水戸地方裁判所 昭和24年(レ)4号 判決
控訴人両名代理人は原判決中被控訴人勝訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求め、附帶控訴として「原判決の主文第二項の請求が容れられない場合には予備的に原判決中被控訴人の占有保持並に占有回收に関する各請求を棄却した部分を取消し」、「控訴人両名は被控訴人に対し控訴人等の占有に係る茨城縣行方郡玉造町字佃乙一一八五番の一宅地八十五坪の土地内に於ける木造建築の建設を停止し、且右土地に立入その他被控訴人の右土地使用を妨害する一切の行爲をしてはならない、訴訟費用は第一、二審共控訴人等の連帶負担とする」旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は次の点を除き原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。その相違する点としては被控訴人に於て控訴審に於ては第一次に被控訴人の本件土地に対する賃借権に基き、地主宮本庸造の所有権に基く明渡請求を代位して主張し、予備的に第二次に占有回收の訴により本件土地の明渡返還を求め、尚第三次に予備的に占有保持の訴により妨害の停止を求めるものであると述べた。
<立証省略>
三、理 由
先づ、被控訴人の訴の変更の許否について判断する。記録を調査するに、被控訴代理人は原審に於て、昭和二十二年八月二十二日の口頭弁論期日に訴状に基いて請求の趣旨及び請求原因を陳述したが、訴状によれば請求の趣旨として「被告等は原告に対し原告の占有に係る茨城縣行方郡玉造町字佃乙一一八五番の一宅地八十五坪内に於ける木造建物の建設を停止し、且つ右不動産に立入り、其の他原告の土地使用を妨害する一切の行爲を爲すべからず」とあり、その請求の原因として右土地は原告の占有使用するものであるところ、昭和二十一年三月中より被告等は占有を侵害したから、右請求の趣旨の如く妨害の停止を求めるとの旨を記載してある、これより見れば正に訴状の標題として掲げられている通り占有保持の訴(民法第一九八條)であることは明である。然るに昭和二十四年二月四日の原審口頭弁論期日に於て、被控訴代理人は同日附書面に基いて請求の趣旨及び原因を訂正し、前記の請求の趣旨が容れられないときは「被告等は原告に対し前記の土地を明渡し原告に返還すべし」との請求を加え、その原因として、訴状の請求趣旨及び原因が第一次のものであるが、若し本件土地を控訴人等に奪われたと認定される事実があるならば予備的に次の請求をする。即ち(一)被控訴人は正当の理由なく占有を奪われたものであるから民法第二〇〇條による占有回收の訴を以て土地の返還を求める、(二)若しこの請求が容れられないときは被控訴人は本件土地を所有者宮本庸造から賃借中のものであるから、その賃借権に基き控訴人等に土地の明渡を求める、(三)若しこの請求も容れられないときは右賃貸借関係の賃借権者として債務者宮本庸造に代位し、同人の所有権に基く返還請求権を行使して控訴人等に明渡を求めるものであると謂うにある。
控訴人等の訴訟代理人は被控訴人の右訴の変更に対して異議を述べた。
按ずるに、占有の訴は本権の訴とは全く訴訟物を異にする特殊の訴として認められ、本権に関する爭はこれを措き、占有のみにつき迅速な解決をはかり、一應法的秩序を維持せんとする制度である。從つて占有の訴は本権に関する理由に基いて裁判することを得ないものとせられている。されば占有の訴と本権の訴とは全く請求の基礎を異にするものと判断すべきであるから、被控訴人が最初に提起した占有保持の訴に予備的に占有回收の訴を附加することは請求の基礎に変更なきものと認められるが、賃借権に基く前記(二)の請求及び所有権の代位行使による前記(三)の請求は請求の基礎を変更するものと認められるから、これを許すべきでない。
從つて右(三)の請求の変更を許して所有権の代位行使に基く被控訴人の請求を認容した原判決主文第二項は不当であるから、これを取消す。
右の如くであるから、当審に於ては占有保持及び占有回收の訴の部分についての不服申立に限り判断するを以て足る訳である。
本件地上に訴外萩原城之助が大正六年以降家屋を所有して居住し、同人死亡後はその遺族が居住していたこと、右の家屋が昭和二十年五月五日倒壞したことは当事者間に爭がない、右城之助の死亡したのは昭和六年十一月二十四日であることは成立に爭ない甲第九号証で明であり、昭和八年頃迄は城之助の遺族が居住したことは当審証人柏木薫の証言で認められる。右城之助の遺族が右家屋から立退く際に被控訴人に対し、右家屋の使用を許したとの被控訴人の主張については当審証人栗股代志及び被控訴本人が原審及び当審に於てこれに副う供述をしているが、当審証人柏木薫の証言に照らし、これ等の供述は信用し難い。当審証人海老原幸吉、宮崎松之助、長峰惣衛門の証言を綜合するに、右家屋は萩原の遺族が立退いた後、住む者もなく、被控訴人が時には、これに薪や稻束を入れたこともあり、海老原幸吉が箒草を置いたこともあり、近所の者が空箱を置いたこともあつたが継続して利用する者もなく、空家のまゝ放置せられたので、次第に朽廃し、遂に倒壞して道路の通行に支障を來すに至つたが、管理する者もないので近隣の者が協力してこれを取片附け、その後は空地となつていたので被控訴人はその一隅に薪を置いたり、收穫時期には地上に藁などを乾すこともあつた事実が認められる。然しながら被控訴人は本件土地を以上認定する如き程度にしか使用していないし、且つ被控訴人提出援用にかゝる証拠を見るも被控訴人が本件土地にこれ以上の事実上の支配をしていることを認めるに足るものがない以上、認定の如き事実関係では未だ被控訴人が本件土地を占有していたものとは認め難い。然らば被控訴人の本件土地に対する占有を妨害せられたとか、これを奪われたとか、主張する本訴はこれ以上調べる必要はなく、既に請求の失当であることは明である。被控訴人の占有保持並に占有回收に関する各請求を棄却した原判決の部分は正当であるから、これに対する本件附帶控訴は理由なしとして棄却すべきものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第三八六條、第八九條を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 角村克己 川村義比古 池羽正明)