水戸地方裁判所 昭和55年(行ウ)4号・平元年(行ウ)8号 判決
甲・乙事件原告
亡伊藤武之訴訟承継人 伊藤英次(X1)
同
山田二三雄(X2)
同
山田一忠(X3)
同
亡根本かつ及び亡根本寛訴訟承継人 根本曻(X4)
同
廣澤伊平(X5)
同
廣澤衛(X6)
同
大古省文(X7)
同
大古とき(X8)
同
亡大古てい訴訟承継人 大古勝文(X9)
同
亡大古てい訴訟承継人 大古康子(X10)
同
篠田彦次(X11)
同
知領良(X12)
右原告ら訴訟代理人弁護士
後藤裕造
同
田村徹
甲事件被告
金江津長竿土地改良区(Y2)
右代表者理事長
宮本寛
甲事件被告
茨城県知事(Y1) 竹内藤男
右指定代理人
原口勤
同
金木裕之
同
山崎和雄
同
栄慶次郎
同
須能常夫
同
海老原晃
同
高儀稔
同
中川清彦
同
根本博文
同
竹内政夫
乙事件被告
江戸崎土地改良事務所長(Y3) 有吉潔
右指定代理人
猿田耕司
右被告三名訴訟代理人弁護士
中井川曻一
事実及び理由
第三 争点に対する判断
(認定に供した証拠は、以下の各項において認定事実の末尾に掲げたものである。)
一 争点1(本案前の申立て)について
前記争いのない事実によれば、本件換地処分は、本件事業変更計画に基づいてなされたものであり、本件事業計画は本件事業変更計画の確定によりその効力を失ったものということができる。そうであるとすると、本件事業変更計画の確定により、本件事業計画決定の無効確認を求める利益もなくなったといわざるを得ず、本件事業計画決定の無効確認を求める甲事件原告らの請求は不適法であり、却下を免れない。
この点につき、甲事件原告らは、本件事業変更計画は、本件事業計画の数値を若干変更したものに過ぎず、処分の同一性を欠くに至らないものであると主張する。
ところで、事業計画が変更されるのは、施行地域の変更、主要工事計画及びこれに係る事業費等の重要部分を変更する場合である(法八七条の三第一項、規則六一条の七、同三八条の二)。
〔証拠略〕によれば、本件では、用排水路計画が見直され、道路計画についても幹線道路一号の延長、支線道路の内容等工事計画が変更されるとともに、金江津地区の一部を本件事業地域に編入し、国道四〇八号線に沿う一部の地域を地区除外するなどの施行地域の変更が行われていることが認められ、法の要求する要件を充たした変更が行われたものといえる。よって、この点に関する、甲事件原告らの右主張は採用できない。
二 争点2(本件事業計画の無効原因の有無)について
甲事件原告らの本件事業計画決定無効確認請求が不適法であるとしても、同原告らの一般及び特別賦課金支払義務不存在確認の請求原因並びに本件換地処分の取消原因として、本件事業計画の無効原因が援用されているので、併せて検討する。
1 認定事実
(一) 本件土地改良事業施行前における施行対象地域の状況
(1) 本件土地改良事業施行対象地域は、茨城県南端の利根川北岸に沿う稲敷郡河内村地内の湿田単作地帯であり、事業対象面積は四四一ヘクタール、そのうち農用地は四〇二ヘクタール(うち田三七八ヘクタール、畑二四ヘクタール)である。対象地域は、利根川上流から下流方向(西から東)にかけてなだらかな傾斜があるとともに、ほぼ中央を東西に流れていた中央排水路付近がもっとも低く、南北方向になだらかに高くなっていく地形であるが、それぞれの勾配は非常に緩やかである。対象地域の約三分の一の地域が泥炭土壌強粘土型に分類される水はけの悪い土壌であり、特に中央排水路付近の土壌が悪かった。(〔証拠略〕)
(2) 本件事業地域のうち約二一五ヘクタールについては、明治四四年に茨城県稲敷郡金江津長竿耕地整理組合が設立され、明治時代から昭和時代の初期にかけ、耕地整理法に基づく耕地整理が行われており、田の基本区画が、一区画当たり一〇アールの単位に耕地が整理され、されに昭和四〇年ころまでに交換分合が行われ、区画の整理及び農地の集団化が図られた。整理済みの地域では、農道も整備され、幹線道路の地に農地内の支道についても約一・八メートルから二・七メートルの幅で整備されたが、支道の両側が次第に削り取られて、周囲の水田に取り込まれたため、本件土地改良事業施行以前には約一・八メートル程度のところが多くなり、自動車やトラクター等の農業用機械がすれ違う際、困難であった。