水戸地方裁判所土浦支部 昭和45年(ワ)79号 判決 1972年2月10日
原告
大隈きみ子
ほか四名
被告
谷中卓
ほか一名
主文
被告らは各自原告大隈きみ子に対し二、一一二、二六九円、同和之、同美枝に対し各一、六七八、二一六円、同岡田武四郎、同大隈まさに対し各九七、二五〇円と右各金員に対する昭和四五年八月一〇日からそれぞれ年五分の割合による金員とを支払え。
原告らのその余の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は二分しその一を被告らの連帯負担とし、その余を原告らの負担とする。
この判決は、第一項に限り、確定前に執行することができる。
事実
原告ら訴訟代理人は、「被告らは連帯して原告大隈きみ子に対し三、九二八、五八六円、同和之に対し三、四四一、四三三円、同美枝に対し、三、四四一、四三三円、同岡田武四郎に対し三四七、二五〇円、同まさに対し三四七、二五〇円と右各金員に対する本訴状送達の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員とを支払え。訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。」旨の判決と仮執行の宣言とを求め、その請求原因として別紙(一)のとおり述べ、被告ら主張事実中、七の(一)、(二)の金員を被告らが支払つたことは認めるが、一(1)生花、果物、香典、手伝衆への支払は、その性質上原告らの損害から控除せられるべきものでなく、また一(2)の入院料等、(3)の緊急処置の代金は原告らは本訴において請求していないので原告らの損害額から控除されるべきではない。被告谷中辰恵二の責任について、被告ら父子は、同居し農業経営および家計の実権は父である被告辰恵二が掌握し被告卓を後継者にしようと仕事を手伝わせている。被告卓は、本件自動車のガソリン代を家計から支出したといい、自分の職業を農業手伝と述べ、またまだ一人前でないことは認めている。被告辰恵二は本件自動車の購入代金を支出しており、ガソリン代、修理代金その他の管理費用も父が負担している。前掲のように被告らは同居し、父は家長として家業、家計の実権を握つていたので、被告らの主張にかかわらず本件自動車は家業である農業のためにも使用されていた。以上のとおり本件自動車の購入代金修理代金その他の管理費用の負担、被告らの同居その他の生活関係、車の使用関係などを考慮すれば、運行の支配と利益は被告辰恵二に帰属していたというべきである。」と答えた。〔証拠関係略〕
被告ら訴訟代理人は、「原告らの請求は、いずれも棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」旨の判決を求め、答弁として、別紙(二)のとおり述べた。〔証拠関係略〕
理由
原告ら主張の一、二の各事実は当事者間に争いがないから過失相殺の点について判断するに、大隈文之が道路左側中央あたりを被告車と同方向を歩つていて本件事故に遭つたという証拠はなく、〔証拠略〕によれば、大隈文之が被告車に衝突した地点は、被告車の進路左側端より道路中央寄り僅か〇・七米の地点であるから本件道路幅員が五・五米であることと対比しても同人が自動車の交通に支障を来たす地点路上にいたものとは認められないので過失相殺の点は採用することはできない。
