水戸地方裁判所 昭和49年(行ウ)4号 判決 1979年4月17日
茨城県猿島郡三和町諸川一三〇二番地
原告
株式会社三和建設
右代表者代表取締役
靏見昌芳
右訴訟代理人弁護士
久保田謙治
右訴訟復代理人弁護士
丹下昌子
茨城県古河市北町五ノ二
被告
古河税務署長
安納攸昌
被告指定代理人
菊地健治
右同
三宅康夫
右同
小林治寿
右同
内田守一
右同
大坪昇
右同
日出山武
右同
柴一成
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が、原告に対し昭和四七年六月三〇日付でした原告の昭和四四年七月一日から昭和四五年六月三〇日までの事業年度分(以下「昭和四四年事業年度分」という。)の法人税の更正処分及び重加算税賦課決定処分、昭和四五年七月一日から昭和四六年六月三〇日までの事業年度分(以下「昭和四五年事業年度分」という。)の法人税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(但し、昭和四九年五月一五日付裁決により取消された部分を除く。)を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は建築工事等を目的とする会社であるが、被告は、昭和四七年六月三〇日付をもって、原告の昭和四四年事業年度分の所得金額を金六一万六二四六円、法人税額を金一七万二四八〇円とする確定申告を、所得金額を金二九九万一一九八円、法人税額を金八七万七七〇〇円と更正し、金二一万二一〇〇円の重加算税賦課決定処分をし、原告の昭和四五年事業年度分の所得金額を金一七万六四五六円、法人税額を四万七七〇〇円とする確定申告を、所得金額を金八九三万五七七六円、法人税額を金三一一万六三〇〇円と更正し、過少申告加算税を金一万一三〇〇円、重加算税を金八五万二〇〇〇円とする各賦課決定処分をし、昭和四七年七月二日原告に通知した。
2 原告は、昭和四七年八月一八日右各処分に対し被告に異議申立をしたが、被告は昭和四七年一一月一五日各異議申立につきいずれも棄却する旨決定したので、原告は昭和四七年一二月一二日右異議申立棄却決定につき国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同人は、被告の昭和四四年事業年度分の各処分については審査請求を棄却し、被告の昭和四五年事業年度分の各処分については、所得金額を金八五〇万六五五六円、法人税額を金二九八万四二〇〇円、過少申告加算税を金一万六八〇〇円、重加算税を金七七万九四〇〇円とする原処分の一部を取消す旨の裁決をし、いずれも原告に通知した。
3 しかしながら、本件各更正決定等(但し、右裁決により一部取消後の部分を除く。)は、原告の所得金額を過大に認定した違法があるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3は争う。
三 被告の主張
1 原告に対する昭和四四・四五年各事業年度分の本件各更正処分の経緯、並びに、原告の所得金額について、原告の確定申告にかかるそれと、被告の課税処分にかかるそれ(裁決により一部取消された後のもの。以下同じ。)との差異の明細は次のとおりである。
(一) 本件課税処分の経緯は次のとおりである。
(1) 昭和四四年事業年度分
<省略>
(2) 昭和四五年事業年度分
<省略>
(二) 確定申告にかかる所得金額と更正の所得金額との差額は次のとおりである。
(1) 昭和四四年事業年度分
<省略>
(2) 昭和四五年事業年度分
<省略>
(注) 更正所得金額八、五〇六、五五六円は審査請求に対する裁決により一部取消し後の金額である。
2 被告の課税の根拠は次のとおりである。
(一) 昭和四四年事業年度分
(1) 外注費否認 二〇六万円
原告は、有限会社塩谷興業(以下「塩谷興業」という。)に対し昭和四四年一二月三〇日金三〇万円、昭和四五年三月一九日に金一三〇万円、同月二五日に金一一七万五六三八円、合計金二七七万五六三八円、外注費として支払ったとしている。しかし、右金員のうち、三〇万円のうち五万円、一三〇万円のうち一〇〇万円、一一七万五六三八円のうち、一〇一万円、合計金二〇六万円は、塩谷興業の発行した領収書に記載されている金額より領収額が過大となっており、塩谷興業の代表者阿部武は右過大金額は受領していないから、架空の外注費支払いと認め否認したものである。
