の調停調書の写が原告等主張のように被告委員会に提出されたこと、被告委員会が昭和二十三年九月二十六日訴外せつが同秋義同健三に対し本件土地耕作権の一部讓渡の承認申請を許容したことは認めるがその余の事実については知らない。元來本件の土地は元木名瀬清之介の所有であつたが、同人が不在村地主であつた爲め法律上の手続の履践があつた後昭和二十三年三月二日附を以て政府に買收されたものである。而してこれより曩原告庄之介は右清之介より本件土地を賃借していたが自家労力の少いことと、公租公課の負担とに堪えかねて昭和二十三年三月十日本件の土地に対する耕作権抛棄の承認申請を被告委員会宛に提出し、被告委員会は同日この申請を承認したものであつて原告庄之介の耕作権承認の申立は何等錯誤に因るものではなく若し錯誤に因るものとすれば右原告に於て右申立につき重大な過失があるから自らその無効を主張し得ないものである。而して被告委員会はその承認したことを原告庄之介及び地主清之介に通知し右清之介に於て十分之を知悉しているので地主たる同人に該抛棄の意思表示がないから抛棄の効力を生じないと謂う理由はない。然るに同年四月一日訴外せつは本件土地を訴外清之介より賃借し、次いで四月三十日右清之介及びせつ連署にて被告委員会宛耕作権設定契約の承認申請に及んだ。被告委員会は同日之を承認し、この事実を清之介及びせつに対し通知した、その後訴外せつより本件土地の耕作権の一部を訴外秋義同健三に夫々讓渡し、この旨承認申請をして來たので被告委員会は右耕作権の一部讓渡を昭和二十三年九月二十六日承認し、各当事者に対し、右承認の事実を通知したものであつて本件の如く小作人である耕作者自身が自発的に任意に耕作権を抛棄し地主も亦小作人の耕作権抛棄の事実を認め、該小作人に対し賃料支拂の義務を免除したことにより農地に対する耕作権が終了したような場合には賃貸借消滅につき自作農創設特別措置法の規定による必要なく、從つて縣知事の許可を得ることは何等必要でない。仮りに抛棄が有効でなく原告庄之介の耕作権を消滅しなかつたとしても訴外せつは前記の如く訴外清之介と賃貸借契約をなし昭和二十三年四月三十日被告の承認を受け、被告はこの承認の事実を地主清之介及び賃借人せつに対し夫々通知し原告等は右事実を承知しながら原告庄之介が本件土地耕作権の抛棄をした昭和二十三年三月十日から右訴外せつ及び同清之介間の賃貸借承認をした同年四月三十日迄の間に何等耕作権抛棄申請の撤回又は賃借権存続その他賃借権に対する何等の主張もしなかつたので右せつは昭和二十三年四月三十日前記承認と同時に有効に本件土地耕作権を取得し之を耕作するに至つたものであるから同日以後有効に耕作権を有し何人にも対抗することが出來る、從つてその後に於ける訴外せつと同秋義及び同健三の夫々との間に於ける本件土地の耕作権の一部讓渡の承認亦適法である。從つて原告等の請求は何れも失当である、尚被告の主張に反する原告の主張は之を否認すると述べた。(立証省略)

四、理  由

本件土地が元訴外木名瀬清之介の所有であつて、これを原告庄之介が十数年來耕作していたところ、昭和二十三年三月十日原告庄之介が耕作権抛棄の申立をなし、被告委員会がこれを承認したことは当事者間に爭がない。