用排水賂については、土水路が設置されていたが、その性質上、周囲の土壁が崩れ落ちて水路を閉塞する危険性があり、水路の清掃や草取り等日常管理に手間が掛かっていた。用水については、利根川から田川機場及び金江津樋門を通して取水していたが、前記のような本件事業地域の土地形状のため、高地部分の土地の末端まで用水が十分に行き渡らないことも多く、円滑なかんがいができない状況であった。排水については、中央排水路に集水し、田川機場及び金江津排水機場から利根川へ排水していたが、排水機械も古く、能力が不足している上に、下流の金江津地域が低地で利根川の平常水位と変らないために、洪水時などは排水が円滑に行われず、長時間たん水することもあった。特に、粘土質等土壌の水はけが悪い低地に位置する地域では、雨量が多いと水田が冠水状態となり、耕作に支障を来していた。長竿地区の北側の一部では、地盤の低いところがあり、排水が困難であるため、北に位置する廃堤(利根川の古い堤防)に穴を開け、隣接する豊田新利根土地改良区が管轄する地区内に排水を行っていた。さらに、用排水路に直接接していない水田では、他人の水田を経由して用排水を行っていた。本件事業地域の中でも、田川地区の揚排水機場の近辺では水利の便がよく、土壌も比較的水田耕作に適していたなど、地域的差異が存在していた。(〔証拠略〕)
(二) 本件事業計画申請手続の経緯
(1) 江戸崎土地改良事務所(以下「土地改良事務所」という。)は、昭和四八年ころ、河内村から、本件事業地域につき、県営土地改良調査計画実施要領に基づく調査実施申請を受けたため、同五〇年ころまで約三年間調査を実施した。土地改良事務所は、同五〇年一〇月ころ、右調査を受け、県営土地改良事業に対する国庫からの補助を受けるため、県農地計画課を通じて関東農政局に対し、本件土地改良事業の計画概要書を提出した。右計画概要書は、国庫補助を受けるための事業採択申請に際し、県が作成する内部文書であり、県営事業の施行申請前の公告の対象となる計画概要書(〔証拠略〕。これは、受益者が法八五条二項に基づいて作成するものである。)とは異なる。
広沢憲外一八名の事業申請人は、昭和五一年一月二六日、法八五条二項に基づき、本件土地改良事業の計画概要書等必要書類を公告したが、国庫補助事業としての採否が結論のでないまま保留されており、その当時は、県営事業の施行申請は行われなかった。もっとも、昭和四九年ころから仮同意書、同五〇年ころから法八五条二項に規定されている同意書の取りまとめが行われており、被告改良区理事長であった広沢憲ら役員、土地改良事務所の職員等は、各部落に赴き、事業目的、効果、輪換耕地の内容、地元負担がおおよそ反当たり玄米一俵分であることなど本件事業計画につき何度となく説明会を開催したが、昭和五一年の時点における同意率は約八八・五パーセントであり、県が要望する九五パーセントには達していなかった。広沢憲は、特に反対者の多くが地元である田川、流作地区の居住者であったことに加え、健康がすぐれなかったため、昭和五一年四月一八日、理事長を辞任した。もっとも、被告改良区役員らが説得を行った結果、昭和五三年四月ころには、約九五パーセントの同意率を得られるまでになった。本件土地改良事業に関し、被告改良区理事のうち三名と地権者の一人である高松亨との間で、昭和五二年九月二二日、賦課金等を右理事らが支払い、また一筆の土地を地区除外する旨の約定が交わされ、その旨の念書(甲三)が作成されたが、実際には、賦課金等は高松亨が負担している。(〔証拠略〕)
(2) 本件土地改良事業について、昭和五三年四月一八日、国庫補助事業として採択されることが決定されたため、施行申請者は、法八五条に基づき、県に対し、本件土地改良事業を県営事業として行う旨の事業施行申請をすることとなった。右施行申請に際し、施行申請者から県に提出された書類は、土地改良事業計画概要書、造成される土地改良施設の予定管理方法書、公告したことを証する書面、同意のあったことを証する書面、国有地等の地区編入承認申請書等(〔証拠略〕)であった。申請に際して予定されていた事業費の負担の割合については、国庫負担が四五パーセント、県費負担が二五パーセント、地元負担が三〇パーセントとされていた。右各提出書類のうち、計画概要書は、昭和五一年に公告されたものを、着工予定年度を「昭和五一年」から「昭和五三年」、地区名を「金江津長竿地区」から「河内東部地区」、工期を「昭和五一年度~昭和五五年度」から「昭和五三年度~昭和五七年度」にそれぞれ訂正した上で提出された。