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水戸地方裁判所 昭和24年(行)56号 判決

原告 豊崎松之輔

被告 茨城県農業委員会

一、主  文

茨城県農地委員会が昭和二十三年十二月二十七日別紙目録記載の土地につきなした原告の訴願を棄却する旨の裁決を取り消す。

訴訟費用はこれを二分しその一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

二、事  実

第一、当事者の申立

原告控訴代理人は、主文第一項同旨並びに「訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求めた。

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求めた。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  訴外茨城県東茨城郡堅倉村農地委員会は、昭和二十三年十月二日原告所有の別紙目録記載の第一の土地については訴外海老原国一の請求にもとずき、同じく第二の土地については訴外鈴木誠一の請求にもとずき、いずれも自作農創設特別措置法(以下単に自創法と称する)第十五条により買収期日を同年十二月二日と定めて買収計画を樹立し縦覧期間を同年十月二日以降十二日までと定めて公告をした。

原告は同年十月十一日同委員会に異議を申し立てたが同月二十八日却下されたので、同年十一月十日更に被告の前身である茨城県農地委員会に訴願をしたところ同委員会は同年十二月二十七日右訴願を棄却する旨の裁決をし、同裁決書謄本は昭和二十四年五月二十七日原告に送付された。

(二)  右の買収計画は次の点において違法であり該計画を適法として維持し原告のした前記訴願を棄却した裁決もまた違法である。即ち

(1)(イ) この買収計画においては買収の対価として、時価を参酌することなく不当に低廉な金額を定めており、憲法第二十九条第三項に規定する「正当な補償」には該らず結局正当な補償を伴わずに買収せんとするものであるばかりでなくそもそも所謂農地改革は公共の福祉のためでなく、主として小作人又は耕作農民のためにのみ地主大衆の犠牲においてなされたものであるから、前記買収計画決定も公共のためになされたものと見ることはできない。このように右の買収計画は憲法第二十九条に違反し無効たるを免れない。

(ロ) この買収計画を決定した当時における前記村農地委員会の委員は憲法第十五条第三項に定める「成年者による普通選挙」によつて選任されたものではなく、当時の地主・小作人等の階級による選挙によつたものであり従つて委員としての資格を欠くものである。このような委員によつて構成された委員会のした買収計画決定は違法である。

(2) 別紙目録記載の第一の土地について

(イ) 茨城県東茨城郡堅倉村大字張星字出崎一二三番の土地は台帳上は一反六畝四歩の山林であり前記村農地委員会はそのうちの一部三〇〇坪について買収計画を樹てたものであるが、買収計画において右一筆のうちの如何なる部分を買収するのかその対象を特定していないから内容不明確な行政処分として違法である。

(ロ) しかも村農地委員会が買収計画に組み入れたと主張する地域のうち、計画決定当時現況宅地の部分は約三分の一にすぎず、その余の地域は農地又は竹林の現況である。

このような土地を一括して現況宅地として樹立した買収計画は全体として違法たるを免れない。

(ハ) 買収申請人たる海老原国一は専ら屋根葺業並びに漁業に従事しており農業は同人の妻が従事しているのであるから海老原のした買収申請は不適法である。

(3) 別紙目録記載の第二の土地について

この土地は茨城県東茨城郡堅倉村大字張星字笄崎一五九一番畑二反五畝二十二歩のうち現況宅地をなしている約三〇〇坪の地域の一隅に別個の土地として存するもののようであるがその地域は明瞭でない。村農地委員会もその地域が現地において何処に該るかを精確に調査することなく前記三〇〇坪の土地とともに買収計画を樹立したのである。ところが右買収計画に組み入れられた三〇〇坪の範囲は前記一五九一番の畑の一部であり、一筆の土地の一部買収ということになるのであるが、右計画においては、この範囲を特定すべき方法が講ぜられていないからこの買収計画は内容不明確な行政処分として無効たるを免れない。ところで、別紙目録記載の第二の土地につき買収を申請した訴外鈴木誠一が従来居宅等を建築してその敷地等として使用してきた宅地は前記一五九一番の一部約三〇〇坪と別紙目録記載第二の土地二十三坪であるところ、この三〇〇坪に関する買収計画が無効であることは前記のとおりであるから結局鈴木誠一に売り渡さるべき宅地は二十三坪だけということになる。このように自作農たるべきものが従前使用してきた宅地のうち十分の一にも満たない部分だけについて所有権を帰属せしめる必要はないのであるから結局右二十三坪に関する鈴木の買収申請は相当性を欠き、同地に関する買収計画は違法たるを免れない。