次に被告谷中辰恵二の責任について考えるに、〔証拠略〕によれば、同被告は、「被告車は家で買つたもので仔豚を買う時の運搬用に使つています。」と被告谷中卓の業務上過失致死等刑事事件の第二回公判期日に供述していることが認められるところ、〔証拠略〕によれば、被告谷中卓は、妻、子三人とともに被告谷中辰恵二と同居し、七、八年前から勤め人をやめ同被告の農業の手伝をして将来は同被告の後継者と予定されていること、被告谷中辰恵二は田約八反五畝、畑約八反歩(そのうち栗畑約七反)を所有し、農業を営むかたわら常時豚一〇〇頭位、鶏五〇〇羽位によつて畜産を営んでいてその収支はすべてしていて名実共に一家の生活の実権を握り、対外的にも一家実権者として活動し、今日に至つていること、被告谷中卓は、ためた小遣銭で、被告車を月賦で買い入れ個人のリクリエーシヨンに使つていると供述し他方トラツク(ダツトサンキヤブライト)は農業用として使用しているが登録名義は右二台の自動車とも同被告になされており、被告車のガソリン代は家計(被告ら一家では家計はすべて被告谷中辰恵二がつかさどつていること)から支出されていることが認められる。この認定事実と被告谷中辰恵二が、被告車は家で買つたもので、仔豚の運搬用に使用している旨を述べている事実を総合すれば、被告車の購入費は被告谷中辰恵二の家計から支出され、ガソリン代も同被告の家計でまかなわれており、また、時には営農にも使用されていること、登録制度があるので、被告車とトラツクの各所有名義が被告谷中卓とされたとも窺われるので、たまたま被告車の登録名義が被告谷中卓であつたとしても、被告谷中辰恵二は被告車の運行供用者としてその運行の支配と利益をしていると解するのが相当であるから、同被告は、被告谷中卓とともに本件事故によつて発生した原告らの損害を賠償する義務がある。
原告らの損害の額について判断するに、原告大隈きみ子が葬式費用として二〇〇、〇〇〇円を支出したことは当事者間に争いがないから、葬式費用二〇〇、〇〇〇円は同原告の損害ということができる。次に大隈文之の逸失利益について考えるに、大隈文之が実父である原告岡田武四郎の経営する不動産取引業の千代田不動産に従業員として勤務していたこと、同人の稼働年数が二六年であり、ホフマン式計算法による係数が一六・三七であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、同人は昭和四三年一月一日から昭和四四年一一月一七日までの間に千代田不動産から、三、一二九、八〇〇円の手数料の支給を受けていた旨の記載があるが、〔証拠略〕を総合すれば、千代田不動産は原告岡田武四郎が社長、大隈文之が専務のほか同人の弟訴外勝彦、訴外大久保嘉平の四人で構成され、収入の一割を差引き残額を四人で分配されていたことすなわち、原告岡田武四郎は右千代田不動産の収入から原告大隈文之に支払つていること甲第四号証は原告岡田武四郎が作成したものであつて、同原告は、右千代田不動産のほか割烹の仕事をし総合所得申告をしているが、その所得額は判然しないこと、大隈文之は、日本大学卒業後約六年間訴外株式会社東京フアスナーに勤務していたが昭和四二年一二月二九日退職し、その時の年間所得が八六四、五〇〇円であること、退職の事情は上の子が気管が弱く体が弱いということと原告岡田武四郎の事業が忙しくなり、その手伝のため千代田村に帰つたがその収入は原告岡田武四郎との間で今までの収入より幾何か良いという条件であつたこと、同人は昭和四三年一月一日から千代田不動産に勤務しているがその所得申告はしてなく、原告岡田武四郎が千代田不動産の従業員として同人の源泉徴収をしているがその額は判明しないこと、大久保嘉平は月収一〇〇、〇〇〇円位あると証言しているが、その証言内容は曖昧であることを認めることができるから、甲第四号証に記載されている大隈文之の収入は信用できない、また同人が甲第四号証記載の収入がある旨の〔証拠略〕は信用できなく、他に大隈文之の収入を確認するに足る証拠はないので結局同人の千代田不動産における収入は確定することはできない。したがつて、同人の収入は、甲第三号証によつて確定されている年収八六四、五〇〇円とするほかない。