事業施行申請書には、広沢憲外一八名の申請人一覧表が作成されているが、右一覧表は、昭和五三年四月ころ、被告改良区事務局の臨時職員が住所氏名欄を記載し、被告改良区の役員については、本人の承諾を得た上で、被告改良区事務局で保管している印鑑を用いて捺印し、その余の申請者については、右桜井が申請者の自宅を回って本人に捺印してもらったものである。広沢憲については、一覧表作成時には、既に被告改良区の役員を退いていたが、事務局の事務員である高野としが、電話で本人の意思を確認した上で、以前から事務局に保管してあった印鑑を用いて捺印した。国有道水路等敷地の地区編入承認申請書(昭和五三年二月一〇日付)の広沢憲の記名捺印についても、同様の方法で作成されたが、同意書(乙四の5)は広沢憲本人が自ら署名捺印した。(〔証拠略〕)
(三) 本件事業計画の内容
(1) 本件事業計画は、法施行令五〇条一項五号の二の要件を充たすものであり、本件事業地域につき、土地基盤整備事業を行い、大型機械の導入を可能にし、農業経営の合理化を図るとともに、農業生産性の向上と多角的な営農経営の確立を図る目的で計画されたものであり、その具体的な内容は次のとおりである。
用水関係については、水源となる利根川沿いに加圧用水機場を設置し、パイプライン方式により各工区へかんがいする。排水関係については、事業地域が低地であるので自然排水が困難であることから、全域を機械排水区域とし、二か所の排水機場を改修して利根川へ排水するが、中央排水路に沿う泥炭土壌強粘土型地域一三八ヘクタールについては、土壌的に地下水位が低下しないことから、暗渠排水を行うものとする。排水路自体も、側壁をコンクリート板として壁の崩落を防ぎ、田面から約一メートルの深さにして、円滑な排水を可能とした。道路関係については、本件事業地域のほぼ中央部分を南北に貫く幅七メートルの舗装道路、東西に走る幅五メートルの支道を中心とし、農用地内を二〇〇メートル間隔で幅四メートルの土造道路を設置する。また、圃場については、農用地全体の九六パーセントに当たる三四三ヘクタールを三〇アールの区画面積を有するものに整備するものである。具体的な工事方法としては、旧排水路部分を埋立てた上で、ブルドーザーにより表土を約一〇センチメートル削り、その下を平地にならし、もとの表土をその上に戻して踏み固めることにより行われた。また、農用地のうち、本件事業計画では一七四ヘクタール、本件事業変更計画では一七〇ヘクタールが輪換耕地として予定されたが、輪換耕地は、従前水田であった耕地につき、用排水関係を整備して、水田耕作及び畑作のいずれにも利用できるようにする農用地であり、本件事業地域のうち、比較的高地部分が予定地域として指定された。本件事業計画書(〔証拠略〕)及び本件事業変更計画書(〔証拠略〕)の各第一〇章効用欄には、作物生産効果、営農労力節減効果及び維持管理費節減効果の各区分に応じ、純益額及び所得額の効用が記載されている。(〔証拠略〕)
(2) 本件事業計画及び事業変更計画については、その審査の段階で専門技術者による調査報告書が提出されており、本件事業計画については、妥当投資額が二二億四九九五万七〇〇〇円、投資効率が一・一五、所得償還率が三四パーセント、本件事業変更計画については、妥当投資額が三二億五九八〇万二〇〇〇円、投資効率が一・一一、所得償還率が一九パーセントであるとの記載がされている。妥当投資額は、事業計画に費やすことのできる事業費の上限を設定するものであり、投資効率は妥当投資額を総事業費で除したもの、所得償還率は年間償還額を年間増加所得額で除したものである。一般的な運用として、投資効率が一・〇以上であれば、法施行令二条三項に規定するすべての効用がすべての費用をつぐなうものとされ、農家に対する負担の尺度となる所得償還率が〇・四以下であれば、同条四項に定められている負担能力の限界を超えないという基準を満たすものとされている。(〔証拠略〕)
(四) 原告伊平所有地の地区編入
本件事業計画により本件土地改良事業に編入された原告伊平所有の六九二三番二の土地には、昭和五五年当時、その南東隅にトタン板の屋根が葺かれ、外壁がなく、木の柱のみで支えられた工作物が存在しており、工作物の敷地以外の土地は畑として利用されていた。茨城県は、昭和五五年一二月二六日、右土地が本件事業計画に編入されたため、右工作物の除去作業を行った。(〔証拠略〕)
