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水戸地方裁判所 昭和34年(わ)375号 判決 1960年4月27日

被告人 塚田利

昭一三・一二・一六生 自動車助手

主文

被告人を懲役一年二月に処する

但し三年間右刑の執行を猶する

右猶予の期間中保護観察に付する

押収の飛び出しナイフ一丁(昭和三四年押第一一七号の一)は之を没収する

被告人は銃砲刀剣類等所持取締法違反の点は無罪

訴訟費用は被告人の負担とする

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一、昭和三十四年十月十七日午後十一時頃日立市助川東町二の三番地先路上において星野鶴吉(当二十三年)と些細のことから口論の末同人から頭突きされたことに憤激して所携の飛出しナイフで同人の腹部を突きさし因つて同人に対し全治迄一ヶ月を要する腹壁刺創、小腸腸間膜刺創の傷害を負わせ

第二、(一) 鈴木孝征と共謀の上昭和三十四年十月一日頃の午後十一時頃日立市助川東町地内日立鉱山電車踏切附近において高崎徹(当二十年)に対し金持つているか等と申し向けて金品を要求し手拳で同人の顔面を殴打したうえ「今から身体検査をする」等と申し向けもしこの要求に応じないときは、更にいかなる危害を加えるか計り難い勢威を示して同人を脅迫し因つて即時同所において同人よりダスターコート一枚ほかたばこ等(時価計二千五百三十円相当)の交付を受けてこれを喝取し

(二) 黒須和幸、鈴木孝征と共謀の上同月五日頃の午前零時頃同町第一映画劇場附近路上において今橋勇(当二十六年)の顔面を手拳にて殴打した上「金あるか」「もつとあつぺ」等と申し向けて金員を要求しこの要求に応じないときは更にいかなる危害を加えるか計り難い勢威を示して脅迫し因つて即時同所において同人より現金千円位及び腕時計一個(時価九千八百円相当)の交付を受けてこれを喝取し

(三) 三村支征と共謀の上同月十一日頃の午後九時頃同市助川下町常陽銀行日立支店附近路上において野田利治(当十七年)ほか後記四名に対し「金をかせ」等と申し向けて金員を要求し、もしこの要求に応じないときはいかなる危害を加えるか計り難い勢威を示して同人らを脅迫し因つて即時同所において同人より現金百円佐藤寿一(当十七年)より同百円、黒沢忠夫(当十七年)より同百円、塙哲也(当十八年)より同百円、高須岩男(当十七年)より同二百円のそれぞれ交付を受けてこれを順次喝取し

たものである。

証拠の標目(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の傷害の所為は刑法第二百四条判示第二の恐喝の各所為は刑法第二百四十九条第一項第六十条に各該当するところ右各所為の間には刑法第四十五条前段の併合罪の関係があるので傷害の刑については懲役刑を選択し刑法第四十七条第十条により犯情重き傷害の刑に法定の加重をして懲役一年二月に処し刑法第二五条第一項により三年間右刑の執行を猶予し第二十五条の二第一項前段により保護観察に付し飛び出しナイフ一丁(昭和三四年押第一一七号の一)は傷害の所為の犯行に供したもので犯人以外の所有に属しないので刑法第十九条第一項第二号第二項により没収し訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文により被告人の負担とする。

本件公訴事実中被告人は法定の除外事由がないのに昭和三十四年十月十七日午後十一時頃日立市助川東町二の三番地先路上において刃渡り六・二糎の飛出しナイフ一丁を携帯所持したとの銃砲刀剣類等所持取締法違反の点は右飛出しナイフの所持携帯の事実は之を認められるが、右飛出しナイフの刃渡は五・二糎で銃砲刀剣類等所持取締法第二条第二項所定の五・五糎をこえる刃渡に達しないので同法第三条第三十一条第一号の刀剣類に該当せず同法において取締の対象とならない刃物と謂うべきである。刃渡なる言葉は元来日本刀において使用された言葉であるので、飛出しナイフの刃渡も日本刀の刃渡に準じて計るべきであるから、飛出しナイフにおいては刃元と対象的関係になる峯の部分と切先とを直線に結び、その直線の長さをもつて刃渡となすべきである。検察官はこの長さに所謂あご下の長さを加えたものを飛出しナイフの刃渡となすべきであると主張するのであるが、之はあご下が刃と同様な危険性をもつとの理由に基くものと考えられるが、あご下は刃元附近の刃と危険性は類似しても同一でない。刺創の深さについては加害力が類似するが、切創或は切創を加味した刺創の場合は加害力に相当差異を来たすことがある。それ故危険性からしてもあご下を刃渡の一部として計算すべきでない。本件飛出しナイフは要するに刃渡五・五糎をこえる飛出しナイフ類似の刃物であるから刃渡なる方法をもつて飛出しナイフを限定し且つあい口の如く類似刃物取締の規定の設けがない。以上前段認定の如く取締の対象外と謂う外ない。以上の次第で被告人の飛出しナイフ所持の行為は罪とならないので無罪を言渡すべきである。

仍て主文の如く判決する。

(裁判官 小倉明)

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