水戸地方裁判所 昭和32年(わ)190号 判決 1958年3月29日
被告人 高橋義雄
主文
被告人を懲役一年に処する。
本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
押収の離婚届一通(昭和三十二年押第六六号の二)中の偽造部分及び委任証一通(同押号の三)はこれを没収する。
訴訟費用は全部被告人の負担とする。
理由
被告人は昭和二十四年一月二十七日塚本とよ子(昭和六年二月二日生)と婚姻をした者であるところ
第一、右妻高橋とよ子が未だ嘗て被告人との離婚に同意したことがないのに、擅に同女との離婚の届書を作成し、これを肩書本籍地の役場に提出届け出て同女を自己の戸籍より除こうと考え、
一、兄下田幸次郎、同江橋正勝、姉高崎こうと順次共謀の上、昭和二十八年三月二十八日、東京都足立区長門町一一五番地下田とみ方において、行使の目的で予め入手した正規の離婚届用紙に万年筆で擅に、夫高橋義雄と妻とよ子とは協議上の離婚をし、妻とよ子は塚本忠寿の戸籍へ復籍し、子高橋幸代の親権者は妻で昭和二十八年三月十日夫婦の同居を止めた旨等所定欄に夫々記入し、届出人「夫」欄に被告人の住所氏名を記入、押印したほか、届出人「妻」欄に住所、氏名として東京都台東区浅草千束町二丁目四番地、高橋とよ子と冒書し、その右側に「高橋」の有合わせ印を押捺した上、同月三十日茨城県東茨城郡大洗町大貫町五四七番地江橋正勝方において、右用紙証人欄に江崎正勝、高橋宗松の住所氏名を記入し、且つ押印して大貫町長宛の被告人と妻とよ子との協議による離婚届一通(昭和三十二年押第六六号の二)を偽造し
二、前記下田幸次郎と共謀の上同月二十八日前記下田とみ方において、行使の目的で有合わせの和紙に万年筆で擅に「委任証」と題し「離婚届を承知致しました、右御委せ致します」旨、及び昭和二十八年二月二十八日の日付を記載した上高橋とよ子の氏名を冒書し、その名下に「高橋」の有合わせ印を押捺して高橋とよ子作成名義の委任証一通(昭和三十二年押第六六号の三)を偽造し
三、同月三十日茨城県東茨城郡大洗町大貫町所在大洗町役場大貫支所(当時大貫町役場)において、同役場戸籍係小倉長太郎に対し右偽造にかかる離婚届及び委任証各一通を真正に成立したもののように装つて一括提出して行使し、もつて夫たる被告人と妻とよ子とが合意の上前記のような協議上の離婚をする旨の虚偽の届出をし、情を知らない右戸籍係員らをして、同日同所備付の戸籍簿原本にその旨不実の記載をさせ、即時同所にこれを備付けさせて行使し
第二、右協議上の離婚が無効で被告人には妻とよ子があるにかかわらず茨城県久慈郡世喜村大字小倉八五五番地の二金子正春次女みよ子(昭和七年三月二十日生)と重ねて婚姻をしようと考え、同年八月下旬、前記下田とみ方において被告人と右みよ子との婚姻の届書を作成して同月二十八日頃これを前記大貫町役場に郵送して提出し、情を知らない同役場戸籍係員をして戸籍簿原本に右婚姻を記載させ、もつて重ねて婚姻をし
たものである。
(証拠の標目)(略)
法律に照すと、被告人の判示所為中各私文書偽造の点は刑法第百五十九条第一項第六十条に、各同行使の点は刑法第百六十一条第一項第百五十九条第一項に、公正証書原本不実記載の点は同法第百五十七条第一項に、同行使の点は同法第百五十八条第一項第百五十七条第一項に、重婚の点は同法第百八十四条前段に該当するところ各偽造私文書の一括行使は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であり、各私文書偽造と同行使並びに公正証書原本不実記載と同行使との間には順次手段結果の関係があるので同法第五十四条第一項前段後段第十条に則り結局犯情の最も重いと認められる判示偽造離婚届の行使の罪の刑に従い、これと重婚の所為とは同法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条本文第十条に則り重い偽造離婚届の行使の罪の刑に同法第四十七条但書の制限に従い法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状刑の執行を猶予するを相当と認め同法第二十五条第一項に則り本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、押収の離婚届一通(昭和三十二年押第六六号の二)中の偽造部分及び委任証一通(同押号の三)は判示第一の各私文書偽造の行為によつて生じた物で何人の所有をも許さないものであるので同法第十九条第一項第三号第二項によりこれを没収し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人に負担させる。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 浅野豊秀)