大判例

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水戸地方裁判所 昭和25年(行)11号 判決

原告 池延経雄

被告 下妻町公安委員会

一、主  文

被告が昭和二十五年三月二十八日原告に対し下妻町警察長兼下妻町警察署長を罷免する旨の処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人等は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、被告は昭和二十五年三月二十八日原告に対し警察法第四十七條、第四十八條下妻町警察條例第十四條、第十條により下妻町警察長兼同町署長を罷免する旨の処分をなした。しかしながらこの処分は次の様な違法の点のある処分である。すなわち、

第一、右処分は下妻町公安委員長櫻井幸造の名をもつて発令されているけれども、当時の下妻町公安委員会は右櫻井の外野口利一、橋詰不二の三名の委員をもつて構成せられていたのにかかわらず、右の処分については野口、橋詰の両委員とも全く関與せず、もつとも昭和二十五年五月二十七日下妻町議会は昭和二十三年警察法施行当時の所謂一年委員であつた右橋詰不二に対してこれを再任せざる旨の決議をなし、下妻町長は同日櫻井幸造及び小林新一郎の両名を公安委員に任命したところ当時の公安委員の二年委員沼尻文治が同年三月七日まで任期があつたので同月七日に至り、その後任者として改めて櫻井幸造を選任する旨発令し、小林新一郎は右橋詰の後任とされたのではあるけれども、右橋詰は昭和二十四年に再任され、その任期は三年となつたのであるから橋詰を下妻町議会において再任せざる決議をし、その後任として小林を選任してもそれは無効であつて依然として橋詰は公安委員である。又同月十七日下妻町長は野口利一委員に対し下妻町議会に罷免の決議をなさしめてその発令をしたが、それは罷免に該当すべき事由がないから野口利一も依然として公安委員である。從つて右橋詰及び野口を関與せしめずしてなされた前記罷免の処分は違法である。

第二、罷免の処分は懲戒の処分であるが、懲戒による罷免は警察法第四十七條に基く下妻町警察條例第十四條に列挙せられておらないから、懲戒によつては警察長の罷免は許されないからこの点においても違法である。

第三、右懲戒処分は懲戒に値すべき事由もなくしてなされたものである。尤も(イ)就任の宣誓に違反し職務の遂行上公正を欠き(ロ)部下統卒の能力なく町警察署内の紛爭を拡大し自治警察の威信を失墜し(ハ)社会の指彈を受くるの失態を惹起したことをその理由としているが、これは全く無根の事実であるから理由とならない。下妻町役場吏員町会議員の犯罪を搜査し、これを檢察官に送致したことあるもこれは職責上当然の事であつて、毫も公正を欠くものでない。又旧部下警部補井坂栄を罷免したことあるもこれも公安委員会の承認を得たばかりでなく同人を罷免したことは却つて禍根を除いたものであるこれ又何等懲戒に値すべき事実ではない。

第四、右罷免が前記櫻井、小林及び野口の後任として選任せられたものの三名によつてなされたとすれば元來自治体警察長の任命罷免等の処分は自治体住民の信託に基き公安委員会がこれをなすべきものであるのに、委員櫻井幸造及び前記小林新一郎を選任した当時の町議会は、その頃解散を請求せられ当時これに対し下妻町有権者の約八割が賛成投票を行つていたもので、右町議会は全く町民の信頼を失つていたものと謂うべきで、かかる町会によつて選任せられた公安委員は又町民の信託がなかつたもので、かかる公安委員の構成する公安委員会が警察長を罷免するということは町民の意思を無視するものであつて決して権利の正当な行使とはいい難く、権利の濫用であつて違法である。以上いずれの理由からするも右の罷免は違法であるから取消を求むる爲本訴に及ぶと述べた。(立証省略)

