水戸地方裁判所土浦支部 昭和37年(わ)110号 判決 1962年9月20日
被告人 小林初男
昭一一・一・二四生 ライター部品加工
主文
被告人を懲役四年に処する。
未決勾留日数中四〇日を右本刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は通行中の子女をいずれも強姦しようと企て
第一、昭和三七年五月一三日午後五時五〇分頃竜ヶ崎市奈戸岡の山林道路附近において婦女が通行するのを待ち伏せていたところ、偶々藤田晴子(当二四才)が自転車にて帰宅しようとしているのを認め、いきなりその自転車のハンドルを掴んで停車させ、所携の肉切庖丁のような刃物を胸のあたりに突きつけて脅迫し、驚く同女の手首を握つて南方約七三米の山林の中にある旧防空壕内に引きずり込んだ上、その場に仰向けに寝かせてその上に乗りかかり「警察に知らせる気か、好きなんだ、殺しはしない」等と申し向け、その反抗を抑圧し強いて姦淫しようとしたが、その折、同女の自転車が前記道路附近に放置してあることから、自己の犯行を通行人に察知されることを気使い、これを山林内に隠してから強姦しようと考え、同女の逃亡を怖れてそのスカート、眼鏡等を取り上げた上、一旦その場を離れ右道路まで赴いたところ、その間に同女がサンダルをぬげたまゝ急いで逃げ出し救いを求めたためその目的を遂げず、その際同女が右旧防空壕内から山林内を逃走中篠の切株を踏み抜いたことにより同女をして治療約三週間を要する両足蹠刺創を負わせ
第二、同年同月一七日午後七時三〇分頃よりオートバイに乗り同市大徳町附近を走りながら婦女を物色中、偶々大野静子(当一五歳)が自転車にて帰宅しようとしているのを認め、同女を追尾して午後八時頃同町久夫の農道に至るや、同所で同女を停車させ、東方へ約一九米の権現神社の森の中に連れ込む途中所携の西洋カミソリを胸元に突きつけ「騒ぐと殺すぞ」と申し向けて脅迫し右森の中で同女の頭部を手で二、三回殴打し更にその場に同女を仰向けにし、その上に乗りかかりその反抗を抑圧して強いて姦淫しようとしたが、被告人の体が左側に移動した隙を見て同女が起き上り逃げ出したため、その目的を遂げず
第三、同年六月一七日午後一時頃同市大羽谷津の山林県道において婦女が通行するのを待ち伏せていたところ、偶々菅谷和子(当二〇歳)が自転車にて帰宅しようとしているのを認め、同女を呼び止めて道を尋ねるように装い、同女と共に北方約三〇〇米位歩いて行つたが、附近に人家もないのを見極め、いきなりその自転車の後部を掴んで自転車諸共同女を横倒しにし、所携の肉切庖丁のような刃物を胸元に突きつけ、「声を出すと殺すぞ」と申し向けて脅迫し、驚く同女を附近の山林内に引きずり込んでその反抗を抑圧し強いて姦淫しようとしたが、同女が必死に救いを求めて悲鳴をあげたため、その目的を遂げず、その際同女が恐怖の余り突きつけられた右刃物の刃の部分を左素手で掴んだことにより同女に対し治療約一〇日を要する左手切創を負わせ
たものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人の判示所為中第一及び第三の強姦致傷の点はいずれも刑法第一八一条、第一七七条に、第二の強姦未遂の点は同法第一七九条、第一七七条に該当するので右の各強姦致傷罪については、いずれも所定刑中有期懲役刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文、第一〇条によりそのうち犯情の重い第一の強姦致傷罪の刑に同法第一四条の制限に従い併合加重をした刑期範囲内で被告人を懲役四年に処することとし、同法第二一条により未決勾留日数中四〇日を右本刑に算入する。なお訴訟費用は被告人が貧困のためそれを納付することのできないことが明らかであるから刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 山口昇 福間佐昭 長崎裕次)