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水戸地方裁判所下妻支部 昭和53年(ワ)76号 判決 1980年3月24日

主文

一  被告朝陽運輸株式会社(反訴原告)及び被告高橋正之両名は、原告に対し、各自金三四万七八五円及び内金三一万七八五円に対する昭和五二年九月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴被告(原告)は、反訴原告(被告朝陽運輸株式会社)に対し金九万八二九二円及び内金八万九二九二円に対する昭和五一年一〇月一〇日以降、内金九〇〇〇円に対する昭和五四年九月一八日以降各完済に至るまで各年五分の割合による金員を支払え。

三  原告(反訴被告)の被告両名に対するその余の請求及び反訴原告(被告朝陽運輸株式会社)の反訴被告(原告)に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は本訴、反訴ともこれを一〇分し、本訴についてはその七を原告の、その余を被告両名の負担とし、反訴についてはその七を反訴被告の、その余を反訴原告の負担とする。

五  この判決は一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(昭和五三年(ワ)第七六号事件、以下本訴事件という)

一  請求の趣旨

1  被告両名は原告に対し各自金二五五万五二二〇円及び内金二二五万五二二〇円につき昭和五二年九月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

(昭和五四年(ワ)第二〇一号事件、以下反訴事件という)

一  請求の趣旨

1  反訴被告は、反訴原告に対し、金一六万七五六〇円及び内金一二万七五六〇円に対する昭和五一年一〇月一〇日から、内金四万円に対する本訴状送達の日の翌日から、各完済に至るまでそれぞれ年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴事件)

一  請求原因

1 原告は、昭和五一年一〇月九日午前一〇時頃静岡県掛川市下俣地内の東名高速道路小笠パーキングエリア内の道路上において普通乗用自動車(登録番号茨五五や一〇四号、以下原告車という)を運転中、被告高橋正之運転の貨物自動車(登録番号練馬一 あ七六九八号、以下被告車という)に追突された(以下本件事故という)。

2 本件事故は、被告高橋の過失に基くものである。

すなわち、原告は前記小笠パーキングエリア内の道路左側に停車し、ガソリン代をメモし、後続車のないことを確かめて発進し約二〇メートル進行した地点で、原告車の発進直後発進し加速してきた被告車に追突されたものであり、被告高橋には前方注視義務違反の過失がある。

3(一) 被告朝陽運輸株式会社(以下被告会社という)は貨物運送業を営む会社であるが、被告高橋は、被告会社の従業員であり、被告会社の業務として被告車を運行中前記2掲記の過失により本件事故を惹起したものであるから、被告会社は民法七一五条により損害賠償の責任がある。

(二) また被告会社は被告車の所有者であるから、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)三条により運行供用者として本件事故により原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

4 損害

本件事故により原告の蒙つた損害は次のとおりである。

(一) 自動車修理代金等 金一七〇万九九五〇円

(1) 自動車修理代金 金八四万一〇〇円

(2) 右送金料 金一五〇円

(3) パンク修理代金 金一二〇〇円

(4) 事故車出張修理代金 金三〇〇〇円

(5) レツカー車代金 金一万円

(6) 事故車引取費用 金二万五五〇〇円(神奈川県厚木市から茨城県水海道市)

(7) 事故車修理期間中、自動車を使用できなかつた損害 金五三万円

昭和五一年一〇月一〇日から同五二年一月二四日迄一日金五〇〇〇円の割合

(8) 事故による自動車価格の減価 金三〇万円

(二) 雑損 金三万二二七〇円

(1) グランドパーク支払 金八六〇円

(2) 宿泊料 金七四一〇円(静岡グランドホテル)

(3) 食事代等 金三〇〇〇円

(4) タクシー代金 金二万一〇〇〇円(神奈川県厚木市から茨城県水海道市)

(三) 身体上の損害 金一万三〇〇〇円

(1) 診察料と診断書料 金三〇〇〇円(二回)

(2) タクシー代 金一万円(茨城県水海道市から同県土浦市まで往復二回)

(四) 慰藉料 金五〇万円

本件事故により原告は身体の不調を覚えるようになり、さらに原告車に同乗していた友人の岡野進が昭和五二年八月死亡した際も本件事故が直接の死因ではなかつたもののその一因となつたのではないかと心配し、また本件事故のため静岡県の掛川区検察庁から二度にわたり呼出しを受け出頭する等精神的に多大の苦痛を蒙つた。