よつて前記裁決の取消を求める。

二、答弁

(一)  原告主張の(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、

(1)の点については、原告主張の法律上の見解はこれを争う。原告主張の買収計画はその主張する憲法の規定に違反するものではない。

(2)(イ)の点については別紙目録記載の第一の土地は原告主張のように一筆の土地の一部であることは認める。

同(ロ)の点については、買収計画に組み入れられた三〇〇坪のうちには竹木が生立している部分等もあるが、全体としては尚宅地たるを失うものではない。

同(ハ)の事実は否認する。海老原は農業を本業とするものである。

(3)の点については、別紙目録記載の第二の土地が原告主張の一五九一番の畑のうち現況宅地となつている約三〇〇坪の一隅に存在すること、右一五九一番の土地は訴外豊崎薰の所有であつたが、訴外堅倉村農地委員会が右の三〇〇坪の宅地について、前記目録記載の第二の土地とともに買収計画を樹立したこと、同計画に組み入れられた三〇〇坪の地域は前記一五九一番の土地の一部であつていわゆる一筆の土地の一部買収であるが、買収計画において右三〇〇坪の範囲を特定すべき方法が講ぜられていないことは認めるが、原告の法律上の見解は争う。

以上要するに原告主張の買収計画には何等違法の点はなく、訴願に対する裁決も適法であるからこれが取消を求める原告の本訴請求は失当である。

第三、立証<省略>

三、理  由

訴外堅倉村農地委員会が別紙目録記載の第一の土地については訴外海老原国一の申請にもとずき、又同目録記載の第二の土地については訴外鈴木誠一の申請にもとずき昭和二十三年十月二日自創法第十五条により原告所有にかかる右の各土地について買収計画を樹立したこと、これに対し原告は右委員会に異議の申立をしたところ異議却下の決定があり、更に原告は被告の前身である茨城県農地委員会に訴願をしたところ同委員会は同年十二月二十七日訴願棄却の裁決をし同裁決書謄本が昭和二十四年五月二十七日原告に送付されたことは当事者間に争がない。そこで右の買収計画に原告の主張するような違法が存するかどうかについて判断する。

(一)(イ)  先ず原告は右買収計画に定められた買収の対価は自創法第十五条第四項により時価を参酌して定められたものではない点において違法であり、右買収計画は全体として違法たるを免れないと主張する。おもうに買収の対価は買収計画において定められることを要し、買収計画の要素をなしているのであるからこの点のみから考えれば、例えば宅地の買収において買収の対価が時価と著しくかけはなれ到底時価を参酌した形跡が認められない以上、この買収計画はその内容が自創法第十五条第三・第四項第六条第二項に違背した点において違法たるを免れないもののようにも思われる。しかし自創法第十五条第二項第十四条が宅地等の被買収者に対し買収処分後において同処分と切りはなして対価増額の訴により損失補償を求める機会を与えている点をも合わせて考えて見ると被買収者において、宅地買収計画に定められた買収の対価が、自創法に定める基準(同法第十五条第四項)に依拠した形跡が認められないとか、金額の算定に誤がある(自創法施行令第十一条第一項昭和二十二年農林省告示第七十一号参照)ということを理由として右の対価に不服ある場合はその是正は専ら同法第十四条の訴にゆだね、単に対価の点だけに関する違法のために買収計画を全面的に取り消し又は変更して二重の手続を繰り返すというようなことによつて自創法本来の目的の円滑な遂行を阻害することのないことを期したものと考えるのが相当である。従つて前記買収計画に定められた買収の対価が仮に原告の主張するように時価を参酌して決定されたものでないとしてもこれがために右計画自体の違法を招来することはないものといわなければならない。