(2) 仕入否認 三二万円
原告の代表者と同族関係にある鶴見映に対する貸付金と相殺経理をしている仕入の計上額、昭和四五年五月三一日一六万円、昭和四五年六月三〇日一六万円の合計額金三二万円は仕入の事実はないと認められたので否認したものである。原告は、鶴見映に対し、同人が購入したブルドーザーの残代金四八〇万円を昭和四五年二月一一日貸付け、額面一六万円の約束手形三〇通を振出し、借方貸付金(鶴見映に対するもの)貸方支払手形として経理したものである。ところが貸付金の戻りがないため、当事業年度中に決済した支払手形二通の金額三二万円に相当する架空仕入を計上したものと認められる。鶴見映は当時原告の前代表者である鶴見和市(鶴見映の実兄)に対し個人としての営業開始資金を要求していた状態であり、鶴見映に原告に対する売上があったとは認め難く、また被告の調査当時、原告方では右否認にかかる仕入についての証憑書類は何等発見されず、右仕入は架空のものといわざるをえない。
(3) 減価償却超過額の当期認容額 五〇四八円
前期から繰越した器具備品の減価償却超過額の当期認容額である。
(二) 昭和四五年事業年度分
(1) 外注費否認 二〇〇万円
(イ) 福島産業に対する支払い 一五〇万円
原告は、旭川市旭川所在福島産業代表福島一男に対し、普通預金を払出して、昭和四五年一二月二八日金五〇万円、同月三〇日一〇〇万円を支払ったと主張するが、右金額はいずれも結城信用金庫三和支店の原告名義の普通預金口座から同名義の当座預金口座に振替えられたにすぎないものであって、福島一男に支払われた事実はない。さらに原告が所持している領収書に記載されている領収者の所在地には福島産業あるいは福島一男なる者は全く存在せず、かつて存在していたと認められる事実もない。
(ロ) 大谷製材所に対する支払い 五〇万円
原告は有限会社大谷製材所(以下「大谷製材所」という。)に昭和四五年九月三〇日結城信用金庫三和支店の原告名義の当座小切手第二九一六号の五〇万円を支払ったとするが、同小切手の裏面に記載してある受領印は原告会社印であり、大谷製材所が受領したとは認められない。
(2) 仕入否認 一九二万円
前記と同様、原告が鶴見映のブルドーザー購入代金の支払いとして振出した手形のうち、当期中に原告が決済した一九二万円(額面金額一六万円のもの一二通)に相当する金額を鶴見映からの仕入代金として架空に計上したものと認められる。
(3) 雑収入もれ 一〇〇万円
原告が坂東重機開発こと阿久津脩(以下「坂東重機」という。)に対する債務として計上している未払金一〇〇万円は和解の成立により消滅したので益金に計上すべきものと認められる。原告は、坂東重機との間で昭和四一年四月頃から昭和四二年八月頃までブルドーザーによる土木工事の発注あるいはブルドーザーの賃借などの取引があったところ、その代金支払をめぐって、坂東重機から原告に対し、訴訟(水戸地方裁判所下妻支部昭和四二年(ワ)第一〇五号)が提起され、右訴訟において、坂東重機は請求金額二六四万円のうち一〇四万円を放棄し、原告は一六〇万円を支払う旨の和解が昭和四六年四月一三日成立した。原告は、右和解に従い同年五月一三日右金額を支払ったから、当事業年度末では、右債務は存在しない。
(4) 労務費否認 三二〇万三七〇〇円
原告が労務費として、損金計上したうち、明らかに水増じ計上、あるいは、架空計上したと認められるものの内訳は次表(以下「労務費一覧表」という)の差引否認額欄のとおりである。
<省略>
順号1の支払金額五〇万円は原告が普通預金口座から支払ったとしているが、被告の調査によれば、原告が所持している銀行勘定帳簿の普通預金勘定の摘要欄に当初「当座預金結城信用金庫」と記載してあったものを、「労務費大谷製材所」と改ざんした事実が認められ、また当該普通預金の払出し額五〇万円は、当座預金口座に振替えられたに過ぎない。