右原告の精神的苦痛を慰藉する金額としては、金五〇万円が相当である。

(五) 弁護士費用 金三〇万円

原告は被告らと本件損害賠償について話合をもつたが、被告らの回答額が低かつたためまとまらず、下妻簡易裁判所に調停を申立たが、それも不調に終つたため、やむなく原告代理人に依頼し本訴提起に及んだものであり、原告が原告代理人に支払うべき報酬金三〇万円は被告らの本件事故という不法行為により生じた損害であるから、被告らが負担すべきである。

5 よつて原告は被告らに対し、前記4(一)ないし(五)記載の金額を合計した額金二五五万五二二〇円の支払及び右金員から弁護士費用金三〇万円を控除した内金二二五万五二二〇円に対する本件事故後の昭和五二年九月二八日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1項は認める。

2 同2項は争う。被告高橋は被告車を運転し小笠パーキング構内道路を進行する際、原告車が進路前方に駐車しているのを発見したが、原告車が動く気配を見せなかつたためそのまま進行したところ、約一四メートルの距離に接近した時点で原告車は方向指示をせずに突然被告車の進路前方に進入してきたため、急制動の措置をとるも間に合わず原告車に追突したものである。

3 同3項(一)中被告会社が貨物運送業を営んでいること、被告高橋は被告会社の従業員であり、被告会社の業務として本件自動車を運転していたことを認め、その余は争う。

4 同4項(一)ないし(三)は不知。(四)中岡野進が死亡したことを認めその余は不知。(五)中原・被告間で折衝があつたこと及び下妻簡易裁判所に調停申立がなされ不調に終つたことを認めその余は不知。

三  抗弁

1 免責

本件事故は、原告車が被告車の後方約一四メートルの地点に近づいた際、駐車していた原告車が何ら方向指示をすることなく、突然発進し被告車の進路の直前に進入してきたため被告車は進路を妨害され急制動の措置をとるも間に合わず原告車に追突したものである。

被告高橋は前方に駐車していた原告車が何らの方向指示もせずに突然進路前方に発進してくることまで予想して運転すべき注意義務はなく、本件事故は後方の安全を確認しないで自動車を発進させた原告の一方的過失に基くものである。

2 過失相殺

仮に被告高橋に過失が存するとしても、原告には前記三1記載のとおり後方の安全を確認しないで自動車を発進させた過失があるから、本件損害の算定に際し、右原告の過失を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁2の原告の過失は否認する。

(反訴事件)

一  請求原因

1 交通事故の発生

訴外高橋正之(以下高橋という)は、昭和五一年一〇月九日午前一一時二〇分ころ、反訴原告所有の自動車を運転し静岡県掛川市下俣東名高速道路上り小笠パーキングエリア内の道路を東京方面に向けて進行中、進路前方左側の駐車場の外側に停車していた反訴被告の自動車に約一四メートルの距離に接近した時、反訴被告は右側の方向指示器を点滅させる等の発進の合図をせずに突然発進し、反訴原告車の進路前方に割り込んできたため、右高橋は衝突を避けるべく急制動の措置をとるも間に合わず、反訴被告車後部に反訴原告車前部が衝突した。

2 責任

自動車を駐車場の端から発進させる際には、後方の安全を確認し、方向指示器を作動させて後方から接近してくる車両に注意を促す等の措置をとつて発進すべき注意義務があるのに、反訴被告は、前記1記載のとおり、反訴原告車が自車後方より接近してきているにもかかわらず後方の安全不確認のまま方向指示器も作動させず漫然反訴被告車を発進させた過失がある。

3 損害

(一) 自動車修理費 金一二万七五六〇円

本件事故により反訴原告は、自車の修理代金として金一二万七五六〇円の出損を余儀なくされた。

(二) 弁護士費用 金四万円

反訴原告は、本件自動車修理代金請求訴訟を反訴原告代理人三名に委任し、その報酬として金四万円を支払うことを約した。

4 よつて反訴原告は反訴被告に対し、不法行為による損害賠償として前記3(一)(二)記載の金額の合計額金一六万七五六〇円及び内金一二万七五六〇円に対する本件事故の翌日である昭和五一年一〇月一〇日以降、内金四万円に対し本反訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月一八日から各完済に至るまでそれぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1 同1項中反訴原告主張の日時場所において、反訴被車後部に反訴原告車が衝突する事故のあつたことを認め、その余を否認する。