(五) 地区除外の経緯
本件事業変更計画により地区除外がなされているが、本件事業変更計画については、昭和五九年一二月一九日から同月二四日までの間、「県営河内東部地区改良事業計画変更概要書」に基づいて公告が行われ、法三条資格者五八七名のうち五三四名が同意し、約九一パーセントの同意率により決定された。地区除外された土地は、国道四〇八号線沿いの面積約三・四ヘクタールの地域であり、右土地上には、スーパーマーケット、パチンコ店等が建築され、また農地のまま残っている部分もある。右除外地の所有者のうち、糸賀淳は、当初本件事業計画に同意しなかったが、本件事業変更計画には同意している。(〔証拠略〕)
(六) 原告らの営農状況
原告らのうち、承継前原告根本寛の昭和五八年度、原告伊平の平成元年度の各収支は次のとおりであり、原告らは、いずれも農業収入だけでは生活できず、兼業又は冬場の出稼ぎ等により収入を得ている。(〔証拠略〕)
(承継前原告根本寛、昭和五八年度)
<1> 収入
水稲売邦収入 二二六万八〇〇〇円
減反補償収入 一〇万五〇〇〇円
合計 二三七万三〇〇〇円
<2> 経費
生産費 一〇五万四二〇〇円
機械年賦代 一〇三万円
改良区賦課金 三八万七八一五円
合計 二四七万二〇一五円
<3> 利益 △九万九〇一五円
(原告伊平、平成元年度)
<1> 収入
水稲売却収入 二一二万八五〇〇円
減反補償収入 五万五〇〇〇円
合計 二一八万三五〇〇円
<2> 経費
生産費 八六万円
機械年賦代、修理代 四〇万円
改良区賦課金 四八万円
合計 一七四万円
<3> 利益 四四万三五〇〇円
2 判断
(一) 本件事業計画の対象地について
〔証拠略〕によれば、別紙物件目録記載の各土地のうち、No.43、70、71、74ないし76、107、108、113ないし115の合計一一筆の各土地は、本件事業計画の対象地域に含まれていないことが認められる。
したがって、右一一筆の各土地についての原告らの主張は理由がない。
(二) 本件事業計画申請手続の瑕疵について
前記認定事実によれば、本件事業計画においては、地元負担を軽減するため、国庫及び県費の補助が予定されており、昭和五一年の時点における本件事業計画関係の手続としては、地元における法八五条二項に基づく関係書類の公告及び茨城県から関東農政局に対する国庫補助事業採択申請が行われていただけであって、法八五条一項に規定される県営土地改良事業の施行申請は行われていなかった。たしかに、この段階では、同意書が思うように集らず、同意率が予想より低かったために、当時の被告改良区理事長広沢憲辞任の一理由になったが、本件事業計画に関し、県において何らかの決定がなされたわけでもなく、国庫補助事業の採択申請が直ちに決まらなかったために、県に対する事業施行申請が昭和五三年四月まで行われなかったにすぎないものであった。右の諸点を考慮すると、事業施行申請手続が各年度ごとに独立したものでなく、継続したものである以上、昭和五一年に公告された計画概要書、そのころから収集された同意書等関係書類を昭和五三年の申請時に利用したとしても、書類を流用したものとはいえず、手続上何ら問題はない。
この点で、原告らは、昭和五三年四月一八日の時点では、広沢憲が被告改良区役員ではなく、事業に反対してたことから、同日県に提出された事業施行申請書及び添付書類に記載された同人の署名捺印は偽造されたものであり、また、申請人一覧表は昭和五一年に作成されたものが、関係者の同意を得ないまま流用されたと主張し、証人広沢憲は同趣旨の証言をする。たしかに、広沢憲が、昭和五一年四月一八日被告改良区理事長を辞任し、その後理事の地位も退いているが、県営土地改良事業の申請は、被告改良区役員としての地位に基づいて行うものではなく、受益地の農地所有者等いわゆる法三条資格者という個人としての立場に基づいて行うものであるから、役員たる地位の喪失が、直ちに事業施行申請人としての地位の喪失に結びつくものではない。そして、広沢憲自身、同意書に署名、捺印したことは認めており、また証人桜井隆及び同高野としの各証言によれば、申請人一覧表をはじめとする各関係書類は、昭和五三年の申請時に作成されたものであって、広沢憲の押印も、本人の意思に基づくものといえるのであるから、証人広沢憲の証言は直ちには採用できず、原告らの右主張は理由がない。