(ロ)  次に原告は所謂農地改革は公共の福祉のためではなく主として小作人又は耕作農民のためにのみなされるものであり憲法第二十九条に違反するものであつて前記買収計画も違法たるを免れないと主張するが、自創法による農地改革は同法第一条にこの法律の目的として掲げられたところによつて明らかなように、耕作者の地位を安定しその労働の成果を公正に享受させるため自作農を急速且つ広汎に創設し又土地の農業上の利用を増進しもつて農業生産力の発展と農村における民主的傾向の促進を図るという公共の福祉の為の必要にもとずいたものであつて、原告の主張するように小作人その他の耕作農民の利益を目的とするものではない。もつとも農地改革によつて現実に利益を享受すべき者は主として耕作農民であることは論ずるまでもないことであるが、これらの者が具体的な売渡手続によつてうける利益はいわば前記の公共の目的遂行の反射的利益にすぎないものと考えられる。されば自創法は憲法第二十九条に違反するものではない。

(ハ)  原告は又前記買収計画を決定した堅倉村農地委員会の委員は憲法第十五条第三項に定める「成年者による普通選挙」によつて選任されたものでないから委員としての資格を欠く旨主張するが、同条項は国又は地方公共団体内における一般の国民全部に関係するのでなく、特に農業に従事する者農地所有者等の限定された範囲内の者のみに関係あるに過ぎない農地委員の選挙には適用なきものと解すべきである。故に旧農地調整法の農地委員会委員の選挙権に関する規定は憲法第十五条第三項に違反するものではなく、これと反対の見解を前提とする原告の主張は採用の限りでない。

(二)  別紙目録記載の第一の土地について

別紙目録記載の第一の土地三〇〇坪が字出崎一二三番台帳上地目山林一反六畝四歩の一部であることは当事者間に争がなく、買収計画樹立に当り、右買収計画に組み入れた土地の地域を明確にしたことについては、これを認めるに足る証拠はないのであつて、結局右計画はその内容が不明確なものというべく、この点において既に違法であるといわねばならぬ。又右三〇〇坪の範囲については、第二回検証期日において原、被告双方の陳述が一致するところであり、この事実と検証(第二回)の結果を綜合すると、現地において右の三〇〇坪に該当すると被告の主張する地域のうち、南側に突出した略々矩形を呈する五〇坪以上の区域は現況雑木林であり、同地はその西側は竹藪に、その南側は雑木林にそれぞれ隣接しており、その境界線には何ら目標となるものが存在しないこと、又北側に突出した矩形状の地域はその大部分を占める四畝歩以上の部分が現況畑となつており、その東側の細長い部分は草原であるが、この地域は三方を松、檜林及び畑にかこまれていること、が認められ、これらの事実と前記証拠によつて認められる同地上に存する訴外海老原国一方居宅と前記の現況畑や雑木林となつている部分との関係位置、距離等を考え合わせるとこれらの部分は、宅地の一部と見るわけにはいかない。従つて別紙目録記載の第一の土地に関する前記買収計画は、宅地でない部分をも宅地と誤認して計画を樹立した点において一部違法たるを免れない。ところが本来宅地たる部分を特定するに足りる資料は存しないのであるから、右計画は全体として違法とせざるを得ない。