順号2から12までの否認額について説明するのに、原告は、労務費の計算資料としてノート二冊を所持していたが、記帳担当者(鶴見禮子)の申述べと被告の調査によるとメモ程度のもの一冊(以下「A帳」という。)とA帳をもとに精算・記録したもの(以下「B帳」という。)があり、A帳の記載内容はおおむね真実と認められるが、B帳の記載内容には 一部の労務者について、稼働日数の水増しにより架空労務費を計上していたと認められる。A帳は、いわゆる本物でB帳は税務用の表帳であると認められる。A帳をもとにB帳の記載内容を検討した結果架空計上と認められる額について右表のとおり否認したものである。
(5) 減価償却超過額否認 三九万三六〇〇円
原告が昭和四六年六月三〇日に取得したブルドーザーの当期分の減価償却費として損金に算入できる金額は金七万八七二〇円である。従って、原告が当事業年度に当該ブルドーザーの減価償却費として計上した四七万二三二〇円のうち、三九万三六〇〇円は減価償却超過となる。
(6) 未納事業税の当期認容額 一八万七二〇〇円
前事業年度の更正処分によって増加した所得に対応する事業税は、当事業年度末は未納であり次の算式によりこれを損金として認容したものである。
前事業年度所得に対する事業税
<省略>
計224.100………<1>
<1>のうち、申告所得に対する事業税
<省略>
差引認容額
<1>-<2>=187,200
3 重加算税及び過少申告加算税賦課決定処分について
原告は、外注費・仕入・労務費(労務費については、昭和四五年事業年度分のみ)について過大の経費を仮装し、その所得を隠ぺいした。従って国税通則法六八条一項により、増加法人税額のうち隠ぺいされていた部分の金額に対して一〇〇分の三〇の割合により重加算税を賦課決定したものであり、その計算は別紙一のとおりである。また過少申告加算税の計算についても別紙一のとおりである。
各事業年度ごとの原告申告額と被告更正額との差額について、重加算税の対象としたものと過少申告加算税の対象としたものの内訳は別紙二のとおりである。
四 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 被告の主張1の事実は認める。
2 同2(一)(1)の事実のうち、原告が塩谷興業に金二七七万五六三八円支払ったとしている点は認め、右金員のうち二〇六万円について架空である事実は否認する。被告は、右外注費の支払いのため借用した金二〇〇万円についても架空計上と認定するが、右貸借は真実存在したものであり、原告は貸主に対し借用証を差入れている。
同2(一)(2)の事実のうち、原告が鶴見映に対する仕入債務三二万円を、同人に対する貸付金と相殺経理をしている点は認め、その余の事実は否認する。
同2(二)(1)(イ)の事実のうち、原告が福島産業に対し昭和四五年一二月二八日金五〇万円、同月三〇日に金一〇〇万円を外注費として支払った旨計上している点は認め、その余の事実は否認する。被告は、右外注費支払いのため借入金一五〇万円についても架空計上と認定しているが、原告は、昭和四五年一二月二八日諏訪大勝より金五〇万円、同月三〇日石川小弥太より金一〇〇万円を現実に借入れたものであり、右借入先に借用証を差入れている。
同2(二)(1)(ロ)の事実のうち、原告が大谷製材所に昭和四五年九月三〇日金五〇万円を支払ったとする点は認め、その余の事実は否認する。
同2(二)(2)の事実のうち、原告が鶴見映に対する仕入債務金一九二万円について、同人に対する貸金債権と相殺経理をしたことは認め、その余の事実は否認する。原告は、鶴見映から購入した材料の代金債務金一九二万円を現実に負担し、これを右映に対する原告の貸金債権でもって相殺したものである。
同2(二)(3)の事実のうち、原告が坂東重機に対する債務一〇〇万円を未払金として計上していることは認めるが、これは坂東重機から重機をチャーターした代金債務であり現実に存在したものである。
同2(二)(4)の事実のうち、原告が被告主張の労務一覧表に記載した支払年月日、支払先、計上額欄のとおり労務費として損金計上したことは認め、その余の事実は否認する。原告は大谷製材所に対する支払分について領収証を保管しているし、右労務費の支払いのために昭和四五年一〇月一四日竹井直一より金五〇万円、昭和四六年二月五日染野武士より金一五〇万四二〇〇円、染野しげより金三五万円、同月二六日鶴見和市より金四〇万円を現実に借入れたものである。