また、原告らは、同意書が不法な手段で収集されたと主張する。たしかに、承継前原告根本寛は同意書が脅迫により収集されたこともある旨供述し、また前記認定事実によれば、被告改良区理事により、一部の受益者に対し、本件土地改良事業に関する費用負担の申出がなされるなど、利益供与的行為が行われていたが、承継前原告根本寛の供述は伝聞に過ぎず、右利益供与的行為により、事業に反対していた者が賛成に回るなどの結果が生じた等、本件事業計画を違法とするだけの事由があるとまでは認めがたく、他に原告ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。
よって、本件事業計画申請手続は、適法になされたものといえる。
(三) 原告伊平所有地の編入について
法八五条五項、五条七項によれば、非農用地である建築物の敷地を地区編入するには、権利者の同意が必要であるが、右規定は、建築物の敷地、すなわち宅地という価値がある土地を権利者の同意なしに地区編入することは、権利者に不利益を課すことから設けられたものである。
ところで、前記認定事実にみられるように、原告伊平所有地上の工作物は、右条項に掲げられた建築物に該当するか疑問があるばかりでなく、六九二三番二の土地が非農用地でないことは明らかであるから、右土地を地区編入し、右工作物を除去したことは適法であり、この点に関する原告らの主張は、理由がない。
(四) 地区除外について
県営土地改良事業の場合、法八七条の三第一項に規定する計画変更の手続により、施行地域変更(地区除外)をすることができるが、右地区除外も、法の趣旨に照らし、合理性を有することが必要であり、明らかに不合理な地区除外がなされた場合には、当該手続は違法であるというべきである。
前記認定事実によれば、本件事業変更計画における地区除外手続は適法に行われているものといえる。本件事業変更計画により地区除外された土地の権利者のうち一人は、当初本件事業計画に同意せず、地区除外が行われた本件事業変更計画には同意しているものであるが、右事実だけから本件事業変更計画における地区除外が明らかに不合理であるとは認めがたく、他に地区除外が不合理であることをうかがわせるような証拠はない。
(五) 本件事業計画の不必要性について
(1) 前記認定事実によれば、本件事業地域の約五〇パーセントは、耕地整理法に基づき、昭和初期までに基本区画を一〇アールとする耕地整理が完了しているが、本件事業地域自体の地形、土質、揚排水設備の老朽化、能力不足、用排水路の構造等から末端までの十分なかんがい、円滑な排水ができず、用排水路の構造上、管理に手間がかかり、農道については、幅員が狭いことから農業用機械の通行に支障が生じていたものである。そうしたところ、本件事業計画は、揚排水設備を改修し、用水をパイプライン方式により行うことにより、安定した用水供給を行うと共に、排水路自体の整備及び暗渠排水を行うことにより、本件事業地域の土壌の改善を図り、農道についても、幅員を拡大して本件事業地域を農業の機械化、近代化に適合させる目的で行われたものといえ、これらの点を考えると、耕地整理が行われた地域についても土地改良事業を行う必要性は否定できないといわねばならない。
(2) この点につき、原告らは、<1>本件事業計画が区画整理であり、おおむね六〇ヘクタール以上の地積にわたる土地を受益地とする内容であるから、耕地整理未了地域(農用地一七一ヘクタール)だけで十分に事業を施行しえたものであり、耕地整理完了地域を編入する必要性はなかった旨、<2>本件事業計画により原告らに課せられる負担は、それにより得られる利益に比較すれば非常に重く、負担能力の範囲を超える旨主張する。