2 同2項は争う。本件事故は高橋正之の前方不注視によるものである。

3 同3項は否認する。

三  抗弁

1 過失相殺

仮に反訴被告に過失があるとしても、反訴原告の従業員で反訴原告車を運転していた高橋正之には、反訴被告車の動静に注意せず漫然と時速約六、七〇キロメートルの速度で進行した過失があるから、損害額の算定にあたつては右高橋の過失を斟酌すべきである。

第三証拠〔略〕

理由

(本訴事件)

一  請求原因1項については当事者間に争いがない。

二  被告らの責任について検討する。

1  被告高橋の責任

(一) 成立に争いのない甲二号証、甲一四号証の一ないし七、原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(1) 原告は、原告車(排気量二〇〇〇CCオートマチツク車)を運転し小笠パーキングエリア駐車場構内南側の道路を東京方面に向けて進行中、給油したガソリンの量を記帳しようと考え、同駐車場東側アイランドから西方約七・六メートルの右道路左側に原告車を寄せてエンジンをかけたまま停車し、手帳に給油した量を記入後自車フエンダーミラーで後方を見た際後方から来る自動車が右ミラーに映らなかつたため右寄りに転把しながら自車を発進させ、約一二メートル東京寄りに進んだ地点で原告車の後部中央やや左寄りの部分に被告車の前部が衝突し、原告車の後部が押しつぶされ、また被告車の前部が破損(前部バンパー及びフエンダー凹損)した。

(2) 被告高橋は右パーキングエリア大阪寄りのアイランド近くの駐車場で同僚と被告車の運転を交替し、同駐車場南側道路の左側付近を東京方面に向けて進行し始めた際、原告車が自車前方約六五メートルの地点に停車しているのを認め、被告車が原告車の後方約一四メートルの地点に接近した時、原告車が発進したのを発見し急制動の措置をとるも間に合わず、被告車は約二四・一メートル進行して原告車の後部に追突した。

(3) 本件事故の現場は平坦なアスフアルト舗装された道路で本件事故当時は雨が降つており路面は湿潤していた。

以上の事実が認められる。

なお、原告本人の供述中原告は甲二号証(実況見分調書)の指示説明をしていないとの供述もあるが、甲二号証が原告を被疑者として作成されていることから原告の右供述はにわかに措信し難く、また原告本人の供述及び右供述により真正に作成されたものと認められる甲三号証によれば、被告高橋は本件事故直後原告に謝り、昭和五二年六月一八日原告方を訪れた際も本件事故は被告高橋の不注意によるものである旨の文書(甲三号証)を作成しているので本件事故の原因はすべて同被告にあると主張するが、同被告が原告に対し道義的責任を感じていることは窺われるも、右認定した事実に照し、甲三号証の文言の真ぴよう性については疑問の余地も多く、右記載をもつて本件事故が被告高橋の一方的過失によるものと認めることは出来ず、他に右原告の主張を認めるに足る証拠はない。

(二) 自動車運転者としては、道路左端に停車した自動車を発車させる際には、事故防止のため後方から進行してくる車両等がないかどうかルームミラー、フエンダーミラー等の装置を利用し、あるいは後方を振りかえつて見る等の措置を講じて自車が発車することにより他人に危害を及ぼさないよう後方の安全を確認して発車すべき注意義務があるものと解すべきところ、右認定事実によれば、原告は自車を発車させる際フエンダーミラーで後方を見ただけで、フエンダーミラーには映らない自車の真うしろの状況については注意を払わずに発車したことが認められ、右原告の不注意が本件事故の一因となつていることは否定できないが、一方被告高橋においても本件事故現場は駐車場内の道路で車両の停止や発進が多いこと、原告車が正規の駐車場内に停車しないで道路左端に停車し、また原告やその同乗者も自動車に乗つたままであつたのであるから、原告車が何時でも発車できる状態にあつたこと等を考慮し、原告車の動静に注意し、適宜速度を調節すると共に警音器を使用して被告車の接近を原告車に知らせる等の措置をとるべき注意義務が存するものと解されるところ、被告高橋が右のような注意を払つたと認められる証拠はなく、かえつて前記認定の如く、被告車は急制動の措置を講ずるも路面が湿潤とはいえ約二四・一メートル進行し、さらに衝突により同方向に進行中の原告車に対し大きな損害を与えていること等を勘案すると、被告車は駐車場内の道路を通行する車両としては不相応な速度で走行していたのではないかと推測され、被告高橋の運転方法に前方不注視や状況に応じた適正な速度で走行しなかつた過失が存することは否定し難い。