同2(二)(5)の事実のうち、当期分の減価償却費として損金に算入できる金額が七万八七二〇円であることは認める。
3 同3の事実は否認する。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第六号証
2 証人鶴見和市、同鶴見禮子、原告代表者本人
3 乙第一ないし第三号証の各一、二、第七号証、第八号証、第一三号証、第四一号証、第四九号証の一、二、第五〇号証、第五二号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立はいずれも認める(第四号証、第五号証の一、二、第六号証の一、二、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一二号証、第一四ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七ないし第四〇号証、第四二ないし第四四号証、第四五号証の二、第五一号証、第五三ないし第五五号証については原本の存在共)。
二 被告
1 乙第一ないし第三号証の各一、二、第四号証(写)第五号証の一、二(写)、第六号証の一、二(写)、第七、第八号証、第九号証(写)、第一〇号証の一、二(写)、第一一ないし第二五号証(第一三号証を除きいずれも写)、第二六号証の一、二(写)、第二七ないし第四四号証(第四一号証を除きいずれも写)、第四五号証の一ないし三(枝審二は写)、第四六ないし第四八号証、第四九号証の一、二、第五〇ないし第五五号証(第五〇号証、第五二号証を除きいずれも写)、第五六号証の一ないし六、第五七号証、第五八号証
2 証人萩原正範、同阿部武
3 甲第一号証のうち、金額欄中500,000を削除した棒線およびその右方に加算した300,000の成立は否認し、その余の部分の成立は認める。第二号証のうち、金額欄中加筆した百万の位の1とコンマ及び但書中の現金の項で加筆した百万の位の1とコンマの成立は否認し、その余の部分の成立は認める。第三号証のうち、金額欄の数字の成立は否認し、その余の部分の成立は認める。第四号証の成立は否認する。その余の甲号各証の成立は不知。
理由
一 請求原因1及び2の事実、並びに、被告の主張1の事実は、当事者間に争いがない。
二 原告は、本件各更正決定等(但し、昭和四九年六月五日付裁決により一部取消された後の分。以下同じ)が、原告の所得金額を過大に認定した違法があると主張するので、以下被告が課税の根拠として主張する外注費否認、仕入否認、労務費否認等の項目について順次判断する。
1 昭和四四年事業年度分
(一) 外注費否認 二〇六万円
原告が塩谷興業に金二七七万五六三八円支払ったとしていることは当事者間に争いがなく、右支払いの内訳につき、原告は昭和四四年一二月三〇日に金三〇万円、昭和四五年三月一七日に金一三〇万円、同月二五日に金一一七万五六三八円支払ったとしていることは、原告において明らかに争わないので、自白したものとみなす。
右争いのない事実に、その各金額欄の記載を除き成立に争いない甲第一ないし第三号証、証人阿部武の証言により真正に成立したものと認められる乙第一ないし第三号証の各一、二、証人阿部武、同萩原正範の各証言を総合すると、塩谷興業代表者阿部武は、原告から外注費として昭和四四年一二月三〇日現金二五万円、昭和四五年三月一九日現金一〇万円、額面二〇万円の手形合計金三〇万円、同月二五日に額面金一〇万円、同金六万五六三八円の手形二通、合計金一六万五六三八円受領したものと認められ、原告が支払ったと主張し、これを裏付ける証拠として提出する甲第一ないし第三号証の各金額欄の記載中、昭和四四年一二月三〇日の金三〇万円のうち金五万円、昭和四五年三月一九日の金一三〇万円のうち金一〇〇万円、同月二五日の金一一七万五六三八円のうち金一〇一万円の各記載は作成者の意思に基づかず、加除訂正もしくは記入されたもので、以上合計金二〇六万円は、架空の外注費と認められ、右認定に反する鶴見禮子の証言は前記各証拠に照らし措信し難い。