そうして同人の生活費は五〇%であると解するのを相当とするから、これを控除すると四三二、二五〇円となり、その稼働年数は二六年間であり、そのホフマン式計算法による係数は一六・三七であることは当事者間に争いがないので、これによつて計算すると七、〇七五、九三二円(円以下切捨)となり、これが同人の得べかりし利益の喪失分である。次に被告らが二三九、一〇〇円を入院料緊急処理費等として支出していることは当事者間に争いがないところ、そのうち入院料等五一、九〇〇円、緊急処置費一、二〇〇円合計五三、一〇〇円は原告大隈きみ子において負担支出するのを被告らが立替払したとみるのを相当とし同原告の葬式費用二〇〇、〇〇〇円から控除されるのが相当であるのでこれを差引くと同原告の葬式費用は一四六、九〇〇円とするのを相当とするが、その余の被告らの支出は葬式および二五日忌に際し、被告らが加害者側として支出したものであつて、原告らの損害として計上することはできない。次に原告らの慰藉料の額について判断するに、被告らは、原告らと大隈文之との身分関係は明らかに争わないところ、本件事故の態様、大隈文之が即死同様に死亡した事実、原告らの家族関係、示談交渉経過その他諸般の事実を考え合せると、その慰藉料の額は、大隈文之自身は一、〇〇〇、〇〇〇円(被告ら主張の大隈文之の慰藉料は一身専属で相続の対象にならないとの点は採用することはできない。)、原告大隈きみ子は一、〇〇〇、〇〇〇円、同和之、同美枝は各五〇〇、〇〇〇円、原告岡田武四郎、同大隈まさは各二五〇、〇〇〇円をもつて相当とする。
以上のとおり原告大隈きみ子は、葬式費用一四六、九〇〇円、逸失利益相続分および大隈文之死亡による慰藉料による相続分(三分の一)二、六九一、九七七円(円以下切捨)および固有の慰藉料一、〇〇〇、〇〇〇円合計三、八三八、八七七円、原告大隈和之、同美枝は各二、六九一、九七七円(原告きみ子と同様の相続分)と固有の慰藉料五〇〇、〇〇〇円合計各三、一九一、九七七円、原告岡田武四郎、同大隈まさは慰藉料各二五〇、〇〇〇円を被告ら各自に請求することができるところ、原告らは自賠法による保険金五、〇五九、六三〇円を受領しているので、これを按分して、原告大隈きみ子の前掲三、八三八、八七七円から一、七二六、六〇八円を控除し二、一一二、二六九円、原告和之、同美枝の前掲各三、一九一、九七七円から各一、五一三、七六一円を控除し各一、六七八、二一六円、原告岡田武四郎、同大隈まさの前掲各二五〇、〇〇〇円から一五二、七五〇円を控除し各九七、二五〇円となる(被告らは、原告らが自賠法による保険金、五、〇五九、六三〇円を受領し、主張のように充当したことは争わない。)
そうすれば、原告大隈きみ子が二、一一二、二六九円、同和之、同美枝が各一、六七八、二一六円、原告岡田武四郎、同大隈まさが各九七、二五〇円とこれに対する本件記録によつて明らかな本訴状送達の翌日である昭和四五年八月一〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を被告ら各自に対して求める限度で原告らの本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 荒井徳次郎)
別紙(一)
(事故)
一 被告谷中卓は昭和四四年二月一七日午後七時二〇分頃自家用普通貨物自動車を運転し千代田村大字下稲吉字逆西二、六〇七番の五先の道路において出島村方面から土浦市方面に向けて時速約四五キロメートルで進行中、折柄道路左側を同一方向に向い歩行中の訴外大隈文之(三七年、以下文之という)の背後から同人に自車左前部を衝突させて同人をはねとばし、よつて同人をして右事故による頭部外傷、脳挫傷の傷害のため同日午後九時四三分頃土浦市西門町二六七八番地広田外科胃腸医院こと医師広田精三方において死亡するにいたらしめた。
(責任)
二 (被告谷中卓・民法第七〇九条)
