水戸地方裁判所 昭和34年(行)13号 判決 1960年1月21日
原告 住川七之助
被告 内原村農業委員会
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者間の申立
原告は「被告農業委員会が訴外園部かねの茨城県東茨城郡内原村大字有賀字山田千八百二十一番の一の田畑の反収に関する証明願に対し、昭和三十二年十月二十九日付でなした証明行為および同訴外人の右田地のうち一反歩の耕作作業(資料および人件費)に関し昭和三十三年九月二十四日付でなした証明行為を取消す。訴訟費用は被告農業委員会の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、当事者の主張
一、原告の請求原因
(一) 被告農業委員会は訴外園部かねの茨城県東茨城郡内原村大字有賀字山田千八百二十一番の一の田地の平年反収は一石四斗なることの証明願に対し、昭和三十二年十月二十九日そのとおり相違ないことを証明したが、右証明内容は事実に反するばかりでなく、被告農業委員会には右のような事項について証明をする権原はない。
(二) 被告農業委員会は昭和三十三年九月二十四日付で右園部かねの前記田地の内一反歩の耕作作業(資材および人件費)について証明書を発行したが、右証明内容は事実に反するばかりでなく、被告農業委員会には右のような事項について証明する権原はない。
(三) よつて被告農業委員会がなした右(一)(二)の各証明行為は違法であるからこれが取消を求める。
二、被告農業委員会の答弁
(一) 原告主張の事実中被告農業委員会が原告主張のような各証明行為をなしたことは認めるがその余は否認する。
(二) 被告農業委員会は自ら知り得た事実を表現する権能を有するもので、このことは農業委員会等に関する法律第六条所定の農業委員会の処理事項についての規定以前の問題であつて行政庁又は法人としての固有の権能に外ならない。本件二通の証明書はこの権能に基き被告農業委員会の知得した事実を表白したのに過ぎないものであつて、法の規定に基くいわゆる公証ではない。したがつて行政訴訟の対象たる行政処分に属しない。
(三) 仮りに被告農業委員会が証明書を発行してなした各証明行為が行政処分であるとしても、右証明書自体何等具体的な法律関係の形成変更又は確定の効果をもたらすものではないから、右各証明行為は行政訴訟の対象たる行政処分にはならない。仮りになるとしても右各証明行為によつて原告は何等その権利を侵害される筋合ではないから、原告は抗告訴訟の原告適格を欠くのでいずれにしても原告の本訴は不適法であると述べた。
理由
本件は、被告農業委員会が訴外園部かねの証明願に対し、昭和三十二年十月二十九日付をもつて茨城県東茨城郡内原村大字有賀字山田千八百二十一番の一の田地の平年反収に関し証明書を発行してなした証明行為、および同委員会が昭和三十三年九月二十四日付をもつて右田地の一反歩の右訴外人の水田耕作作業(資材および費用)に関し証明書を発行してなした証明行為を被告農業委員会のなしたる行政処分とみなし、その取消を求めるものであること、その主張自体明瞭である。
しかしながら、被告農業委員会の右各証明行為は原告その他関係当事者の権利義務に直接の法律効果を生ずるものではないことは明らかであるから行政訴訟の対象としての行政処分たる性質を有しないものといわなければならない。
よつて原告の本件訴は争訟の対象たりえざる事項をその目的となしたるものであるから不適法としてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 和田邦康 広瀬友信 生末幸代)