水戸地方裁判所 昭和51年(レ)13号 判決
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【説明】
事案の概要を略記すれば次のとおりである。
被控訴人は、本件土地を茨城開発から買得したが、伸興工業及び伊セ崎卓治と順次通謀して、茨城開発→伸興工業→伊セ崎と所有権が移転したように登記を経由した。他方控訴人金田は伊セ崎から本件土地を譲渡担保として取得したが、後日これを処分清算の方法として控訴人西谷らに移転した。被控訴人は控訴人らに対し、その所有権取得登記の抹消を求める。
【判旨】
四次に控訴人らは、仮に本件土地につきなされた伊セ崎の本件(二)の登記が通謀による虚偽仮装の登記であるとしても、控訴人らは善意の第三者であるから、民法九四条二項により被控訴人は右登記の無効すなわち伊セ崎の所有権取得の無効をもつて控訴人らに対抗できない旨主張するので、以下検討することとする。
1 民法九四条二項により、虚偽表示の無効を対抗できない善意の第三者とは、虚偽表示によつて生じた法律関係に対し、新たに別の法律原因に基づいて虚偽表示の外形について新らたな利害関係に立つに至つた虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者で、右利害関係を生ずる際に、虚偽表示であることを知らない者をいうと解される。従つて善意の第三者として右法条により保護を受けるためには①虚偽表示の外形に基づいて新たに有効な利害関係に立つた第三者であること、本件について言えば伊セ崎卓治が所有者であるとすれば、控訴人金田が有効に本件土地の所有権を取得できるような形態で利害関係に入つたことすなわち控訴人金田と伊セ崎代理人柳川間の法律行為が有効であり、かつ被控訴人西谷、同山本間の本件土地譲渡行為が有効であること、②右譲受けまたは買受け当時控訴人らが、本件土地が真実は被控訴人の所有であることを知らなかつたことの二要件が必要である。従つて右①の要件が否定されれば②の要件を論ずるまでもなく、控訴人らの抗弁は排斥を免れない。
2 そこで先ず、控訴人が伊セ崎より、控訴人西谷、同山本が控訴人金田より順次有効に本件土地の譲渡を受けたか否かについて検討することとする。
<証拠>を総合すれば、次のような事実が認められる。
(一) 本件土地は前記のように金融を受ける都合上、昭和四五年七月二日伊セ崎卓治名義に所有権移転登記されたが、伊セ崎は同年九月ころ、当時同人が寄ぐうし、一緒に仕事をしていた同郷の知人の不動産ブローカーである柳川に対し本件土地を担保に他より融資を受けることを依頼し、同月三〇日ころ伊セ崎は委任事項を「土地担保に依る借入金受領の件」「必要書類作成の件」と記載し受任者を柳川とする伊セ崎名義の委任状(乙第一号証)及び「本件土地に落花生を耕作して居たが、今後所有権が移転されても第三者には一切耕作権の主張しない」旨の同人名義の念証(乙第四号証)を作成(ただし念証は、内容は柳川が書き、伊セ崎がこれを了承して署名押印)して、それ以前に取つていた伊セ崎の印鑑証明書(乙第二号証)及び本件土地の権利証とともに柳川に交付した。柳川は右書類を知合いの不動産ブローカーである控訴人金田方に持参して、本件土地は伊セ崎の所有であるが、同人から一切任せられていると称して、本件土地を譲渡担保に金員貸与方を申込んだ。控訴人金田は柳川の右言を信じ、これを承諾して二五〇万円を、弁済期限一か月(その後一か月半後の昭和四五年一一月一五日まで期限猶予)、期限までに元利金を支払えば右土地を返還する約定の下に、利息を差引き二〇〇万円余を柳川に交付したので、柳川は伊セ崎より受取つていた登記に必要な書類を控訴人金田に交付した。同控訴人は右書類を使用して伊セ崎の実印を持参した柳川とともに、司法書士方に赴き売買を原因として自分名義に所有権移転登記手続を依頼し、同年一〇月一日付で控訴人金田に売買を原因とする本件(三)の所有権移転登記がなされた。