(一) 被告谷中卓は、当時降雨のため視界がせまいうえに、後記のように飲酒による酔いが廻つてきて注意力が散漫になり前方が充分に見えなくなつてきたので、かような場合自動車運転者としては直ちに運転を中止して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意、義務があるのにこれを怠り、酒勢にかられて前記の状態のまま運転を継続した過失により前記文之を発見することができないで前記のようにはねとばしてしまつた。したがつて民法第七〇九条の責任を負う。
被告谷中卓は、これよりさき同日午後五時ごろから約三〇分の間に出島村新宿公民館で清酒約三合をのみ、さらに同日午後六時頃から約一時間位の間に同村宍倉五九八〇番地狩野方で清酒約三合をのんだ。
そして事故当時呼気一リツトルにつき、〇・五ミリグラムのアルコールを身体に保存し、その影響により正常な運転ができないおそれがある状態で前記自動車を運転した。
ちなみに被告谷中卓は、昭和四五年五月一九日水戸地裁土浦支部において業務上過失致死道路交通法違反の罪により禁固一年三月に処するとの判決を受けた。(現在控訴審に係属中である)
(被告ら自賠法三条)
三 (イ) 被告谷中卓は、昭和四年二月一六日生れであつて、被告谷中辰恵二の長男であり、同居している。
(ロ) 被告らは共同して農業を経営し、また養豚養鶏業も行つており、豚一〇〇頭を飼育している。
(ハ) 本件自動車は、その使用者は被告谷中卓となつてはいるが、被告らの家で訴外日産プリンス土浦販売から買入れたものであるから、被告らが共同で買つたものである。
(ニ) 本件自動車は、仔豚の運搬用に使用していた。
不動産などの財産はなお父である被告谷中辰恵二の名義になつている。
(ホ) よつて被告らは、農業用・養豚業を共同して経営し、本件自動車を右事業のために使用していたものである。運行利益は、被告ら両名に帰属する。被告らはともに自己のために本件自動車を運行の用に供していたもので、かつ本件事故は右の運行によつて生じたものである。被告らはともに自賠法第三条の責任を負う。
四 (被告谷中辰恵二・民法第七一五条)
被告谷中辰恵二は、農業・養豚業のために子である被告谷中卓を使用していたものであるが、本件事故は右事業の執行につき文之に損害を加えたものである。よつて被告谷中辰恵二は民法七一五条により責任を負う。
(損害)
五 (葬式費用)
(一) 文之の葬式費用として金二〇万円を原告大隈きみ子が支払つた。
(うべかりし利益の喪失)
(二) 文之は、昭和七年六月二五日生れ(事故当時三七才)の健康な男子で、日本大学を卒業し東京都千代田区岩本町三丁目八番一五号株式会社東京フアスナーに勤務し、昭和四二年において年収八六万四五〇〇円(月収六万八千円)を得ていた。
ところが、千代田村で千代田不動産の名称で不動産取引業を営む実父原告岡田武四郎の要請により従前の収入額以上を保証するということで、右東京フアスナーを昭和四二年一二月二九日に退職し、昭和四三年一月一日から右千代田不動産に従業員として勤務するにいたつた。
そして弟勝彦とともに実父の営業を手伝い、その報酬として手数料の分配を受けていた。
この額は、昭和四三年一月一日から昭和四四年一一月一七日(死亡の日)にいたるまでの間合計三一二万九八〇〇円であつた。よつて年平均一六三万二九三六円の収入があつたことになる。もつとも世帯主であつたから、その五〇%に当たる金額を生活費として控除する。
文之の平均余命は三五・二九年であり、少くとも六三才まで、なお二六年間は働く事ができたはずであるから、うべかりし利益・年収八一万六四六八円をホフマン式計算により年五分の中間利息を控除してその現在価を求めると係数は一六・三七であるから一三三六万五五八一円となる。
よつて文之は右同額の損害を蒙つた。
(死者の慰藉料)