(三)  別紙目録記載の第二の土地について

訴外堅倉村農地委員会が昭和二十三年十月二日別紙目録記載の第二の一五九一番の四宅地二十三坪とともに訴外豊崎薫所有の茨城県東茨城郡堅倉村大字張星字笄崎一五九一番畑二反五畝二十二歩のうち現況宅地の約三〇〇坪の地域について宅地三〇〇坪として買収計画を樹立したこと、右の三〇〇坪に関する買収計画は、買収の対象が右一五九一番の一筆の土地のうちの一部分であるが、この一部である三〇〇坪の範囲については同計画上これを特定すべき方法が講ぜられていない点については当事者間に争がない。そうすると右の計画は無効たるを免れないものといわなければならない。ところが、前記現況宅地となつている約三〇〇坪の地域については、前記計画が樹立せられた以外には曽て買収手続が進められた形跡はなく、将来農地法にもとずいて買収・売渡の手続がなされる関係に在るという点についてはこれを認めるに足る何等の資料も存しない(即ち農地法第十四条によるいわゆる附帯施設の買収手続は農地買収と一括して同時になされることを要するが、鈴木誠一方において将来農地法により解放を受くべき小作地を耕作しているという事実関係についてはこれを肯認するに充分な資料は見出し得ないのである)。他方成立に争のない乙第二号証証人鈴木誠一の証言、原告本人尋問の結果(一部)並びに第一回検証の結果を綜合すると、一五九一番の四の宅地は一五九一番の土地の一部である前記現況宅地となつている約三〇〇坪の地域の南西部県道沿いの箇所に位置するもののようであり、右三〇〇坪の地域とともに一団となつているが、この両地域の買収申請人である訴外鈴木誠一の父である訴外子之吉は、同人の養父虎次郎の後を承けて引き続き原告からこれを宅地として賃借し、右約三〇〇坪の地域に居宅その他附属建物を所有し右の一団をなす各地域を全体としてその敷地として農業経営の用に供してきたこと、一五九一番の四の土地は、鈴木虎次郎方において使用してきた右宅地全体の十分の一にも足らない僅少の面積しかないことが認められ(右認定に牴触する前記原告本人の供述部分は信用しない)、以上の事実を斟酌すると、鈴木方の居宅の存する前記約三〇〇坪の現況宅地の部分とともに一五九一番の四の土地について買収手続をすゝめるのならば格別、前者はそのままにしておいて後者だけを買収することが果して相当であるかどうかは問題である。およそ耕作者がその農業経営の用に供してきた賃借物件の所有権を同人に帰属せしめることは耕作者の地位の安定に貢献すべきことは論ずるまでもないことであるが、他方いわゆる附帯施設の買収がその反面において施設所有者の犠牲を強いる点を考慮に入れ自創法全体の目的から考えれば、附帯施設の買収が許容されるためには、これによつて当該耕作者の地位の安定に資する度合にも自ら一定の基準があり、この基準に達しない場合にはその買収は相当性を欠き違法たるを免れないものと考える。かゝる観点に立ち、本件一五九一番の四の宅地に関する前記諸般の事情を考慮すると、鈴木誠一方において農業経営のため使用している土地の大部分については買収計画が無効であるにかかわらず、その僅少の一部分にすぎない右二十三坪の宅地の所有権を鈴木方に帰属せしめたからといつて、同人方の営農上の地位の安定をはかる上にさして貢献するものとも考えられず、ひつきよう同地に関する前掲買収計画は相当性を欠き違法たるを免れないものといわなければならない。又前記各証拠によれば、右二十三坪は鈴木誠一方において宅地として使用している地域の南西部県道沿いの箇所にあるらしいことは推測せらるれけれども、隣地との境界の目標となるべきものは何もなく、原告、鈴木誠一、村農地委員会係員もいずれもどこからどこまでが右二十三坪の範囲であるかを正確に指摘し得ない事情にあり、且つこれを特定するにつき的確なよりどころも存しないことがうかがわれる。しかし、かくては村農地委員会は現地においてどの地域を買収するかが不明確のまま買収計画を樹立したことになり、この点においても違法の計画というべきである。

以上要するに別紙目録記載の第一・第二の土地について樹立された前掲の買収計画は全部違法であるから同計画を全部維持すべきものとし原告の訴願を全面的に排斥した前記茨城県農地委員会のなした裁決は違法たるを免れない。よつて同裁決の取消を求める原告の本訴請求は全部正当として認容すべきものとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 多田貞治 中久喜俊世 石崎政男)

(目録省略)

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