(二) ところが、柳川は、右受領の金員を大半自分の用途に費消してしまい、約定の期限に借受金の返済もしなかつた。控訴人金田からの催促に対し柳川は支払えないから本件土地を処分して清算してもらいたい旨返事した。そこで控訴人金田は、知合いの控訴人西谷に話したところ、同控訴人は本件土地を八〇〇万円と評価し、補足金として現金三〇〇万円をつけ、時価五〇〇万円と評価した山梨県甲府市草鹿沢町字下力岡一二二一番山林一三八八四平方メートル外周辺六筆の土地(以下甲府の土地という)と本件土地との交換を提案し、柳川もこれを承諾したので、弁済期経過後の同年一一月半ば過ぎ控訴人金田は控訴人西谷より現金三〇〇万円と同人の委任状、印鑑証明書、甲府の土地の権利書三通を受取り、自己の委任状及び印鑑証明書(甲府の土地は、控訴人西谷が実質上の所有者であるが、形式上は控訴人金田、同西谷の共有名義に登記されていたため、控訴人金田の委任状等も必要であつた)とともに、柳川に交付した。もつとも、現金三〇〇万円は始んどは、前記借受元利金の支払のため柳川から控訴人金田に渡され、控訴人金田の貸付金の回収にあてられてしまつた。控訴人西谷は控訴人山本から前記現金の半分位を出してもらつていたので、同年一一月二四日本件土地を控訴人山本、同西谷の共有名義に売買を原因として所有権移転登記をなし、同人らはその後本件土地を日生実業株式会社に、同会社はこれを本件各土地に分筆して他に順次売却してしまつた。一方甲府の土地については、柳川はこれを担保に他から金融を得る目的で自己が実質上の代表者である菱華商事有限会社名義に所有権移転登記手続をなし、その後小林製薬株式会社にこれを担保流れとして譲渡してしまつた。
3 右認定に徴すれば、柳川は伊セ崎の代理人として本件土地を譲渡担保として控訴人金田に差入れ、金員を借り受けたが、期限に右弁済ができなかつたため、控訴人金田は右土地の処分権を取得し、その処分清算の方法として柳川礼二承諾のもとに本件土地を控訴人西谷、同山本出捐の現金三〇〇万円の補足金をつけさせて控訴人西谷所有の甲府の土地と交換したものと認められる。
そして前記認定の伊セ崎が柳川に委任状、念証等を渡していたこと、右委任状、念証の内容、同人らが当時同居し一緒に仕事をしていた間柄であつたこと、本件土地が被控訴人金田に所有権移転登記された状況等を総合すれば、伊セ崎は本件土地を担保(譲渡担保を含む)として他より融資を受ける権限一切を相手方の特定もせず、金額の範囲も定めずに柳川礼二に授与していたと優に認めることができる。<証拠判断略>
4 従つて柳川は伊セ崎の代理人として控訴人金田から有効に金員を借受け、その担保の目的で本件土地の所有権を同控訴人に移転し、これに基づき本件(三)の登記がなされたもの、同控訴人は被担保債権の弁済期の経過後、取得した処分清算権(柳川は本件土地を譲渡担保として、その裁量で借入の相手方、金額期限等をきめて金借する一切の代理権を伊セ崎から授与されていたものであるから、柳川が右代理権に基づき控訴人金田との間で金銭消費貸借契約を締結し、本件土地を担保の目的で同控訴人に所有権を移転した以上、右契約に定めた期限に借受金を支払わないときは、譲渡担保の性質上控訴人金田は当然右土地の処分権を取得するものというべく、右処分の権限を伊セ崎が柳川に授与していたか否か問うことは無意味である)に基づき右土地を有効に控訴人西谷、同山本に譲渡し本件(四)の登記がなされたものというべく、控訴人らは民法九四条二項の第三者に当たることは明らかである。
5 そして前記認定によれば、本件土地を控訴人金田が貸金の譲渡担保として自己名義に所有権移転登記した当時、右土地が真実は被控訴人の所有であつたことを控訴人金田は知らず、善意であつたことが認められるから、前記法条により被控訴人は本件土地の伊セ崎への所有権移転の無効を控訴人金田に対抗し得ず、また善意の第三者である同控訴人から有効に右土地の所有権を承継した控訴人西谷、同山本にも対抗し得ないものといわねばならず、従つて表見代理ないし追認の抗弁について判断するまでもなく、被控訴人の本件(三)及び(四)の登記の抹消を求める請求は失当である。
(早井博昭 下沢悦夫 山本哲一)