右<1>の点については、確かに法施行令五〇条一項五号の二の要件に規定された数字の上からみれば、耕地整理未了地域だけでも事業の施行は可能であるとともに、耕地整理完了地域が未了地域と比較して耕地として整備されており、本件土地改良事業により受ける利益にも差異が生ずることは否定できない。しかし、本件土地改良事業のように、広大な地域を対象とする土地改良事業においては、対象となる地域は様々な性質を有するのが通常であり、事業により受ける利益の程度にもまた差が生ずるのはやむを得ないものである。土地改良事業が個人の利益(負担)を考慮しつつ、全体の利益を図るものである以上、各地区の状況が異なるとしても、それだけで事業の必要性が否定されるべきいわれはなく、一定の地域につき、事業施行の必要性が明らかに少なく、かつ、右一定の地域を事業施行対象地域に編入することが不合理である場合に、はじめて必要性が否定されるものと解するのが相当である。本件においては、前記認定事実のとおり、耕地整理完了地域についても土地改良事業施行の必要性は否定できず、右完了地域が本件事業地域の中央部分を占めており、完了地域を除外することは土地改良事業の実効性を著しく減殺することになるものである上、本件事業地域全体の地形、揚排水機場の位置、事業施行前の耕地の状況等の諸事情を考慮すると、耕地整理完了地域を本件事業地域に組み入れることが不合理であるとはいえず、この点に関する原告らの主張は採用できない。
右<2>の点について、法施行令二条は、受益者の負担額が、これらの者の農業経営の状況からみて相当と認められる負担能力の限度を越えることとならないことを要求しているが、前記1(三)(2)の認定事実によれば、受益者の負担の尺度となる所得償還率は、本件事業計画及び本件事業変更計画のいずれにおいても、〇・四以下であり、右施行令の要件を充たしているものといえる。たしかに、前記1(六)の認定事実によれば、賦課金を課せられることにより原告らの利益が相当程度圧迫されていることが推認されるが、特定の年度における現実の収入、支出は、個々人の営農状況、天候等様々な事情により左右されるのであり、また、土地改良事業の施行による効果は、施行後直ちに顕在化するものでなく、収穫量の安定等長年にわたって生じる部分もあることを考えると、右事実から、直ちに原告らの負担が、その負担能力を超えるものと認めることはできず、他に原告ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上によれば、本件事業地域における土地改良事業の必要性が認められるというべきである。
(六) 経済効果の不検討について
法七条三項は、土地改良事業計画において、当該事業の効果に関する事項を定めるものとし、法施行規則一四条の二第一項九号は、法律に規定される効果に関する事項として、農産物の増産、営農に要する労力の節減その他当該土地改良事業の施行により生ずる効果を規定している。
前記認定事実によれば、本件事業計画及び本件事業変更計画には、効用欄に作物生産効果、営農労力節減効果及び維持管理費節減効果が具体的に記載されており、法の要求する経済効果の検討はなされているというべきである。
この点について、原告らは、<1>事業対象地域の中に、耕地整理完了地域と未了地域というように、地域的特性が異なる地域がある場合には、各地域に応じて経済効果の検討がなされなければならず、<2>経済効果算定の前提となる作物の数値が架空のものであると主張する。
右<1>については、事業対象地域において、地域的特性が異なる地域がある場合、それに応じて経済効果を算定することが可能であれば、それが望ましいことはいうまでもない。しかし、法、同施行令、同規則及び各種通達(〔証拠略〕)によっても、右のような方法による経済効果の算定が義務付けられていると認めることはできず、また、前記(五)(2)で説示したとおり、土地改良事業においては、広大な地域を対象とすることから、様々な地域特性を有する地域が含まれているのであって、明らかに不合理でない限り、一律に経済効果を算定することが許容されているというべきである。本件においては、一律に経済効果を算定したことが明らかに不合理であると認めるに足りる証拠はなく、原告らの右主張は理由がない。