(三) 文之は道路を歩行中後方からいわゆる酔払運転の自動車にはねられ、その日に死亡した。この精神的苦痛を強いて金銭に換算すれば、金一〇〇万円が相当である。(なお死者の慰藉料請求権の相続につき最高裁判所昭和四五年四月二一日判決、判例時報五九五号)
(親族の慰藉料)
(四) 原告大隈きみ子は昭和三七年一一月二六日文之と結婚し、長男和之(昭和三九年四月三日生)および長女美枝(昭和四一年八月一四日生)がある。
突如として酔払い運転によつて一家の主柱たる夫を失い、その非嘆は測り知れない。よつて慰藉料として金一〇〇万円が相当である。
原告大隈和之および同大隈美枝は幼くして父を失つてしまつた。よつて慰藉料はそれぞれ五〇万円が相当である。
原告岡田武四郎は、文之の実父、原告大隈まさは文之の養母であり子を失つた悲しみは大きい。
よつて慰藉料はそれぞれ金五〇万円が相当である。
(五) 相続
文之の死亡により妻原告大隈きみ子、長男原告大隈和之および長女原告大隈美枝が相続により権利義務を承継した。
(損益相殺)
六 (損益相殺と請求)
よつて原告大隈きみ子は、葬式費用二〇万円、うべかりし利益の喪失および死者による損害の相続分(三分の一)四四五万五一九四円および固有の慰藉料一〇〇万円の合計五六五万五一九四円を、原告大隈和之および原告大隈美枝は、それぞれうべかりし利益の相続分四四五万五一九四円と固有の慰藉料五〇万円の合計四九五万五一九四円を、原告岡田武四郎および原告大隈まさはそれぞれ固有の慰藉料五〇万円を請求するが、自賠責保険金として五〇五万九六三〇円が支給されているのでこれを原告ら各自の請求額から按分して
原告大隈きみ子の分から一七二万六六〇八円を
原告大隈和之および原告大隈美枝の分からそれぞれ一五一万三七六一円を
原告岡田武四郎および原告大隈まさからそれぞれ一五万二七五〇円を控除する。
よつて原告大隈きみ子は三九二万八五八六円、原告大隈和之および原告大隈美枝はそれぞれ三四四万一四三三円、原告岡田武四郎および原告大隈まさはそれぞれ三四万七二五〇円ならびに以上の各金員に対する訴状送達の日の翌日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による損害金の支払を求める。
別紙(二)
一 一の事実は認める。
二 二の事実は認める。
本件事故は当時降雨中で訴外亡大隈文之が道路交通法第一〇条に違反して歩車道の区別のない道路を歩行する際は道路の右側端を通行せねばならないのに之に違反して歩車道の区別のない本件事故現場を左側通行し然もその通行の位置も側端でなく道路左側の中央あたりを被告車(被告谷中卓運転の車両)と同方向であつたため発生した事故で右大隈が法規に従つて右側端を通行しておれば本件事故は全く発生しなかつたものである。従つて訴外亡大隈文之の右過失は原告等請求の損害額算定に当り斟酌されるべきである。
三 (イ)は認める。
(ロ)は否認する。
農業、養豚、養鶏業は被告谷中辰恵二の経営するところで被告等の共同事業ではない。被告谷中卓は被告谷中辰恵二の右事業を補助するにすぎない。
(ハ)は否認する。
本件事故車は被告等共同で買つたものでない。被告谷中卓が小使を支出して土浦市の日産プリンス(ライトバン一、三〇〇CC)を一五ケ月の割賦で買い受けたものである。
(ニ)仔豚の運搬用に使用していた事は否認する。不動産など財産は父である被告谷中辰恵二の名義であることは認める。
(ホ)本件事故車は被告等共同で経営する農豚事業のため使用していた事は否認する。本件事故車は被告卓が出島村消防団第六分団の第一〇部の会計係をしているため其の事務その他同被告の私用のため使用していたものである。
農業等経営のためには被告卓の登録名義による日産カプライト(一屯車)を使用している。