なお、原告は、右外注費の支払いにつき、金二〇〇万円を借用したと主張し、外注費が架空でないことの論拠とするが、右借用の点につき、証人鶴見禮子、同鶴見和市の各証言、原告代表者本人尋問の結果中、右主張に副う趣旨の各供述部分は、前掲各証拠に対比し、かつ、借用書の提出もない等弁論の全趣旨に徴し、にわかに措信しえないので、右借用の事実も認められない。
(二) 仕入否認 三二万円
原告が鶴見映に対する仕入債務金三二万円を、同人に対する貸付金と相殺経理していることは当当事者間に争いがない。
証人鶴見映の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、証人萩原正範の証言により真正に成立したものと認められる乙第八号証、成立に争いのない乙第四六号証、証人萩原正範、同鶴見映(一部)の各証言を総合すると、原告は、鶴見映が購入したブルドーザーの代金四八〇万円を原告振出しの手形額面一六万円三〇通で支払うこととし、右支払いにつき、昭和四五年二月一一日、鶴見映に対する貸付金として処理したこと、そして昭和四五年六月一日及び同月三〇日の二回にわたりそのうち二通の手形額面合計金三二万円が支払われたのに対し、当時鶴見映から同額相当の材料を仕入れた債務があるとして相殺経理がされていること、ところが一方で同年二月二三日、鶴見映は、債務者を原告とする競売事件につき水戸地方裁判所下妻支部執行官に対し、原告に対するブルドーザーチャーター代金並びに整地代金を昭和四二年二月一二日消費貸借に書替えた貸金債権金四八万円を有するとして同額の配当要求をなしたが、右配当要求は、鶴見映の実兄が代表者である原告に対し、原告の事業と関係なしに、鶴見映が以前父庄之助の面倒をみたことや原告のために安い給料で働らいたことがあることの代償として右映個人の営業開始資金を得るために配当要求をしたものであることが認められ、これらの事実からすると、右配当要求当時原告が右映から材料を仕入れた事実は認め難く、材料費については架空であると推認される。証人鶴見映の証言及び原告代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は措信しない。
(三) 減価償却超過額の当期認容額 五〇四八円
前期から繰越した器具備品の減価償却超過額の当期認容額五〇四八円につき、原告は、明らかに争わないので自白したものとみなす。
2 昭和四五年事業年度分
(一) 外注費否認 二〇〇万円
(イ) 福島産業に対する支払い 一五〇万円
原告が、福島産業に対し昭和四五年一二月二八日金五〇万円、同月三〇日金一〇〇万円を外注費として各支払った旨計上していることは当事者間に争いがなく、原本の存在と成立に争いない甲第五三号証によれば、原告の普通預金帳簿上は、右主張に副う趣旨の普通預金払戻の記載がされており、原告の提出にかかる甲第四号証(領収書)には、旭川市旭川福島産業代表福島一男なる者が五霞圃場整備整地代金として金一五〇万円を昭和四五年一二月三〇日に領収した旨の記載があるけれども、いずれも原本の存在及び成立に争いがない甲第五、第六号証の各一、二及び第四五号証一ないし三、証人萩原正範の証言を総合すると、原告の取引銀行である結城信用金庫三和支店の各預金元帳の上では、原告の普通預金から、昭和四五年一二月二八日金五〇万円、同月三〇日金一〇〇万円が同銀行の原告の当座預金口座へ振替えられているが、同金額が当時払戻されている形跡はないこと、また被告の反面調査の結果によると、旭川市には、昭和四六年四月三〇日から昭和五一年四月一日まで、福島一男なる人物の住民登録はなく、また個人申告の提出を旭川東署、中署の各税務署にしておらず、福島産業は、旭川東署、同中署の税務署に法人申告をしていないことが認められ、右認定事実からすると、後記説示と相俟って、福島産業(代表福島一男)は個人としても法人としても存在しないものと推認され、前記原告帳簿の記載は事実に符合せず、原告の昭和四五年一二月二八日金五〇万円、同月三〇日の金一〇〇万円は架空の外注費と認めるのが相当である。
