水戸地方裁判所 昭和25年(行)15号 判決
原告 今井幸一郎
被告 佐賀村農地委員会
一、主 文
本訴中異議申立却下決定の取消を求むる部分につき訴を却下し売渡計画の無効確認を求むる部分につきその請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は被告が昭和二十三年七月二日別紙目録記載の土地につきなした売渡計画は無効であることを確認する。被告が原告の昭和二十四年十一月十二日附異議申立に対し同月二十二日なした却下決定を取消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求原因として別紙目録記載の土地はもと訴外加固五百之助の所有で原告先代が賃借耕作し原告の代になつても引続き賃借耕作して来たものであつたところ右五百之助は昭和二十二年頃これを財産税として所謂物納をなし国の所有となつた。そこで被告は昭和二十三年七月二日右土地につき自作農創設特別措置法(以下単に法という)第十六条第一項に基き訴外日向寺隆に売渡す旨の売渡計画を樹立した。しかしながら右売渡計画は次の如き違法な点があるから無効である。即ち
第一 法第十六条第一項に基き売渡のなされる土地は法第三条の規定により買収した農地を除いては同法施行令(以下単に令という)に規定する手続の履践せられた土地でなければならないところ別紙目録記載の土地は前記の如く法第三条の規定により買収せられた農地でないに拘らず令第十二条の規定する手続は履践せられていない。従つて右土地は売渡の対象とはならない。
第二 訴外日向寺隆は法第十六条第一項に基き農地の売渡を受け得べき資格を有しないにも拘らず右売渡計画は同人を売渡の相手方としている。即ち売渡計画当時において右土地を占有耕作していたものは原告であつて右日向寺ではない。同人は昭和二十四年十一月十六日暴力をもつて原告の所有を奪い耕作するに至つたものである。又同人は元来ラヂオ修理業を本職とし昭和二十二年三月十九日新治郡佐賀村大字田伏に疎開して来たもので、その家庭は同人及び妻たけの他は三人とも十才未満のものでしかも右売渡計画当時は何等耕作の業務を営まないものであつたから法第十六条第一項に所謂農業に精進する見込あるものに該当するものと謂うことは出来ない。
一方原告は昭和二十四年十月四日被告に対し右土地の買受けの申込をしたが却下されたので同年十一月十二日異議申立をしたところ同月二十二日却下された。しかし前記の如く法第十六条及び令第十七条の規定する時期において右土地につき耕作の業務を営んでいたものは訴外日向寺ではなくして原告であり、昭和二十三年二月二十二日被告は買受資格を一反歩以上耕作の業務を営むものと決議したのであつて、原告は当然買受資格を有していたのであるから前記申込を却下することは違法である。従つてこれに対する原告の異議申立を却下した決定は違法であつて取消を免れない。そこで前記売渡の計画の無効であることの確認並びに右却下決定の取消を求めるため本訴請求に及んだ次第であると陳述し、被告の本案前の抗弁事実を否認する。原告は昭和二十四年十一月二十九日茨城県農地委員会に対して訴願をしている。又被告の主張に対し原告は訴外福島とみの懇請により昭和二十一年初頃原告所有に係る新治郡佐賀村大字田伏字前野四一九番地の一及び二の畑のうち宅地並びに野菜畑として約五畝歩を賃貸したことはあるけれども訴外日向寺に賃貸したことはない。同人は右とみが同年二月一日田伏小学校の使丁に就職住み込むようになつた後、右とみの建設した家屋に疎開して来たもので同人から賃料を受領したことはない。又原告は被告主張の交換を承諾した事実はないのみならず前記畑は原告の所有地であるからこれと買収の対象となるべき前記土地との交換は法の許容するところではない。仮りにそうでないとしても農地交換分合員の詐欺又は脅迫によつて原告は右交換を承諾したものであるから違法である。従つて右交換によつて原告の地位が訴外日向寺に移転すべき謂れはないと述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は本案前の抗弁として原告の本訴請求中異議申立却下決定の取消を求める部分は原告において訴願の手続を経て居らないから不適法として却下すべきものである。次に本案に対しては原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁としてまず売渡計画の無効確認を求める部分に対しては右売渡計画は法定の期間内に何等の異議訴願なくして確定し、茨城県知事は昭和二十三年八月二日売渡通知書を発し買受人日向寺隆は指定の代金を納入し売渡処分完結した。従つて現在売渡計画は過去の事実に属し右訴は過去の事実の確認を求めるものであるから訴の利益を有しない。仮りにそうでないとしても原告の主張事実中原告主張の土地がもと、訴外加固五百之助の所有で原告が原告先代より引続き賃借耕作して来たところ、右五百之助は昭和二十二年頃これを財産税として物納の許可を得たこと(但し結局物納されたものでなかつたことは後述の通り)被告が原告主張の日に訴外日向寺隆に法第十六条第一項に基き売渡す旨の売渡計画を樹立したこと及び同人の家族に関する点は認めるけれどもその余の事実を否認する。殊に右土地は法第三条第一項により買収した農地であつて財産税の物納として国の所有となつたものではない。