2  被告朝陽運輸株式会社の責任について検討する。

被告会社が貨物運送業を営む会社で被告高橋は被告会社の従業員であつて、本件事故当時被告会社の業務として被告車を運転していたことは当事者間に争いがなく、また前記1(二)で認定した如く本件事故発生につき被告高橋の運転方法にも過失が存するから被告会社は被告高橋の使用者として民法七一五条により原告の蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

3  なお被告らの免責の主張については、前記認定のとおり被告高橋の運転方法につき過失が存するものと解するのが相当であるから、右被告らの主張は採用しない。

4  過失相殺

原告には前記1(二)で認定した過失があるから右原告の不注意を斟酌し、原告は被告らに対し損害額の三割を請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。

三  損害

1  自動車修理代金等について検討する。

(一) 証人藤本三雄の証言及び同証人の証言により真正に成立したことが認められる甲四号証の一ないし六、原告本人尋間の結果及び同人の供述により真正に成立したことが認められる甲五号証ないし一〇号証を総合すると

(1) 原告は、本件事故当日は静岡市内に宿泊し、翌日出発しようとしたところタイヤがパンクしていたので株式会社柴田産業石油サービスにパンク修理を依頼し同会社に右修理代として金一二〇〇円を支払い、タイヤがフエンダーに接触するので大石正弘にフエンダーの修理を依頼し右修理代として金三〇〇〇円を支払い、高速道路走行中に原告車のウオーターポンプが故障し走行できなくなつたため、財団法人日本自動車連盟にレツカー車による原告車の牽引を依頼し神奈川県厚木市の幸世自動車株式会社厚木工場まで牽引してもらい、同連盟に対し右牽引料として金一万円を支払つた。

(2) 原告車の修理は、右幸世自動車株式会社が昭和五二年一月二七日までかかつて行い、原告は同社より修理代金八四万一〇〇円の請求を受け、同年九月二七日右金員全額を支払い、右送金手数料として金一五〇円を茨城県商工信用組合に支払つた。

右修理代金のうち、ポイント取替、点火時期調整(部品代五〇〇円、工賃一八〇〇円)、クーラーベルト取替(部品代八七〇円、工賃一四〇〇円)、フアンベルト取替(部品代八三〇円、工賃九〇〇円)以上合計六三〇〇円は本件事故の修理とは別に原告が同社に依頼したものである。

(3) 原告は原告車を旅行等の私用に使用していたこと、また修理期間中原告車が使用できなかつたとして損害賠償を請求する根拠は原告が保険会社から聞いたというにとどまり現実に一日当り金五〇〇〇円の支出を余儀なくされたものではなかつた。

(4) 事故車の場合中古車として売却する場合は事故にあつていない車に比し値下りする可能性があるが、値下りの程度は中古車の保守状況や修理工場の技術等も影響し原告車の場合中古車としての価値がどの程度値下りするか不明である。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(二) 右認定した事実によれば、請求原因4(一)(1)(2)の修理代金とその送金料(合計八四万二五〇円)のうち、原告が本件事故による修理とは別途に依頼した修理費金六三〇〇円を控除した残金八三万三九五〇円と(4)(5)の修理費、レツカー車代(合計一万三〇〇〇円)については本件事故と相当因果関係にある損害と認められる(以上合計金八四万六九五〇円)が、同(3)のパンク修理代金については因果関係が不明であり、また同(6)の事故車引取費用(金二万五五〇〇円)及び同(7)(8)の各損害についてはこれに沿う原告本人の供述もあるが、その根拠は明らかとはいえず他にこれを認めるに足る証拠は存しないことからにわかに措信し難く、結局請求原因4(一)(3)(6)(7)(8)についての原告の主張はこれを採用し難い。

2  雑損について検討する。

原告は本件事故によりグランドパークに支払つた金八六〇円静岡グランドホテル宿泊料や食事代、修理工場から自宅までのタクシー代の支出を余儀なくされたと主張し、右支出については、これに沿う原告本人の供述もあるが、グランドパークに支払つた金八六〇円についてはその性質及び本件事故との因果関係を明らかにする証拠はなく、また静岡グランドホテルの宿泊料食事代等については本件事故のため宿泊を余儀なくされたと認めるに足る証拠はなく、また自宅までのタクシー代については成立に争いのない甲一一号証の一、一二号証によれば本件により原告及び同乗者の負傷の程度等からその必要性があつたものとは認め難いから、原告主張の雑損の主張については、これを採用し難い。