また、右<2>について、昭和四三年三月二九日付農林省農地局長通達(四三農地C第九〇号、〔証拠略〕)によれば、経済効果の測定は、妥当投資額を総事業費で除して得られる投資効率及び年間償還額を年間増加所得額で除して得られる所得償還率によるものとされている。右所得償還率算定の基礎となる年間所得増加額は、原則として農作物所得額(作物増加生産量に原則として別に定める標準単価及び所得率を乗じて算定する。)、維持管理費節減額及び営農労力節減額を加えて算定するものとされており、作物増加生産量を測定するには、その前提となる数値が正確に把握されていなければならないことはいうまでもない。ところで、本件事業計画書及び事業変更計画書の生産計画欄(第8表―3)には、原告ら主張のとおりの各作物の数値が記載されており、茨城農林水産統計年報(昭和五九、六〇年)の数値と食い違っていることはたしかである。右生産計画欄の記載は、水田について、本件土地改良事業の施行により、どの程度の作物増収が期待できるかについて、予測を立てたものであるが、例えば、輪換耕地については、本件土地改良事業が行われて初めて設定されるものであるから、生産計画の輪換耕地欄の現況作付面積に数値が記載されていることは、一見奇異に思える。しかし、本件事業計画書及び事業変更計画書において、事業対象地域の作物生産の現況は、主要作物付状況欄(第6表―4)において把握されており、右欄に記載された主要作物の種類と比較すると、生産計画欄では、現在は生産されていないものの、将来期待される主要作物についても記載がなされているものといえる。また、一定の作物につき、土地改良事業が行われ、輪換耕地が設定された場合に、どの程度の増収効果が期待できるかは、現状において予定された輪換耕地と同面積の耕地で作物を生産した場合と、将来輪換耕地で実際に作物を生産した場合とを比較しなければ判明しないのであるから、生産計画欄に記載された数値は、あくまで仮定的な計算上の数値であると理解するのが相当である。
したがって、<2>についての原告らの主張も採用できない。
(七) 実現不可能性について
前記認定事実によれば、輪換耕地は、本件事業計画及び本件事業変更計画において農用地全体の約四〇パーセント強に相当する地域について予定されているが、その特質は用排水関係を整備し、土壌の改良を図ることにより、水田耕作及び畑作のいずれも可能とするところにあり、たとえ、原告らが主張するように、現実に輪換耕地として利用されている土地が非常に少ないとしても、そのことをもって本件事業計画が実現不可能ということはできず、この点に関する原告らの主張は失当である。
(八) 以上のとおり、本件事業計画及び本件事業変更計画に重大かつ明白な瑕疵があるとは認められないから、争点2に関する原告らの主張は、いずれも理由がない。
三 争点3(照応原則違反)について
1 原告根本について
(一) 認定事実
原告根本所有の葭沼、天神前地区の従前地八団地(二三筆)は、一団地(河内村金江津葭沼一〇〇八四番、一七〇二二平方メートル)に、従前地三団地(五筆、承継前原告根本かつ所有地)が一団地(河内村金江津葭沼一〇〇八三番、三九九〇平方メートル)にそれぞれ換地された。右各換地は、同原告の自宅から約九〇〇メートル離れたところにあって、前者が同原告の従前地河内村金江津字葭沼六九七六番ないし同所六九七八番及びその周辺に、後者も同原告の従前地同所六九八六番、六九八七番及びその周辺に位置するものであり、いずれの従前地も耕地整理済みの農地である。右換地は、西側が小排水路に接し、東側が農道に面しているが、右農道と耕地との高低差が約九〇センチメートルほどあり、農業用機械の出入り、収穫物の搬出等に不便が生じている。(〔証拠略〕)
(二) 判断
右認定事実によれば、原告根本に対する換地は、その東側に位置する農道が、耕地面よりかなり高く、農作業に不便が生じていることは否定できないが、前記認定の事業地域内の地形、土質、事業内容等から、右農道に面する他の換地も条件的には同等であると推認でき、それだけでは当該換地処分が照応の原則に反するということはできない。かえって、右換地は、従前地が一団地にまとめられており、集団化の原則に合致しているものであり、照応の原則に適合するものである。
この点につき、原告根本は、従前地は、心土が砂質壌土であり良田であったが、換地は元沼地のすり鉢状の低地で、粘土質の悪田が配分され、それは深さ約四、五〇センチメートルの低地であったため、約一ヘクタールの換地部分に川砂を搬入し、埋立てざるを得ず、莫大な費用を支出したと主張するが、前記認定事実及び証人廣瀬皐の証言に照らすと、同原告の従前地が良田であるのに対し、換地の従前地がすり鉢状の沼地であったと認めることはできない。
