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水戸地方裁判所 昭和51年(ワ)140号 判決 1980年9月29日

原告

高野明

被告

小森二三男

ほか二名

主文

一  被告小森二三男は原告に対し、金八二八万〇九九二円及びこれに対する昭和四八年一〇月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告小森二三男に対するその余の請求及び被告河野浩、同小森清に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告と被告小森二三男との間においては原告に生じた費用の三分の一を被告小森二三男の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告河野浩、同小森清との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決は原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和四八年一〇月二日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の事実

昭和四八年一〇月二日午前七時三〇分頃、水戸市轟町五三一番地先路上を原告が自動二輪車に乗つて轟町方面から十軒町方面へ進行中、自動車(車両番号茨四四に八七三九号以下本件車両という。)を運転し対面進行して来た被告小森二三男(以下被告二三男という。)が大廻りをして左折するため原告の進行前方に進入し、自車を原告に衝突させ同所に転倒せしめた。

2  損害

本件交通事故によつて原告は次のとおりの損害を蒙つた。

(1) 受傷

<1> 病名

第一〇、第一一胸椎圧迫骨折、頭部打撲、胸椎腰椎挫傷、右小指脱臼骨折、右膝挫傷

<2> 治療期間

<イ> 昭和四八年一〇月二日から同年一一月一〇日まで(四〇日間)渡辺整形外科医院に入院

<ロ> 同年一一月二日から翌四九年七月四日まで(二三六日間)同院に通院加療(実治療日数五九日)

(2) 後遺症

<イ> 主訴自覚症状

背部痛

背椎運動痛、運動制限は顕著で背椎変形を残し、常時コルセツトを装用する必要があり、背椎変形等について回復の見込みは皆無となつた。

<ロ> 症状固定日 昭和五〇年九月一日

<ハ> 右後遺症は自賠責保険後遺障害等級表によれば第八級第四号と認定された。

3  損害額

(1) 治療関係 合計金五二万三五六〇円

<1> 治療費

<イ> 入院治療費 金三〇万四二二〇円

<ロ> 通院治療費 金五万七三四〇円

<2> 附添看護費 金一三万九〇〇〇円

<イ> 入院附添費

一日二〇〇〇円として入院四〇日間分

計金八万円

<ロ> 通院附添費

(原告は既述の身体重障害者であり特にその必要があつた)一日一〇〇〇円として計五九日間分

計金五万九〇〇〇円

<3> 入院諸雑費

入院一日あたり五〇〇円として四〇日間分

合計金二万円

<4> 診断書代金 三〇〇〇円

(2) 逸失利益 金三四五二万一七四五円

<1> 原告は、昭和四六年水戸市立第三中学校を卒業して以来、県立水戸専修職業訓練校において職業訓練法による養成訓練、専修訓練課程建築科を行ない、昭和四七年三月専修訓練課程建築科を卒業の上、事故当時実父訴外高野義松のもとで大工見習として勤務稼働し、事故直前月額金六万円の見習い本給を受けていたものであるが、やがて近い将来本格的大工としてひとりだちする運びとなつていたものであつて、そうなれば現行標準大工職の標準日当額(水戸市建築業組合、昭和五一年度日当金三五〇〇円)を上廻り年額金二〇四万六七〇〇円(賃金センサス昭和四九年第一巻第一表産業計男子労働者学歴計)を下廻るものではないことは明らかである。

<2> 原告は、本件事故によつて次のとおり得べかりし利益を喪失した。

<イ> 休業損害 金一四三万八〇二七円

原告は、既述の受傷等によつて現在迄全く就労することが出来ない状況にある。従つて少くとも後遺症症状固定日である昭和五〇年九月一日迄分は本件受傷と相当因果関係にある損害といつて妨げない。

6万円×12×729/365=143万8,027円

<ロ> 逸失利益 金三三〇八万三七一八円

原告は、後遺症によつて以後年齢的に就労可能なる限り労働能力を大幅に喪失したものであり、原告の学歴、職種等々から鑑みて転業して将来これを回復することは大変に至難である。一方、事故時は未だ見習であるが近い将来ひとりだちを考えると、これを一生の収益の算定の基礎とすることは妥当ではない。そこで原告の逸失利益は賃金センサスの男子労働者の平均賃金によつて計算すると以下のとおりである。

204万1,700円×24,126×17/100=3,308万3,718円

(3) 慰藉料

原告の本件事故による受傷後遺症の部位、症状、程度及び家族の懸命なる看護活動等の辛苦等から鑑みて原告の精神的損害を填補する慰藉料は、金四〇〇万円を下廻るものではない。

4  責任

被告二三男、同河野浩(以下被告河野という。)は加害車両の運行供用者として、被告小森清(以下被告清という。)は加害車両の所有名義者でその購入に際しては実兄の被告二三男が此を担当し、且つ代金の支払は此を共同して負担したものであるから被告二三男と共に加害車両の共同運行供用者というべく、自動車損害賠償保障法第三条に基づき原告の蒙つた損害について同じく賠償義務がある。