なお、原告は昭和四五年一二月二八日諏訪大勝より金五〇万円、同月三〇日石川小弥太より金一〇〇万円を借り、右福島産業の支払いにあてた旨主張し、原本の存在と成立に争いない甲第五一号証(現金出納帳)等の帳簿処理上は右主張に副う趣旨の記載がなされており、証人鶴見禮子、同鶴見和市の各証言、原告代表者本人尋問の結果のうちには右主張に副う趣旨の各供述部分もあるが、これを裏付ける借用証控、伝票等の証ひようの提出もなく、一旦申請して採用された諏訪大勝、石川小弥太の証人申請も首肯すべき理由もなく撤回するなど弁論の全趣旨に照らし、右帳簿記載及び各供述は信用性に疑問があり、にわかに措信しえない。
(ロ) 大谷製材所に対する支払い 五〇万円
原告が大谷製材所に昭和四五年九月三〇日金五〇万円を支払ったとする点は当事者間に争いがなく、原告提出にかかる甲第五号証によれば、大谷製材所が昭和四五年九月三〇日金五〇万円を建築代金として原告から領収した旨の記載があるけれども証人萩原正範の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第一四号証、同第二六号証の一、二、証人萩原正範の証言を総合すると、原告は、昭和四五年九月三〇日金五〇万円の小切手を持参人払いで振出し、同日原告が結城信用金庫三和支店から右小切手金を受領していること、大谷製材所に対する反面調査によると、大谷製材所は原告に対し金額その他の事項欄白紙の領収書を発行し大谷製材所は右五〇万円を受領していないことが認められ、前記甲第五号証の右支払いの記載は架空のものと認められる。右認定に反する証人鶴見禮子の証言は信用しない。
(二) 仕入否認 一九二万円
原告が鶴見映に対する仕入債務につき、金一九二万円について同人に対する貸金債権と相殺経理をしていることは当事者間に争いがなく、前掲乙第四六号証、証人萩原正範の証言によると右貸金債権は原告が振出し、当事業年度に決済した手形一二通金一九二万円であるが、これに対応する材料費は前記1(二)において説示したとおり存在しないものと認められ、右仕入金一九二万円につき架空仕入と認められる。
(三) 雑収入もれ 一〇〇万円
原告が坂東重機に対する債務一〇〇万円を未払金として計上していることは、当事者間に争いがない。
原本の存在及び成立に争いのない乙第四号証、証人萩原正範の証言を総合すると、原告は、坂東重機から昭和四二年一月二日付土木工事請負契約に基づく請負代金残額金二六四万円の債権があるとして水戸地方裁判所下妻支部にその請求訴訟(同庁昭和四二年(ワ)第一〇五号)を提起せられていたところ、昭和四六年四月一三日、同裁判所において、うち一六〇万円の支払義務があることを認め、その余の請求は放棄してもらう旨の和解が成立し、当時一六〇万円を支払って解決したので原告は一〇四万円の債務免除益を受けたものと認められるから、原告が未払金として計上している一〇〇万円は右とは別に坂東重機に対する債務の発生を認めるべき証拠がない以上、右債務免除益として雑収入にも計上すべきものである。
(四) 労務費否認 三二〇万三七〇〇円
原告が被告の主張する労務費一覧表の順号1ないし12の支払年月日、支払先、計上額欄記載のとおり、合計金六、八〇一、〇一七円を労務費として損金計上したことは、当事者間に争いがなく、原本の存在及び成立に争いがない乙第四三、四四号証、同じく被告が税務用の表帳(B帳)と主張する乙第一二号証(同表順号2に照応するもの、以下同じ)、第一六号証(同3)、第二〇号証(同4、6)、第二一号証(同5)、第二七号証(同7)、第三〇号証(同8、9)、第二五号証(同10)、第二四号証(同11)、第三二号証(同12イ)、第三四号証(同12ロ)、第三五号証(同12ハ)、第三七号証(同12ニ)、第三九号証(同12ホ)によれば、右に符合する労務費関係の記帳がなされていることが認められる。
しかしながら、同表の順号1の金五〇万円については、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第九号証、第一〇号証の一、二、第四二ないし第四四号証、証人萩原正範の証言により真正に成立したものと認められる乙第四一号証及び同証言を総合すると、結城信用金庫三和支店原告普通預金口座から昭和四五年一〇月一五日、当座預金口座に金五〇万円が振替えられているに過ぎないのであって、前記乙第四四号証(普通預金勘定帳写)の昭和四五年一〇月一五日金五〇万円引出分摘要欄に「外注労務費大谷製材所」との記載があり、同第四三号証(当座預金通帳写)の昭和四五年一〇月一五日預り金額五〇万円の分の摘要欄に「現金より」との記載があるのは何れも改ざんされたものであることが認められ、結局、同表順号1の五〇万円の労務費の支払は架空のものと認めざるを得ない。