3  身体上の損害について検討する。

成立に争いのない甲一一号証の一、二、甲一三号証の一、二によれば、原告は昭和五一年一〇月一四日、同五二年一二月二三日国立霞ケ浦病院に通院し、診断書料三〇〇〇円を支払つたことが認められるが、昭和五二年一二月二三日については、病名は高血圧兼狭心症と記載されており本件事故と相当因果関係にあるものとは認め難く、また通院のためのタクシー代についてはこれを認めるに足る証拠はなく、たとえタクシー代を支出したとしても原告の負傷の程度も軽いことから、タクシーを利用する必要性があつたものとは認め難い。

4  慰藉料について検討する。

原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故により治療は要しないとはいえ頸部挫傷の負傷をし、また友人の負傷、本件事故の損害賠償の交渉が容易に進まなかつたこと等精神的な苦痛を蒙つたことが認められ、右原告の精神的苦痛を慰藉する額としては金二〇万円が相当である。

5  原告は本件事故によつて前記1、3、4掲記の損害合計金一〇三万五九五〇円の損害を蒙つたところ、原告には前記二(二)掲記の過失があるから過失相殺によりその七割を減額すると、原告の被告らに対し請求しうる損害額は金三一万七八五円となる

6  弁護士費用

原告が原告代理人である弁護士野口利一に対し、本訴訟を委任したことは本件記録上明らかであるが、成功報酬として金三〇万円の支払を約したとの原告の主張を認めるに足る証拠はない。しかし弁護士に訴訟を委任すれば成功報酬を支払わねばならないことは公知の事実であるから、本件において被告に賠償させるべき弁護士費用はどの程度が相当かについて検討する。

本件事故のような不法行為による損害賠償請求訴訟をなすに要する弁護士費用のうち、権利の伸張、防衛等に必要な相当額は当該不法行為と相当因果関係に立つ損害と解すべきところ、その額は事件の難易、認容された損害額その他諸般の事情を斟酌して決定すべく、本件について被告に賠償させるべき弁護士費用は金三万円が相当と認める。

7  よつて原告が被告らに請求しうる損害額は右5、6各記載の金額を合計した金三四万七八五円となる。

四  よつて原告の本訴請求は被告両名に対し各自金三四万七八五円と内金三一万七八五円に対する本件事故後の昭和五二年九月二八日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却する。

(反訴事件)

一  本件事故の発生については当事者間に争いがない。

二  反訴被告(原告)の過失については本訴事件の理由二1で認定したとおり、反訴被告は後方から接近してくる車両等の動向の確認につき過失が存したものと認められ、また同二4で認定した如く反訴原告(被告朝陽運輸株式会社)は反訴被告に対し損害額の七割を請求しうるにとどまるものと解するのが相当である。

三1  本件事故により、本訴事件で被告車と称した反訴原告所有の貨物自動車の前部が破損したことは、本訴事件において認定したとおりであり、また証人古橋武志の証言及び同証人の証言により真正に作成されたものと認められる乙一、二号証によれば反訴原告は本件事故により破損した反訴原告車の修理費用として金一二万七五六〇円を支出したことが認められる。

2  反訴原告は右修理代金一二万七五六〇円の損害を蒙つたところ、前記二で認定した如く反訴原告は反訴被告に対し請求しうる額は過失相殺により損害額の七割すなわち、金八万九二九二円となる。

3  弁護士費用

証人古橋武志の証言及び同証人の証言により真正に作成されたものと認められる乙三号証によれば、反訴原告は弁護士安田昌資に本件反訴を委任し、着手金、諸費用、報酬として金四万円の支払を約したことが認められるが、不法行為と相当因果関係に立つ損害と解せられる弁護士費用の額は、委任者が負担を約した弁護士費用全額ではなく本訴事件の理由中で述べた方法により決定される額であり、これを本件について見るに、反訴被告に負担させる弁護士費用は手数料、謝金を合せ金九〇〇〇円が相当である。

4  よつて反訴原告が反訴被告に対し請求しうる損害額は、右2、3各記載の金額を合計した金九万八二九二円となる。

四  以上述べたとおり、反訴原告(被告朝陽運輸株式会社)の反訴被告(原告)に対する請求のうち金九万八二九二円と内金八万九二九二円に対する本件不法行為の翌日である昭和五一年一〇月一〇日以降、内金九〇〇〇円については本訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月一八日以降各完済に至るまでそれぞれ民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却する。

よつて、訴訟費用の負担につき本訴については民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、反訴については同法八九条、九二条を、仮執行の宣言につきいずれも同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 海老根遼太郎)

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