5  控除

(1) 原告の蒙つた損害中、治療費等合計金三六万三二六〇円については被告二三男が支払つた外昭和五〇年一一月七日自賠責保険金として金二六四万六七四〇円の支払いを受けたので、この合計金三〇〇万円を原告の蒙つた損害金三九〇四万五三〇五円から控除すると三六〇四万五三〇五円の損害となる。

6  弁護士費用

原告が本件訴訟遂行のため委任した弁護士費用は本件損害賠償請求額である金三六〇四万五三〇五円の一割の金三六〇万四五三〇円が相当である。

7  以上のとおり原告は被告らに対して総額金三九六四万九八三五円の損害賠償請求権を有するものであるが、原告は被告ら各自に対して内金三〇〇〇万円と此に対する不法行為の日である昭和四八年一〇月二日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1項の事実中、事故の態様は否認し、その余の事実は認める。

同2、3、6項の事実は不知。

同4項の事実中被告二三男が本件車両の運行供用者である事実は認め、その余の事実は否認する。被告二三男は車庫証明の関係から被告河野名義で本件車両を購入したもので、被告河野は名義上の所有者にすぎない。代金も被告二三男が全額支払い、納税も同人が全部行い、自賠責保険も同人が自己の名で加入し、その保険料も支払つている。自動車の保管、管理、格納手入等もすべて同人が行つている。

同5項の事実中控除額については認めその余は争う。

三  抗弁

1  仮に被告河野、同清が本件車両の運行供用者であると認められるとしても被告ら三名には本件事故に関し何ら過失はなく、原告に過失があつたのであり、本件車両には構造上の欠陥又は機能の障害もなかつた。原告の進路前方に砂利のたまつたところがあつて、原告は砂利山の中へ突つ込み転倒し、転げてきて被告二三男の運転する車両の右側面に衝突した。原告が転倒したのは操縦技術の未熟さと漫然とブレーキ操作を行つたことが原因である。

2  仮に請求原因事実が認められるとしても原告にも過失があるので損害額の算定において斟酌さるべきである。

被告二三男が左折するに際し、幾分大廻りになつたとしても中央辺を少しはみ出した位であり、右側には原告車が通れるだけの余地は充分あつた。原告は前方注視不充分のため本件車両の発見が遅れ、砂利山を発見しないでその中に突つ込み転倒したものである。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件交通事故により原告が傷害を蒙つた事実は当事者間に争いがない。

二  被告二三男が本件車両の運行供用者である事実は当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第六号証、被告小森二三男の本人尋問の結果(第一回)及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一号証ないし第三号証、被告小森清、同河野浩本人尋問の各結果によれば以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

被告二三男は昭和四六年一〇月三〇日本件車両を代金七二万一、六八二円で茨城トヨタ自動車株式会社から購入した。被告清が代金の一部一五万七五〇〇円を負担したこと、下取りに出した車両が被告清が訴外小森正行から贈与を受けた車両であつたこと等の関係で購入者の名義は被告清となつているが実質は被告二三男が大工の仕事に使用する目的で購入したものであつて、もつぱら被告二三男が使用し(時には被告清も使用していた)水戸市水門町の父小森義松方に本件車両を置いて被告二三男が管理し、税金も同人が支払つていた。なお被告二三男は後日同清に一五万七〇〇〇円を返済した。本件車両の登録名義人は被告河野となつているが、被告二三男あるいは同清名義では車庫証明が必要な関係から、車庫証明の必要のない被告河野名義にしたのであつて、被告河野は単に名義を貸したのみで、本件車両を一度も使用しなかつたのみならず、納税通知書はすべて被告二三男に送り、税金も支払つてはいなかつた。被告清は本件車両購入時には前記のとおり本件車両を時々使用していたがその後警察官になり、本件事故当時は本件車両を使用していなかつた。

以上のとおり被告河野は本件車両の単なる登録名義人で本件車両を一度も使用せず、税金も払わず、管理もしていなかつたのであるから本件車両に対する運行支配、運行利益もなく、運行供用者とはいえないというべきである。被告清は本件車両購入時に代金の一部一五万七五〇〇円を負担し、被告二三男と共に本件車両を使用していたのでその時点においては運行供用者であつたと認められるが、本件事故時においては、警察官となつていて本件車両を使用しておらず、代金も被告二三男から返済してもらつていたのであつて運行供用者の資格を喪失していたと認められる。

以上の理由によれば被告二三男は本件車両の運行供用者として原告が蒙つた損害を賠償する責任があるが、他の被告らはその責任がないといわなければならない。

三  事故の態様及び過失相殺

成立に争いのない甲第一号証ないし第四号証、第五号証の一ないし八、第九、第一〇号証、第一二号証、被告小森二三男、原告本人尋問の各結果(いずれも第一回)によれば以下の事実が認められこれに反する証拠はない。