本件事故車の支配管理は被告卓自身で被告谷中辰恵二にはない運行の利益も被告谷中辰恵二にはない。以上の次第であるから被告谷中卓は自賠法第三条に該当するから責任は免れないが被告谷中辰恵二は該当しないから責任はない。
四 被告谷中辰恵二が農業、養豚業のために子である被告谷中卓を使用していたから、本件事故は右事業の執行につき損害を加えたとの点は否認する。成程被告谷中卓は父である被告谷中辰恵二と同居し父の右事業を補助しているが右は企業組織体におけるが如く労使間の関係でなく同一棟に父と生活を共にするため父の多忙の場合援助するもので倫理的関係より由来するもので此の関係は企業におけるが如き労使関係とはその性格を異にするもので子が父の仕事を手伝することを捉えて直ちに事業の執行につきと断定することは出来ない。
五 (一) 葬式費用として金二〇万円を原告大隈きみ子が支出した事は認める。
(二) 亡大隈文之の生年月日は認めるが健康な男子であること、日大を卒業した事、東京フアスナーに勤務した事、同会社から月収六万八、〇〇〇円を得ていた事は知らない。
亡大隈文之が実父原告岡田武四郎経営する不動産取引業の千代田不動産に従業員として勤務していた事は認めるが原告岡田武四郎が亡大隈文之の従前の収入額を保証すること、その報酬として亡大隈文之が手数料分配年平均一六三万二九三六円の収入(従前の収入の約二倍)のあつた事は否認する。亡大隈文之の場合の収入は不動産売買の手数料の配分として恒常的収入でなく臨時的収入が大部分を占めるので一時的収入が多額であつたからと云つて右収入を以て将来の継続的収入とは断定し難い。昭和四三年労働省労働統計調査部の賃金表に依れば満三五才、三九才の大学卒業者は月平均六万六、二〇〇円である。
亡大隈文之の稼働年尚二六年であること、ホフマン式計算で年利息五分、二六年間の係数は一六・三七であることは認める。
(三) 亡大隈文之の慰藉料は一身専属で相続の対象にならない。下級審では今尚死亡者の慰藉料相続を認めていない。但し最高裁の裁判があつたことは認める。
仮りに認めるとしてもその額を争う。
(四) 原告大隈まさを除きその他の原告に対して慰藉料の支給されるべきことは認めるがその額については争う。
原告大隈まさは亡大隈文之の養母であるが、亡大隈文之が原告大隈きみ子と結婚してからは右養母と居を異にし、原告大隈きみ子は養母との折合悪しく、文之の遺骨が養母方に埋葬されていないなどから原告大隈まさの精神的苦痛は薄く慰藉料を認むるに足らない。
仮りに認むるとしてもその額を争う。
(五) 文之の死亡により同人の妻子が文之の一身専属のものを除き権利義務を承継したことは認める。
六 原告等が自賠法による保険金五〇五万九六三〇円受領したこと、右受領全額を原告等の請求金額より控除することは認める。
七 抗弁
被告等は文之の死亡のため原告等のため左の通り支出しているのでその金額は認められるべき原告等の損害額より控除せらるべきである。
(一) 被告谷中卓の支出
(1) 昭和四四年一一月一八日
生花 一対 金八、〇〇〇円
果物籠 二個 金五、〇〇〇円
香典 金一〇〇、〇〇〇円
(2) 昭和四四年一一月一九日
見舞金 金五〇、〇〇〇円
入院料等 金五一、九〇〇円(広田外科医院支払)
(3) 同年一一月二二日
緊急処置の代金 金一、二〇〇円(小林医院支払)
(4) 同年一二月二一日
三五日忌香料 金三、〇〇〇円
計二一万九、一〇〇円
見舞金五万円は遺体の火葬の際支出したものである。
(二) 被告谷中辰恵二の支出
昭和四四年一一月一八日
香典 金一〇、〇〇〇円
手伝衆へ 金一〇、〇〇〇円
手伝衆の金一万円は葬式に際し近隣者の手伝者に対し労苦を償うため支出したものである。
以上被告等側としては計金二三万九、一〇〇円を支出しているので何れも亡文之の死亡のため支出した費用であるので認められるべき原告等の損害額より控除せらるべきである。