また、原告根本は、換地までの通作距離が従前より長くなったと主張し、同原告は同趣旨の供述をするが、〔証拠略〕に見られるような従前地と換地の対比からすると、換地が従前地に比べ、通作距離が長くなったと認めることはできない。
よって、原告根本の照応原則違反の主張は理由がない。
2 原告知領について
(一) 認定事実
原告知領に換地された土地(河内村金江津流作一〇〇四一番、一九九五平方メートル)については、従前土水路がほぼ中央部分を横断し、西側部分で農道に面していた土地であったが、隣接地についても、同様の条件にある。右換地の中央部分は比較的深く、もと農道が存在していた周辺部分は浅くなっている。(〔証拠略〕)
(二) 判断
右認定事実によれば、換地について、深い部分と浅い部分とが混在しており、それは従前地の影響を受けたものと認められるが、前記二1(三)の認定事実のとおり、ブルドーザーを用いて可能な限り均一に耕地をならすとしても、そこには物理的な限界があるのであり、同人に対する換地の南北に位置する農地についても同様の条件にあるものと推測できることからしても、右認定事実だけから照応原則に違反するということはできない。
3 原告伊平及び同衛について
(一) 認定事実
原告伊平の従前地は七団地に分かれていたが、換地は三団地に集約され、そのうちの田の二団地は道路を隔てて隣り合っている土地である。通作距離については、従前地のうち三団地が自宅近辺に位置していたが、換地は、畑が自宅前に換地された外は、従前地のうち最も遠いところに位置していた河内村金江津山岸七〇〇三番、同所七〇〇四番、同所天神前八二五一番付近であり、従前に比べれば、通作距離は長くなった。
原告衛の従前地は、二団地に分れており、今回の本件土地改良事業では、右二団地の土地の工区が第一工区と第二工区とに分れた。第一工区については、原告伊平の換地の北側に隣接して換地が行われたが、第二工区については、工区が別個であるため、第一工区の換地とは離れた部分に換地が行われる結果となった。(〔証拠略〕)
(二) 判断
右認定事実のとおり、原告伊平については、通作距離が従前の場合に比べ、かなり長くなっているものといえる、しかし、換地処分は、通作距離だけでなく、農地の集団化の原則を中心として、従前地と換地とが用途、地積、土性、水利、傾斜、温度その地の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、当該換地が従前地に照応するようになされなければならない(法八九の二第二、第三項、五二条三項、五三条一項二号)ものであるところ、原告伊平に対する換地は、従前地が存在するところに集約され、そのうちの一団地の北側には息子である原告衛の換地が存在するとともに、道路の状況が従前に比べ、改良されていること等の事情を総合的に勘案すれば、原告伊平に対する換地処分が照応の原則に違反するとはいえない。
この点につき、原告伊平は、川口亨(被告改良区の元副理事長)が従前地に比べ自宅近くに換地が配分され、遠路清正(元換地委員)についても、自宅から遠いところに従前地の主力地が存在していたのに、同人の自宅近くに換地が配分されたと主張し、原告伊平も同趣旨の供述をする。
たしかに、多数人間で行われる換地処分は、他者との関係で不公平な結果が生じないように配慮されるべきであり、特定の者に対し、他の者に比べ、合理的理由なく著しく不利益な処分を行った場合には、当該処分は違法性を有するものというべきである。本件では、原告伊平の供述のとおり、川口亨及び遠路清正についてそれぞれの自宅近くに換地が行われたとしても、同人らについての他の事情が本件全証拠に照らしても明らかでなく、原告伊平がこれらの者に比べ、著しく不利益な処分を受けたとは認められず、原告伊平の右主張は採用できない。
また、原告衛については、前記認定事実のとおり、第一工区については、父親である原告伊平の換地の北側に隣接して換地が行われており、その余の換地については、工区が別個になるのであるから、離れたところに換地が行われたからといって、照応原則に違反するとはいえない。
よって、原告伊平及び同衛の照応原則違反の主張はいずれも理由がない。
四 結論
以上の次第で、原告らの被告県知事に対する本件事業計画決定無効確認請求は不適法であり、その余の被告らに対する請求はいずれも理由がない。
(裁判長裁判官 來本笑子 裁判官 山﨑まさよ 坪井昌造)