水戸地方裁判所 昭和43年(ワ)83号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕一、特定遺贈の目的物について相続登記を経ている相続人らに対し、各共有持分権の所有権移転登記を訴求する行為は、遺言執行者の執行を妨げるものであり、許されない。
二、民法一〇一三条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言によつて指示されている遺言執行者が現実に存在すれば足り、必ずしも遺言執行者が就職を承諾していることを要するものではない。
〔判決理由〕一、高木茂が昭和三七年一〇月二日公正証書により同人の所有に属していた本件不動産を被告みちに贈与する旨の遺言をなしたこと、同人が同三九年四月八日死亡したため右不動産は遺贈により被告みちの所有に属するに至つたことおよび右不動産につき同年一〇月一九日遺産相続により被告みちが九分の三、その余の被告等が各九分の一の共有持分権の所有権移転登記のなされている事実は、いずれも当事者間に争いがなく、原告、訴外川崎君枝、同池田久枝のためにも右不動産につき右遺産相続を原因として各九分の二の共有持分権につき所有権移転登記手続のなされている事実は、<証拠>によつて認めることができる。
二 ところで、高木茂が昭和三九年四月八日死亡したことは、前記のとおりであり、<証拠>によると、高木茂は同三七年一〇月二日公正証書により、同人の遺産中本件不動産を被告みちに贈与する旨の遺言をなした際、他に所有していた不動産を被告千枝子に遺贈するとともに、片岡善四郎を遺言執行者に指定する旨の遺言をなしたこと、片岡善四郎は同三九年一一月二六日水戸家庭裁判所の許可を得て遺言執行者を辞任し、同年一二月四日矢口静が同家庭裁判所によつて、高木茂の遺言執行者に選任された事実を認めることができる。そうすると、遺言執行者たる矢口静は特定物たる本件不動産の遺贈を受けた被告みちに対し、完全にその目的物を引き渡すほか、本件不動産に存する前記各共有持分権(但し、被告みちの持分権を除く。)の抹消登記手続等をなしたうえ、必要な対抗要件を備えさせなければならない義務を有し、他方、高木茂の相続人たる被告においても、本件不動産につき原告主張の如き所有権移転登記手続をなす等遺言の執行を妨げる行為をなし得ないこと、多く説明を要しないところである。それならば、原告が、右遺言執行者の任務完了前被告等に対し本件不動産の前示各共有持分権の所有権移転登記手続を求め得ないことも明らかである。
三、のみならず、仮りに原告の主張するとおり、原告が被告みちから本件不動産の贈与を受けたとしても、右契約は無効と認めざるを得ない。蓋し遺言執行者は相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利と義務を有することを規定した民法第一〇一二条第一項に、遺言執行者者ある場合相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない旨を規定した同法第一〇一三条を綜合して考えると、右第一〇一三条の規定に違反してなした被告みちの右贈与は、無効と解せざるを得ないからである。もつとも、原告は、本件贈与は矢口静が遺言執行者に選任される以前になされたものであり、当時遺言によつて指定された片岡善四郎は遺言執行者に就職しなかつたとも主張するが、右第一〇一三条の規定にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言によつて指定されている等現実に遺言執行者が存すれば足り、必ずしも遺言執行者が就職することを要しないものと解するを相当とするから、原告の右主張は理由がない。(長久保武)