原告等は本件土地につき、原告庄之介から被告委員会宛に從來の耕作権を抛棄する旨の申立をなし、被告委員会は之を承認したが右の抛棄の意思表示は地主たる前記清之介に対してなされたものでなく、それ自体何等の効力を発生することはない、仮令之が右清之介に対し表示されたものとするも、之に対し茨城縣知事の許可があつて初めて賃貸借の解約としてその効力を生ずべきものであつて、被告委員会に於て之が承認をする何等権限のない旨主張するにつき先ず此の点について按ずるに、昭和二十三年三月十日前示原告庄之介の被告委員会に対する本件土地についての耕作権抛棄承認の申請があると即日同委員会は之に承認を與えた後、同月十八日頃地主たる訴外木名瀬清之介に右承認の通知をしたことは成立に爭のない乙第一号証の一乃至四により之を認め得るし更に前記清之介が不在地主であること及び昭和二十三年四月一日訴外木名瀬清之介同八文字せつ間に小作契約の締結があつて、被告委員会が同年四月三十日之を承認したこと、同年六月頃右せつと訴外山田秋義同八文字健三の夫々の間に耕作権の一部讓渡があつて被告委員会が同年九月二十六日之を承認したことは当事者間に爭のないところである。以上の事実を綜合すれば訴外清之介は原告庄之介の右耕作権抛棄の意思表示を被告委員会を通じて同年三月十八日以後同年四月三十日迄の間に於て之を知り得て而も毫も之に対して異議を止めなかつたことを推認するに難くなく、右認定を覆すべき何等の資料を見出し得ない。右は農地調整法第九條第三項に所謂農地に対する賃貸借の解約と解すべきものであつて此の点に関し原告等の單に白河村農地委員会に対する耕作権抛棄の承認請求のみでは抛棄その他何等の効力をも生ずるものではない旨の主張は之を排斥せざるを得ない。從つて右解約については茨城縣知事の許可を得なければその効力を生じないことは農地調整法第九條第三項により明白であつて、專ら右効力の発生如何は知事の許可如何に係るものであり、市町村農地委員会の承認とは何等の関係をも有しない。即ち右委員会は農地賃貸借の解約について之を承認する等何等の権限なきものである。從つて前示の様に昭和二十三年三月十日被告委員会のした原告庄之介の抛棄に対する承認なる行爲は無権原に属する無効の行爲と謂わなければならぬ。次に前示原告庄之介の本件土地に対する耕作権抛棄即ち賃貸借解約についてその効力発生の要件たる知事の許可あつたことを認むべき何等証拠のない本件に於ては依然原告庄之介に於て右耕作権を保有しているに拘わらず、前示認定の様に被告委員会が轍く地主たる訴外清之介及び同八文字せつ並右せつ及び訴外山田秋義同八文字健三の各人に対する昭和二十三年四月三十日附耕作権設定及び同年九月二十六日附耕作権移動の各承認をした行爲は農地調整法第四條の農地耕作権の設定又はその移動に関し市町村農地委員会の承認による効力発生要件を規定したる趣旨に鑑み右規定に違反する承認であつて正に取消されなければならない。然れば爾余の爭点について審究する迄もなく既に以上の説明によつて被告委員会の本件行政処分行爲は何れも失当であると謂わなければならない。

而して原告等が原告等主張の様に昭和二十三年七月中水戸地方裁判所に於て同裁判所昭和二十三年(セ)第八七号耕作権確認小作調停事件に於て原告清の所有土地と原告庄之介の本件土地買收請求権との所謂交換合意の調停成立したことは成立に爭のない甲第一号証同第二号証の一に徴して明かであるから、本件土地に対する被告委員会の処分行爲による権利の消長について原告等は直接自己の権利義務に影響を及ぼす利害関係を有するから被告委員会に対しその処分の無効確認又は取消を求める利益ありと謂わなければならない。然し前示認定の様に昭和二十三年四月三十日被告委員会のした本件土地耕作権の設定承認行爲の瑕疵ありとして取消を求めるのは格別、その無効の確認を求めることは失当であるから爾余の点につき判断を省略し、原告等の本件請求中右無効確認を求める部分を除き、之を正当として認容し、右無効確認の請求は失当として之を棄却すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二條、第九十三條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 重友芳夫 川村義比古 池羽正明)

(目録省略)

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