被告代表者は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として被告が原告主張の日に原告に対しその主張の如く懲戒罷免の処分をしたこと、警察法施行当時の下妻町公安委員の氏名及びその任期並びにその後櫻井、小林の両委員の選任されたこと及びその経過については原告主張の通りであることは認むるけれども、その余は否認する。右懲戒の処分は決して違法ではない。即ち橋詰不二公安委員は昭和二十五年二月二十七日再任せられないこととなり、その後任として小林新一郎か、又後記(7)の理由により適法に罷免された野口利一公安委員(同委員は自らその罷免を理由ありと認めていたものでその頃下妻町警察署の送致せる刑事事件の被告人の弁護人となつている)の後任として吉川和市がいずれも適法に選任され、櫻井幸造及び右両名の構成する下妻町公安委員会が決議して原告に対し罷免の処分をしたもので違法ではない。又原告は下妻町警察條例第十四條第一号乃至第三号に該当する所爲があつたから被告は同條例第十五條により懲戒委員会を設けこれに諮つて決議したもので何等違法ではない。その右條例に該当する事由を摘示すれば(1)定員十三名警察職員を擅に十四名になしもつて條例に背く行爲をしたこと(2)統制経済違反事件の被疑者として取調中の高山謙次の主宰する魚市場組合の総会に出席して酒食の饗應を受け、更にその帰途右高山の不在中その居宅に立寄り酒食の饗應を受けたことあるが、これは警察長並びに警察署長たるの地位を忘れたものであり(3)又町一般財政監査に当り言を左右にして定期監査を拒否し、爲に監査委員より莫大な町予算の消費を告訴されたること(4)町政紊乱を企図する革新同盟なるものに資金を與え又は特定業者である議員と結托して反対議員を理由なく檢挙した。かくの如きは下妻町民の奉仕者たるにふさわしくない所爲である(5)権限を乱用して管外に巡査を出張せしめて不法の出張旅費を支出せしめ、なお倉金熊次郎弁護士の事件委任先を搜査するに僞計を用いて爲に告訴されたこと(6)更に前記の如く櫻井幸造が委員となるやこれを失脚せしめんが爲他と共謀して殊更管外の事件を下妻町署に告訴せしめ、右革新同盟をしてトラツクを町内に走らせ車上より右櫻井の惡宣傳をなさしめたること(7)園部好行町議員より主食取締の寛大にすべきことを依頼せられ、その謝礼として酒一升及び金三千円の提供を受けたこと(8)野口公安委員が下妻町に家庭裁判所廳舍が建設される際その建設委員の一人となるやその会同招宴に右野口に同行してこれに與りながら共に謀つて該建設に不正ある如く各方面に亘り怪しき搜査をなしたこと等であると、述べた。(立証省略)

三、理  由

被告が昭和二十五年三月二十八日原告に対し原告主張の法條に依り下妻町警察長兼同町署長を罷免するとの処分をなしたことは当事者間に爭いない。よつて右処分が原告主張の如く違法であるかどうかについて審按する。原告は違法である理由として第一点、まづ右罷免当時の公安委員会は野口利一、橋詰不二、櫻井幸造の三名をもつて構成せられているのに、右罷免処分の決議には野口及び橋詰が関與しなかつたのであるから違法であると主張する。被告は右決議の際には適法に選任せられた櫻井幸造、小林新一郎、吉川和市の三名の委員が関與し不適法でないと主張するのでこの点から判断するに、そもそも昭和二十三年三月七日警察法施行当時下妻町公安委員会は所謂三年委員として野口利一、二年委員として沼尻文治、一年委員として橋詰不二がそれぞれ選任せられて構成していたところ橋詰委員はその任期満了後も引続き公安委員としてその職務を執行していたこと及び昭和二十五年三月七日沼尻文治の後任として櫻井幸造が発令せられたのであること、当時者間に爭いないのであるから他に特段の事情なき限り昭和二十五年三月二十八日当時も下妻町公安委員会は原告主張の通り右櫻井、橋詰、野口の三名をもつて構成せられて運営されねばならないものと推断出來る。尤も昭和二十五年二月二十七日に至つて右橋詰不二に対し下妻町議会がこれを再任せざる旨の決議をなし、下妻町長は同日櫻井幸造及び小林新一郎の両名を任命したところが、前記沼尻文治の任期は同年三月六日までであつたので同年三月七日その任期満了するやその後任として改めて下妻町長より櫻井幸造を選任する旨の発令のあつたこと、又同月十七日下妻町長は同町議会の決議に基き野口利一委員に対し罷免の発令をしたことは当事者間に爭いなく成立に爭いない乙第一号証の四によれば下妻町議会の議決に基き下妻町長が昭和二十五年四月十八日附をもつて野口利一の後任として吉川和市を選任したことを認めることが出來るけれども、被告は橋詰不二がその任期満了せる昭和二十四年当時再任せられなかつたことについては何等の主張立証をなさず、又任期満了後一年を経過した昭和二十五年二月二十七日に至り、再任せざる旨の決議あつたとの事実のみによつて他に特段の主張立証ない限り遡つて昭和二十四年当時再任せられなかつたものと認めることは到底出來ない。他に前記推断を覆すに足る何等の証拠もない。然らば右橋詰の後任として小林新一郎を選任した処分は無効というの外なく、しかして原告に対する前記罷免処分をなすに当り橋詰を関與せしめなかつたこと被告も爭はないところであるから、野口利一委員の罷免の有効無効及びその他の原告主張する違法の理由についても早や判断を加える要なく既にこの点において本件処分が違法であり取消を免れざるものであるからこれが取消を求むる原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 滝沢正 鈴木盛一郎 綿引末男)

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