つぎに、いずれも原本の存在及び成立に争いのない被告が本物と認められる裏帳(A帳)と主張する乙第一一号証、第一五号証、第一七ないし第一九号証、第二二、二三号証、第二八号証、第三一号証、第三三号証、第三六号証、第三八号証、第四〇号証及び前記A帳の存在と証人萩原正範の証言を総合すると、原告は、労務費を計算するために対税務署用のいわゆる表帳(B帳)と真実の労務者の出面を記載した帳簿であるいわゆる裏帳(A帳)を作成していたものと認められ右A帳に基づいて正当な労務費を計算すると、同表順号2については乙第一一号証、順号3については乙第一五号証、順号4については乙第一七、一八号証、順号5については乙第一九号証、順号6については乙第一七、一八号証、順号7については乙第一九号証、第二八号証、順号8については乙第二八号証、順号9については乙第三一号証、順号10については乙第二二、二三号証、順号11については乙第二二号証の各記載がそれぞれ照応し、順号12については順次乙第三三号証、第二三、三三号証、第三六号証、第三八号証、第四〇号証の記載がそれぞれ同号のイないしホに照応し、同表正当額欄に記載の各金額となり、その合計額は被告の主張するとおり合計金三、二七二、〇九四円となとなることが認められる。
従って、差引金三、三二四、七六〇円は不当に水増し計上した労務費と認められるから、そのうち金三二〇万三七〇〇円を被告が否認したのは正当といわなければならない。
なお原告は、右労務費の支払いにつき、昭和四五年一〇月一四日竹井直一より金五〇万円、昭和四六年二月五日染野武士より金一五〇万四二〇〇円、染野しげより金三五万円、同月二六日鶴見和市より金四〇万円を借入れて支払いにあてた旨主張し、乙第二九号証(金銭出納帳写)の記載及び証人鶴見禮子、同鶴見和市、原告代表者本人の各供述中に右主張に副う趣旨のものがあるけれども、これをにわかに措信しえないことは前記(一)(イ)の末尾に説示したと同様である。
(五) 減価償却超過額否認 三九万三六〇〇円
原告が昭和四六年六月三〇日に収得したブルドーザーの当期分の減価償却費として損金に算入できる額が金七万八七二〇円であることは当事者間に争いがなく、また、原告が当事業年度に当該ブルドーザーの減価償却費として四七万二三二〇円計上したことは原告は明らかに争わないので自白したものとみなす。したがって、当事業年度の減価償却超過額は三九万三六〇〇円となり、この金額の損金計上を被告が否認したのは正当である。
(六) 未納事業税の当期認容額 一八万七二〇〇円
原告は、右金額を明らかに争わないので自白したものとみなす。
3 右認定事実によれば、原告は、外注費・仕入・労務費(労務費については、昭和四五年事業年度のみ)について過大の経費を仮装し、その所得を隠ぺいしたものと認められるから、国税通則法六八条一項により重加算税を課せられるべき者に該当するところ、重加算税は別紙一、二により昭和四四年事業年度は金二一万二一〇〇円、昭和四五年事業年度は金七七万九四〇〇円となる。また、過少申告加算税は別紙一、二により金一万六八〇〇円となる。
三 以上の理由により被告のなした本件更正処分、過少申告加算税及び重加算税賦課決定処分には何らの違法はない。よって原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高橋久雄 裁判官 菅原崇 裁判官小野田裕宏は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 高橋久雄)
別紙一
<省略>
なお、上記加算税額の計算に際しては、国税通則法一一八条三項により、その計算の基礎となる税額の一〇〇〇円未満の端数は切捨てて計算した。また同法一一九条四項により附帯税の確定金額の一〇〇円未満の端数は切捨てて計算した。
別紙二
<省略>