すなわち訴外加固五百之助は前記の如くその所有に係る右土地を財産税として納付することの許可を得たのであるけれども被告は昭和二十三年三月二十四日農林省農政局長大蔵省主税局長大蔵省国有財産局長の連名をもつて都道府県知事及び農地事務局長に対する二三農局第八〇六号通達に依り、昭和二十三年三月三十一日迄に物納した旨の登記のなかつた右土地に対して法に基き買収手続をなしたものである。従つて右土地については令第十二条の手続を履践する必要はない。又売渡計画を定める時期において右土地につき耕作の業務を営んでいたものは訴外日向寺であつて原告ではない。同人はもと川崎市において母たけ及び妻子等と共に居住していたが原告の妻は同人の母の妹なる縁故上昭和十九年中まず母及び妻子を同人の妹福島とみ等と共に原告の居村大字田伏に疎開せしめとみと共同にて原告所有の畑約一反歩を借り受け耕作し、次いでとみが小学校の使丁となり住込むに至つた為日向寺も川崎市より移つてとみの耕作し居りたる畑をも合せ妻子等と耕作することゝなつたところ原告もこれを承認し、昭和二十二年初所謂農地法実施の際にも右畑を日向寺が耕作することを認められたもので更に同村農地委員会の依嘱による土地交換分合員の斡旋により原告と同人は合意の上右畑と前記土地とを交換するに至つたものであるから訴外日向寺は令第十七条第二項により原告が従来耕作せる地位に換つたものである。従つて日向寺が所謂買収の時期において売渡を受けた農地を耕作したものと看做さるべきものである。そして又同人は農業の傍ラヂオ修理をなすものであるけれども、家族としては子供を除外するも妻と母が壮健にて農事に従事して居るから一反歩余の畑地を耕作するには余力がある。しかも励精しなければ食糧を得ることが出来ないのであるから農業に精進する見込あるものと謂つて差支ない。却下決定の取消を求むる部分に対しては昭和二十四年十一月十二日原告より被告に対して異議申立あり、これに対し同月二十二日却下決定をなしたことは認めるけれども、原告が右土地につき買受の申込をしたことはない。右土地に対する売渡処分確定後である昭和二十四年十月二日及び四日、原告より右土地の日向寺に対する売渡を訂正せられ度き旨申出あつたが、右は一種の陳情に過ぎず被告は更に審議の要なしとして却下したところこれに対して前記の如く異議の申立があつたものであると述べた。(立証省略)
三、理 由
まず売渡計画の無効確認を求むる訴について判断するに、原告がその請求原因として主張するところは別紙目録記載の土地につき被告が昭和二十三年七月二日樹立した売渡計画は次の如き違法な点があるので無効である。即ち第一点として右土地は自作農創設特別措置法(以下単に法という)第三条の規定に依つて買収せられた土地ではなく財産税として納付せられ国の所有となつたものであるに拘らず被告はいまだ自作農創設特別措置法施行令(以下単に令という)第十二条の手続の履践されないうちに法第十六条第一項に基いて売渡計画を樹てた。第二点として右売渡計画において売渡の相手方と定められた訴外日向寺隆は法第十六条、令第十七条に規定せられた売渡の相手方たるべき資格を有しないもので原告こそその資格を有するものであるというにある。しかしながら右売渡計画において原告の主張する右のような違法な点があつたとしてもこのことは右計画が取消されるべき理由となるかも知れないが、当然に無効ならしめる理由となるものと解することは出来ない。従つて右売渡計画の無効確認を求める訴は原告主張事実の有無を判断するまでもなく理由のないこと明らかであるからこれを棄却する。
次に異議申立却下決定の取消を求むる訴について判断するに、原告がその請求原因として主張するところは別紙目録記載の土地は前記の如く訴外加固五百之助が財産税として納付し国の所有となつたので原告は被告に対し昭和二十四年十月四日買受けの申込をしたところ却下されたので同年十一月十二日異議申立をしたところ却下された。しかし原告は法第十六条、令第十七条所定の売渡の相手方たるべき資格を有するから右却下決定は違法であるというにある。ところが法第四十七条の二によれば法による行政庁の処分の取消を求むる訴はその処分のあつたことを知つた日から一ケ月以内処分の日から二ケ月を経過するときは提起出来ないことが明定せられている。
そこで本件について見ると本件訴が提起せられたのは昭和二十五年五月十五日であることは訴状受附印によつて明白であり、又原告は右処分につき茨城県農地委員会に対し昭和二十四年十一月二十九日訴願したと主張しているところからみれば原告は遅くとも同日までには右処分のあつたことを了知しているものと認むべきである。しかも右訴願が提起されなかつたことは当裁判所の照会に対する茨城県農地委員会の回答によつて明かであるから、正当の事由により該訴願に対する裁決を経ずして、又は裁決後法定の出訴期間内に本訴を提起したものとも認められない。右却下決定なるものが法に所謂異議申立に対する却下として行政処分に該当することは被告の争つているところであるが、仮にそれが右行政処分に該当するものとしてみても既に本訴提起迄に出訴期間を経過していることは前記の通り明かであるから本訴中右所謂却下決定の取消を求める部分は不適法たるを免れず、よつてこの部分については訴を却下すべきものである。
よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 多田貞治 綿引末男 石崎政男)
(目録省略)