被告二三男は昭和四八年一〇月二日午前七時三〇分ころ、本件車両を運転し、水戸市轟町五三一番地先の交通整理の行なわれていない交差点を竹隈町方面から本二丁目方面に向かい左折するにあたり、あらかじめできるかぎり道路の左側に寄つて徐行し、対向車両との安全を確認すべき注意義務があるのに、じゆうぶん左側によることなく対向する原告運転の車両との安全を確認せず時速約三五キロメートルで左折運行した過失により、対面根積町方面から進行してきた原告運転の自動二輪車に自車を衝突させ、その衝撃により同人に加療約三か月を要する第一〇、一一胸椎圧迫骨折等の傷害を負わせた。一方原告は急ブレーキをかけたためスリツプして横倒しになり被告運転の車両に衝突したもので原告側にも前方不注視、運転技術の未熟などの過失があり、本件事故の態様から評価すると原告の過失二割、被告二三男の過失八割と評価するのが相当である。

以上の理由によれば被告二三男は原告の蒙つた損害のうちその八割を賠償する義務があるというべきである。

四  原告の蒙つた損害

1  成立に争いのない甲第一一号証、第一三号証ないし第一七号証、第三五号証、第四二、四三号証、証人高野義松、同高野照子、同深谷文男の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば請求原因2項の事実が認められ、これに反する証拠はない。

2  成立に争いのない甲第一八号証ないし第二一号証、第二三、二四号証、証人高野照子の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第三八号証の一、二、証人高野義松の証言並びに弁論の全趣旨によれば請求原因3(1)項の事実が認められこれに反する証拠はない。

3  成立に争いのない甲第三二号証ないし第三四号証、証人高野義松、同高野照子の各証言、原告本人尋問の結果(第一回)によれば原告は昭和四六年水戸市立第三中学校を卒業して、県立水戸専修職業訓練校に入学し、昭和四七年三月専修訓練課程建築科を卒業のうえ、事故当時実父訴外高野義松のもとで大工見習として勤務稼働し、本件事故直前月額金六万円の見習い本給を受け、近い将来本格的大工として独立する運びとなつていたが、後遺症症状固定日である昭和五〇年九月一日迄全く就労することができず金一四三万八〇二七円の休業損害を蒙つたと認められこれに反する証拠はない。

(計算式 6万円×12×729/365=143万8,027円)

原告は前記認定のとおり請求原因2項の傷害を蒙つたが証人檜山忠男、同桜井由紀夫の各証言、検証の結果、原告、被告小森二三男本人尋問の各結果(いずれも第二回)によれば原告は昭和五〇年、五一年の夏ころサーフイン遊びをしていること、昭和五三年三月ころ材木を運んだり、鋸で引いたり、釘打ち作業などをしていること等の事実が認められこれに反する証拠はない。

以上の事実によれば、原告主張の後遺症が認められるものの原告の労働能力喪失率は二割程度と評価するのが相当である。前記認定のとおり原告は事故当時未だ大工見習であつたが近い将来独立する運びとなつていたのであるから当時の給料を一生の収益の算定の基礎とすることは妥当でないので原告の逸失利益は賃金センサスの男子労働者の平均賃金によつて計算し、中間利息をホフマン式によつて控除すると金九八八万九六五四円の逸失利益となる。

204万1,700円(19歳の男子労働者の平均年収)×24.11(就労可能年数49年に対するホフマン係数)×20/100(労働能力喪失率)=988万9,654円)

原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば原告は本件事故により前記認定のとおりの傷害を受け、体を前に倒して物をとつたり、長時間同一姿勢をとるのに苦痛を伴うような体となつた事実が認められる。その他本件事故の態様、受傷後遺症の部位、症状、程度その他諸般の事情を考慮すれば、原告の精神的、肉体的苦痛に対する慰藉料は金一〇〇万円と認めるのが相当である。

以上の理由によれば被告二三男は原告が蒙つた損害金合計一二八五万一二四一円の八割である一〇二八万〇九九二円を原告に賠償する義務がある。

4  控除

原告が被告二三男あるいは自賠責保険から金三〇〇万円の支払いを受けた事実は当事者間に争いがないので被告二三男が支払うべき賠償金から右金員を控除すると被告二三男の賠償すべき金員は七二八万〇九九二円となる。

5  本件訴訟の難易、請求額、認容額等諸般の事情を考慮すれば原告が本件訴訟遂行のため委任した弁護士費用は金一〇〇万円と認めるのが相当である。

五  以上の理由によれば被告二三男は本件車両の運行供用者として原告に対し、前記七二八万〇九九二円に弁護士費用一〇〇万円を加えた合計八二八万〇九九二円及びこれに対する本件事故の日である昭和四八年一〇月二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 有満俊昭)

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