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水戸地方裁判所 昭和31年(行モ)2号 決定 1956年8月01日

申立人 菊池豊

被申立人 下館市選挙管理委員会

主文

申立人(原告)と被申立人(被告)間の当庁昭和三十一年(行)第一三号市長解職請求無効確認請求事件の判決確定に至るまで、被申立人が昭和三十一年七月二十三日附でした下館市長解職の賛否投票施行に関する告示の執行を停止する。

理由

申立人は、主文と同趣旨の決定を求め、その理由とするところは別紙のとおりである。

よつて案ずるに、申立人主張の訴訟(当庁昭和三十一年(行)第一三号市長解職請求無効確認請求事件)が当裁判所に係属しており、申立人においてその主張の署名を有効とした被申立人の決定の取消を求めていることは当裁判所に明らかなところであり、申立人主張の本件解職請求手続に関する経過事実及び解職賛否投票施行に関する告示がなされた事実は疏明資料及び本案訴訟の記録によつて認めることができる。

そして、本件解職請求に要する有権者の三分の一の数は九千四百七十四名であることは本案訴訟において明らかにされているところであるが、疏明資料によれば被申立人が有効と決定した署名一万二千八百六十二名分中、四千八百八十余名分については法定の期間内に当該署名者が直接又は使者を以て自己の署名及び印を取り消す旨の書面を請求代表者に交付し、その受領を拒否された分については書留郵便により請求代表者に送付到達せしめ、これによつて有効に署名及び印の取消をしたことが一応認められる。してみれば、右署名及び印の取消のなされた分だけによつても、有効署名が法定の三分の一を相当下廻るようになることが一応疏明されたものというべく、なお請求代表者から署名の収集を委任した委任状中委任者の印の洩れているものも数通存することは、疏明書類及び本案訴訟における被申立人側の主張を綜合し一応認められるところである。

然らば、被申立人の施行せんとしている賛否投票はその前提要件を欠き違法となるおそれが相当に存するものというべく、しかも被申立人のなした告示に基き市長解職賛否投票を施行し、投票の結果解職賛成投票が過半数を占めるにおいては、申立人は直ちに市長の職を失うに至り申立人にその主張の如く償うべからざる損害を生ずるおそれあるものというべく、右損害を避けるためには前記告示の執行を停止する必要があると認められ、その執行を停止することによつて公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれありとするに足る事情の認むべきものは存しないのである。よつて申立人の本件申立を理由あるものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 多田貞治 広瀬友信 中野武男)

(別紙省略)

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